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ランドローバー ディフェンダー ステーションワゴン 110:新車試乗記

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キャラクター&開発コンセプト

基本設計は1948年から不変。1990年からディフェンダーを名乗る

ランドローバー シリーズ 1(1948年) (photo:Jaguar Land Rover)
ランドローバー「ディフェンダー」は、1990年に発売されたクロスカントリー4WDの多用途車。正確に言えば、1983年に登場した「90(ナインティ)」および「110(ワンテン)」そのもので、1990年からディフェンダーと名乗っている。 頑強なラダーフレームシャシー、アルミ合金製の外板、4輪駆動、実用然としたデザインは、1948年に登場した元祖ランドローバー「シリーズ 1」から始まるもの。そうした基本設計は、その後の「シリーズ 2」(1958年~)、「シリーズ 3」(1971年~)、そして90/110でも大きく変わらず、現在のディフェンダーまで継承されている。ワークホース(農作業車、軍用車、全天候型車両など)として誕生したランドローバーの原点を、今に伝えるモデルだ。

【メカニズム変遷】シリーズ 1から、ディフェンダーまで

ランドローバー シリーズ 3 (1985年) (photo:Jaguar Land Rover)
ランドローバーは、もともとはローバー・グループの1ブランドだが、1994年からはBMW傘下、2000年からはフォード傘下になり、2008年以降はインドのタタ傘下にある。これにより、レンジローバーなどの歴代モデルは、親会社の意向や技術リソースの影響を大きく受けながらモデルチェンジしてきたが、ディフェンダーに関しては英国などに軍用車として採用されていることもあり、大掛かりな変更はなく、生き延びてきた。
 
2012年に採用された、フォードとPSA共同開発による2.2リッターディーゼルターボエンジン (photo:Jaguar Land Rover)
エンジンは長年、主にローバー製の各種エンジンが搭載されてきたが、1998年にはランドローバー自製ながらBMWの技術が入った2.5リッター直列5気筒ディーゼルターボ(122ps、30.6kgm)、通称「Td5」を採用。以後、10年近く搭載された。 2007年には、フォード製の2.4リッター直4ディーゼルターボ(122ps、36.7kgm)、通称「プーマ」エンジンを採用。さらに2012年には、ユーロ5排ガス規制に対応したフォード・PSA共同開発の2.2リッター直4ターボディーゼル(スペックは変わらず122ps、36.7kgm)が採用されている。
 
ランドローバー ディフェンダー 90(2013年モデル) (photo:Jaguar Land Rover)
4WDシステムは、シリーズ 3時代の1979年に、レンジローバー譲りのセンターデフ付フルタイム4WDが採用され、今に至っている。ミッションはMTのみで、もちろん副変速機付き。2007年にゲトラグ製6MTが採用された後は、前進12段、後進2段になる。 なお、日本では、1990年代から2000年代にかけて、断続的に正規販売されたが、排ガス規制等により、2005年にいったん販売を終了。2008年にフォード製エンジンが搭載されたことで、再び並行輸入を中心に輸入されている。 なお、今回試乗した2013年モデルは、愛知県一宮市で長年ランドローバー車を扱っている株式会社GMD サン・カーズ(前身はランドローバー正規ディーラー)が英国から並行輸入したもの。

2015年には67年ぶりにフルモデルチェンジ?

2011年のフランクフルトモーターショーで発表された「DC100 コンセプト」および「DC100 スポーツ コンセプト」 (photo:Jaguar Land Rover)
なお、2011年のフランクフルトショーでは、次期ディフェンダーを予告するコンセプトモデル「ランドローバー DC100 コンセプト」および「DC100 スポーツ コンセプト」が発表されている。市販モデルは、2015年デビューと予告されているが、詳細は未発表。いずれにしても、現行ディフェンダーは2015年に販売終了となる予定。
 

価格帯&グレード展開

現在は並行輸入のみ。ホイールベースは3種類で、ボディタイプも多種多様

サン・カーズのショールームに並ぶディフェンダー 90(左)
前述の通り、日本で現在買える新車のディフェンダーは並行輸入のみ。パワートレインは英国本国でも、2.2リッター直噴ディーゼルターボ・6MTのみで、シャシーはショートホイールベース版の「90」(ホイールベースが90インチ=2360mm)、ロング版の「110」(2794mm)、さらに長い「130」(3226mm)の3種類がある。 ボディタイプは、貨物バンのような「ハードトップ」、4人乗り(90)もしくは5/7人乗り(110)の「ステーションワゴン」、2人乗りの「ピックアップ」、荷台がさらに大きい「ハイキャパシティ ピックアップ」、5人乗り+荷台の「ダブルキャブ ピックアップ」などなど、様々なタイプが選べる。なお、欧州の安全基準が改定されたため、後席は2007年から対面タイプではなくなり、一般的な2列もしくは3列シートタイプになっている。
 
手前はディフェンダーで最大級の130 DCHCPU(ダブルキャブ ハイキャパシティ ピックアップ)
オプションでABS&トラクションコントロール、マニュアルエアコン、オーディオ、前席パワーウィンドウ、集中ドアロックなどが用意されている。今回の試乗車は、ステーションワゴンの110、5人乗りで、それら快適装備を全て備えたもの。日本での車両本体価格は為替(円-英国ポンド)によるが、最近の円安・ポンド高では650万円くらいから、とのこと。
 

パッケージング&スタイル

基本設計・デザインは1948年から変わらず

今回試乗したのはステーションワゴンの110。7人乗りもあるが、これは5人乗り
前述のように、頑強なラダーフレーム(はしご型フレーム)の上に、アルミ合金製パネルのボディを載せた基本構造は、1948年に登場したランドローバーの元祖たるシリーズ1からほとんど変わっていない。また、外観デザインについては、30年前の初期ディフェンダーから、一部を除いて全く同じと言っていいほどで、現実に外装パーツの互換性も高いようだ。今でもランドローバーの本拠であるソリハル工場では、ほとんどハンドメイドでディフェンダーが生産されているらしい。
 
外板がアルミ製なのは、第二次大戦後の英国ではスチールよりも、(航空機に使われていた)アルミの方が容易に入手できたから、とのエピソードが有名。パネルとパネルの接合に、航空機みたいなスポット溶接やリベットが多用されているのは、ソリハルが航空機工場の跡地だったからか? もちろんアルミ合金には、軽量で、錆びにくい、加工しやすい、といったメリットもある。フラットなパネルはよく見ると、微妙に凸凹しているが、上から押してもペコッと凹んだりはしない。 面白いのは、シリーズ1の頃から最近のディフェンダーまであったフロントウインドウ下の換気用フラップの名残りが今でもプレスラインとして残っていること。フラップは2007年から空調システムの改良によって廃止されている。
 
1983年デビューの初期ディフェンダーとほとんど全く同じ面構え。現行モデルはボンネット上面が歩行者安全対策で膨らんでいる
リベットが無数に打ち込まれたリアゲート。横開き式で、ここは集中ドアロックに連動しない
実車はかなり大きく見えるが、全長はこの110でも意外に短く、ボディ自体の幅(オーバーフェンダーを除く)も5ナンバー枠に収まりそうなレベル
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転
半径(m)
ランドローバー ディフェンダー 90 4040 1790 2000~2182 2360 6.15~6.67
メルセデス・ベンツ Gクラス(現行モデル) 4530~4575 1810~1860 1950~1970 2850 6.2
トヨタ FJ クルーザー(2006-) 4635 1905 1840 2690 6.2
ランドローバー ディフェンダー 110 4785 1790 2000~2182 2795 6.4~7.18
トヨタ ランドクルーザー 200系(2007-) 4950 1970 1880 2850 5.9
ランドローバー ディフェンダー 130 5271 1790 2000~2182 3226 7.54
※上記ディフェンダーの数値は、ハードトップおよびステーションワゴンの場合。全高、最小回転半径はタイヤサイズによって異なる
 

インテリア&ラゲッジスペース

インテリアは割と近代的

試乗車は販売店オリジナル品の2DIN対応センターパネル付。エアバッグは設定なし
30年間にわたって、ほとんど不変のエクステリアに対し、すっかりモダンになったのがインテリア。インパネは2007年にディスカバリー3のパーツを流用したものに変更され、オプションでエアコンも装備できるようになった(以前は吊り下げクーラーだった)。タコメーターもその時から装備されるようになったらしい。 後席も対面シートから、一般的な2列ないし3列シートに変更されるなど、シートレイアウトも大きく変更されている。現行2013年モデルは、90のステーションワゴンなら4人乗りで、110のステーションワゴンなら5人乗りもしくは7人乗りになる。
 
リアのサイドウインドウはスライド式。後席上部にはアルパインウインドウが備わり、開放感に貢献
フロアは樹脂で覆われ、掃き出しになっているので、水や泥が多少侵入しても大丈夫。乗り降りは捕まるところないので大変だが、オプションでステップを装着できる
6速のシフトレバーはドライバーから少し遠いが、慣れる。その手前に副変速機とセンターデフロックの操作レバー。パーキングブレーキは屈まないと手が届かない
 
2列目をタンブルで格納した状態。操作は意外に簡単で、力は大して要らない。奥行きは大人の身長程度
後席は以前のものより立派だが、背もたれが立ち気味で、椅子に座るような姿勢になる
フロントシートは座面こそ小ぶりながら、座り心地はまずまず。ステアリングは無調整で、シートリフターもないが、それなりにポジションがとれる
 

基本性能&ドライブフィール

トラックみたい。2000回転くらいがスイート

2012年モデルからこの2.2リッター直噴ディーゼルターボを採用。最高出力は122ps/3500rpm、最大トルクは360Nm/2000rpm。もちろんDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)を備える
試乗したのは110のステーションワゴン。エンジンは前述の通り、2.2リッター直4の直噴ディーゼルターボ。フォードとPSAが共同開発した最新エンジンで、最高出力122ps/3500rpm、最大トルク360Nm (36.7kgm)/2000rpmを発揮する。変速機は6MTのみ。 キーをステアリングコラムの左下に突き差して回すと、シュドォーーンと即座に火が入る。ちなみにイグニッションなどの操作系が左側にあるのは、右手でライフル等の火器を構えたまま乗り込んで運転できるようにするため、らしい。 続いてガラゴロ、ガラゴロと、まごうと事なきディーゼルエンジンの音が響き渡る。このあたりは、基本的に巷の4トントラックと同じ。自宅でエンジンを掛けると、近所の人は宅急便の人が来たと間違えるかも。
 
50km/h、60km/hという制限速度が、ごく自然に守れるディフェンダー。現代の一般的なクルマとは、速度感覚が全く異なる
運転席からの見晴らしはよく、下手な小型SUVより見切りはいい。ランドローバーいうところのコマンドポジション。クラッチは特に軽くはないが、重くもなく、女子でも何とかなりそうなレベル。ミッションはフォード系の6MTで、マスタングのV8モデルと同じものだそうだ。言われみると、確かにタッチがよく、カチカチとギアが入る。 最高出力は122psで、車重は約2トンもあるので、パワーウエイトレシオは約16kg/psにとどまる。一方、360Nmものトルクはディフェンダー史上最強レベル。排気量は2.2リッターしかないので、ターボが本格的に働かない1500回転以下だと反応が鈍いが、そこから先はトルクがグォーと湧き上がり、3000回転も回せば、もう十分。1速でグォッー(20km/hくらい)、2速でグォーン(40km/hくらい)、3速でグォーーン(60km/hくらい)とやって、街中では4速、1500~2000回転くらいで流す、という感じ。このあたりが一番楽しい。思わず窓をあけて、腕をドアにかけて乗ってしまう。
 
常用回転数は1500~2000回転くらい。普通に走る限り、3500回転以上回す必要はほとんどない
ただ、ドライバーが感じるほど速くないのも確かで、低回転でのんびり走っていると、軽自動車や小型トラックに置いてゆかれそうになることも。幹線道路で速い流れについてゆくには、3500回転くらいまで引っ張った方がいい場合もある。つい数年前までタコメーターがなかったくらいだから、本来はエンジンをブン回して乗るのが流儀なのかもしれない。いちおう、0-100km/h加速のメーカー発表値は15.8秒で、この手のクルマとしては意外に俊足。あと、ブレーキも意外によく効く。

ステアリングはスロー。交差点やコーナーではゆっくりが基本

一方で戸惑うのは、ステアリングギア比がスローなこと。これは悪路走行中のキックバックを減らすためだそうだが、普通のクルマの感覚で交差点に入ると、ついつい切り遅れがちになる。さらに、ハンドルがあんまり切れないので、狭い道だと曲がりきれない。当たり前だが、速度を十分に殺し、早めにステアリングを切り始めるのがコツだ。また、普通のコーナーでも、スローイン、スローアウト的なマナーを守らないと、けっこう慌てることになる。
 
試乗車はミシュランのXZL(7.50R16)という、細めでオフロードに強いタイヤ(標準仕様の一つ)とスチールのスタンダードホイールを履く。今風の235/85R16も選べる
乗り心地は現代のSUVと比べるべくもなく、昔の「四駆」そのものだが、思ったほど悪くないとも言える。何を基準にするかで印象は違ってくるが、ボディはユサユサ揺れないし、突き上げも激しくないと感じた。実際、1990年代よりはもちろん、2007年以前のモデルと比べても、乗り心地や静粛性はずいぶん良くなっているらしい。ディーゼルエンジンは、グロロロロロと唸ってはいるものの、60km/hくらいまでなら、少なくともドライバーは特に不満なく乗っていられる。

高速道路では法定速度がちょうどいい

基本設計の古さというか、「昔のクルマだなぁー」と実感するのは、高速道路を走っている時。6速トップでの100km/h巡航は約2000回転で、エンジン回転そのものは低いが、当然ながらノイジーで、窓が開いてるのかと思うほど騒々しくなる。ただ、100km/hでもラジオは何とか聞こえるし、助手席の人と大きな声でなら会話が可能。大昔のクロカン4WDと比べれば、割と快適、とも言える。 ただ、乗用車的な感覚で言うと、操縦安定性は気になる部分。まっすぐ走るだけなら問題ないが、道が多少曲がっていると、ステアリング操作にかなり気を使う。最高速はメーカー発表値で145km/hだが(リミッターが作動するらしい)、現実には左車線で、大型トラックと一緒に80~100km/hでのんびり走るのが無理のないところ。この手のクルマに不慣れなせいはあるが、正直なところ追越車線をぶっ飛ばしている長距離トラックやハイエースがやけに速く見えた。

【悪路走破性】 メカ式フルタイム4WDと副変速機で武装

ディフェンダー 2013年モデル (photo:Jaguar Land Rover)
オフロード走破性については、主にスペックで紹介する。4WDシステムは前述の通り、副変速機とセンターデフ(デフロック機能付)を備えたフルタイム4WD。面白いのは副変速がハイでもセンターデフロック出来ること。戦地の、特に危険地域でスピードが求められる時には、これがけっこうモノを言うらしい。 電子制御デバイスは、トラクションコントロールやABSなど最小限で、機構的にはほぼメカニカル。サスペンションは昔の前後リーフスプリングから1980年代に、現在の前後コイルスプリングに変更されている。
 
アドベンチャーラリー「キャメルトロフィー」で道なき道を行くディフェンダー(1990年) (photo:Jaguar Land Rover)
走破アングルや最低地上高は下記の通り。最大登坂能力は45度で、渡河性能は標準で水深500mm(サイドシルの辺り)とのこと。ランドルクルーザー 200系の700mmや、現行レンジローバーの900mmには及ばないが、ディフェンダーの場合、水が侵入しても大丈夫なように、フロアは樹脂で覆われた防水仕様。まぁ、現行レンジローバーで河を渡る人は滅多にいないと思うが、僻地での使用が多いディフェンダーだと普通にありえそうなので重要な性能だろう。
 
    アプローチ
アングル
ランプブレーク
オーバーアングル
ディパーチャー
アングル
最低地上高
スズキ ジムニー(JB23W、1998-) 49度 32度 50度 210mm
ランドローバー ディフェンダー 90(1983-) 47度 33度 47.1度 250mm
ランドローバー ディフェンダー 110(1983-) 48.7度 28.5度 30.3度 250mm
ジープ ラングラー スポーツ(JK型、2007-) 40.8度 37.4度 21.8度 225mm
ランドローバー レンジローバー(2013-) 34.7度 28.3度 29.6度 303mm(リフト時)
トヨタ FJ クルーザー(2006-) 34度 28.5度 27度 230mm
トヨタ ランドクルーザー 200系(2007-) 30度 25度 20度 225mm
 

試乗燃費は9.2km/L。欧州測定モードは7.4~10.3km/L

今回入れた軽油はリッター128円。ハイオク(161円)より約26%、レギュラー(150円)より約17%安かった
今回はトータルで約220kmを試乗。参考までに試乗燃費(満タン法で計測)は、一般道、高速道路、ワインディング、および撮影のための移動を含めて走った区間(約150km)で、約9.2km/Lだった。 なお、欧州燃費測定基準では、都市部が7.4km/L、郊外が10.3km/Lで、複合では9.0km/Lと、奇しくも今回と似たような数字。総じて、乗り方や交通環境にあんまり左右されない、という印象。MTということもあるが、意外に燃費は良さそう。 使用燃料はもちろん軽油で、タンク容量は90で60リッター、110で75リッター。
 

ここがイイ

昔のままのスタイル、適度にアップデートされた中身

とにかくスタイリングや基本的な作りが、ほぼ昔のまんまなこと。それでいてエンジンやミッションは現代のものになり、エアコンも装備されている。クラッチも軽くなっているようだし、パワステも重くない。ポルシェ同様、ディフェンダーも「最新は最良」だそうだ。おそらくは現在のモデルが、ほぼそのまま最終モデルとなりそう。

ここがダメ

後席の背もたれが立ち気味。高速走行時の操縦安定性

エアコンも装備されたことで、その気になればファミリカーにも使えそう、などと思うが、そこで気になるのは後席の背もたれが立ち気味なこと。以前の簡素なリアシートに比べれば、ずいぶん立派になっているが、それゆえ、もうちょっと後ろに倒れてくれれば、と欲が出てしまう。座面もちょっと短め。 昔の4WD車を知っている人なら、何となく想像できると思うが、操縦安定性、特に高速走行時のそれは、ほぼ昔のクロカン4WD車のまま。エンジン的には余裕があるが、シャシー的には舗装路を、現代のSUVのようにハイスピードで、快適に移動するようには出来ていない。遠くへ出かける場合は、時間的にも精神的にも体力的にも余裕がある人向け。

総合評価

なんだかよく分からないが、楽しい

こういうクルマの試乗では本来、オフロードを走ってみないと、その真価はわからないだろう。その意味では、この試乗記はまったく十分なものではない。ディフェンダーの本質が悪路走破性にあることは間違いないのだから。当試乗記でも、これまでオフロード試乗に及んだ記事は少ない。新車試乗車でオフロードに乗り込むわけにはいかないし、施設内の整備されたオフロードを走ることはあっても、いわゆる自然のオフロードを走ることはまずないし、現実としてそれはできない。また、実際の話、自由に乗り入れられる自然なオフロード自体が、かなり減っている。2009年の数字によると、日本の道路の舗装率は80.11%(北米や英国は100%)。ディフェンダーのようなオフロード車には、限りなくアウェーな環境だ。 それでも20年ほど前のクロカン4WD大ブームの時代には、まだまだ多くのオフロードが身近に存在した。名古屋市内の河原でも、4WD車で勝手に乗り入れて遊べる場所があったくらいだ。その後ここも、死亡事故が起きて閉鎖されてしまったが、当時はそこでよく遊んだもの。また、当時キャンプなどに行くと、ここは4WD車のほうがいいなあと思う荒れた道もけっこうあった。あれから20年経って、そうした道もたぶんかなり整備されているだろう。もちろん、これらはあくまで夏場の話であって、雪が積もる冬場なら、まだまだ4WD車が必要とされることは多いと思うが。
 
ランドローバー ディフェンダー(2007年モデル) (photo:Jaguar Land Rover)
そんな時代の花型だったランクル、パジェロといったオフロード4WD車はすっかり進化して、今やオンでもオフでも快適かつ高性能なSUVになっている。そんな中、30年前(ルーツを探れば、もっともっと前)と同じ姿で生きながらえてきたディフェンダーに今回乗ってみると、ポンコツの四駆で遊んだ遠い記憶が呼び起こされた。当時乗っていたのは2代目のデリカ4WD。初代パジェロのシャシーを使ったワンボックスで、真四角のスタイルは軍用車っぽく、大ヒットした3代目より気に入っていた。キャブオーバーなので、オフロードに入ると実に運転感覚が独特で、特に下りはタイヤより体が前に行くのでちょっと気味が悪い。 そんなことはまあどうでもいいが、エアコンがあんまり効かなかったので、窓を開けて薄っぺらいドアから腕を出し、風を切って走るのは、その高いアイポイントと相まって、とても楽しかった。スピードを楽しむのではなく、雰囲気が良かった。その自由な感じこそが楽しかったのだ。ディフェンダーに乗って、そんな当時と同じ楽しさをたっぷり味わわせてもらった。なんだかよく分からないが、このクルマに乗っていると心がウキウキしてくる。そうだ、クルマって楽しい乗り物だったんだよなあ、と。

クルマという機械が持つ根源的な魅力

なんだかよく分からないではいけないので、それを分析してみると、まずあんまり動力性能が高くないクルマを、マニュアルシフトで一生懸命走らせることが楽しい。うっかりすると、軽自動車にも置いて行かれそうになる加速力には、思わず「ほれ、頑張れ」と言いたくなる。振動が適度にあることはエンジンが生きているように思えるし、アイポイントの高さは理屈なしの楽しさだ。乗り込む場面で「よっこらしょ」と声を出したくなるほど大変なのも、逆に楽しいポイントだろう。逆にドアの位置は低いので、サイドウインドウを下ろせば、肘をかけるのが全く気にならない。試しに、ペラペラに薄いドアを脇で挟むようにすると、昔と同じようなクルマとの一体感を得ることができる。今のクルマではどんどん改善されて、楽で、快適になった(逆に言えば苦労しなくていい分、面白さがなくなった)部分が、全て「楽じゃないまま」残っている。そこが楽しさの根源なのでは。 もうじき生産が終わってしまうというディフェンダーだが、聞けば軍用には残るらしい。それは戦場などの過酷な状況では、プリミティブで丈夫なことが重要な要素だからだという。オフロードの走破性能、簡単な構造ゆえの修理・整備性の高さ、いざとなればどんな粗悪な燃料でも回ってしまうエンジン(試乗車のエンジンではない)などは、重宝されるようだ。ディフェンダーは燃費や環境性能、安全性や経済性が求められる現在のクルマではありえない「原始的」なクルマゆえ、人も機械も本質がむき出しになる戦場という世界では、まだ現役ということだろう。戦争が全て電子機器による戦いに置き換わるのはまだまだ先のようだし。 そうやって過酷な状況で使われる機械は、人にとって大事な相棒だ。そこから転じてクルマは友達だ、という感覚、そんなクルマに対する昔からの感情をディフェンダーでは強く感じる。ディフェンダーからは、電子化されて快適さにまみれた現代のクルマにはない、クルマという機械が持つ根源的な魅力(動かす喜び、動く楽しさ&動かなくなる怖さ)がにじみ出ているということなのだろう。
 
まあ、そういうクルマではあるが、2007年のマイチェンでずいぶん快適になり、今ではクラッチペダルも重いというほどではないし、シフトもスコスコ決まるし、振動もひどくないし、ハンドルだって重くはない。エアコンもあるし、高速道路も100km/h巡航ならちゃんと走る。ひとまずクルマとして毎日乗ったとしても大きな不満はないところが、現在買えるディフェンダーのいいところだろう。もちろんレトロなスタイリングは、今となっては文句なく魅力的な部類だし、ボディの溶接跡やリベットも愛おしい。遊ぶ時間があって、お金もあるなら、1台買って、いつまでも側に置いておきたくなる、まさに「趣味の機械」といえそうだ。新車で買えるチャンスはいよいよ短い。

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