キャラクター&開発コンセプト
1998年にデビュー。累計50万台以上を販売
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初代アウディ TT
1998年にデビューしたアウディTTは、VWゴルフやアウディA3のメカニズムを使ったFFもしくは4WDの小型スポーツカー。初代TT(8N型)の斬新なデザインは当時大きな話題になり、アウディのイメージリーダーとしても大きな役割を果たした。今思えばアウディ躍進の鏑矢ともなったモデルだ。
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2代目アウディ TT
2006年に登場した2代目(8J型)は、ボディ前半をアルミニウム合金によるASF(アウディ・スペース・フレーム)、後半を主にスチール製としたハイブリッドボディを採用。ボディサイズ、動力性能、価格の面でも上級モデルに移行した。TTは初代と2代目を合わせて世界累計50万台以上を販売し、「プレミアムコンパクトスポーツセグメント」において大きな成功を収めた。
第3世代はMQBを採用
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新型(3代目)TTシリーズ
そして今回、9年ぶりのモデルチェンジで、第3世代の新型TT(8S型)が欧州では2014年に、日本では2015年8月に発売された。メカニズム的には現行ゴルフ7やアウディA3などと同様、VWグループのモジュール戦略「MQB」に基づいて開発されているが、ボディ自体はほぼ専用設計で、フロント骨格やフロア等は高張力鋼板(スチール)、ボディ外板などはオールアルミ製としたコンポジット構造になっている。
今回日本に導入されたのは、2+2の「TT クーペ」、電動ソフトトップを備えた2人乗りオープンモデルの「TT ロードスター」、高性能モデル「TTS」の3車種。エントリーグレードのみFFで、それ以外はすべて電子制御多板クラッチ式4WDの「クワトロ」仕様になる。
■過去の新車試乗記
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2代目アウディ TT クーペ 2.0 TFSI クワトロ (2008年10月掲載)
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2代目アウディ TT クーペ 3.2 クワトロ (2006年11月掲載)
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初代アウディ TT クーペ 1.8T (2003年1月掲載)
価格帯&グレード展開
542万円からスタート。TTSは768万円
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新型TTS。写真のボディカラーはTTS専用色のセパンブルー(パールエフェクト)
欧州には2.0Lディーゼルターボ(2.0 TDI)や6速MTもあるが、日本向けはTTSを含めてすべて2.0L直4・直噴(ポート噴射も併用)ガソリンターボ(2.0 TFSI)で、トランスミッションはすべて6速「Sトロニック」(DCT)。
新型TT 2.0TFSIのパワーは、先代2.0TFSIの211ps・350Nmから、230ps・370Nmにパワーアップ。高性能版のTTSでは、先代TTSの272ps・350Nmから、286ps・380Nmに引き上げられている(ちなみに欧州仕様のTTSは310ps)。
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新型TTロードスター。電動ソフトトップは約50km/h以下なら走行中でも開閉可能。開閉時間は約10秒とのこと
初代TTは、輸入スポーツカーとしては比較的手頃な価格が魅力だったが、新型はエントリーモデルのFFでも542万円とちと高め。TTSに至っては768万円と、2.0TFSI クワトロより約180万円も高い。ただし、TTSにはマトリクスLEDヘッドライトや可変ダンパーシステム「アウディマグネティックライド」が標準装備される。ライバルは同じVWグループに属するポルシェの新型917ボクスター(658万円~)、ケイマン(629万円~)、そしてBMW Z4(518万円~)、M2クーペ(770万円~)あたりか。
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新型TTS ロードスター
なお、東京モーターショー2015にはTTS ロードスターが出展されており、日本導入が予想される。また、2.5L 直5ターボエンジンを搭載した「TT RSクーペ」も先代同様に追加される模様。
ハンドル位置は基本的に右だが、TTSには左ハンドルも用意される。目下のラインナップは以下の通り。
■TT Coupe 2.0 TFSI
(230ps、370Nm) 542万円
■TT Coupe 2.0 TFSI quattro
(230ps、370Nm) 589万円
■TT Roadster 2.0 TFSI quattro
(230ps、370Nm) 605万円
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TTS Coupe 2.0 TFSI quattro
(286ps、380Nm) 768万円 ★試乗車
パッケージング&スタイル
スタイリングはキープコンセプトだが
お椀をふせたような全体のシルエット、張り出したフェンダーアーチなどは、初代から始まり、2代目で洗練されたもので、外観デザインはおおむねキープコンセプトと言っていいだろう。新型では鋭いLEDヘッドライトや6角形のフロントグリルなどによって精悍さが加わった。
ボディサイズや最小回転半径は小さくなった
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120km/h以上でポップアップする電動リアスポイラーを装備。TTSは4本マフラーになる
ボディサイズは、全長4180~4190mm、全幅1830mm×全高1370~1380mm(ロードスターは1350~1360mm)。意外にも全長は先代より10mm短くなり、全幅も10mm小さくなったが、逆にホイールベースは40mm伸びて2505mmになった。確かにオーバーハングは短くなったように見える。
一方で、最小回転半径はTTSを含めて先代より0.3mも小さくなり、4.9mになった。これはゴルフ7(5.2m)より小さく、ポロと同値になる。
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先代ではフロントグリル内にあったフォーリングスは、ボンネットに移動
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Cd値はS lineエクステリアパッケージ装着車0.29とのこと
インテリア&ラゲッジスペース
フルデジタル多機能メーター「アウディバーチャルコックピット」を初採用
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エンジンのオン・オフスイッチはVW流にセンターコンソール配置。ちなみにエンジンオフ時にはアウディのテレビCMと同じ「心音」が流れる
新型になって一番変わったのはインテリアだろう。メーターやディスプレイ、操作系などのインターフェイスが一新された。
その筆頭が全面液晶ディスプレイメーターの「アウディバーチャルコックピット」。メーターパネルを12.3インチのデジタル液晶ディスプレイ(1440×540ピクセル)とし、そこに速度などの基本情報、ナビゲーションの地図、そして地デジの映像も(走行中のみだが)表示する。
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MMIのコントローラーもデザイン一新。指先でなぞって操作できる「MMIタッチ」が付く
ステアリングスイッチやMMIコントローラーのデザインも一新された。基本的にはステアリングスイッチで大半の機能を操作できるのが特徴で、これが意外に使いやすい。また、LTE対応の車載通信モジュールでインターネットと常時接続できる「Audi connect」も標準装備する。
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燃費を見ながら走るには一番便利な表示モード
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地図を表示した状態。地図とメーター共に見やすいが、他の情報を見たい時に切り替えるのが面倒
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停車中ならテレビも普通にメーター内で見ることができる
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空調吹き出し口の真ん中は、なんと空調関係のスイッチ&ダイアル。ここも意外に使いやすい
手荷物が置ける後席。自転車も積める荷室
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TTSは電動のアルカンタラ(人工スエード)シートが標準だが、写真はオプションのナッパレザー仕様
囲まれ間の強い室内は初代TTからの伝統で、TTにとっては欠点ではなく個性。後席は欧州の安全基準によると6~12歳の子供がチャイルドシートなしで使用できるものとのこと。大人が座るとヘッドルームは皆無で、体を斜めにしないと前を向けないから、あくまでも普段は手荷物を置く場所であり、人を乗せるのは緊急時のみと心得るべし。カバンや脱いだジャケットを放り込んでおく場所としては、前席から手が届きやすい分、フル4シーターより便利。
荷室容量は先代より13L増えて305L。数値的にはBセグコンパクトと同等だが、リアゲートが大きく開くし、奥行きがあるので、家電や家具、車輪を外したスポーツ自転車といった、かさばるものも載せやすい。このあたりはZ4やボクスターでは真似できない芸当。
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開口面積と奥行きがあって使いやすい荷室。カーペットもキチンと張られている
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手荷物を置くのに便利な+2の後席
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荷室容量は305L。背もたれを倒せば、スポーツカーらしからぬスペースが拡がる
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荷室床下には小物収納スペース、パンク修理キット、バッテリー
基本性能&ドライブフィール
土砂降りでもホイールスピン皆無
試乗したのはトップグレードの「TTS クーペ」(768万円)。エンジンはTT 2.0TFSIと同じ2.0L直噴ターボだが、最大過給圧を0.8バールから1.2バールに引き上げて、最高出力は230psから286psに、最大トルクは370Nmから380Nmに増強されている。トランスミッションは6速「Sトロニック」、いわゆるDCT(デュアルクラッチトランスミッション)。
駆動方式は、アウディ言うところのフルタイム4WD「クワトロ」だが、正確に言えばエンジン横置であるTTのそれは、狭義でのフルタイム4WDではなく、通常は前輪だけで駆動し、必要な時だけ後輪にトルクを伝達する電子制御多板クラッチ式4WD(オンデマンド式4WD)である。
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2.0L直4ターボ「2.0 TFSI」エンジンは、アウディによれば「事実上、新開発」とのこと。直噴とポート噴射を併用。オイルパンは軽量のポリマー素材製とのこと。TTS用は各部が強化される
センターコンソールのイグニッションボタンを押せば、エンジンがボボボボ……と不敵なサウンドを響かせ始める。今回は普通のTTに試乗していないが、音量はそれより大きめらしい。例のフル液晶メーターに感心しつつアクセルを踏み込めば、大ざっぱに言ってしまえば、先代TTの2.0TFSI クワトロと同じようにスムーズに走り出す。電動パワーステアリングは軽く、小回りもよく効き、視界もいいから、ゴルフやA3のようにまったく気負いなく乗れる。
とはいえフル加速時にはシフトアップごとに「ブホッ!」とアフターバーン的な音が出る。先代の2.0TFSI では「ボン!」という音だったが、今回はなぜか「ブホッ!」。また、高回転時には「ドゥルルルル……」とV6エンジンっぽい音が響き渡る。このへんは、先代の途中でドロップした3.2 クワトロを意識した演出だろうか。
ゴルフ GTI あたりの高性能FFモデルと明らかに違うのは、ホイールスピンのホの字も感じさせない圧倒的なトラクション性能。今回のようなヘビーウエットでも、4輪はまるで接着剤で張り付いているかのように路面をベタッと捉え続ける。その点は先代TTのクワトロと変わらず、まさにTTならではの、デジタルで破綻しらずの速さが味わえる。
0-100km/h加速は718ボクスターと互角
メーカーの資料によると、0-100km/h加速はTT 2.0TFSI クワトロで5.3秒、TTSでは4.7秒。これはホイールスピンをある程度許容する「ローンチコントロール」を使った時のタイムだろう。
加速性能は、さすがに新型ポルシェ 911カレラ(3.0Lターボ、7速PDKで4.2~4.4秒)には敵わないが、目下話題の新型718ボクスター(7速PDK仕様で4.7~4.9秒)とは互角。ちなみに718ボクスターは、新開発の2.0L水平対向4気筒ターボエンジン(300ps、380Nm)をミッドシップに搭載する、いわば身内(VWグループ内)に潜むガチのライバル車。今や旧型になろうとしているポルシェ ケイマン(2.7L自然吸気、7速PDKで5.6秒)が相手なら、新型TTSの方が速い。
このダッシュの速さは言うまでもなくクワトロのおかげだが、車重の軽さも効いている。新型TTは、アルミとスチールの複合ボディにより、車重が先代より最大60kgも軽くなっていて、このTTSでも1410kgと高性能4WD車としては例外的に軽く仕上がっている。
ちなみに、先代TT 2.0TFSIの場合、FF車は発進時のホイールスピンが激しく、クワトロとの差が大きかったが、販売店のスタッフによると「新型はFFがすごく良くなった」とのこと。このあたりはFF車のゴルフGTI と同じで、エンジンやESCの制御が進化しているのだろう。
ハンパないボディ剛性感
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アウターパネルはほとんどアルミ製(薄緑)。Aピラー付け根からサイドシルまでをつなぐアルミ製鋳物(赤)、センタートンネル部の超高張力鋼板(紫)など、凝りに凝った部材使い分けに注目
ボディは、フロア周りやバルクヘッドなどの主要メンバーが熱間成型鋼板などのスチール製で、ボディフレーム上部やアウターパネルのほとんど(フロントフェンダー、ボンネット、ルーフ、ドア、リアゲートなど)がアルミ製というコンポジット(複合)構造になった。つまり鉄とアルミを併用するのは先代と同じだが、適材適所で細かく使い分ける方法にガラリと変った。これにより軽量化だけでなく、静的ねじり剛性を先代から23%向上させたという。あの異様にボディ剛性が高かった先代の、さらに上を目指すところがゲルマン魂。
街中を流すだけなら乗り心地の良さが印象的だが、ひとたびワインディングへ行き、ステアリングを切り込むと、超ソリッドな反応に圧倒される。ボディ全体はまるで鋼材から削り出したかのように、軟(やわ)な部分や曖昧さを感じさせず、超絶クイックに反応する。
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コーナーリングではESCによるブレーキ&スロットル制御やクワトロによる駆動力配分制御で操縦安定性を保つ
ではコーナリングが楽しいかと言うと、それは微妙なところ。操作に対する反応に、微妙なタメや漸進的な動きがなく、穏やかな反応と超クイックな反応の中間があまりない感じ。肯定的に言えば、高いボディ剛性やトラクション性能を前提にしたロジカルでデジタルな走りが新型TTの特徴と言える。
また、意図的にアンダーステアやオーバーステアを誘うとESCが強力に介入し、ブレーキ制御や前後の駆動力制御を総動員して、車両の挙動を抑え込もうとする。それは「絶対にスピンさせない」という強力な意志が感じられるほど。ただし、ESCをスポーツモードにすれば多少のドリフトは許容するようで、もちろん、ESCの完全オフもできる。
100km/h巡行は2400rpmだが、コースティングモードで900rpmに
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新型TTには今のところACCの設定がなく、従来型のクルーズコントロールしか選べない
100km/h巡行時のエンジン回転数は、6速トップで2400rpmと、今どきの最新モデルとしては異様に高い。ただし、燃費重視のエフィシェンシーモードであれば、アクセルオフ時にはエンジンとドライブシャフトを切り離す「フリーホイーリング機能」が作動し、コースティング(慣性走行)モードに入る。その時のエンジン回転数はアイドリングと同じ900rpmほどだ。そしてアクセルを少しでも踏み込めば、回転計の針は100km/h時なら2400rpm、120km/h時には2900rpmくらいまで跳ね上がる。「これで本当に燃料消費が抑えられるのか?」という点も含めて、なんだか不思議。なお、最高速(メーカー発表値)は、TTとTTS共に250km/hでリミッターが作動する。
それにしても高速走行時の安定感は、まさにお手本レベル。スピードを出せば出すほど路面に張り付くような安定感を見せるし、乗り心地もフラットで、上下動やピッチングは一切ない。そして静粛性も問題なし。やろうと思えばここまで出来るのか、と感じ入ってしまった。
このあたりは、TTSに標準装備される電子制御可変ダンパー「アウディマグネティックライド」や、空力性能、それにボディ剛性、重量配分など、いろいろなものの相乗効果だろう。
試乗燃費は8.8~10.2km/L。JC08モード(TTS)は14.9km/L
今回はトータルで約250kmを試乗。試乗燃費は、一般道と高速道路を走った区間(約90km)が8.8km/L。一般道を無駄な加速を控えて走った区間(約30km×3回)が10.1km/L、10.2km/L。高速道路を走った区間(約20km)は、距離が短いので参考値だが、12.0km/Lだった。
ちなみに試乗車には昨年8月登録から約半年間、総走行距離5600km分の平均燃費として7.6km/Lという数字が残っていた。286psのターボ4WD車にして、販売店のデモカーであることを考えると悪くない数字では。
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フューエルリッドはいわゆるキャップレス。そろそろドイツ車にも普及か
JC08モード燃費は、先代の2.0TFSI クーペが13.0km/Lだったところ、新型は14.7km/Lに向上(FFとクワトロ共通)。クーペより100kg以上重いロードスターは14.4km/L。試乗したTTSは、先代の11.8km/Lから2割以上も良くなって14.9km/L。なぜかモード燃費は、TTSが一番いいという謎。
燃料タンク容量はFFが50L、クワトロが55Lと意外に大容量で、もちろん指定はハイオク。
ここがイイ
TTでしか味わえない鉄壁の走り、実用性、スタイル
1990年代末にアウディ久々のスポーツクーペとして登場したTTもついに3代目になり、すっかりTT独自のスタイルや流儀が板についてきたこと。その乗り味は、大きく言えば先代の延長線上だが、直噴ターボ、Sトロニック、クワトロという三種の神器による、デジタルでパーフェクトな速さは、まさにTTならでは。そして手荷物置き場としての後席、広い荷室スペースなど実用性も抜群で、FRやミッドシップのライバル車にはない特長になっている。
新採用されたマトリックスLEDヘッドライトは、計12個の小型LEDをコントロールすることで、照射範囲をバリアブルに変更できる優れもの。ルームミラー裏のカメラで前方をモニターし、対向車や先行車がいればマスキング機能でそこだけ遮光し、より遠くまで照らしたり、曲がり角の先を照らしたりできる。なので夜間の高速道路や市街地などでも、周囲に迷惑をかけず、常時ハイビームで走ることができる。TTS以外はオプションだが、安全に直結する装備なのでぜひ選びたい。
言うまでもなく+2の後席はあらためて便利だなあと再認識。スポーツカーとして考えると完全2人乗りの方がピュアではあるが、2+2の便利さも捨てがたい。911の人気も案外そこが大きいはず。
ここがダメ
もう一つディスプレイが欲しい。ACCや自動ブレーキの不備
斬新でチャレンジングな全面液晶メーターの完成度は驚くほど高いが、いかんせん、やはりディスプレイがここだけではいろいろ不便。せっかくメーター内にナビやテレビ画面さえ映せるようにしたのだから、これでセンターコンソールにもう一つディスプレイがあれば完璧。そうすれば運転席の正面にはナビ、センターコンソールにはテレビを表示するということも出来たし、その両方に縮尺違いで地図を表示する、なんてことも出来たはず。この点については後で詳しく。
どういうわけか、今のところ新型TTにはミリ波レーダー等を使ったACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や自動ブレーキが未設定であること。それ以外の装備は、まさに最先端なのだが。雨にも負けず、風にも負けず、高速ロングドライブを得意とするモデルゆえ惜しい部分。
フロントナンバープレートのベースは欧州用の横長のまま。スタイリッシュなクルマだけに、ここもちょっと気になる部分。
総合評価
基本情報は固定された場所にあったほうがいい
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Audi バーチャルコックピット。日本向けナビシステムはアイシンAWが開発している
今回のTTはメーターパネル、NVIDIAのTegra30をグラフィックエンジンに使ったというアウディ バーチャルコクピットが、なんといっても注目だろう。新型車において久々に心躍る新装備と言ってもいい。車両の情報に限らず、地図、ニュース、AVといった車外の情報までがここに集約・表示され、一元管理できる。バックミラーレスの車両がいよいよ6月に認可されるそうだが、そうなるとここには後方視界も表示可能になるのかも。机に置いたPCディスプレイの前に座って仕事するようになって早25年余り、そこにwebが表示されるようになって20年余り。やっとディスプレイの前に座ってクルマを運転できるようになったわけだ。
使ってみれば、こんなに便利なものはないと思った。必要に応じて表示を切り替え、最適なものを見ながら情報を得て運転するという当たり前のことが、これまで出来てなかったことの方がおかしい。それが出来なかったのは、技術的な問題というより、制度や人の問題が大きかったように思う。「クルマはやっぱりアナログメータでないと」というオジサンたちの問題だけでなく、ディスプレイを注視するのは危険という考え方が大きかった。我々はインパネの一番見やすい位置にディスプレイを置くべきだとずっと言ってきたが、今でもカーナビを注視するのは違反ということで、ディスプレイの位置は日本国内ではグレーゾーンとされてきた。
それが運転席正面のメーターという、注視する可能性が最も高い位置に来たわけで、これは「黒船」ゆえにできたことだろう。その昔、輸入車では当り前だったドアミラーが危険だからだめという、今では全く信じられないような話で日本のクルマは作られていたのだが、それが今やミラーレスまで許される時代になった。やっと時代は変わりつつある。
とはいえ日本車では今も、こういうチャレンジングなことがしにくい空気はある。液晶メーターなどまさにちょっと前までは日本のお家芸だったはずだが、結局海外のクルマに先を越されてしまっている。このあたりに今の日本の課題が…、いやもうこの手の話はやめよう。
実際に使ってみると、長年ここには固定された表示物があったため、切り替えられるとか、違うものが見えるということに正直、違和感があったのは事実。今まではここで、速度とエンジン回転数、距離と各種警告など、実はそうたいした情報を得ていなかったから、いきなりここでいろいろ切り替えながら情報を得ろと言われても、意識がついていかない。最初はいろいろ切り替えて遊んだが、結局走行中はあまりいじらなくなってしまった。ここに情報ディスプレイがあること自体は重要だが、速度などの基本情報は常にどこかに固定された状態であったほうがいいと思った。
ハイテク加減は道半ば
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新型A4のインパネ
もう一つ大きな問題は、上記にもつながる話だが、一画面しかないことだ。一画面を分割してメーターやら地図やら情報やらが表示されるのだが、正直なところ細かくなって見にくい。PCでもツインディスプレイにするだけで使い勝手は飛躍的に向上するが、車内の場合、今まではメーターとナビというツイン画面だったものが、シングル画面になってしまったことで使い勝手は落ちていると言ってもいい。TTの場合、最低でもテレビが映るディスプレイを助手席用に用意しないと、同乗者から不満がでそうだ。アウディでも新型TTの後に発売された新型A4や新型Q7はツインディスプレイになっている。やはりディスプレイは複数あるべき。バックミラーレスが採用されるようになれば、なおさらだろう。やがてはフロントウインドウそのものが情報が投映されるディスプレイになるだろうから、それまでのことではあるが。そうは言っても、こうした装備を搭載したこと自体は、高く評価せねばならない。
もう一つ評価すべきなのはLTEの通信モジュールが標準で入っていることだ(アウディコネクト)。ネットと常時接続で、Googleのストリートビューだって表示できる。そしていわゆるテザリングもできる。ネット環境が車内にあるのは素晴らしい。とはいえ、これも数年前だったら絶賛ものだが、格安SIMのスマホがここまで普及すると、妙に贅沢なものに見えてしまう(まあ贅沢なクルマだから、それでいいのではあるが)。タッチパッドも備わるMMIのインターフェイスも、当り前のように音声で指示してスマホにナビをさせてしまう昨今では、目的地設定そのものが面倒に思えてしまう。若い人たちにクルマに興味を持ってもらうためには、もっと工夫がいる時代になってしまった。まあこんな価格のクルマを若い人たちが買うことは多くないから、その点では問題ないのだが。
クルマそのものは本文で書いた通り、9年ぶりのモデルチェンジで素晴らしいものになっている。スタイリングはよりシャープになり、素直にカッコよくなった。と同時に、そのスタイリングは旧モデルとそうは変わって見えない。つまりVWグループであるポルシェの各車と同じような、カッコイイものは変えないというやり方で、好感が持てる部分だ。そうしたハードの素晴らしさに比べ、ソフトというか、通信やACC、衝突安全という部分でのハイテク加減は道半ばか。特に通信系の装備に関しては、8年とか9年といったスパンでのモデルチェンジでアップデートしていくのは、今後はなかなか難しいものがあるだろう。自動車メーカーとしては、通信部分は他社のものを組み込むという方へ、方針変更する時が近づいているように思う。それはGoogleなのかAppleなのか、それとも…。