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フォルクスワーゲン ゴルフ TSI ハイライン:新車試乗記

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キャラクター&開発コンセプト

モジュール戦略「MQB」に則ってゼロから開発

新型ゴルフ TSI ハイライン (photo:VGJ)
欧州では2012年秋に、日本では2013年6月25日に発売された新型ゴルフは、1974年に登場した初代から数えて7代目のモデル(通称ゴルフ7)。 新型ゴルフは、クルマの各構成要素をVWグループ全体で共有するという新しいモジュール戦略「MQB」のもとで開発されており、エンジン、プラットフォーム、サスペンション、各種装備などをゼロから開発。MQBの恩恵を受ける形で、一つ上のDセグメント車に匹敵する品質感、快適性、装備を備えるなど、歴代ゴルフの中でも最大級の進化を遂げている。

新開発エンジンやミリ波レーダーを全車に採用

定評あるTSIエンジンは、今回から完全に新設計となったほか、ミリ波レーダーを使った自動ブレーキ(プリクラッシュブレーキシステム)を全車標準化するなど、先進安全装備も積極的に採用。また、燃費性能も先代ゴルフを上回り、ゴルフ史上最高のJC08モード燃費19.9~21.0km/Lを達成。全車エコカー減税100%対象車(免税)になっている。
エアバッグは運転席ニーエアバッグなど計9個を装備 (photo:VGJ)
■過去の新車試乗記【VW ゴルフ】6代目VW ゴルフ TSI コンフォートライン (2009年5月更新)5代目VW ゴルフ TSI トレンドライン (2008年8月更新)5代目VW ゴルフ GT TSI (2007年2月更新)5代目VW ゴルフ GTI (2005年10月更新)5代目VW ゴルフ GT (2004年7月更新)4代目VW ゴルフ GLi (1998年8月更新)

価格帯&グレード展開

エンジン2種類で、249万円からスタート

エントリーグレードのTSI トレンドライン。フォグランプがなく、タイヤは15インチ (photo:VGJ)
今回導入されたのは3グレードで、エンジンは新開発の1.2リッターと1.4リッターの2種類。全車5ドアの右ハンドルで、ミッションは「DSG」こと7速DCTになる。ボディカラーは全8色。ラインナップは以下の通り。 ■Golf TSI Trendline     249万円  1.2リッターDOHCターボ(105ps、17.8kgm) JC08 モード燃費 21.0km/L ■Golf TSI Comfortline   269万円  1.2リッターDOHCターボ(105ps、17.8kgm) JC08 モード燃費 21.0km/L ■Golf TSI Highline    299万円 ※今回の試乗車  1.4リッターDOHCターボ(140ps、25.5kgm) JC08 モード燃費 19.9km/L
 
中間グレードのTSI コンフォートライン。エンジンはトレンドラインと同じ1.2ターボだが、ACCを標準装備する。最も売れ筋のモデル (photo:VGJ)
アルミホイールは全車標準だが、タイヤサイズは各グレードごとに15、16、17インチと異なる。また、上位2グレードはオートエアコン、リアビューカメラ、パドルシフトを標準装備し、バイキセノンヘッドライトパッケージ(7万3500円、ハイラインはLEDポジション付きで10万5000円)も用意される。さらにハイラインではレザーシートや電動サンルーフ(12万6000円)も選べる。

プリクラッシュブレーキシステムは全車標準

唯一、140psの1.4ターボエンジンを積む最上級グレードのTSI ハイライン (photo:VGJ)
ゴルフ7ですごいのは、(安価なレーザーレーダーではなく)高性能なミリ波レーダーによるプリクラッシュブレーキシステム(自動ブレーキ)を全車標準化したこと。エントリーグレードのトレンドラインの場合、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)はセーフティパッケージ(15万7500円)に含まれるが、コンフォートラインなら標準装備で、コストパフォーマンスは極めて高い。さらに最上級のハイラインには、車線を読み取ってステアリング制御を行う「レーンキープアシスト」も標準装備される。 ハイラインと下位グレードで、エンジン以外にもう一つ大きく違うのが、リアサスペンションの形式。下位グレードはゴルフ4以来のトーションビームだが、ハイラインの方はエンジンパワーに対応するため、ゴルフ5/6と同じ完全独立の4リンク式(マルチリンク)になる。さらにハイラインでは、電子制御ダンパーの「DCC」もオプションで選択できる。 なお、秋には220ps、35.7kgmの2リッターターボエンジンを積んだGTIが、その後にはワゴンのヴァリアント(フルモデルチェンジ)が上陸する予定。
 

パッケージング&スタイル

ロー&ワイドに変身

ひと目で分かるのは、全体に低く、ワイドに「見える」ようになったこと。実際のところ、全幅は10mmしか大きくなっていないが、1800mmの大台に乗り、全高は一気に60mmもダウン。特にフロントから見ると、水平基調のグリルやバンパー開口部、そして横長のヘッドライトがあいまって、ロー&ワイドが強調されている。リアビューもリアコンビランプが薄型になり、精悍さがぐっと増した。

質感も一気に向上

ハイラインは17インチタイヤが標準で、マフラーは片側デュアルタイプになる
サイドビューは遠目だと先代と大差なく見えるが、全長は55mm、ホイールベースは60mmも伸びている。ゴルフは伝統的にホイールベースが短めだが、これでライバル車に並んだ感じ。延長分は主に、エンジンの後方排気化による前軸の前出しに使われている。 また、よく見ると、サイドウインドウはゴルフにあるまじき角度で内側に寝ているし、ゴルフ伝統の幅広Cピラーも後方上部でかなり絞りこまれていて、スポーティな印象が強まった。加えて、シンプルでシャープなキャラクターラインが通ったボディパネルの質感も異様に高く、ボディパネルに直接触れると、高級車のそれに似た感覚が指の先から伝わってくる。
 
試乗車はハイラインのバイキセノンパッケージ付で、四角形のLEDチューブランプ(ポジション)が備わる
Cd値は先代の0.30から0.27へ大幅に向上した
リアビューカメラは先代ゴルフ6と同じようにエンブレム兼バックドアオープナーの裏側に仕込まれている。つまり1個3役
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転半径(m)
VW ゴルフ 6 (2009-2013) 4210 1790 1520 2575 5.0
VW ゴルフ 7 (2013-) 4265 1800 1460 2635 5.2
メルセデス・ベンツ Aクラス (2013-) 4290-4355 1780 1420-1435 2700 5.1
BMW 1シリーズ (2011-) 4335 1765 1440 2690 5.1
ボルボ V40(2013-) 4370 1785(1800) 1440 2645 5.2-5.7
フォード フォーカス(2013-) 4370 1810 1480 2650 6.0
トヨタ プリウス(2009-) 4460 1745 1490 2700 5.3
 

インテリア&ラゲッジスペース

内装もプレミアム一直線

ハイラインの加飾パネルはブラックで、パドルシフトが標準装備になる
インテリアの質感も、ある意味ゴルフとは思えないハイレベル。基本的には質実剛健なのが持ち味……なんてことはもう一切なく、プレミアム一直線。というか、乗ってるとゴルフであることを忘れそう。別の機会にハイラインのレザーパッケージ仕様(26万2500円高)にも乗ったが、そうなると完全に高級車で、パサートの立場が心配になるほど。このあたりは、メルセデスの現行Aクラスやボルボ V40あたりを意識したものか。全高は低くなったが、室内が狭くなったという印象はなく、高級セダン的に横方向に広々している。

メインディスプレイはオーディオや車両設定用

走行モードはノーマル、エコ、スポーツ、個別(各項目を好みに応じて個別に設定できる)のほか、DCC付ではダンパー減衰力と連動するコンフォートも選べる
もう一つ、従来のゴルフと違うのは、センターコンソールが運転席側に傾いていること(ちょっとBMW風)。これは新世代ラジオオーディオシステム「コンポジション メディア」の5.8インチのタッチパネルを操作しやすくするため。同システムは、オーディオや車両設定、情報表示などに特化したもので、リアビューカメラ装着車であれば、その映像も表示される。一方、ナビやテレビに関しては、現時点ではオンダッシュタイプのモニターを販売店オプションで装着することになる。遅れてインパネ内蔵タイプも出るようだ。 その他の操作系も完全に一新され、スイッチの位置が従来と異なるほか、ステアリングスイッチの数も大幅に増えた。従来のゴルフやVW車に乗ってきた人でも一から学習が必要かも。
 
後席は心なしか従来モデルよりゆったり感とホールド性が高まった印象。エアバッグは計9個で、後席にもサイドエアバッグが備わる
ハイラインにはアルカンターラ&ファブリックのスポーツシートが標準。背もたれ調整は相変わらずダイアル式(オプションのレザー仕様は電動)。ステアリングのテレスコ調整幅は余裕たっぷり
メーターは先代同様にシンプルだが、ACCの動作状況を表示するなど多機能化した
 
トランク容量は先代比30リッター増で、クラストップの380リッター。床の高さは可変式カーゴフロアで2段階で選べる(写真は下段)
パンク修理キットではなくテンパースペアタイヤを搭載。上げ底時でも床下収納スペースは特にない
シフトレバーはSモードからでも左に倒すだけでマニュアルモードに移行できる新世代タイプ。走行モード選択画面を呼び出すスイッチが左上にある
 

基本性能&ドライブフィール

ゴルフというより、Dセグメント車みたい

試乗したのは最上級グレード、TSI ハイラインのDCC付。今どきのボタン式ではなく、オーソドクスな(と言っても新デザインの)金属キーを回してエンジンを始動すると、アイドリング音は相変わらず静か。パーキングブレーキはゴルフでもついに電動になっている。 走り始めて100メートルもいかないうちに、なんとも言えない滑らかさに驚く。先代ゴルフの乗り味もそうとう上質だったが、新型はそれを突き抜けて、何なんだこれは、というレベル。スピードが乗ってくると、その思いはさらに強くなる。乗り心地といい、静粛性といい、ステアリングから感じられるタッチといい、ゴルフというより、一クラス上のDセグメント車に乗っているみたい。これがMQB戦略の恩恵というやつか。

ハイラインの1.4ターボは140psと24.5kgmを発揮

ハイラインの1.4ターボの性能曲線 (photo:VGJ)
ハイラインの1.4リッター直4ターボエンジンは、従来ユニットとは異なる完全新開発で、先代ハイラインのようなツインチャージャー(ターボ+スーパーチャージャー)ではなく、シングルターボになった。最高出力は、先代ハイライン(160ps)とコンフォートライン(1.4 ターボで122ps)の中間になる140ps、最大トルクは先代ハイライン(24.5kgm)を上回る25.5kgmを発揮する。実際の印象も、飛び抜けて速くはないが、トルクは確かにあるという感じ。車重は1320kgで、パワーウエイトレシオは9.4kg/ps。最高速(メーカー発表値)は212km/hをうたう。 ただ、中回転域ではちょっとターボラグ的なものがあり、全体的に見ても、同じハイライン同士なら先代ツインチャージャーの方がパワフルだったな、という感じ。
 
こちらはトレンドライン/コンフォートラインの1.2ターボの性能曲線 (photo:VGJ)
一方、トレンドライン/コンフォートラインの新開発1.2ターボ(今回からDOHC・後方排気化された)は、先代ゴルフ6や現行ポロの1.2リッターSOHCターボと同じ105psと17.8kgmを発揮するに過ぎないが、実際には吹け上がり方が従来ユニットとは明らかに違い、こちらも動力性能は十分。車重は1240kgとハイラインより60kgも軽く、PWRは11.8kg/psになる。最高速(メーカー発表値)は192km/h。決してエコのために走りを犠牲にした感じはなく、メーカーがいう「新時代のエコパフォーマンスカー」という言葉は、1.2リッターモデルにも当てはまる。 ミッションは全車、定評ある7速DCT(VWいうところのDSG)。ハイラインの場合、7速トップには80km/hくらい出さないと入らず、100km/h巡航は1850回転くらいでこなす。

2気筒モードでも振動はない。新たに惰性モードも採用

1.4 リッターTSI エンジンは、従来1.4の鋳鉄ブロックではなく、オールアルミ・後方排気の完全新設計。また、ツインチャージャー(ターボ+スーパーチャージャー)ではなくシングルターボとなり、気筒休止システムも搭載する
新型ゴルフには燃費を稼ぐべく、新しいエンジン制御が採用されている。その一つが1.4ターボに採用された気筒休止システムの「アクティブシリンダーマネジメントシステム(ACT)」。 これはエンジンへの負荷が小さい時に、2番および3番(真ん中2つの)のバルブ駆動を止めるもので、いわゆる気筒休止システムとも呼ばれるもの。V8やV6などには昔からある技術だが、4気筒エンジンでは珍しい。心配になるのは作動時の振動で、フィアットのツインエアみたいにブルブルくるかと思いきや、振動もノイズもまったくない。作動時にメーターに表示される「2シリンダーモード」の表示を見ない限り、休止しているかどうかはまったく分からない。 もう一つのエコ技術は、「フリーホイール」モード。これは従来VWグループのハイブリッド車や一部のガソリン車ではコースティングモードと呼ばれているもので、エコモードで巡航する時など、やはりエンジンへの負荷が小さい時に、クラッチを自動的に切って惰性で走ってくれる。これが作動しているのはタコメーターを見れば一目瞭然で、エンジン回転がアイドリングより少し高めの1200回転くらいまで、スッとドロップする。そしてアクセルを踏めば、再び回転を押し上げてスムーズに駆動力を伝え始める。 もちろんアイドリングストップも標準装備。トルコンのないDCTであるため、エンジン始動からクルマが動き出すまでに一瞬のタイムラグはあるが、その点を除けば再始動はとてもスムーズ。また、停車中に電動パーキングブレーキを掛けて停止状態を保つ「オートホールド」をオンにしておけば、ブレーキペダルを離しても、アクセルを踏むまでエンジンは掛からない。

しっとり走り、ワインディングも限界知らず

ハイラインのタイヤは17インチで、試乗車は「グリーンパフォーマンス」を謳うピレリのチントゥラート P7。写真のアルミはDCC装着車専用デザイン
パワートレインの話が先行したが、新型ゴルフで心の底から感心するのは、シャシー性能。全体のシットリ感、滑らかさ、乗り心地の良さについてはすでに触れたが、ワインディングでの走りもケチのつけようがない。足回りはしなやかで、アンダーステアは見事になく、ステアリングを切れば切っただけ、素直に曲がってゆく。また、これだけ舵が効くのに、リアタイヤの安定感も損なわれない。特にスポーティとかシャープとかではないが、すごくレベルが高い。
 
DCCの個別モード。ダンパーとパワステはスポーツで、エンジンはエコ、といった設定が選べる、
なお、試乗車は電子制御ダンパー付のDCCをオプション装着した仕様で、スポーツモードを選ぶと足が若干引き締まった感じになり、飛ばす時には頼りになる。ただ、サスペンションの基本的なタッチは、標準ダンパーも同じで、しなやかさが基本。リアサスがトーションビームになるコンフォートライン(別の機会に試乗)でも、ワインディング等で大きな負荷をかけない限り、ほとんど差は出ない気がした。

全車速対応ACCにはアイドリングストップも連動

ACCはステアリングスイッチで行う。ブラインド操作にはやや慣れが必要
もう一つ、新型ゴルフを語る上で外せないのが、数々の先進安全装備。新型ゴルフにはミリ波レーダーが全車に搭載されていて、前走車と衝突する可能性が生じた時に自動ブレーキを踏み、衝突被害を軽減するプリクラッシュブレーキシステム「フロント アシスト プラス」は全車標準になっている。 また、上位2グレードには、全車速対応型のACCも標準装備される。面白いのはACC作動時に、前走車が止まって停車した時には、アイドリングストップもすること。そして前走車が発進すると、それを警告音で知らせる代わりに、エンジンが始動する。アクセルをチョンと踏めば発進し、再び設定速度の範囲内で追従走行を行う。ちなみにACCの設定上限速度は160km/hで、おおむね110km/h台までしか設定できない日本車より実用的だ。
 
フロントガラス上部に車線を読み取るカメラを備える。ミリ波レーダーはフロントバンパー中央に設置
また、ハイラインに標準装備(コンフォートラインはオプション)のレーンキープアシストは、フロントガラス上部のカメラで車線を読み取り、クルマが電動パワーステアリングの操舵アシストを行うことで車線逸脱を防ぐシステム。 これは日本車にも10年くらい前からあったものだが(ホンダのLKASなど)、なかなか普及せずにいたもので、ここに来てゴルフに搭載されたのが感慨深い。アシストはけっこう強めで、予備知識なしで乗っても、高速道路なら「あれ、なんかステアリングが動くぞ」と気付くレベル。緩やかなコーナーでは道路に沿って曲がってくれるが、クルマ任せにすると車両側がドライバーによる入力がないことを感知して警告を行ない、アシストを停止する。一種の居眠り運転や漫然運転防止デバイスにもなるわけだ。なお、ステアリング操作を監視することで作動する、ドライバー疲労検知システムは全車に装備されている。

試乗燃費は10.9~15.1km/L

指定燃料はもちろんハイオクで、燃料タンク容量は50リッター
今回は約250kmを試乗。ハイラインのJC08モード燃費は19.9km/Lだが、参考までに試乗燃費は、一般道から高速道路、ワインディングまで、いつものパターンで走った区間(約90km)が10.9km/L。また、一般道と高速道路を半々で、普通に走った区間(30km×2回)が13.0km/Lと13.5km/L、郊外の一般道を努めて大人しく走った区間(約30km×2回)が14.9km/Lと15.1km/Lだった。おおむね、13km/L台は普通に出そうな感じ。 なお、ハイラインは、下位グレード(JC08モード燃費は21.0km/L)に比べて最高出力が約3割増、最大トルクが約4割増とハイスペックなので、パワーを引き出した時の落ち込みは大きくなる。逆に、トレンドラインやコンフォートラインだったら、もう少しモード燃費との乖離は少なかったかも。
 

ここがイイ

カッコよくなった不変のデザイン、クラスレス感とオールマイティ性、先進安全装備、価格

クルマはまず見てくれだ。今回のゴルフはワイド&ローな印象となり、先代とは比較にならないほどカッコよくなった。それでいて全体としてはサイズが大きく変わったのではなく、カタチもゴルフそのもの。現行のThe Beetleも同様な作り方で、いいものは変えないということだが、それができるメーカーは少ない。 全体に漂うクラスレス感。もうクラス分けなど意味がないと思わせるほど、静粛性が高くて快適かつ高級感がある。そして、もうスポーツカーなど不要と思わせるほど走りが良い。さらに燃費性能に特化したモデルが馬鹿らしくなるほど、よく走って十分に燃費がいい。5ドアハッチというオールマイティなボディ形状でもあり、走って、曲がって、止まって、快適で、物も運べて、先進安全装備もフルに載って安心感高しと、まあクルマというものに必要な要素が全て揃っている。普通に乗るクルマとしては、もはやこれ1台あれば済むと思わせるほどの出来だ。 加えて、エコのために、動力性能も、操縦性も、快適性も、安全性もまったく犠牲にしていないどころか、クラスをリードするレベルになっていること。となれば値段はそれなりにする、というのがこれまでの常識だが、ミリ波レーダー式のプリクラッシュブレーキシステムを全車標準としながらスタート価格は249万円。先代とあまり変わらない価格で内容はアップしているから、大安売りであることは間違いない。全車速対応型のACCまで、本来は「大衆車」であるゴルフに標準装備(トレンドラインだけはオプション)されている。 このようにいいクルマを作って、それでも価格を下げるために採られたモジュール戦略「MQB」。共通化することでムダをなくし、優れた工業製品を効率的に大量生産するという作業を論理的、戦略的に進められるのが、やはりドイツ魂というものなのだろう。 細かいところでは内張りが張られたドアポケット。物を入れてもガタガタしたり、ザーと音を立てて滑ったりしなくていい。また、新型エンジンには従来のチェーンに代えて、タイミングベルトが復活しているが、素材が改善されて交換不要となっている。このあたりも実は画期的なことだと思う。

ここがダメ

ドライビングポジション、スイッチ類の操作性、IT系装備の弱さ

まず一番気になったのは、シートとドライビングポジション。試乗したハイラインのシートはかなり大柄で、小柄な人の場合は、今ひとつしっくりこない。また、低めのヒップポイントに対して、膝裏はやや高い位置になり、シートリフターを使っても座面の角度自体はあまり変わらない。従来のゴルフのようなアップライトな着座感とは少なからず異なる。 ACCやオーディオ操作用など、ステアリングスイッチ類の数が多くて、直感的に使いにくい。また、走行モード切り替えスイッチ位置も、シフトレバーの左にあって押しづらい。パーキングブレーキスイッチもカップホルダーの左側。これらは左ハンドルならいい位置だが、右ハンドルの場合は逆位置となって使いやすいとはいえない。 今後、センターコンソール内蔵タイプのナビがメーカーオプションで用意されるようだが、出来れば現状のディスプレイに様々な情報を表示できるような仕掛けが欲しかった。理想的にはスマートフォン連動のディスプレイだが、そういったナビ・IT系の新提案は残念ながらない。

総合評価

ゴルフと西海岸文化はセットだった

1974年、一台のクルマが登場して自動車業界に激震が走った。ハッチバックの時代を予感させ、それらのベンチマークになり得るクルマ、ゴルフだ。すべての自動車メーカーにとって、また特に当時、欧州車コンプレックスのあった日本のメーカーや自動車ファンにとって、ゴルフの出現は衝撃的で、その存在感は圧倒的だった。その数年後に、人々は皆ハッチバック車に乗るようになったのである。 当時、ゴルフはドイツ製にもかかわらず、カリフォルニアの臭いを乗せてやってきた。北米でよく売れたため、1978年頃の日本では、ゴルフとウエスト・コースト文化はセットで捉えられた。サーファーはゴルフにサーフボードを載せて海へ出かけたかった(実際にはゴルフはあまりに高価であり、改造ライトエースが精一杯だったが)。今思えば奇妙な話だ。欧州できっちり作られたハッチバックのベンチマーク車と、ゆるいアメリカ西海岸文化がごっちゃになっていたのだから。しかしそれが78年頃の日本だった。 そんな頃に登場してきたのが、サザンオールスターズだ。彼らはカリフォルニアの、またサザンロックの臭いがする、ゆるいアメリカンロックの権化だったが、そこに茅ヶ崎という日本固有のサーファー文化が加わることで、当時の日本のメインストリームに乗った。さらに、コミカルさやバラードヒットのセンチメンタリズムゆえ大衆にも受け入れられることになり、歌謡界をも席巻した。その後、ゴルフは輸入車の、サザンは大衆音楽のメインストリームとして40年近く脈々と活躍が続いてきた。その意味で今回、サザンがゴルフのCMに登場するのはとても象徴的だ。日本において両者は、まさに同じところにいる。 ただ、大きく違うのは、ゴルフが今も世界をリードしていることだろう。特に今回の新型ゴルフはリードしまくっている。それに対してサザンは、日本という市場でしか成り立たない音楽だ。そこそこ大きな日本市場ではまさにメインストリームだが、世界に対する影響力は大きくない。そんなサザンにやはり40年作り続けられてきた日本車の姿を重ねてしまうのはいけないことだろうか。

敗北感が胸に迫る

 
(photo:VGJ)
これから新型ゴルフに試乗するクルマ好きの誰もが、そのあまりの出来の良さに言葉を失うだろう。「これは敵わない」と言えば、誰もが同意するはずだ。日本のクルマは1974年から40年も経つのに、結局ゴルフを追うばかりなのか。日本車が一時は優位だったはずの、環境性能、製品の質感、ハイテク、これらもすべて、今回は越えられてしまった感がある。しかも価格までが優位性を持っている。この事実を、日本のメーカーはどう考えているのだろうか。今更サザンが世界に打って出るとは思えない。一方で、日本車はこれからも世界で売らないといけないが、工業製品でもやはり世界をリードすることは出来ないのか。そんな敗北感が、このあまりに素晴らしいゴルフに乗っていると、ひしひしと胸に迫ってきた。 ただ、唯一、救いがあるとすれば、良いクルマでも、それを必ず欲しくなるわけではないということ。どうにも良すぎて、長年のクルマ好きとしては今ひとつ食指が動かなかったのも事実。理詰めで考えれば、今買うべきクルマはゴルフしかない。ただ人間、理詰めで生きているばかりではない。ダメなところがあっても可愛いとか、変なところが楽しくて愛おしいという部分が欲しい。ガソリン車としては頂点に立ち、弱点がほとんど見当たらないゴルフの完璧さこそが、不満といえば不満なのである。
 
日本でのVWブランド車の販売台数は、これまでのところ2001年の6万1121台が過去最高だが、今年上半期(1~6月)は3万2840台を販売するなど過去最高のペースで、通年では12年ぶりに過去最高となることが確実視されている。先代ゴルフ6は、リーマン・ショック後に登場したこともあって立ち上がりはやや苦戦したが、2013年上半期の実績内訳は、ゴルフ(ほとんどが先代):8395台、up!:6898台、ポロ:6592台、ザ・ビートル:5825台、パサート:1667台となり、先代ゴルフはまだまだよく売れていた。そこへ、この新しいゴルフである。フォルクスワーゲンは国産車の市場をいよいよ脅かすことになるのでは、と思われる。そこでこのクルマを買い、1978年当時のように「やっぱり日本車はダメだね、ゴルフはすごいよ」と言いながら、誰もが「いいね!」を押すサザンをカーステレオで流し、誰もが「いいね!」を押すゴルフでもって、海岸沿いをドライブし、青春を回顧する桑田世代のオッサン。そんなオッサンにはなりたくないと思ってしまう私は、ただひねくれているだけなのだろうか。

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