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マツダ CX-3 XD:新車試乗記

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キャラクター&開発コンセプト

新世代商品の第5弾

新型CX-3は国内では2015年1月の東京オートサロンで初公開された
2014年11月にグローバルで発表、2015年2月27日に日本で発売された「CX-3」は、マツダの新型コンパクトクロスオーバーSUV。マツダにとってはCX-5、現行アテンザ(海外名マツダ6)、アクセラ(マツダ3)、デミオ(マツダ2)に続いて、「SKYACTIV」技術と「魂動」デザインを全面的に採用した新世代商品の第5弾になる。

国内ではディーゼル専用車

(photo:Mazda)
プラットフォームなどの基本設計は、昨年発売された新型デミオがベース。また、エンジンも新型デミオに搭載された1.5L直噴ディーゼルターボ「SKYACTIV(スカイアクティブ)-D 1.5」が採用されている。海外向けには2.0Lガソリン車も用意されるが(北米はガソリン車のみ)、国内向けはマツダ初の“クリーンディーゼル専用車”とされた。 グローバルでの販売計画は年間15万台で、本社の宇品工場で全て生産する。国内の月販目標は3000台だが、初期受注は発売から1ヶ月弱の3月23日時点で1万台を越えたとのこと。ディーゼル専用車でこの台数、というのがすごい。
 
■参考記事 ・新車試乗記>マツダ デミオ XD (2014年12月掲載) ■外部リンク ・マツダ>ニュースリリース>新型「マツダ CX-3」を発売(2015年2月27日)マツダ>ニュースリリース>新型「マツダ CX-3」の販売が好調(2015年3月26日)
 

価格帯&グレード展開

ディーゼルのみで、価格は237万6000円~

中間グレードの「XDツーリング」。ボディカラーは全8色で、写真はソウルレッドプレミアムメタリック (photo:Mazda)
日本仕様はディーゼルの「SKYACTIV-D 1.5」搭載車のみ。価格は上級装備を省略し、16インチタイヤを履く標準グレードの「XD」が237万6000円~。LEDヘッドライトや18インチタイヤを標準装備するほか、ミリ波レーダーを使った先進安全装備がオプションで選べる「XDツーリング」が259万2000円~。先進安全装備に加えて、レザー&人工スエード表皮の2トーンシートなどを標準装備する最上級グレード「XDツーリング Lパッケージ」が280万8000円~。初期受注では、中間グレードのXDツーリングが63%と最多のようだ。

全グレードに6MTを用意。マツダコネクトは全車標準

「XD ツーリング Lパッケージ」の外観はフォグランプがLEDになり、ブライトサイドガーニッシュが備わる。写真は初期受注で一番人気のセラミックメタリック (photo:Mazda)
画期的なのは、どのグレードでも6ATか6MTか、FFか4WDかを選べること。特に6MTをスポーツカーでもないのに全仕様で用意するのは、日本車では異例中の異例。6ATと6MTは同価格で、CX-5と同じ方式の電子制御多板クラッチ式4WD「i-ACTIV AWD」は21万6000円高になる。 7インチディスプレイやコマンダーコントロールで構成される改良型「マツダコネクト」は全車標準。ただし、最新16GB版のナビゲーション用SDカードPLUS(4万8600円)と、CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVフルセグチューナー(3万2400円)は別途オプションになる。
 
Lパッケージではシートがピュアホワイト(レザー)/人工スエード(ブラック)のコンビになる (photo:Mazda)
赤外線レーザーで前方を監視し、30km/h以下で自動ブレーキをかけるSCBS(スマート・シティ・ブレーキ・サポート)も全車標準。ただし、さらに高度なミリ波レーダーを使用するセーフティクルーズパッケージ(より高い速度域で作動する自動ブレーキやレーダークルーズコントロール等がセット)は、XDツーリングにオプション設定(11万8000円)、同Lパッケージなら標準装備される。

オプションで「ナチュラル・サウンド・スムーザー」を用意

CX-3で新採用されたナチュラル・サウンド・スムーザー (photo:Mazda)
オプションで興味深いのが、XDツーリング以上の6AT車で選べる「イノベーションパッケージ」(6万4800円)。これは、ピストンピンの内部にダイナミックダンパーを内蔵することでディーゼルエンジン特有のノック音(いわゆるカラカラ音)を減らす新技術「ナチュラル・サウンド・スムーザー」と、回生ブレーキで発電した電気をキャパシタに貯めて加速時の電力供給に使う「i-ELOOP(アイ・イーループ)」をセットにしたもの。ちなみにi-ELOOP装着による燃費の向上分はJC08モードで0.2km/L。
 

パッケージング&スタイル

凝縮のデミオに対して、伸びやかなCX-3

試乗車は16インチタイヤの標準グレード「XD」(オプションでLEDヘッドライト等を装着)
CX-3のプラットフォームは、平行して開発されたデミオと共通だが、そのスタイリングは凝縮感のデミオに対して、全体に伸びやか。SUVらしからぬスポーティさがあり、普通に「カッコいい」。マツダに言わせれば、デザインテーマの「魂動」をスタイリッシュに表現したもの、ということになる。ボディサイドに一般的なキャラクターラインはなく、その代わりにフロントフェンダーとリアフェンダーの両端から始まって中央で交錯する強いショルダーラインがあり、それによってスポーツカー的な、あるいは新型ロードスターにも通じるコークボトル的な抑揚を巧みに表現している。上手過ぎ。個性派ぞろいの欧州市場でも目を引きそう。

ホイールベースはデミオと共通

CX-3はクラス的にはCX-5の弟分であり、実際そのボディサイズはCX-5より265mm短く、75mmナローで、155mm低い。全高が機械式立体駐車場に入る1550mmなのも日本では武器になる。 一方、ハードウエア的には、現行デミオから派生した上級モデルでもある。デミオとの比較では、ホイールベースこそ同じ2570mmだが、全長は215mm長く、全幅は70mmワイドで、背が50mm高い。要するにボディ外寸は、CX-5とデミオのほぼ中間。 ボディサイズ的に近いのはホンダ ヴェゼルだが、キャラクター的にはゴルフ7とも競合しそうではある。
 
最少回転半径は5.3m。取り回しはごく平均的なところ
ホイールベースはデミオと共通。最低地上高もデミオの15mm増しに過ぎない
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転半径(m)
VW クロスポロ (2014~) 4000 1710 1490 2470 4.9
トヨタ アクア X-URBAN(2014~) 4030 1695 1490 2550 5.4
4代目マツダ デミオ(2014~) 4060 1695 1500 2570 4.7~4.9
日産 ジューク (2010~) 4135 1765 1565 2530 5.3
VW ゴルフ 7(2013~) 4265 1800 1460 2635 5.2
マツダ CX-3 (2014~) 4275 1765 1550 2570 5.3
ホンダ ヴェゼル (2013~) 4295 1770 1605 2610 5.3
スバル XV ハイブリッド(2013~) 4450 1780 1550 2640 5.3
マツダ アクセラ スポーツ (2013~) 4460 1795 1470 2700 5.3
マツダ CX-5 (2012~) 4540 1840 1705 2700 5.5
 

インテリア&ラゲッジスペース

インパネはデミオと共通。質感をさらに向上

視点はデミオより少し高く、室内幅やAピラーの角度もあってか、眺めはやはりクロスオーバーSUV的。タイト感とゆったり感のバランスがいい
内装もデミオがベースであり、インパネもそっくり……ではなく、実はほぼ共通(メーターカバーなど一部は異なる)。一眼風メーター、タブレット風ディスプレイ、ダッシュボードなども共通で、室内幅が広がった分はドアトリムの厚みアップに使っている。つまりデミオの内装質感が妙に高かったのは、この辺がCX-3と共通だったから、とも言えるわけだ。 上手いと思ったのが、エアコンルーバーベゼルの色使い。彩度を抑えたダークレッド(Lパッケージはサテンクロームメッキ)という選択に、ドキッとするほどのセンスを感じる。また、「XDツーリング」以上になると、センターコンソールのニーパッド、ドアアームレスト、ステッチ(実は成形品)もダークレッドになる。
 
XDツーリング以上は中央がタコメーターで、速度がデジタルになり、ヘッドアップディスプレイが標準 (photo:Mazda)
ベースグレードの「XD」は中央が速度計。左の液晶タコメーターはちょっと見にくい
 

ドラポジOK。マツダコネクトも進化

ドラポジ、座り心地、ホールド性、共に文句なしのシート。アクセルペダルはオルガン式
Be a Driver.のマツダゆえ、ドライビングポジションにも妥協はない。デミオ同様に、足もとを侵食しがちなホイールハウスを前に追いやって、オルガン式ペダルを理想的に配置。そのペダル位置を基準に、チルト&テレスコが可能なステアリングや、新開発の振動吸収ウレタンを使用したシートを合わせている。アイポイントこそ少し高めだが、クルマとの一体感は高い。 また、コマンダーコントロールで、ナビやオーディオ等を遠隔操作できる「マツダコネクト」は、アクセラなどでは操作性やナビ性能などで不評だったが、CX-3では大幅に改良され、見違えるほど操作しやすくなった。これについては「ここがイイ」で再び触れる。
 

荷室もデミオ+α

後席はデミオより着座位置やアイポイントが高めで、居心地が良い
荷室容量はデミオより70L多い350Lで、おおむねCセグメントのハッチバック並み。ただし、おそらく外観デザインやボディ剛性確保の兼ね合いだろう、デミオ同様に敷居(バンパー)がかなり高めなので、重い荷物の積み降ろしは大変そう。 SUVでこれはいかんだろうということで、CX-3には床の高さを2段階で選べるフレキシブルボードが備わるが、いずれにしても自転車やキャンプ用品を満載するというよりは、普段の買い物には十分、といったところ。
 
トノカバーを外し、フレキシブルボードを上段にした状態。後席使用時の荷室容量は350L
フレキシブルボードと床板の下には、パンク修理キットと小物スペース
 

基本性能&ドライブフィール

心なしかデミオより静かでスムーズ

試乗したのは標準グレード「XD」のFF・6AT。 同じ「SKYACTIV-D 1.5」のデミオXDでも感じたことだが、相変わらずこの小排気量ディーゼルターボは素晴らしい。最高出力は105ps/4000rpmと控えめで、おおむね1.5Lガソリンエンジン並みだが、最大トルクはデミオより重いボディ(FF・6AT同士では130kg増)に対応すべく、過給圧を上げることで20Nm(2.0kgm)増しの270Nm(27.5kgm)/1600-2500rpmに引き上げられている。トルクの方は、ガソリンエンジンで言えば2.8L並みといったところ。
 
車重はFFの6ATで1260kg。だからパワーウエイトレシオは12kg/psに留まるが、実際に走らせてみるとその大トルクは伊達ではなく、思うがままにグォーと力強く加速する。デミオXDより心なしかスムーズさが増したように感じるのは、マツダが主張するように燃焼特性が改善されてエンジンノイズが減ったせいか、遮音材で静粛性を高めたせいか。とにかく、全体としてデミオよりこなれた感じ、洗練された感じが、走りだしてすぐに伝わってくる。

高速道路ではマラソンランナーの如く

このエンジンの魅力はディーゼルらしい分厚いトルクとガソリンエンジンみたいなスムーズな吹け上がりを併せ持つこと。冷間時こそ「コロコロコロ」というディーゼル特有のノック音が目立つが、エンジンが温まりさえすれば、そして回転を上げさえすれば、ディーゼルとは思えないほどスムーズに回る。レッドゾーンは5000rpmからだが、4000rpm以上でも回り方は軽い。 高速道路では低回転のまま、マラソンランナーがジョギングでもするかのように淡々と涼しい顔で突き進む。100km/h巡航時の回転数はわずか約1700rpm。登坂路に入っても、坂とは思わせない素振りで軽々と上ってゆく。
 
そしてCX-3でもう一ついいのは、80~100km/hで巡航している時でも充実感があること。CX-5やアテンザの2.2ディーゼルだと、もう少し飛ばしたいという誘惑にかられるが、CX-3なら満足できる。ちなみにトップスピードは、最高出力が105psなのでそう伸びるわけではなく、UKマツダのHPには4WD車(ATとMT)で172km/h、FF・6MT車で177km/hという数字があった。 なお、ピストンピン内のダイナミックダンパーでディーゼルノック音を抑制するという世界初の機構「ナチュラル・サウンド・スムーザー」は、試乗車には残念ながら装備されていなかったが、それほど必要は感じなかった。

ロードスターに通じる?ハンドリング

ベースグレードは16インチタイヤが標準だが、グリップ感に不足なし。
試乗車は上級グレードの215/50R18タイヤに対して、大人しい16インチタイヤ(215/60R16)を履く仕様だったが(ちなみにデミオ XDは3cm細い185幅の60R16か65R15)、ハンドリングは予想以上だった。フロントに重いディーゼルエンジンを積む分、操舵した瞬間のレスポンスは半テンポ遅れるものの、その先はまるでロードスターのように、は言い過ぎにしても、適度にロールしながらフロントが素直にインを向く。資料には歴代ロードスター同様に「人馬一体」を目指したとあるが、なるほど確かにそうかもと思わせる。 なお、フロアの多くはデミオと共通だが、CX-3のボディ各部には補強が入り、トレッドもワイドで(前が+30mm、後ろが+40mm)、タイヤも一回り以上大きい。リアサス型式はデミオと同じトーションビームだが(アクセラ以上だとマルチリンクになる)、これも別物。トーションビームのネガを感じる局面は一度もなかった。実際、半年前に乗ったデミオXDと比べても、電動パワステは軽めで、身のこなしも軽快。デミオではリアがドラムだったブレーキも、CX-3では4輪ディスク化されている。 乗り心地も良好で、フラット感も文句なし。もっと格上のクルマでドカンと突き上げを食らうことがある某コーナーでも、ゴツンという音だけで軽くやり過ごしてくれた。この一点だけでも「お主、やるな」という印象を受けた。

試乗燃費は13.3~19.8km/L。JC08モード燃費は23.0km/L(6AT・FF)

今回はトータルで約200km試乗。試乗燃費はあくまで参考ながら、いつものようにワインディングや高速道路を走った区間(約80km)が13.3km/L。一般道と高速道路を走った区間(約30km)が15.1km/L。無駄な加速を控えて一般道を走った区間(約30km)が19.8km/Lだった。実用燃費がとても良く、つまりJC08モードとの隔たりが少ない印象で、条件が良ければ20km/L台も現実的と思えた。 JC08モード燃費は、試乗した6AT・FF車で23.0km/L。全体では6MT・FF車の25.0km/Lから、XD ツーリング 6AT・4WDの21.0km/Lまで。 燃料タンク容量は、FFが48Lで(デミオXDのFF・6ATより4L多く、なぜか同6MTより13Lも多い)、4WDが44L(デミオと同じ)。なので高速道路なら、無給油1000kmも夢ではない。軽油の価格は、今回給油したガソリンスタンドでは104円で、ハイオクより約30円、レギュラーより約20円安かった。
 

ここがイイ

とにかく完成度が高い。立駐OKのサイズ。良くなったマツダコネクト

エンジンよし、ハンドリングよし、燃費よし、ボディサイズよし、質感よし、安全装備よし、改良されたマツダコネクトよし、値段よし、作りよし、イメージよしと、すこぶる良いクルマ。早くも今年の国産車・オブ・ザ・イヤーはこれだと思えるほど素晴らしくよく出来ている。CX-5以降、アテンザ、アクセラ、デミオと、フルスカイアクティブと魂動デザインの力作が続いたが、それらにあった細かな「気付き」を見事に修正してきたのが、最近マイナーチェンジしたCX-5やアテンザであり、今回のブランニューモデルであるCX-3。今のマツダは商品の出来から、販売実績、そして企業イメージまで絶好調だが、CX-3はそんな今のマツダを象徴している。 これまでマツダ車はスタイリングやハンドリングはいいけど、○○がちょっと、みたいな弱点があったのだが、このクルマに死角はない。あえて言えばディーゼルが好きじゃない人には向かないことくらいだが、ディーゼル車なんだからそれは仕方ない。VWのゴルフ7と比べて悩むに値する、稀有な国産車。 SUVスタイルでありながら、古い立体駐車場にも入る全高。狭い駐車場で隣のクルマからのドアパンチを幾分でも回避してくれる全幅。日本国内では使いやすさという点において理想的なサイズだと思われる。
 
改良されたマツダコネクト。アクセラで導入されたものは評価が芳しくなく、新型デミオでもまだ今一歩だったが、CX-3では別物のようにきっちり改良された。地図データなどが入った販売店オプションのSDカード(従来は4GB)も、今回から16GBのSDカードPLUSにアップデートされた。これだけ使えるようになれば、最近日本車の純正車載ナビで増えてきたタッチパネル式より、やっぱりこっちの方がいいと思える。ちなみに、現行アクセラや現行デミオといった対象車種であれば、すでに納車済みでもSDカードの交換などで無償アップデートすると発表されている。 車両と一体型のナビは、使い勝手が悪くても購入後の付け替えは難しいのが難点だが、マツダコネクトの場合は、OSレベルからソフトウエアのバージョンアップが可能という点に期待したい、と現行アクセラ登場時に書いた。実はそんな登場時の口上を聞いて、ほんとにできるのかなと思っていたのだが、それをマツダは本当に実現してしまった。ソフトウエア次第で性能をアップデートできるというのは、車両と一体型の情報システムに本来求められる姿であると思う。その意味でも、これからはマツダコネクトを推したいし、同時に有料でもいいから末永くバージョンアップされて行くことを希望する。 あと、試乗車はオプションのBoseサウンドシステム(7スピーカー)ではなく、標準の6スピーカーだったが、妙に音が良かった。このあたりも誰かが「こだわった」のだろうか。 ■外部リンク マツダ公式HP>マツダコネクト及びナビゲーション用SDカードに関する重要なお知らせ

ここがダメ

ナチュラル・サウンド・スムーザーの設定範囲。グリルまわりのデザイン

ディーゼルエンジンのノック音を抑制するという「ナチュラル・サウンド・スムーザー」は、上位グレードの6AT車でしか選べないが、下位グレードや6MTでも選べると良かった。静かになったとは言え、やはりノック音はあるので、それが多少でも消せるのなら試してみたいもの。あと、これはi-ELOOPとセットになってしまうが、単独にしてもう少し安く設定するか、全車標準でも良かった。 強いて言えばマツダのアイデンティティであるグリルまわりは、ちょっと微妙。よく出来たスタイリングの中では少し目立ち過ぎる気も。好みや慣れの問題とは思うが。

総合評価

すべては小さな会社ゆえに

このところの試乗車は褒めてばかりなのだが、これもまた、なんだかもう大変素晴らしいクルマだとしか言いようがない。ディーゼルなのに走りが良くて、実用燃費もなかなかいい。しかも軽油は安いから、燃料代はハイブリッド車並みとも言っていいかも。一見して内装の質感は高く、問題の多かったナビも本来の狙い通りに動くなど、驚くほど良くなった。絶対的な速さを求める人には物足りないだろうけれど、一般公道上でも走ってる実感を味わっていたい人には、まさに手頃なパワー&トルク感だ。最近、試乗するクルマごとに「いいなあマツダ」と言ってきたが、これはもうその頂点となる一台かと思う。新型ロードスターにはまだ乗ってないが、今年のイヤーカーはこのクルマでもう決まり、でいいかも。 そんなマツダは、他社が大幅に前年比で落ち込んだ2015年4月の国内販売でも、CX-3のおかげで登録車では前年比77.9%増と、他社ではありえないアップ率を記録。ただ、そうは言っても軽自動車を含めた4月の総販売台数でランキングしてみると、国内8メーカーの中で6番手ということになる(マツダの下にいるのはスバルと三菱だ)。
 
マツダは本年4月の登録車が1万3160台(ちなみにトヨタは9万9833台)で、軽自動車が2585台。マツダの軽自動車はスズキのOEMだから、例えばアルトにはマツダマークが付いてキャロルという名で売られている。マツダ自社生産の登録車は、国内では年間約17万台(2014年実績)が販売されているにすぎない。世界市場でもシェアが2%いかない程度のメーカーなわけで、まあ自動車メーカーとしてはかなり小さな会社と言えるだろう。しかし小さいながらも完全に独立したメーカーだ。 そんなマツダもかつて経営危機のため銀行主導となっていた頃、あるいはフォードの傘下にいた頃は、今のようなクルマ作りはできていなかった。しかし最近はどれをとっても素晴らしいクルマだ。まあ、どれをとっても、と言えるくらい現行ラインナップが少ないので、そうも言えるわけだが。それゆえにマツダ言うところの「一括企画」でブランドイメージが構築でき、「不変の価値と最良を追求」しやすいのだろう。小さい会社ゆえに、いいモノを作って、確実な数を売っていけばなんとかなる、という商売が成立しているわけである。
 
また小さい会社ゆえに社内の意思統一もしやすいのだろう。マツダの人はあまり存じ上げないが、官僚的なところの少ない企業なのかもしれない。とにかく登場するクルマがどれも素晴らしい出来なのは、小さな会社ゆえということだろう。それはかつて少量生産だったころのメルセデス・ベンツと同じなのではないかと言うと褒めすぎか。 その点、大きな会社はたいへんだ。まず数を売らないと全体が食べていけないので、より多く売れるクルマを作らないといけない。つまりより大衆迎合的な商品にせざるをえないわけで、提案型の商品、チャレンジングな商品を出すことが難しい。開発陣がいくら出したいと思っても、失敗した時の様々な痛手は大きくなるので、会社として挑戦は難しいと思われる。それゆえマーケティング通りの無難なクルマを作らざるをえない。その点が昨今マツダやスバルといったコンパクトな会社から、いいクルマが生まれてきている要因の一つだと思う。クルマはダウンサイジングできるが、会社はそうはいかないのだ。

健全なブランド力はついてきた

で、マツダにとっての、いいクルマとは「欧州で勝負できるクルマ」だろう。CX-3には日本でそう売れるとは思えないMTも設定されているが、これはもちろん欧州では必要だからであり、これも少量販売ゆえ国内でも柔軟に対応できたということだろう。それゆえ欧州車の好きな日本のクルマ好きがますます支持してしまうことになる。 日本市場では、そんなクルマ好きに好まれるクルマはたくさん売れなかったものだが、CX-3は今のところよく売れている。それはマツダブランドに対する価値観が変わってきたからだろう。かつてはマツダ地獄などと言われて下取り価格の低下を嘆かれたマツダ車だが、中古車オークションによって人気さえあれば下取り価格が高くなる時代となって久しいゆえ、今そんな記憶がある人はかなりの年配者だけ。昔のクルマに詳しくない昨今の人々は、マツダというブランドにネガな印象はなく、「マツダやスバルは個性的だからステキ」なんて人も増えてきた。そういう人なら、スタイルがいい、燃費もよさそう、クルマ好きからの評判もいい、ということで、これは買ってもいいか、となるのだろう。
 
お金があって、いわゆる高級ブランド品としてコンパクトSUVが欲しい人は、ポルシェのマカンあたりに行くだろうが、現実的な価格でいいモノを買いたい人はマツダ CX-3に行くという健全なブランド力はついてきたのでは。長期にわたって一貫した姿勢でブランドを育てるという小さな会社の成功法を見事に体現しており、中小企業の経営者には参考になる。 しかしながら資本主義は過酷で、今後は予断を許さないだろう。今は頂点にあるのかもしれない。多くの日本企業がそこから転げ落ちているのは衆知の通り。果たして今後マツダは、業界再編の中でどうなっていくのだろう。独立を維持できるのだろうか。それとも高いブランド価値を作り上げてから、例えばハイブリッドシステムの供給を受けて関係を深めているトヨタチームにでも入っていくのだろうか。そこもまた中小企業経営者にとっては注目されるところだ。しかしクルマ好きとしては、たとえそうなったとしても、今のいいクルマづくりを続けていってくれることを祈りたい。それこそが最も難しいことだと思う。
 

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