キャラクター&開発コンセプト
3.5リッターV6と8ATを採用
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今回試乗したのは350“Fスポーツ”
8年ぶりにモデルチェンジし、2013年5月16日に発売された新型レクサス IS。そのハイブリッド版のIS300hについては、
前々回で取り上げたが、今回試乗したのは純ガソリン車のトップグレード「IS350」。
その3.5リッターV6エンジンは、クラウンやレクサスGSなどでお馴染みの「2GR-FSE」。燃料供給システムを直噴(シリンダー内直接噴射)と一般的なポート噴射を併用する「D-4S」としたもので、最高出力318ps、最大トルク38.7kgmを発揮する。変速機にはレクサスのV6エンジンでは初となる8速トルコンATが採用されている。
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前々回に試乗したIS300h “Fスポーツ”
新型ISシリーズの月販目標台数は800台で、トヨタによると発売から一ヶ月後までの初期受注分(約7600台)では、300hが約7割(約5500台)、ガソリン車(250と350)が約3割(約2100台)とのこと。
■過去の新車試乗記
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レクサス IS300h (2013年9月更新)
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トヨタ クラウン ハイブリッド (2013年4月更新)
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レクサス GS350 (2012年3月更新)
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レクサス IS F (2008年3月更新)
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レクサス IS350 (2005年10月更新)
価格帯&グレード展開
350は250の約100万円高、300hより40万~60万円高
グレードはパワートレイン別に、「250」「300h」「350」の3種類。それぞれに標準グレード、本革シート等を装備した「バージョンL」、スポーティな「Fスポーツ」が用意される。価格は以下の通りだが、エコカー減税に関しては、300hが100%免税なのに対し、250と350は対象外になるので、実質的な支払い総額では300hが取得税(車両価格の5%)などの分だけ有利になる。
なお、先代ベースのIS Fはしばらく継続販売されるようで、この9月には特別仕様車"Dynamic Sport Tuning"が追加されている。
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専用エアロパーツやサスペンション等を装備するFスポーツの場合は、250が480万円(4WDは550万円)、300hが538万円、350が595万円
■「IS250」
2.5リッターV6(215ps・26.5kgm)+6AT 420万-550万円(FR/4WD)
■「IS300h」
2.5リッター直4+モーター(システム出力220ps) 480万-538万円(FR)
■「IS350」
3.5リッターV6(318ps・38.7kgm)+8AT 520万-595万円(FR) ※今回の試乗車
■「IS F」
5.0リッターV8(423ps・51.5kgm)+8AT 810万円(FR)
■「IS F "Dynamic Sport Tuning"」
5.0リッターV8(430ps・51.5kgm)+8AT 1050万円(FR)
パッケージング&スタイル
グレードによる見た目の違いはほとんどない
スタイリングについては、
300hの時に触れたので、今回は省略。ただ、発売からすでに4ヶ月以上が過ぎ、デザインに関しては見慣れた人も多いのでは。とはいえ販売台数は新型クラウンの1~2割程度と絶対的に少ないので、今でも街中ではそれなりに目立つ。
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ボディカラーは全10色。試乗車はメタリック感の強いスターライトガラスフレーク
見た目に関しては、ガソリン車とハイブリッド車の違いはほとんどなく、トランクリッドのバッジを見ないと、グレードが何なのか一瞬では分からない。ガソリン車だと見抜くポイントは、リアバンパーの下から突き出る2本出しマフラーだが(300hではマフラーが見えない)、ここは250と共通になる。また、Fスポーツでは、前後バンパーや18インチアルミホイールなどの外観装備が250から350までほぼ共通になる。このあたりの手法は、BMWの「Mスポーツ」仕様と同じだ。
インテリア&ラゲッジスペース
インパネまわりもFスポーツならほぼ同じ
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試乗車はFスポーツ専用のレザー仕様。加飾パネルにはメタルや竹もあるが、試乗車は樺の柾目を染めたクラフテッドラインウッド
内装も、ガソリン車とハイブリッド車の差はわずかで、違いは液晶ディスプレイにエネルギーモニターの項目があるか無いか、といった程度。Fスポーツでは、例の可動式メーターも同様に採用される。
内装カラーやシート素材はかなり自由に選べるので、むしろそのあたりで大きく印象が変わってきそう。試乗車は350のパワフルなキャラクターにぴったりの本革スポーツシート(色はダークローズ)をオプションで装備。程よいタイト感や低めの着座位置など、スポーツセダンらしい空間になっている。
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ガソリン車の荷室容量は先代(378リッター)より102リッター多い480リッターで、床下にテンパースペアを搭載
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先代に比べて後席フットルームは格段に広くなった。小柄な人ならGS要らず
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Fスポーツ専用の本革スポーツシートはベンチレーション機能付で、真夏でも快適
基本性能&ドライブフィール
マニュアルモードで本領発揮
試乗したのは350のFスポーツ。走りだした直後、350なのにアクセルを踏んだ時の反応が思ったより重々しいな、と思ったら、エコモードだった。ただ、シフトレバーをDにしている限り(マニュアルモードにしない限り)、ドライブモードがスポーツでも、積極的には上まで回さない感じ。普通に街中を流す限り、運転感覚はハイブリッドの300hとよく似ている。パワーウエイトレシオ5.16kg/psのマッチョなクルマという感じはほとんどしない。
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3.5リッターV6エンジンはGS350用と基本的に同じ。最高出力は318ps/6400rpm、最大トルクは38.7kgm/4800rpm
それでも、350のFスポーツとなれば、スポーティで刺激的な走りを期待してしまう。ということで、街中を抜けたところでシフトレバーを右側に倒し、マニュアルモードを選択すると、IS350は水を得た魚のように本領を発揮する。アクセル操作に応じて、エンジン回転がリニアに上昇。4000回転あたりからは、吸気系に設けられたサウンドジェネレーターで増幅されたエンジン音が「コォォォォン」と突き抜けるように高まり、レブリミット手前まで一気に吹け上がる。このあたりのエンジン音やフィーリングは、今のGS350によく似ている。マニュアルモードでも自動シフトアップするので、レブリミッターのお世話にはなることはない。
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8速ATはパドルシフトで暫定的にマニュアルシフト可能。シフトレバーを右に倒せばマニュアルモードで固定される
IS350のミッションは、GS350(今のところ6AT)を差し置いて、8ATを採用。IS Fの8-Speed SPDS(Sport Direct Shift)をベースにしたもので、最終減速比(少しローギアード)やタイヤ外径(ホイール軽で1インチ小さい)は異なるものの、1~6速のギア比はまったく同じ。1速では約60km/h、2速ではちょうど100km/hまで出る。
GS350の6ATでは、ステップ比の大きさが気になったが、おかげでIS350ではその不満がほとんどない。1速と2速の間がやや離れているせいで、2速シフトアップ時の回転ドロップが大きかったり、1速へのシフトダウンをなかなか受け付けてくれなかったりはするが、2速から上のつながりはいい。IS Fの雰囲気をV6で再現しました、みたいな、痛快な加速感とサウンドが楽しめる。サーキットでもタイトターン以外なら、けっこう楽しめそう。
ナチュラルになったハンドリング。パワフルな86風?
プラットフォームは現行GSベースのホイールベース縮小版で、フロントサスは先代ISの改良版、リアサスは現行GSベース。乗り心地がいいのは、300hのFスポーツでも書いた通りで、350は300hより若干硬めな感じだが(リア荷重が軽いせいもあるかも)、それもスポーツセダンとしては十分楽しめる範囲。トヨタ独自のレーザー溶接技術や接着工法によって高めたられたボディのがっちり感やしなやかさが気持ちいい。
また、ワインディングで飛ばした時もいい。前輪の接地感がしっかりあり、ステアリングレスポンスも鋭すぎず、ちょうどいい塩梅。Fスポーツには全て、電子制御可変ダンパー(AVS)が備わるが、この350 “Fスポーツ”にはさらに、ギア比可変ステアリングの「VGRS(バリアブル ギアレシオ ステアリング)」や後輪操舵システムの「DRS(ダイナミック リア ステアリング)」、そしてそれらを統合制御する「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)」が採用されている。
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Fスポーツのタイヤは前が225/40R18、後ろが255/35R18サイズのBS トランザ ER33。試乗車の走行距離は5000km程度で、ショルダー部分に摩擦が見られる
このLDHもGS譲りだが、去年乗った
GS350 Fスポーツの場合は、スポーツプラスを選択した時にはあまりに反応がダイレクトで緊張感があったのに対し、IS350では軽量FRスポーツ車のような、大げさに言えば現行86(ハチロク)みたいな、ナチュラルな感覚がある。ひとことで言えば怖くない。ボディ剛性などのせいかな、と思ったが、開発者インタビューなどを読んでみると、GSの時よりもLDHのセッティングを違和感の少ない方向へ変えているようだ。
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「ドライブモードセレクト」は上から押せばノーマル、左に回せばエコ、右に回せばスポーツおよびスポーツ+(プラス)。その下にTRCオフスイッチがあるが、あくまで低ミュー路用
ちなみに、350(試乗車)の車重は1640kgで、前後重量配分は車検証で54:46(880kg:760kg)。先回試乗した300hより前軸は40kg重く、後軸は70kg軽い。ただ、実際のところ、350でもフロントヘビー感は皆無で、それこそ300hと大差ないレベル。一方、後輪はパワフルなせいもあるが、旋回しながらの加速や、段差を飛び越えるような時には、割とあっけなくグリップを失ない、トラクションコントロール(TRC)のお世話になる。実際にはパワーが絞られる感覚は少なく、TRCの介入はオレンジ色の警告ランプで知るのだが。TRCはけっこう早めに介入し、さりげなくパワーを絞る。
なお、TRCオフボタンは、あくまで低ミュー路での脱出・発進用で、走行中は自動的にオンになる。その点は、割と自由度の高い86や、かなり自由度の高いBMWとは違うところ。
試乗燃費は5.8~8.5km/L。JC08モード燃費は10.0km/L
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メインディスプレイで区間燃費計を表示した状態。我々の試乗は9/26からの分
今回はトータルで約340kmを試乗。参考までに今回の試乗燃費(車載燃費計)は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)が6.9km/L。また、一般道を、燃費を特に気にせず走った区間(約30km)が5.8km/L。一般道をエコモードで大人しく走った区間(約30km)が8.5km/Lだった。
なお、JC08モード燃費は、300h(レギュラーガソリン仕様)は23.2km/Lだが、350(ハイオク仕様)は10.0km/L、250(同じくハイオク仕様)は11.6km/Lと、ハイブリッド車とガソリン車の差は2倍ほどある。また、ガソリン車にはアイドリングストップが装備されないため、信号待ちでは無為にエンジンを回してるようで、もったいないと思うこともあった。
ここがイイ
パワフルで気持ちいいエンジン。楽しくて安全なハンドリング。GS要らずの?の後席
本文でも触れたように、大排気量V6エンジンは環境対策という点では今のトレンドに合っていないが、それゆえに貴重な存在。VW・アウディ、BMW、メルセデスなどドイツ車が、ほとんどフルラインナップで過給器付のダウンサイジングエンジンに転換してしまった今、この自然吸気V6がピュアなガソリン車のまま長く生き残るとは思えない。味わっておくなら今のうちかも。ハンドリングもよく、安全にスポーツドライブを楽しむことができる。
300hでも書いたように、ホイールベースが先代から70mm伸ばされ、先代ISの弱点だった後席の足もとが格段に広くなった。「これならGSじゃなくてISで十分」とダウンサイジングする人が増えそう。それはそれでトヨタにとっては悩みどころだが。GSには近々、販売テコ入れのためハイブリッドの300hが投入される予定。
ここがダメ
アイドリングストップなど環境対策の不備。250での8ATの採用見送り。オートマチックハイビーム。やはり見にくい時計
ドライビングの楽しさを追求したというコンセプトは勇ましいが、今やドイツ車を見ても明らかなように、高級車にも最新の環境対策は必須。宿敵である3シリーズは、全車ダウンサイジングエンジン、8AT、アイドリングストップ付で、おまけにおそろしく優秀なディーゼルターボ(320d)や、ハイブリッド(アクティブハイブリッド3)まである。価格もISに比べて、そうむやみに高いわけではない。
一方、ISの場合は、ハイブリッドこそ突出して低燃費だが、逆にV6の純ガソリン車は環境性能が弱い。250は相変わらず6ATだし(8ATだったらISのベストモデルとなったかも)、アイドリングストップも未採用。トヨタとしてはハイブリッドの300hで環境性能をカバーする戦略だろうが、純ガソリン車の環境対策がドイツ勢に比べて遅れをとっているのは確か。
オプションのオートマチックハイビーム(AHB)は、真っ暗な田舎道などでハイビームになって欲しい時でもそうならない、遠くが見えないといった印象を受けた。現行LSや現行クラウンの「アダプティブハイビームシステム(AHS)」は照射範囲を遮蔽板と光軸制御によって可変するものだが、IS用のAHBは単純にハイとローを切り替えるタイプのようで、そのあたりが関係しているのかも。
また、手動でハイビームにするには、一度AHBをオフにする必要があるが、そのオフスイッチが足元にあって走行中は押しにくい。また、AHBをオフにした場合でも、ISには光軸を左右に可変するAFSがないこともあり、少なくともLEDヘッドライト(350ではオプション)では照射範囲がいまいち狭く、遠くやコーナーの先が見にくかった。最近はトヨタ車を含めてAFS付ヘッドライト搭載車が一般的になってきたので(現行クラウンにも当然採用されている)、残念なところ。ヘッドライトデザインとのトレードオフなのだろうか。
300hの時に、ダッシュのアナログ時計が見にくい、というつまらない文句をつけたが、今回もやっぱりそのことが気になってしまった。夜間は問題ないが、日中に外光が差し込むとかなり見にくくなる。アナログ時計そのものは別に悪くないのだが。また、300hの時と同様、電子制御式のウインカーレバーにはやはりまだ少し違和感があった。慣れれば問題ないのだろうか。
総合評価
小さな高級車になっている
エコモードでハア、ノーマルモードでフ~ン、スポーツでオッ、スポーツ+でオー、さらにマニュアルモードに切り替えてオオッーと、1台で5度も楽しめる?のはたしかに新しいかも。特にスポーツ+でステアリングにしっかり手応えが出ると、ボディの素晴らしい剛性感、しなやかでスポーティな足、シャープなハンドリングなど、十二分なスポーツ感で満たされる。大パワーではあるが、VSCのおかげでまったく危なくはない(ドリフトもできないのだが)。86のように振り回せる感じはなく、あくまで紳士的に速くて楽しい。オンザレールを極めた走りというべきか。それゆえ、過激なIS Fはそのまま残されたのかもしれない。
300hの試乗記で「なんだか面白みがないのだ。その点、まだ乗っていないが、ある意味全くムダな3.5リッターV6のIS350なら、印象は大きく異なるはず。たぶんこれこそが求めていた小さな高級車だ、となるような気がする。」と書いた。今回乗ってみて、IS350は走って楽しく、また小さな高級車という点では、期待通りだった。アクセルを踏めばズドーンと回るV6。やっぱりガソリンエンジンはいいなあ、これぞクルマだなあ、などと思ってしまうオジサンは多いはず。パワーは過剰とも言えるレベルだが、過剰、すなわちムダこそ高級感とすれば、このクルマはまごうことなき高級車になっている。
GSのサイズでは、日本で日常的に使うにはちょっと大きいと感じるが、さすがにこのクルマならどこでも止められるし、1810mmの車幅は、狭い入り口のコインパーキングでも入っていけるし、隣のクルマとの感覚もそこそことれるから、乗り降りもしやすい。無論タワーパーキングも楽勝だ。タワーパーキングに入らないワゴンRのようなトールタイプ軽より、都市部での実用性は高いかも。フロントスポイラーが低く、車止めに気を使うことはあるが。後席にゲストを乗せたが、高級感も広さも気に入ってもらえた。小さな高級車、いいなあと思う。
300hの方が日本には合っている
それでも思ったのは、このクルマの持て余す高性能のこと。日本の公道を走る分には、こんなに高性能でなくてもいい。例えば新東名が設計通り150km/hで走れるのなら、また日常的に軽く走りに行けるサーキットがあれば、このクルマは文句がない。アウトバーンの欧州で売るには、これでOKだろう。もしかすると欧州では、本文に書いた通り古臭いV6という批判を浴びるかもしれないが。日本のクルマもここまで来たんだなあ、とその出来には感動するものの、かつて、よく出来た欧州車に乗った時に思った「でも日本ではこの性能は生かせないな」が、この最新の日本車にも当てはまってしまうのは皮肉だ。いい商品があるのに、その商品を活かせるインフラがない悲しさ。やはりその点で、ハイブリッドの300hの方が日本には合っているし、また世界的にもそちらのほうが新しく、また社会的にも正しいのかもしれない。350の場合、燃費に関してはさすがに素晴らしいとはいえないのだから。
しかしこうなると、250の意義は大きいのかも。日本の道で「エンジンを回して」楽しめるのは、ほぼ同じシャシーで215psの250の方かも、と思えてくる。ただし、高級感=過剰感ではやはり350だろうし、経済性では300hだ。350に乗ったことで、どのグレードを選べばいいか、より悩みは深まった。いや深まったのではない。はっきりしたから悩むのだろう。日常的に乗って楽しめる(楽しめそうな)250、高級感や絶対性能を楽しめる350、経済性と日常的な楽しみが共にある300h。そして、より走りに振ったIS F。自由にお好みでお選びくださいという、まさにパーソナルチョイスを楽しめるのが今のISだ(お金を気にしないのならだが)。こうして見ていくと、逆にやはり300hこそがトヨタとしては前面に押し出したいクルマであるのだなあ、と思えてくる。でも先回書いたように今ひとつ面白みはない。となれば、官能的なハイブリッドユニットが出てきた時こそ、ISシリーズが、そしてクルマというものが次のステージに進むことになるだろう。