キャラクター&開発コンセプト
超低床プラットフォームを採用。ハイブリッド車も用意
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新型ヴォクシー/ノア。写真はいずれもハイブリッド
トヨタの5ナンバー・トール型7/8人乗りミニバン、「ヴォクシー」「ノア」が2014年1月20日、6年半ぶりにフルモデルチェンジして発売された。2001年に発売されたFFベースのヴォクシー/ノアを初代とすれば、新型は3代目。今回はモデルチェンジでは内外装デザインが一新されたほか、新型プラットフォームで超低床化を実現。また、同クラスで初の、本格的なハイブリッド車(2月24日発売)が用意された。
ハイブリッド車には、現行プリウス/プリウスα譲りの1.8リッター直4エンジン、モーター、ニッケル水素電池、リダクション機構で構成される「THS II」を採用し、JC08モード燃費23.8km/Lを達成。また、ニッケル水素電池を運転席・助手席の下に置くことで、シートアレンジや荷室スペースを損なうことなく、ハイブリッド化している。
一方、純エンジン車では、バルブマチックを改良した2リッター直4ガソリンエンジン(3ZR-FAE)や新開発のCVT(無段変速機)、アイドリングストップ機能を新採用し、同クラスのガソリン車でトップクラスのJC08モード燃費16.0km/L(FF車)を達成している。
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駆動用バッテリーは前席下に配置。センタータンクならぬ、センターバッテリーレイアウト
生産はトヨタ車体の富士松工場(愛知県刈谷市)。販売はヴォクシーがネッツ店、ノアがトヨタカローラ店で、月間販売目標はヴォクシーが4600台、ノアが3400台の計8000台。ちなみに初代はノア/ヴォクシーの順で表記されていたが、現在では販売台数の多い順にヴォクシー/ノアと表記するのが通例。
消費税増税直前となった3月の販売実績は、それぞれ1万1937台(登録車で6位)、9841台(同9位)。計2万1778台という数字は、登録車ではフィット、アクア、プリウスに次ぐ4位に相当する。
■過去のニュース
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モーターデイズ>トヨタ、新型ヴォクシーとノアを発売(2014年1月掲載)
■過去の新車試乗記【ヴォクシー関連】ニュース
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2代目トヨタ ヴォクシー ZS (2007年7月掲載)
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初代トヨタ ヴォクシー (2001年12月掲載)
価格帯&グレード展開
純エンジン車が税込224万2285円~、ハイブリッド車が293万1429円~
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左端はスポーティ仕様のヴォクシー ZS(純エンジン車)
2リッター直4(CVT)の純エンジン車には、FFと4WD、7人乗りと8人乗りがあるが、ハイブリッド車はFFの7人乗りのみ。価格(消費税8%込み)はヴォクシー/ノア共通で、ガソリン車が224万2285円~、ハイブリッド車が293万1429円~。
また、新型は、車いすなどに対応したウェルキャブ仕様も充実しているが、それらは全て純エンジン車になる。
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内装カラーはブラックが基本だが、純エンジン車のヴォクシーでは派手なオレンジ&ブラック内装(写真)、同ノアではベージュ&ブラック内装も選べる
■ヴォクシー/ノア (共通)
【純エンジン車 (FF/4WD)】
・2.0L 直4(152ps、19.7kgm)・CVT 224万2285円~
【ハイブリッド車(FFのみ)】
・1.8L 直4+モーター(システム出力136ps) 293万1429円~
パッケージング&スタイル
ヴォクシーらしくも、デザインはシンプルに
初代ヴォクシーから始まり、同じネッツ店向けのヴェルファイアでも採用されている上下2段ヘッドライトは相変わらずで、トヨタがヴォクシーらしさとして挙げる「“毒気”のあるカッコよさ」を象徴。一方で、先代(2代目)にあった複雑な曲面や抑揚は目立たなくなり、スタイリングはシンプルで、好き嫌いが分かれないものになった。ある意味では初代のテイストに戻った感じもする。
なお、先代ノアは、親しみやすい大人しめのデザインになっていたが、新型ノアには「ミニバンの王道をいく“堂々感”を表現」すべく立派なグリルが採用され、結果的にヴォクシー/ノアの差は以前より詰まった印象。このあたりの作り分けは、現行クラウンのアスリートとロイヤルよりも巧みだ。
全体的には、ベルトライン(サイドウインドウ下縁の水平ライン)が60mm下がったのが大きなポイント。これにより運転席からの死角が減り、室内の開放感も高まっている。このあたりはセレナやステップワゴンといったライバル車の影響も大きいだろう。
基本は5ナンバーサイズだが、全長は100mmアップ
先代に比べて全長は100mm、ホイールベースは25mm延長。ただ、基本的には「5ナンバーサイズのトール型ミニバン」であることが売りなので、スポーティな外観のZS(全長4710mm、横幅1730mm)以外は、全長4695mm、全幅1695mmと、きっちり5ナンバー枠いっぱいに収まっている。
インテリア&ラゲッジスペース
見晴らし良好。8インチタッチパネルを採用
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ダッシュボードの一部に触感のいいファブリックを張るなど、質感も向上
初代から継続採用されてきたセンターメーターが今回廃止されるなど、内装デザインは外観以上にガラリと変身。新型ハリアーにも採用された「おくだけ充電」や、助手席正面に設けられたオープントレイなど、ユーティリティ装備も充実している。
また、先代より細くなったAピラーと、大きくなった三角窓、同じく大きくなったサイドウインドウによって死角が減り、交差点での右左折や駐車時などに、クルマの周囲を確認しやすくなったほか、後席の開放感も高まった。
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ハイブリッド車では、プリウス等と同じように操作できる電子式シフトセレクターを採用
もう一つ、新型で印象的なのは、センターにドーンと配置されたタッチ式の高精細8インチワイドディスプレイ。ほぼiPad mini(ディスプレイサイズは7.9インチ)に相当する大きさで、当然ながらフリック、ピンチイン、ピンチアウトといったスマホ的な操作ができる。地図は従来のトヨタ車で見慣れたものなので、新鮮味はないが、操作性そのものは悪くない。
一方で、エアコン操作スイッチが流行りのタッチ式ではなく、昔ながらの?スイッチとされたことには深く安堵。やっぱり、ここはスイッチの方がいいと再認識。
超低床で「ノンステップ」化。2列目には横スライド&前後ロングスライド機能
キャビン部分のボディ骨格を一新したことで、パッケージングも抜本的に進化した。燃料タンクを超薄型にして、先台以上の低床フラットフロア化を実現。リアドア部分ではフロア地上高が先代より86mmも低い360mmになったことで、ステップを廃止。お年寄りでも、楽に乗り降りできるはず。
また、全高が先代より25mm低くなったのに、室内高は逆に60mm増えてライバル車に並ぶ1400mmに。これにより子供なら立ったまま、大人でも楽に中腰で移動することができる。
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7人乗りには前後・左右スライド付のキャプテンシートを採用。サンシェイドもエントリーグレード以外に標準装備
また、7人乗りシート車(2-2-3人。ハイブリッド車は全てこれ)のセカンドシートには、横スライド機能(スライド量65mm)および超ロングスライド機能(同810mm)を新採用。これにより、キャプテンシート状態(センターウォークスルーが可能)、ベンチシート状態、2列目を後端に寄せたリムジンモードなどなど、様々なシートアレンジが可能になった。スライド操作も簡単で、座面横のレバーを軽く上げると前後スライド、さらに引き上げると横スライドができる。なお、先代にあった回転対座は廃止された。
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ウォークスルーはこんな感じ。前席と2列目の行き来は無理ではないが、靴を履いたままではやりたくない感じ
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サードシートはの座り心地や広さは、2人までなら問題なし。フットルームは先代の100mm増し。7人乗りなら、センターの見通しが効くので閉塞感もない
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セカンドシートを一番後ろにした状態。サスペンションの張り出しを避けるため、横スライド機能で中央に寄せる
超低床を実現。2列目には横スライド&前後ロングスライド機能
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セカンドシートを前に寄せ、サードシートを跳ね上げ、フロアボードを外した状態。床下収納の右にあるのは補機用の鉛バッテリー
サードシートは従来通り、ワンタッチで左右にフワッと跳ね上がるタイプを継続。跳ね上げた時に、シートがかさばらないのが自慢だ。
ちなみにセレナのサードシートも跳ね上げ式だが、あちらは独自のリンクでクォーターウインドウの視界を確保するのが売り(ただし跳ね上げ時の張り出しは大きい)。また、ステップワゴンは、以前は跳ね上げ式だったが、現行の3代目ではオデッセイのように180度反転して床下収納するタイプ。
基本性能&ドライブフィール
プリウス風にモーターで発進。街中では不満を感じさせない
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PCU(パワーコントロールユニット)等を備えた、お馴染みのTHS II。代わりに鉛バッテリーは荷室床下に引っ越し
試乗したのはハイブリッド。パワートレインは基本的に現行プリウスと同じ「THS II (リダクション機構付)」で、制御面では車重の重いプリウスαに近く、最終減速比もαと同じローギアード。エンジンは1.8リッター直4で、駆動用バッテリーはプリウス/プリウスαなどと同じニッケル水素だ。
というわけで、発進直後はモーターだけで走り、途中からエンジンが掛かって加勢する感じはプリウスと似ている。エンジンはプリウスより早めに掛かるものの、アクセルを全開にしない限りは、モーターのトルクを活かしたスムーズで静かな発進・加速が可能。ハイブリッド車では各種ノイズが気になりやすいので、新型ではガソリン車も含めて、遮音/吸音材を入念に追加しているようだ。
ただ、車重は試乗車で1630kgもあり、プリウス(販売主力は1350~1400kg)より250kgほど、α(1450~1480kg)より150kgほど重い。このウエイトハンディは、ヴォクシーに乗った後、プリウスに乗るとはっきり実感できる。プリウスの走りはやはり格段に軽快で、「モーターで走る」感が強い。
それでもヴォクシーだけ乗る分には、少なくとも街中では車重の重さは気にならない。むしろ、純エンジン車のヴォクシーより穏やかで落ち着きのある走りに好感が持てる。このあたりの「日常域で何も不満を感じさせない」走りは、いかにもトヨタ車。さすがノアと合わせて年間約10万台を目標とするモデルだなと思わせる。
ちなみに、ハイブリッド車のシステム出力は136psで、パワーウエイトレシオ(PWR)は約12kg/ps。これは軽のターボ車とだいたい同程度で、実感もそんなところ。一方、2リッターの純エンジン車は152psあり、車重も若干(40~50kgくらい)軽いから、PWRは10.3~10.5kg/psに向上する。エンジンを回した時の絶対的なパワーでは、ガソリン車の方が上だ。
山道はそつなく。高速道路はやや苦手
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ハイブリッド車のアルミホイールは専用の軽量タイプ。タイヤサイズは195/65R15で、試乗車はグッドイヤ-のデュラグリップ(DuraGrip)、他にヨコハマのブルーアース(BluEarth)もある
いちおうワインディングも少し走ってみた。結論から言うと、特に運転して面白いわけではないが、そつなく穏やかに走ってしまう感じ。さすがに山道では動きが重く、アンダーステアも強くて、ペースが上がらないが、それがかえって奏功し、割と平穏に走ってしまう。ボディの剛性感や足回りの動きも、常識的なペースなら特に不満はない。モーターによるトルクがあるので、コーナーからの立ち上がりはやはりスムーズで静かだ。先代みたいな「ミニバンなのにこんなに軽快に走る!」的な驚きはないが、ファミリー向けミニバンとしては納得できる落とし所にあると思う。
一方、高速道路では、車重の重さと空気抵抗が実感される。空気抵抗は速度の2乗に比例するが、ヴォクシーの場合は特に70~80km/hくらいから「抵抗感」が増してくる感じ。瞬間燃費計を見ていると、速度が上がるに従って、数値が落ちてゆくのがよく分かる。また、追い越し加速も得意ではない。ただ、乗り心地や静粛性は十分なレベル。後席の家族からも不満は出ないだろう。
試乗燃費は13.3~18.2km/L。JC08モード燃費は23.8km/L
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指定燃料はもちろんレギュラー。タンク容量は55リッターと大きめ
今回はトータルで約200kmを試乗。試乗燃費(車載燃費計)は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)で13.3km/L、一般道を大人しく走った区間(約30km)が18.2km/Lだった。JC08モード燃費は23.8km/Lで、これは純エンジン車(同16.0km/L)のおおよそ5割増になる。
総じて、渋滞では燃費が良くなり、高速道路だと燃費が伸びない傾向は、同じハイブリッド車のプリウス以上に顕著。高速走行時の燃費は、走り方によっては純エンジン車と大差ないかもしれない。
ここがイイ
とにかく街中で乗りやすく、燃費もいい。シートアレンジ
視界がよく、小回りもまずまず効くし、ボディサイズは5ナンバー枠でどこに行っても困らず、おまけにガソリンもなかなか減らない、という具合に、とにかく街中では乗りやすい。まるでコンパクトカーみたいに、気楽に乗れる。セレナやステップワゴンのいいところをしっかり取り入れ、マーケットリサーチも地道かつ計画的に行い、より良いものにするというトヨタの強みから生まれた好商品の典型。その完成度の高さは、ある意味ハイエースの境地に迫りつつあるかも。
ハイブリッド車に関しては、街中での静かでスムーズな走りと、やはり燃費の良さが、最大の長所。ライバル車にない最大の武器が、このハイブリッドだ。車両価格は純エンジン車に比べて若干高く、燃料費で元を取るのは難しいだろうし、後述する弱点もあるが、それでも選びたくなる魅力がある。また、駆動用バッテリーを前席下に配置したことで、ガソリン車に何ら遜色ないパッケージングを実現しているのも見事な部分。
運転席のヘッドレストが柔らか。これは他の日本車では感じたことのないもので、気持ちがいい。回転体座もなくなり、シートアレンジはほぼ完成の域に達した。また、7人乗りセカンドシートのスライド機構により、室内のアレンジはさらに自在になった。車中泊を想定したフルフラットができるのもいいところ。またこのスライド機構の操作性も秀逸。一つのレバーをいっぱいに引くだけで、シートが前後にも左右にも動くので、一瞬「斜めにも動くのか!」と勘違いしたほどw
ここがダメ
走行モード切替スイッチの位置。高速域が苦手
走行モードの切り替えスイッチ(EVモード、エコモード、パワーモード)が、ステアリングの裏側にあり、運転中はまったく見えないこと。開発途中まで装備するのを忘れていたのかと思えるほど、取ってつけたような場所にあり、試乗当初はスイッチの存在にすら気付かなかった。まあ、エコモードやノーマルモードに入れっぱなしでも問題はないのだが、深夜の帰宅時などに自宅近くでEVモードボタンを押したり、山道などでパワーモードを押したりする時に手探りになってしまうのは、やっぱり不便。
あと、8インチタッチパネルは、スマホ風に操作できるのが売りだが、走行中はピンチインやピンチアウトができない(従来通り「広域」「詳細」ボタンは機能する)。これは最近の他社モデルに採用されているタッチパネル式ナビも同じだが、これくらいのことは走行中でも出来るようにして欲しい。
本文でも触れたように、ハイブリッドの場合は、街中での走りと燃費は高評価できる反面、高速道路など速度域の高いところでは燃費が伸びず、絶対的なパワーも不足気味。何よりトヨタのハイブリッド車そのものという乗り味は、トヨタのどのクルマも同様で、面白みがない。
秀逸な7人乗りのセカンドシートだが、さらにもう一つ、座面のチップアップ機能があれば完璧だった(8人乗りのベンチシートにはある)。座面を跳ね上げてセカンドシートを前に寄せて、荷室をあと20センチ伸ばせたら、フラットなフロアは身長170センチの人が寝られる長さになる。
総合評価
ミニバン第2世代のためのミニバン
世の中はこのところ「走らないクルマ」の方向へ向かっているように思える。無論、必要にして十分な走りは確保されているが、昔のようには「走り」の性能が重視されなくなっているようだ。例えば、高速道路の流れる速度も、最近は制限速度程度に下がっているように見える。ごくわずかの、目を三角にして飛ばしているクルマを除けば、みなゆっくりと走るようになった。日本のクルマはかつて、150km/hでもラクラク巡航できる、そんな性能を目指していたものが、いまやもうそんな性能は必要なくなっているのかもしれない。また、自動車メーカーもそんな感覚を持っているようだ。ミニバンにも走りを、と初代や2代目ヴォクシーでは走りの性能をウリの一つとしていたものだが、今回の3代目ヴォクシー、特にハイブリッドでは、もうそういう流れにはない。ミニバンらしく大人しく走り、その代わりに静粛性や快適性、燃費性能をより高める方向の仕立てだ。
新しいヴォクシーは基本、そんなクルマになった。ヴォクシーの主な顧客である子育てファミリー層は、ミニバン第2世代。ミニバンで育った子どもたちが大人になり、ミニバンで子育てする時代に入っている。彼らはクルマ好きな、あるいは走り好きな第1世代のミニバン乗りとは異なり、クルマ嫌いではないものの、クルマを道具としてしか見ていない。今回のヴォクシーはそういう人達に向けて作られている。かつての走り好きなお父さん(第1世代)にスポーツカーの代わりに乗ってもらうための作りではなく、道具としてどこまで使いやすいか、快適かという点に主眼が置かれている。ミニバンに走りを求めることなど、いよいよ過去の寓話になったと言ってもいいだろう。
絶対的にハイブリッド有利
2007年に先代のヴォクシーが登場した時には、3年も経ったらハイブリッドが投入されて、最強のミニバンになるだろうと予測したが、現実には6年半もの時がかかった。次世代になって、やっとハイブリッドが投入されたわけだが、なんでこんなに時間がかかったのか。それはガソリン車しかない先代でも十分に売れていたからだろう。特にワルなムードのあるヴォクシーは、ファミリーイメージのセレナやステップワゴンが嫌なお父さんにはマストなアイテムだった。マイルドヤンキーが日本を支配しているというマーケティング論が最近ウケているようだが、ベストセラーカーのヴォクシーはワルなムードを好むマイルドヤンキーなお父さんに支持された。そのためミニバンにはワルっぽい雰囲気が大事だなあと、真面目なトヨタの開発陣は学んだようで、今回はノアまで悪っぽくしてしまった。ただ、こうなるとマイルドヤンキーではないお父さんには買いづらいクルマになってしまったように思える。ヴォクシーは仕方ないが、せめてノアを大人しいデザインにして欲しかった。そうすればマイルドヤンキーではない感性を持つ層にも売れるクルマになったと思うのだが。そこはちょっと残念に思える。
そんな先代がハイブリッドなしでも売れていたとはいえ、さすがにもうフルモデルチェンジの時期となり、優秀なハイブリッドシステムがある以上、ハイブリッド化せねばならないのがトヨタの宿命だろう。そこで出来上がったのが、悪顔をしたエコな優等生という今回のヴォクシーだ。ハイブリッドは実質30万円ほど高いので、それを燃費の良さで取り戻せるのかという論議はこれまでもあったが、今やその論議は不毛だと思う。数年後に売るとなればハイブリッドの方がいい値がつくし、長く乗れば乗ったで、いずれガソリン代で元を引く。絶対的にハイブリッド有利。それゆえ今後トヨタ車は、ますますハイブリッド比率が高まっていくことになるはず。それはトヨタ(と日本人)にとって果たして幸福な状態なのだろうかという危惧はちょっとあるのだが。
高齢者受けする大人しい顔が欲しい
さて、ヴォクシーの場合は、これまでも後出しじゃんけんのタイミングでフルチェンジしてきた。今回もステップワゴンやセレナのいいとこ取りとなっている。超低床フロアはステップワゴンだし、視界の広さはセレナだ。全長も両ライバル車を追って5ナンバー枠いっぱいに伸ばしてきた。これに、両車にはないフルハイブリッドシステムを載せたのだから、商品性は一番高くなる。キャプテンシートのシートアレンジも、他を寄せ付けない完成度で、ついに回転対座を廃止したこともポジティブに評価できる。また、跳ね上げた時にかさばらないサードシートは、セレナや床下格納式のステップワゴンを研究した結果だろう。さらにセンターメーターといった「過去の先進性」の呪縛もすっぱり切り捨て、ただただスタンダードな使いやすさを追求している。ミニバンとしては、本当にいいところだけでできたクルマだ。最新最良のミニバンと断言できる。
ところで、ミニバンといえばファミリーのクルマということになっているが、今どき貴重な5ナンバーサイズでもあり、今後は高齢者ドライバー向けのクルマとしてもいいのではないか。これ一台あれば老後生活はなんでもできる。キャンパー的にも使えるし、ハイエースみたいに何でも積めて、郊外ライフのツールとしても使い勝手バツグンだ。一般的には、ミニバンをやめてセダンやスポーツカーに乗るというのが高齢者とされているが、実際には老後の生活に最も便利なのはこうしたミニバン。そのまま乗り込める車椅子仕様もあるし。
今後高齢者になる世代は、過去にミニバンに乗り慣れたミニバン第1世代であり、ミニバンの便利さをよく知っている。昔はジジババと子供を一緒に乗せるためにミニバンを買ったものだが、今は経済的余裕のあるジジババが、子供夫婦や孫を乗せるためにミニバンを買うというのもありだろう。そうであれば経済的余裕のない若い世代は、安いトールタイプ軽自動車を買えばいいのだから。
先代ヴォクシーが発売された当時は、曲線を多用したボディラインに少し違和感を覚えたが、新しいヴォクシーは素直なラインで面が構成されており、スタイリング的には誰も不満ないはず。となると、なおさら新型ヴォクシー/ノアの派手なグリルまわりが気になる。落ち着いたルックスがほしい。高齢者受けする大人しい顔があるといいのに。マイルドヤンキーに寄りすぎているのが、重ね重ね残念なところだ。
ヴォクシーは、日本専用車ながら台数が売れるために存在が許され、世界では売れるはずがないとされているクルマだ。しかし同様の成り立ちの軽自動車と同じで、日本では最も使いやすい類のクルマである。日本という特殊な市場で育まれたこのクルマではあるが、今後、世界に打って出ることは無理なのだろうか。こんないい製品でありながら、世界に通用しないということが、今の日本の不幸だと思う。