キャラクター&開発コンセプト
6代目は「クラウンの最上級グレード」を鮮明に
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名古屋のミッドランドスクエアで行われた新型マジェスタの新車発表会。トヨタ自動車の佐藤康彦常務役員(左)と山本卓エグゼクティブチーフエンジニア
クラウン マジェスタは、1991年にクラウンシリーズのトップモデルとして登場。2005年以降はレクサスが国内で始まったため、センチュリーを除くトヨタブランド車で最高峰のセダンという立場になったが、近年はレクサス LSとクラウンの狭間で、その存在意義がやや曖昧になっていた。
そんな状況の中、4年ぶりのフルモデルチェンジで2013年9月9日に発売された6代目マジェスタは、コンセプトを「日本のお客様を第一に考えた高級車」「クラウンの最上級グレード」と明確化。従来モデル(4台目と5代目)でトヨタマークだったフロントグリルのバッジを、再びクラウンの王冠マークに戻すなど、トップ・オブ・クラウンである点を強調している。
プラットフォームは、現行クラウン(2012年12月25日発売)のホイールベース延長版で、全長は5メートル弱(4970mm)あるが、全幅はクラウンと同じ1800mmのまま。デザインは現行クラウン ロイヤルに沿ったものだが、縦バーを強調したフロントグリルを採用するなど、一部が専用になっている。
V6ハイブリッドの採用で、燃費は先代の倍に
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長くなったWBのほか、フロントグリルやメッキパーツの追加などがクラウン ロイヤルとの相違点
パワートレインは従来のV8エンジンを廃止して、レクサス GS450h譲りの2段変速リダクション機構付3.5リッターV6ハイブリッドシステムを採用。システム出力は343psで、先代マジェスタの4.6リッターV8(347ps)とほぼ同等としつつ、JC08モード燃費は先代の2倍以上となる18.2km/Lとした。
生産はこれまで通り、クラウンと同じトヨタ自動車本社の元町工場(愛知県豊田市)で、販売チャンネルも同様にトヨタ店。月販目標は現行クラウン(4000台)の8分の1となる500台だが、立ち上がり一ヶ月の受注台数は約2800台とひとまず好調。直近6ヶ月におけるクラウンの販売実績は7000台弱で推移しているが、トヨタとしてはアベノミクスを背景に、法人需要の盛り上がりに期待している。
■過去のニュース
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トヨタ、新型「クラウンマジェスタ」を発売 (2013年9月)
■過去の新車試乗記 【トヨタ クラウン関連】
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トヨタ クラウン ハイブリッド (2013年4月)
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トヨタ クラウン マジェスタ (2009年5月)
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トヨタ クラウン ハイブリッド (2008年6月)
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トヨタ クラウン 3.5 アスリート (2008年3月)
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レクサス GS450h (2006年4月)
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トヨタ クラウン マジェスタ (2004年7月)
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トヨタ クラウン 2.5 アスリート (2004年5月)
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トヨタ クラウン 3.0 ロイヤルサルーン (2004年1月)
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トヨタ クラウン マイルドハイブリッド (2001年10月)
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トヨタ クラウン (1999年10月)
価格帯&グレード展開
標準が610万円、本革シートやプリクラッシュ付が670万円
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今回試乗したのは “Fバージョン”(オプションの18インチホイール付)
前述の通り、全車3.5リッターV6ハイブリッドで、駆動方式はFRのみ。ラインナップは、標準グレードの「マジェスタ」(610万円)と装備満載の「マジェスタ“Fバージョン”」(670万円)の2グレード。後者には本革シート(レスオプションも可能)、前席シートベンチレーション、電動リクライニングとシートヒーター付のリアシート、レーダークルーズコントロール、プリクラッシュセーフティシステム等が標準装備される。初期受注はFバージョンが大半を占めるとのこと。
ちなみにクラウン ロイヤルは353万円~536万円、アスリートは357万円~575万円なので、一番高いクラウンにおおよそ100万円足せば、マジェスタが買える。直接のライバルは、日産フーガ ハイブリッド(539万7000円~647万6000円)か、同じくハイブリッドのシーマ(735万~840万円)あたりか。
オプションは、ダイアモンドカットと呼ばれる意匠の18インチホイール&タイヤ(2万1000円)、電動ムーンルーフ(10万5000円)など。ボディカラーは全6色。
■クラウン マジェスタ 610万円
■クラウン マジェスタ “Fバージョン” 670万円 ※今回の試乗車
パッケージング&スタイル
伝統の縦基調グリルを採用。ヘッドライトも専用品に
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全体としては、クラウン ロイヤルの高級&ロングホイールベース版といった印象
一見、普通の新型クラウン ロイヤルだが、すらりと伸びたボディ全体が目に入ると、おお、マジェスタか、と分かる。細部のデザインも微妙にロイヤルとは異なり、例えばフロントグリルは角度が少し立てられ、マジェスタ伝統の縦バーが強調された専用品(アスリートのグリルはメッシュ、ロイヤルのグリルは横基調)。さらにヘッドライトはクラウンの2灯式バイキセノンに対して4灯式LEDになり、バンパー下部やサイドロッカーにはメッキパーツのアクセントが追加されている。なお、フロントロアグリル奥には、車速やエンジン水温に応じて開閉してオーバークールを防ぎ、空気抵抗も低減する電動グリルシャッターが設けられている。
全長とホイールベースを75mmストレッチ
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後ろ姿はバッジ類を除けばロイヤルとほぼ同じに見える
ホイールベースはクラウンより75mm延長され、それがそのままリアドアの延長分になっている。いわゆるリムジンのような胴長スタイリングがカッコいい。一方で、全幅はクラウンと同じ1800mmのまま。最小回転半径もクラウンより0.1メートル大きいだけの5.3メートルに収まっている。
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全長(mm) |
全幅(mm) |
全高(mm) |
WB(mm) |
最小回転 半径(m) |
レクサス GS300h/450h (2012~) |
4850 |
1840 |
1455 |
2850 |
5.1~5.3 |
トヨタ クラウン ハイブリッド(2012~) |
4895 |
1800 |
1450-1460 |
2850 |
5.2 |
ホンダ アコード ハイブリッド(2013~) |
4915 |
1850 |
1465 |
2775 |
5.7 |
日産 フーガ ハイブリッド(2010~) |
4945 |
1845 |
1500~1510 |
2900 |
5.6 |
トヨタ クラウン マジェスタ(2013~) |
4970 |
1800 |
1460 |
2925 |
5.6 |
メルセデス・ベンツ S400 ハイブリッド(2013~) |
5116 |
1899 |
1496 |
3035 |
- |
日産 シーマ(2012~) |
5120 |
1845 |
1510 |
3050 |
5.8 |
レクサス LS600h(2012~) |
5090~5210 |
1875 |
1465~1475 |
2970~3090 |
5.7~5.9 |
BMW ActiveHybrid 7(2009~) |
5080~5230 |
1900 |
1475~1485 |
3070~3210 |
5.9~6.1 |
インテリア&ラゲッジスペース
木目調加飾パネルで高級感をアップ
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パーツは大部分をクラウンと共有するが、木目調パネルなど表面の素材・仕上げが異なる
インパネまわりも基本的にはクラウンとほぼ同じだが、マジェスタには欅(けやき)や玉杢(たまもく)をモチーフにしたというサンバースト木目調加飾がセンターコンソールやドアトリムに使われ、ゴージャスな感じ。資料を読むまで、本物のウッドだと思っていた。
内装色は、ファブリックならフラクセン(亜麻色=ベージュ)のみ。Fバージョンのレザーならブラックとフラクセンの2種類から選択できる。
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回転計の代わりに、パワーメーターを採用(回転計との切替式ではない)
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シフトレバーはコンサバにジグザグゲート式
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空調コントロールは5インチの液晶タッチパネルで行う
リアシートはまさにリムジン感覚
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サイドに手動ブラインド、リアに電動ブラインドが備わる。ドアは全てイージークローザー付
一番の売りは、リアシートの広さ。普通のクラウンでも十分と言えば十分だが、マジェスタならドア開口部(特に足もと)が広くて乗り降りが楽だし、フットルームも小柄な人なら足がまっすぐ伸ばせるほど余裕がある。上級グレードのFバージョンには電動リクライニングも備わるなど、まさに「お・も・て・な・し」の空間。
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トランクスルーはないが、ゴルフバッグ4個を収納可能とのこと
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床下は小物入れ。鉛バッテリーは電気ロスを低減するためトランクに搭載(最近のトヨタ製ハイブリッド車に多い)
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助手席を前に寄せて、後席リクライナーを倒した状態。お抱え運転手が欲しくなる
基本性能&ドライブフィール
これぞハイブリッドの高級車
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GS450hや先代クラウンハイブリッドでおなじみの2段変速リダクション機構付きV6ハイブリッドシステム
試乗したのはマジェスタ Fバージョン(670万円)。レクサスと違って、始動ボタンを右手で押せるのがまずいい。モーターは最高出力200ps、最大トルク28.0kgmと強力で、アクセルペダルの踏み込みに応じて、出足から滑るように加速する。4.6リッターV8を積んだ先代マジェスタの加速も空飛ぶじゅうたんみたいに滑らかだったが、新型マジェスタの加速もなかなか。V8に比べて微振動やエンジン音は若干大きめだが、EV走行時の静かさは武器。静粛性に関しては他に、吸・遮音材の追加や、リアサイドおよびリアウインドウガラスの板厚アップなどによって、普通のクラウンより強化されている。
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エンジン始動ボタンは右手で押せる。やっぱりこの方が自然
また、2.5リッター直4ハイブリッドの現行クラウンハイブリッドを知った後だと、このV6ハイブリッドの良さがよく分かる。直4と比べれば、さすがにV6エンジンは断然スムーズで、サウンドもいいし、パワフル。モーターと合わせたシステム出力は、クラウン直4ハイブリッドの220psに対して343psと約1.5倍にもなる。しかも、マジェスタの方は2段変速のリダクションギア付き。V8エンジン特有の濃密感こそないが、高級車でも燃費性能で「買う気」が左右される昨今、V6ハイブリッドを選んだのは自然だったという気がしてくる。
取り回しの良さはクラウンとほぼ同等
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試乗車のタイヤはオプションの225/45R18(ダンロップのSPスポーツ 2050)
サスペンションは電子制御ダンパー付で、乗り心地はもちろん悪くないが、足は少し硬めで、舗装の荒れたところではちょっとゴツゴツ感が伝わってくる。これは試乗車のタイヤが、マジェスタに標準の225/50R17ではなく、オプションの225/45R18だったせいかも(クラウンアスリートと同サイズだが、特殊吸音スポンジ入りの専用品)。また、パワートレインの静粛性が高いせいか、内装のバタつく音が耳に入りやすく、少し損をしている気がした。
とはいえ、クラウン独特の取っ付きやすさ、気楽さ、取り回しの良さは、日々足として使う実用セダンとしては長所となる部分。こういうクルマを作らせるとトヨタは巧いなぁ、と感心してしまう。
スピード感のなさは相変わらず
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走行モードは一度ボタンを押し、通常は空調コントロール用の液晶パネルを走行モード選択用画面に変更してから、さらにタッチパネルで選択する必要がある
パワーがあるのでワインディングでも速いが、基本的にはVGRS(ギア比可変ステアリング)を含むVDIMが早めに介入し、何事もなく無難に走ってしまうタイプ。アンダーは出ても、オーバーが出ることはまずあり得ない。ちなみに車重は試乗車で1840kgで、今のクラウンハイブリッドより150kgほど重いが、前後重量配分は52:48(前軸950kg、後軸890kg)と良好。実際、フロントヘビーだとか、リアが重いとかいった感じはない。
そして初代GS450h同様、このパワートレインが一番生きるのは、やはり高速道路。街中やワインディングでは持て余し気味だったパワーを開放すれば、ぎょっとするほどスピード感のないまま、速度計の針がぐんぐん回ってゆく。スピードの出し過ぎに要注意。ただ、高速域ではサイドウインドウ付近で、吸い出し音のような風切り音が少し高まるのが少し気になった。
|
エンジン 最大出力(ps) |
エンジン 最大トルク(kgm) |
モーター 最大出力(ps) |
モーター 最大トルク(kgm) |
システム 出力(ps) |
車重 (kg) |
JC08 モード 燃費 (km/L) |
3代目トヨタ プリウス (2007~) |
99 |
14.5 |
82 |
21.1 |
136 |
1350 |
30.4~32.6 |
ホンダ アコード ハイブリッド(2013~) |
143 |
16.8 |
169 |
31.3 |
199 |
1620~1640 |
30.0 |
トヨタ クラウン ハイブリッド(2012-) |
178 |
22.5 |
143 |
30.6 |
220 |
1630~1680 |
23.2 |
トヨタ クラウン マジェスタ(2013-) |
292 |
36.1 |
200 |
28.0 |
343 |
1810~ |
18.2 |
レクサス GS450h (2012~) |
295 |
36.3 |
200 |
28.0 |
348 |
1820~1860 |
18.2 |
日産 フーガ ハイブリッド(2010~) |
306 |
35.7 |
68 |
29.6 |
364 |
1840~1870 |
18.0 |
日産 シーマ(2012~) |
306 |
35.7 |
68 |
27.5 |
364 |
1930~1950 |
16.6 |
メルセデス・ベンツ S400 ハイブリッド(2013~) |
306 |
37.7 |
27 |
25.5 |
- |
- |
- |
BMW ActiveHybrid 7(2009~) |
320 |
45.9 |
54 |
21.4 |
354 |
2080~2140 |
14.2 |
クラウンより進化した?アダプティブハイビームシステム
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ヘッドライトユニットのデザインはクラウンに似ているが、実は別物。マジェスタのものは4灯式LEDになっている。ロービームの照射軸を左右に可変するAFSも装備
ヘッドライトの明るさにも感心したので触れておきたい。新型マジェスタのアダプティブハイビームシステム(AHS)は、前を走るクルマや、対向車に直接ハイビームを当てないよう、遮光範囲を遮光板で自動調整するシステム(レクサスISやGSのオートマチックハイビームとは異なる)。これは現行のレクサスLSやクラウンにも採用されているが、マジェスタのものはライトユニットが専用の4灯式LEDとなるせいか、少なくともクラウンの2灯式バイキセノンより実用的に感じられた(現行LSのものは未経験)。
例えばクラウンの場合は、以前も触れたように、街灯のある市街地ではハイビームに思ったように切り替わってくれなかったり、コーナー奥の反射板を対向車のヘッドライトや街灯と誤認識して遮光してしまうことがあったが、今回のマジェスタではかなりオートのままで走ることが出来る。ただし、相変わらず反射板には反応しがちだった。
試乗燃費は11.0~15.5km/L。JC08モード燃費は18.2km/L
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モーターデイズで試乗したのは10/10以降。それ以前の履歴でも、12~13km/L台だったことが分かる
今回はトータルで約320kmを試乗。参考までに試乗燃費(車載燃費計)は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)が11.1km/L。一般道で、無駄な加速を控えて走った区間(約30kmを2回計測)が15.0km/Lと15.5km/L、計6日間のトータル(トヨタ車でおなじみの給油後平均燃費)では11.0km/Lだった。JC08モード燃費は18.2km/L。
なお、半年前に試乗した直4エンジンのクラウン ハイブリッドは、試乗燃費が12.4~19.6km/Lで、JC08モード燃費が23.2km/L。これからするとマジェスタの燃費は、おおむねクラウン ハイブリッドの8掛けということになる。
ただし、指定燃料はクラウン ハイブリッドがレギュラーのところ、マジェスタはハイオク。まぁしかし、先代マジェスタなら5km/L台もあり得たわけで、今や確実に10km/L走ってしまうのは驚異的。
ここがイイ
スタイル、デザイン、パワートレイン
普通のクラウンよりスタイルが伸びやかになり、リムジンみたいなカッコ良さが加わったこと。実際、後席はリムジン並みに広くて、あえてレクサスではなくクラウンを選ぶユーザーにも説得力がありそう。それでいて取り回しは普通のクラウンにほとんど遜色なく、価格もクラウンと大差はない。フロントグリルもクラウンロイヤルの横基調に対して縦基調にしたことで、素直にいいと思えるものになった。見慣れたのではなく、これは「良いデザイン」と言えるグリルだと思う。
V6ハイブリッド自体は、7年前に発売されたレクサスGS450hが初出だが、いろんなハイブリッド車が出てきた今でも商品力は高いと感じた。パワーは十二分、いや十五分くらいあるし、燃費もこのクラスとしては抜群にいい。同じV6ハイブリッドだった先代クラウンハイブリッドのJC08モード燃費は14.0km/Lだったが、新型マジェスタは18.2km/Lと、3割も良くなっている。V8エンジンの濃密な回転フィーリングが好きな人には物足りないと思うが、そうでない人なら今回のマジェスタは歴代モデルで一番魅力的かも。
ここがダメ
タッチパネルに頼った操作系、反射板に反応しがちなAHS
クラウン同様、ナビ関係や空調の操作はタッチパネルで行う。分かりやすいと言えば分かりやすいが、走行中のブラインド操作はやはり難しい。特に走行モードの切替は、通常は空調用の液晶パネルを、走行モード選択画面に切り替えてからタッチ操作する必要があるため、走行中にワンタッチで切り替えることが出来ないし、ブラインド操作も難しい。実際には使用頻度が少ないから問題なしという判断かもしれないが、やはり走行中に操作したいものがブラインド操作しにくいのは良くないと思う。また、トリップメーターの切替ボタンがステアリングの死角にあるのも、やや不便に感じられた。
ほぼ実用になると本文に書いたアダプティブハイビームシステムだが、夜のワインディングでは予期せず、コーナーの奥を照らさないことがあった(本文にあるようにおそらく反射板のせい)。そういう時はシステムをオフにすればいいのだが、さらなる進化を期待したい。
総合評価
日本に寄り添った作り
昔からクラウンは基本、日本のクルマ。現在では中国でも販売されているが、やはり今も日本市場を最重視して作られている。で、乱暴に言えば、日本で誰がこの新車を買うかというと、少しお金がある中小企業の社長とか、自営業者とか、学校の先生(苦笑)とか。輸入車のような高級ブランド品ではなく、それでも誰が見ても「むちゃくちゃ高くはないけど、けして安いクルマではない」と分かる記号性を持つのがクラウンだ。という意味では「少しだけ社会的地位のある人」には、とても都合がいい乗り物。そして毎日自分で運転して乗り回す実用車としての側面も大きい。ある意味、営業車とも言え、そう考えると「それなりの高級車」というところだろう。特に最近はアスリート系の印象と販売が強くなって、高級感だけでなくスポーティな感じもかなり出てきた。
で、マジェスタとなると、これまではクラウンよりフォーマル度がワンランク高く、高級感も高いという位置づけだったと思う。しかし今回乗ってみると、クラウン本体がインフォーマルな雰囲気を増しているだけに、マジェスタこそが前述した昔からのクラウン的なものであるように感じられた。日本的な最高級車として作られており、今回はまさにその通り、という地位をあらためて確保したと思う。
とはいえ、あちこちで指摘されている通り、諸外国の高級セダンと比べると、高級感が足りないのは否めないところ。そこは610万円からという、高級車としては低価格ゆえに致し方ないところだろう。庶民が震え上がるような高級感が欲しい人は、どうぞ輸入車をお求めくださいということ。それが嫌ならトヨタにはレクサスだってある。そう言えばここに来てトヨタは、トヨタのレクサスではなく「トヨタとは関係ない(ように見える)レクサスというブランド」の確立を急ぎ始めているようだ。それゆえトヨタブランドの最高級車マジェスタと、レクサス車は明らかに違う作りを目指しているように思える。
つまりマジェスタは日本でこその最高級車だ。おかげで日本の道ではとても乗りやすい。高級車にあるまじき、今どき貴重とも言える1800mmという全幅ゆえ、立駐はもちろんコインパーキングにも駐めやすいし、スーパーの駐車場も気にならない。全長も長いとはいえ5メートル未満だから、これまた立駐に入る。今回の試乗でも、市街地から山道まで、どこを走っても、ボディの大きさはまったく気にならなかった。マジェスタの、とても日本に寄り添った作りが心に染みた。
スマホではなく、まさにケータイ
パワートレインに関しても、燃費競争で強いインパクトを出さなくてはならないクラウンでは、4気筒ハイブリッドとなったが、マジェスタはそこそこの燃費でもかまわない最高級車ゆえ、V6ハイブリッドを積めた。このパワーユニットがことのほかいい。滑らかさはもとより、走りを、いやエンジンそのものを楽しめる。官能的なハイブリッドとまでは言わないが、旧来からのクルマらしさも楽しめるハイブリッドユニットだ。結果、燃費はそこそこでも、最高級車ゆえ許される。燃費競争にかまけることがなければ、こんなにいいエンジンを載せることができる。個人的にはレクサスISにこのパワーユニットが載ったら、かなり欲しくなると思う。しかし、もしISに載ったとしても、走りは楽しいが燃費はそこそことなると、商品的にはなかなか難しい。数値で表しづらい走りの気持よさほど、商売しにくいものはないだろうから。
日本で生活するなら、たとえお金持ちでもコンビニやファミレスを使うことはあるはずだ。超高級車はコンビニやファミレスに停めづらいが、マジェスタなら堂々と乗り付けても違和感はない。そんなマジェスタはトヨタブランドの最高級車だが、高級感だの、燃費だのと、全てで世界のトップを目指さなかった結果、とてもトータルバランスのいいクルマになっている。輸入車と比べると不満があるかもしれないが、日本でならこっちの方が満足度は高い。その意味では見事なガラパゴス商品。そしてガラパゴス列島の商品らしく、ハイテクはしっかり搭載されているが、それ自体は主張しないという点で、スマホではなくまさにケータイのようなクルマと言える。主力ユーザー層のオジサンとしては、この燃費で、ガラケーみたいに使いやすい高級車に乗れるなら、何も不満はない。