キャラクター&開発コンセプト
12年ぶりの超ビッグマイナーチェンジ
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新型トヨタ プロボックス
(photo:トヨタ自動車)
プロボックス / サクシードは、2002年7月にデビューした商用バン。当時は商用バン(=ライトバン)と言えば乗用車ベースが主流だったが、プロ / サクでは「ビジネスカーの革新」を謳って、商用バン専用にボディやプラットフォームを新設計し、それまでのカローラバン / カルディナバンの後継として登場した。今では当たり前の存在だが、画期的な商品だった。
以来12年間売れ続け、商用バン市場でのシェアはモデル末期でも63%を維持(2014年上半期、トヨタ調べ)。今やライバル車は日産のADバン(AD / ADエキスパート)や、そのOEM車のマツダ ファミリアバン、三菱ランサーカーゴくらいという状況になっている。
そのプロボックス / サクシードが2014年8月6日、12年ぶりにモデルチェンジして2代目となった。トヨタではこれを“マイナーチェンジ”と称しているが、内容的にはかなり大掛かり。プラットフォーム前半、パワートレイン、フロントデザイン、インパネなどが刷新されている。
CVTを採用し、2015年燃費規制を先取りクリア
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Aピラーから後ろのアッパーボディはほぼ従来のまま
(photo:トヨタ自動車)
今回モデルチェンジに踏み切った最大の要因は、来年から施行される2015年燃費規制。基準をクリアするには、パワートレインの刷新が必要になり、具体的には1.3リッターエンジンを従来の2NZ-FE型から新世代の1NR-FE型に換装。変速機については1.5リッターエンジン(1NZ-FE型)搭載車も含めて、従来の4ATと5MTを廃止し、全車にCVT(無段変速機)を採用した。併せてパワーステアリングを油圧式から、燃費に有利な電動式に変更している。
これによりJC08モード燃費は、1.3リッター車で従来の15.4km/Lから17.6km/Lへと約14%向上。1.5リッター車は従来の15.4km/Lから18.2km/Lへ、1.5リッターの4WD車は従来の13.4km/Lから15.8km/Lへと、共に約18%向上した。これにより全車エコカー減税対象車となったほか、モード燃費でライバルの日産AD(1.5リッター・FF車が17.4km/L、1.6リッター・4WD車は13.0km/L)を上回った。
プラットフォーム前半、フロントデザイン、インパネを刷新
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ステアリング右、そして左にドリンクホルダーを新設。引き出し式テーブルも大型化された
(photo:トヨタ自動車)
パワートレインをアップデートするため、ボディ前半からキャビンフロアまでは現行ヴィッツやカローラ等と同じ新世代プラットフォームを採用。これに伴い、フロントデザインは“ツール感覚”を重視したグリルレス風に変更され、最新の歩行者保護基準にも対応した。
また、インパネデザインも刷新。インパネシフトを廃止し、代わりに1リッター紙パック飲料を置けるようにしたほか、従来からあった引き出し式テーブルを大型化するなど、使い勝手を徹底的に追求。新型の画期的な特徴になっている。
一方でボディ後半、つまりAピラーから後ろのアッパーボディや、荷室フロア、リアサスペンション周辺はキャリーオーバー。よってボディ前半は新しく、後半は変わらないという異例のモデルチェンジになっている。
月販目標は4200台
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パッケージングで定評のあるアッパーボディは継承。また、操縦安定性に優れたリアサスペンションもキャリーオーバーされた
(photo:トヨタ自動車)
販売チャンネルはこれまでと変わらず、プロボックスがカローラ店、サクシードがトヨタ店とトヨペット店。生産もこれまで通りダイハツの京都工場(京都府乙訓郡大山崎町)で行われる。輸出はなく、国内専用車。
月販目標はプロボックスが2600台、サクシードが1600台の計4200台。先代(2002年デビュー時)はそれぞれ5000台、2000台の計7000台だったので、4割減となる。
■参考記事
ニュース>トヨタ、プロボックス / サクシードをマイナーチェンジ (2014年8月6日掲載)
新車試乗記>トヨタ サクシード ワゴン (2002年8月掲載)
■外部リンク
トヨタ自動車>プレスリリース>プロボックスならびにサクシードをマイナーチェンジ (2014年8月6日)
価格帯&グレード展開
プロボックスが131万7600円~。VSC&TRCは全車標準
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左がプロボックスで、右がサクシード。前から見ると区別が付かなくなった。ボディカラーは商用車では異例に多い全6色で、左はライトグリーンメタリック
プロボックスは1.3リッター(95ps、121Nm)と1.5リッター(FFは109ps、136Nm)で、サクシードは1.5リッターのみ。また、4WD車は1.5リッター(103ps、132Nm)のみになる。前述の通り、トランスミッションは全車CVT。
また、先代サクシードではテールゲート等の形状によって全長が少し長く、積載量もプロボックスより50kg多い450kgだったが、今回はボディが共通になり、積載量も400kgに統一された。
価格(消費税8%込)は、プロボックスが131万7600円(1.3リッター・CVT車)からで、1.5リッターのみのサクシードは143万7382円から。先代4AT車より約10万円高くなったが、燃費がアップし、これまで設定が無かったVSC&TRCは全車標準になった。また、全車エコカー減税の対象となったため、実質的な価格アップは5万円ほどだ。
パッケージング&スタイル
フロントは道具感を重視
見慣れた先代に対して、今回大きく変ったのがフロントデザイン。話の順序としては新プラットフォームや歩行者保護基準に対応するための変更だが、今回は先代のオーソドクスなフロントグリルを廃止し、“道具感”を追求したグリルレス風になっている。
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写真はオプションのカラードバンパー(1万6200円)装着車。本来。フロントバンパーのコーナー部とリアバンパーは無塗装になる
開発スタッフによると、もともと先代のデザインテーマも“道具感”であり、フロントデザインもそれに沿ったものを検討していたが、当時は商用車としては斬新すぎるということでボツになったとのこと。しかしこの12年間でトヨタの乗用車系も“キーンルック”を採用するなど大きく変わり、今回はある意味、本来の狙い通りのデザインを採用できたという。
全長は4245mmに統一。全幅、全高は変わらず
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ボディサイズは全長4245mm×全幅1690mm×全高1525~1530mm
ボディサイズは先代と大差ないが、新型ではプロ / サクでボディが共通化されたことで、全長は先代プロボックスの4195mmとサクシードの4300mmの中間になる4245mmになった。全幅の1690mmやホイールベースの2550mmは従来通り。全高は1525mm(4WDは1530mm)で、もちろん機械式立体駐車場に問題なく入る。ただし、プラットフォームの関係で最小回転半径は0.1m増え、カローラ(アクシオ / フィールダー)と同じ4.9mになった。
なお、日産AD / ADエキスパートのボディサイズは、全長4395mm×全幅1695mm×全高1500mm(4WDは1545mm)、ホイールベースは2600mm。つまり全長は新型プロサクより150mm長く、ホイールベースは50mm長い。ADの最小回転半径はFFで4.7m、4WDで5.2mだ。
インテリア&ラゲッジスペース
インパネデザインを革新。紙パックも置けるドリンクホルダーを設置
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シンプルな水平基調のデザインが清々しい。ダッシュ上面も、停車中に物が置けるようにフラットになっている
新型の見どころであり、革命的とも言えるのが、一新されたインパネデザイン。インパネ骨格が刷新されたことで、デザイナーと内装設計者がまったくの白紙から徹底的に機能優先で作り上げたものだ。
最も大胆なのが、インパネシフトを廃止し、昔ながらのフロアシフトを復活させてまで1リッター紙パック飲料が置けるセンタートレイの新設したこと。運転中に手を伸ばしやすい一等地に、これだけ大型のドリンクホルダーを置くのは、勇気がいったことだと思う。これにより運転席周辺のドリンクホルダーは、ステアリング右側とセンターコンソールの分を合わせて計3つになった。
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インパネシフトの跡地は大型センタートレーに変身。オプションでAC100V電源も用意
さらに、ステアリングの左側には、携帯やスマホなどを置けるマルチホルダーを設置。運転中に画面に目が行かないように目隠しカバーがあるのがメーカー純正らしいが、「スマホ置き場」がこういう(立てた)形で標準装備されたのは初では。また、このマルチホルダーの裏側は、プッシュ式で開く秘密の?小物入れにもなっている。
その下にはDC12V(120W)のアクセサリー電源を標準装備するので、充電もスムーズにできる。さらにオプションでAC100V(100W)のコンセントも装備可能。
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メーターのデザインはまるで軍用時計のようにシンプルで機能的
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ステアリング右側のドリンクホルダーは、最近の軽自動車でもよく見かけるもの
引き出し式テーブルを大型化し、幕の内弁当に対応
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小さくてイマイチ使えなかった引き出し式テーブルは、新型で大型化。その上にはA4バインダーを横向きに置ける棚も用意。グラブボックスは従来通りラックのように使えるオープンタイプ
先代にも引き出し式テーブルはあったが、サイズが小さくて意外に使い道がなかった。そこで新型ではノートPCやお弁当が置けるように、テーブルの大きさを幅で80mm、奥行きで35mm、面積にして約1.7倍に拡大。標準サイズのiPadと同程度の幅290mm×奥行180mmにした。耐荷重は10kgだ。実際には、タブレットやノートPCを置いても操作しにくいので、停車中のお弁当置き場だろう。走行中は格納して下さい、とある。
また、今回からパーキングブレーキを足踏み式に変更したことで、その跡地となるシート横にはカバンをすっぽり置けるようになった。ビジネスマンにとっては至れり尽くせりだが、日常使いでも便利そうだ。
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バックモニター内蔵ミラーも全車にオプション設定(4万3200円)された
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パーキングブレーキが足踏みになり、その跡地はカバンスペースに変身。格納式ドリンクホルダーもある
新開発シートは、休憩時の「寝ごこち」も追求
前席シートも新開発で、耐久性の高さ(へたりの少なさ)はそのままに、クッション形状やウレタンの変更、運転席リフターの調整幅アップ(31mm→60mm)などにより、座り心地を向上させたという。確かに座り心地はカッチリしていて気持ちいい。
また、休息時の快適性にも配慮し、リクライニング角度を水平に近い76度に拡大したほか、背もたれを倒した時に背中や腰に当たる出っ張りも排除したという。高速道路のSA・PAでは熟睡しそう。
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最上級グレード「F」は、後席が乗用車風になる。ただし背もたれはやや立ち気味
先代の途中で廃止された5ナンバーの乗用ワゴンは新型にもなく、全て4ナンバーの貨物になった。ただし最上級グレード「F」はワゴンの代わりになるグレードで、その後席は下位グレードよりクッションが分厚く、足下が広く、2名分のヘッドレストも備わる。
ただしクッションが厚くなった分だけ、後席を畳むと嵩張るため、ダブルフォールディングで格納可能にしたほか、必要なら座面クッションを取り外すことも可能になっている。
荷室はおおむねこれまで通り
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邪魔な張り出しのない荷室。荷室高は935mm、荷室幅は1420mm、荷室長(後席使用時)は1040mm
先代の荷室長と最大積載量は、主にリアゲート周辺の作り替えで、プロボックスが1810mmと400kg、サクシードは1830mmと450kgだったが、新型では1810mmと400kgに統一された。とはいえ新型でも従来プロボックスと同等の積載性を確保し、例えばA4コピー用紙箱なら89個、みかん箱なら38個まで積載可能という。ちなみに最大積載量の400kgは、水の入った一斗缶(約18L)だと約20個に相当する重さ。積み降ろしするだけでも大変だ。
なお、日産AD / ADエキスパートの最大荷室長は1830mm、最大積載量は450kg(4WD車は400kg)で、A4コピー用紙箱なら91個積めるとのこと。つまり積載性はADバンがわずかに上回るが、ボディサイズに対するスペース効率ではプロ / サクが優秀と言える。
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「F」の後席だけダブルフォールディングになり、さらに座面を取り外すことも出来る
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スペアタイヤは吊り下げ式。フル積載に耐えるラテラルロッド付トレーリングリンク車軸式リアサスに注目
基本性能&ドライブフィール
軽快ながら、どことなくメカメカしい
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1.5リッター「1NZ-FE型」エンジン。ボア×ストローク:75.0×84.7mmのロングストローク型
試乗したのはポロボックスの「F」(2WD)。車両本体が約160万円ほどの上級グレードだが、1.5リッターの2WDという点では売れ筋の一つ。
試乗は基本的に1名乗車の空荷で行い、タイヤ空気圧は空荷時の指定値通り前2.2kg、後ろ2.2kgで走った(積載時はそれぞれ2.4kg、2.9kgになる)。内容的に、モーターデイズで多い乗用車目線での印象となりがちな点はご了承を。
最新トヨタ車では珍しく、リモコンでドアを解錠し、キーを回してエンジンを始動する。エンジンはおなじみ1.5リッター直4(109ps、136Nm)で、ミッションはCVT。第一印象は、走り出しが軽快で、小回りが効くなぁ、というもの。最小回転半径は従来型より0.1m増えて4.9mだが、これだけ小回りが効けば文句はない。
そして動き出しの瞬間から、微妙にメカメカしい感触が伝わってくる。CVTのスリップ感はほとんどなく、妙にダイレクト感があり、そして足回りがやや硬い。新採用の電動パワステにも適度に手応えがある。特に直進時には、ステアリングの座りの良さ、ビシッと一本筋が通ったような足回りの感覚が気持ちいい。
今回シャシーは、プラットフォーム前半の変更によりフロントサスペンションを一新したことで、前後のスタビライザーをバランスよく強化することが可能になり(これまではフロント側を変更できなかった)、これによってロールを抑制。代わりにスプリング、ダンパー、ブッシュ類などを見直して乗り心地を高める方向で開発し、北海道の士別テストコースを徹底的に走りこんで入念にセッティングしたという。タイヤも先代の13インチ(165/80R13)から全車14インチ(155/80R14)に格上げされた。
もちろん、依然として商用バンらしいところは残っていて、例えば50~60km/hくらいで走る時の「ゴー」というロードノイズは大きめ。エンジン音が静かな分、ロードノイズが目立つとも言えるが、遮音・制振材などは乗用車より少ないし、バン用タイヤを履く割には静か、とも言える。
あと、段差ではそれなりに鋭くショックが入るが、これは商用車っぽいと言うより、1990年代のスポーティカーのような硬さで、何だか懐かしい。安っぽさ、荒っぽさとは無縁で、むしろ質実剛健という感じ。
ちなみに車重は排気量に関係なく、FFなら1090kg。なので1.5リッター車ならパワーウエイトレシオは10.0kg/psジャストだ。ヴィッツの1.3リッターと比べると80kgほど、1.5リッターと比べると50kg重いが、むしろ走らせた印象はプロボックスの方が軽く感じられる。
なお、トヨタの社内参考値によれば、0-100km/h加速は1.5リッターで11.0秒、1.3リッターで13.1秒。先代はそれぞれ12.6秒、15.1秒だったから、大幅に速くなった。
高速での直進安定性も“気持ちいい”
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新型には55km/h以上で急ブレーキを踏むとハザードランプが自動的に点滅する「緊急ブレーキシグナル」が全車標準になった
新型の良さを実感するなら、高速道路を走るのがお勧め。回転計がないので速度ごとのエンジン回転数は分からないが、100km/h巡航はもちろん、追越車線でも全く不満なく、快適に、しかも「気持よく」巡航できてしまう。この時の直進安定性の高さ、スムーズに走って行く感じが、非常に気持ちいい。「ああ、クルマってこうじゃなくっちゃ」と思える。いろいろな速度域、路面で走ってみたが、特に不満はなく、乗用車でもこんな感じでいいじゃんと思えた。
高速走行時にはロードノイズに加えて、風切り音もそれなりに高まってくるが、ラジオや会話を邪魔する音質やレベルではないので、それほど気にはならない。
バン用タイヤでもちゃんとグリップ
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タイヤはライトバン用の155/80R14 88/86N LT(トーヨー H11)
ステアリングのギアレシオは、ヴィッツやカローラなどの乗用車系に比べて明らかにスローで、反応は穏やか。アンダーステアも強いが、これはフル積載400kgでも敏感過ぎないように配慮したものだ。しかし空荷でも田舎の山道ではこれくらい安定サイドのシャシーが心強い。ストレスも不満も特に感じなかった。
意外だったのが、新型プロ / サク専用に開発された155/80R14のライトバン用タイヤ(トーヨー H11)がちゃんとグリップしてくれること。下手な乗用車用エコタイヤより、よっぽどグリップしてくれるし、タイヤ自体の剛性感も高い。でもってタイヤ自体の乗り心地も悪くない。乗用車用タイヤと比べた時の弱点はやはりロードノイズだと思うが、メリットの多さを思えば許せるところ。おそらく減りも遅いはずだし。もちろんグリップ感の高さには、シャシー性能や入念なチューニングも効いているはず。
試乗燃費は14.2km/L。JC08モード燃費は18.2km/L
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目下、ガソリン価格は横ばい傾向。この日はレギュラーが152円/Lだった
今回はトータルで約310kmを試乗。車載燃費計による試乗燃費は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約80km)が14.2km/L、一般道を大人しく走った区間(20km)が18.0km/L、高速道路を80~100km/hで走った区間(約50km)が20.0km/Lだった。また、310kmトータル(撮影のための移動を含む)の試乗燃費(満タン法)は12.7km/Lだった。JC08モード燃費は18.2km/L。指定燃料はレギュラーガソリンだ。
総じて実用燃費は意外にいいなぁという印象で、12km/Lを下回ることはまずないはず。タンク容量はカローラ(ガソリン車)やヴィッツが42リッターのところ、プロ / サクは余裕の50リッター。往復600kmの日帰り遠方出張も無給油で帰ってこれそう。
ちなみにカローラ フィールダー(1.5、2WD、CVT)のJC08モード燃費は19.6km/Lで、ヴィッツ(1.5、2WD、CVT、アイドリングストップ付)は21.2km/Lだが、実燃費はそれらと大差ないのではないだろうか。
ここがイイ
気持ちいい走り。使い勝手の良さ。燃費など
とにかく乗っていて気持ちがいい、一本筋の通った走り。高速走行も余裕がある。VSCもいよいよ商用車にまで降りてきた。街中での運転のしやすさ。意外にと言うと変だが、燃費もいいこと。
クルマの中でやりたいことが全部出来てしまうインパネの使い勝手。運転席と助手席の間のカバン置き場(センターコンソールトレイ)は、ホントに便利。世のクルマは全部これにして欲しいくらい。
ここがダメ
自動ブレーキの採用見送り
商用バンとしてはこれ以上なく、満点に近いだろう。とはいえ少し欲を言えば、自動ブレーキの採用が見送られたこと。VSC&TRCは全車標準になったが、やはり安全を売りにするなら衝突被害軽減ブレーキなどをオプションでもいいので設定して欲しかった。
ハイブリッド車を含めてアイドリングストップ装着車に慣れた人からすると、信号待ちでエンジンがずっと回っているのは気になりそう。もちろん、コストやバッテリーへの負担を思うと、商用車としては強く言えないところだし、需要もないのかもしれないが。
後席の居住性は、試乗した上級グレードでも、カローラは当然として、ヴィッツと較べてもやや低く、ロードノイズもそれら乗用車より大きめ。荷物より人を後ろに乗せる機会が多ければ、やはり乗用車を買った方が無難と言える。
グリルレス顔のフロントデザイン。グリルレスなのにグリルがあるような妙に凝ったデザインは、せっかくの道具感を削いでいる感じ。販売主力グレードに付くバンパー左右の黒い樹脂は、軽い擦り傷でも安く修理できるようにするためだと思うが、いっそ真ん中までつなげばいいのに、なんて思ってしまった。
総合評価
先代はクルマとして素晴らしい出来だった
何度も書いているが、ステーションワゴンが好きだ。セダンに乗ってみて、これのワゴンがあったら欲しいと思うことは多いし、ハッチバック車だってこのままワゴンにしたら面白いのにと何度となく思った。現に輸入車ではメルセデス・ベンツのCクラスやEクラス、フォルクスワーゲン ゴルフなどにちゃんとワゴンが設定されている。それらは積載性においてセダンの比ではないし、イメージ的にはセダンよりスポーティで、ハイグレードだったりもする。しかし、こと日本車でステーションワゴンは今や壊滅状態。トヨタですらカローラ フィールダーとアベンシスくらい。何より日本では商用バンみたいと言われるのが悲しい。
その商用バンの代表がプロボックス / サクシードだ。現在では実質的に日産ADバンとこのクルマしかなく、プロ / サクの方はもう12年も売られているから、商用バンと言ったら誰もがこのクルマを想像するだろう。プロ / サクがデビューした頃、このクルマに「乗らされた」新社会人も、今や立派な中堅社員になってるはず。会社員生活をプロボックスで過ごした人は、少なくないと思う。そんな人にプロボックスの率直な感想を聞いてみたいものだが、おそらくは特に不満なしといった答えが返ってくるのでは。仕事の足以外の何物でもなく、良くも悪くも思わないと。
しかし、営業車で不満がないというのは、ある意味凄いこと。先代プロ / サクはプロの道具感を持たせるというコンセプトが素晴らしく、機能性の権化であり、しかもよく走った。乗用車の一段下のクルマではなく、クルマとして素晴らしい出来だったと思う。
インパネはこのクルマ最大の魅力
そんな初代は、2000年前後にトヨタから数多く登場した意欲的でユニークなクルマの一台でもあった。そして発売から12年。世の中はITバブル崩壊から持ち直したかと思うと、リーマン・ショックでどん底に落ち、アベノミクスの恩恵も庶民には大してないまま今も低空飛行を続けているが、そんな荒波をプロボックス / サクシードは黙々と道具として乗り切ってきた。12年もの間、モデルチェンジせず、使用者は途中の代替えでもずっとプロ / サクを選択し続けたわけで、今もその性能で十分ビジネス戦力となりえている。変える必要はないのだろうが、安全性やら燃費やらでさすがに「ビッグマイナーチェンジ」の必要に迫られたというのが今回だ。
そんな新型では、ユーザーの声を聞いて作り直されたインパネまわりが、もう最高に素晴らしい。特にペットボトル(500ccで140円前後)ではなく、安い紙パックのドリンク(1000ccで100円前後)が置けるあたりは、切ない昨今の経済事情を反映していて涙が出る部分。
インパネテーブルも今やPCというより弁当のために用意されたものだろう。コンビニでお茶と弁当を買って車内で食べ、寝心地のいいシートを倒して昼寝するという、ビジネスマンというより労働者という方がふさわしい人のためのクルマに仕立てられている。先代で絶賛したペン立ては、どうやら必要ないと判断されたようだし(ペンはポケットに差していたほうが使いやすいのだろう)、ぜひ欲しいと思ったゴミ箱は今回もやっぱりないが、これはコンビニ袋で代用されるケースが圧倒的ということのようだ。細かく使い勝手を見なおした新しいインパネは、やはりこのクルマ最大の魅力と言えるだろう。
また、スマホホルダーが初めてクルマについたのも画期的だ。にも関わらず、画面がカバーで見られないのは皮肉だが、ステアリングのすぐ左側という位置は絶妙。となれば、このインパネで乗用車を作ってもらえないものだろうかと本当に思う。商用車ではなく、道具としての乗用車というジャンルをそろそろ作ってもいいと思うのだ。
「機能美がステキ」と女子がもてはやす時代
RJCカーオブザイヤーをスズキ ハスラーが獲得し、ダイハツも負けじとウェイクを出して、軽の世界では道具としてのクルマがひとつのジャンルになりつつある。プロ / サクのワゴンタイプは、先代末期(2013年)にラインナップから消えたが、5ナンバーにしただけでは大して売れるはずがないのは当然なので、このコンセプトで別のクルマ(ベースはカローラ フィールダーでもいい)を作ってほしいものだ。
プロ / サクは、トヨタ車ではあるが、開発と生産にはダイハツが携わっているからか、運転してみると、よく出来た軽自動車にどことなく近い感じがある。うるさくはないが、遮音・吸音材などが少ないためにガサッとした室内や、CVTの走行感覚などもそうだ。考えてみれば、厳しい枠の中で究極の道具を追求しているのが軽自動車であり、そのノウハウがこのクルマにも反映されていることで、似た感じを受けるのかもしれない。そして、その究極の道具感を、商用車としてしか味わえないのが実にもったいなく思えてくる。ルノー カングーみたいに「機能美がステキ」と女子がもてはやす時代が、何かの間違いで来たりしないか、などと妄想してみる。
が、現実に引き戻されるのは、このクルマを新車で買ったり、リースできたりするのは、実はそこそこ儲かっている企業だということ。新車リースの場合、古い中古車を買って乗りつぶすよりは、さすがにそれなりに高い。多くの厳しい中小企業はこのクルマのリースさえ躊躇するのが現実だ。こんな素晴らしい「働く人を元気にするクルマ」に乗れる労働者は、まだ恵まれている方なのだから、ぜひ元気に働いてもらいたいと思う。