キャラクター&開発コンセプト
NDロードスターの電動ハードトップモデル
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ニューヨーク国際モーターショー2016にて世界初公開された「MX-5 RF」
「マツダ ロードスター RF(以下RF)」は、4代目「ND」型マツダ ロードスターに電動格納式ルーフを搭載した、マツダ言うところのリトラクタブルハードトップモデル。2016年3月のニューヨーク国際モーターショーにて海外名「MX-5 RF」の名で発表され、日本では2016年12月22日に発売された。RFとは「リトラクタブル・ファストバック(fastback)」を意味する。
RFは、先代NC型のリトラクタブルハードトップモデル「ロードスター RHT」の後継になるが、RFでは新たにルーフからテールエンドまでなだらかにラインが傾斜するファストバックスタイルを採用。また、電動ルーフは、屋根の一部とリアウインドウだけを格納するユニークな方式となった。
国内向けNDに2.0Lエンジンを初搭載
国内向けNDロードスターのエンジンは、これまで1.5Lガソリンのみだったが、今回のRFでは北米など一部海外向けにあった2.0Lガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」仕様を初めて国内に導入した。
また、走りのトップグレートして、専用Recaro製シートやビルシュタイン製サスペンションを標準装備した「RS」を設定。併せて、茶系のレザーシートを装備してシックな雰囲気でまとめた新グレード「VS」を設定し、ロードスターの上級モデルにふさわしい仕様としている。
RFの月販目標は250台
NDソフトトップ車のデビュー時に掲げられた国内の月販目標は500台だったが、今回追加されたRFの月販目標は250台。RFの累計受注台数は、発売から一ヶ月で2385台とのこと。
生産は海外向けも含めて、マツダ本社の宇品第1(U1)工場(広島市南区)で行われる。
なお、ロードスターは2016年4月に累計生産台数100万台を達成している。「2人乗り小型オープンスポーツカー」としては断トツで世界一の台数であり、今も記録を更新中だ。
■外部リンク
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マツダ>「ロードスター RF」を発表(2016年11月10日)
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マツダ>「ロードスター RF」の販売好調(2017年1月26日)
■過去の参考記事
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新車試乗記>(ND型)マツダ ロードスター(2015年7月掲載)
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新車試乗記>(NC後期型)マツダ ロードスター RHT(2009年4月掲載)
価格帯&グレード展開
324万円からスタート。1.5L・ソフトトップ車より50万~70万円高い
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ロードスター RF RS
RFは3グレード構成で、ベースグレードの「S」(6MT/6AT)、オーバーン(ブラウン系)色のナッパレザーシートを備えた「VS」(6MT/6AT)、専用Recaro製レザーシートやビルシュタイン製サスペンションを標準装備した「RS」(6MTのみ)となる。RSではBrembo社製ブレーキとBBS製鍛造アルミホイールのセットオプション(32万4000円)が選択できる。
価格は以下の通りで、1.5L・ソフトトップ車とはエンジン排気量、ルーフシステム、装備が異なることもあり、RFの方が50万~70万円ほど高くなる。
【リトラクタブルハードトップ】
2.0L直4 (158ps、200Nm)
JC08モード燃費:15.6km/L(全車)
■RF S 324万円(6MT)/326万1600円(6AT)
■RF VS 357万4800円(6MT)/359万6400円(6AT)
■RF RS 373万6800円(6MT) ※試乗車
【ソフトトップ】
1.5L直4 (131ps、150Nm)
JC08モード燃費:17.2km/L(6MT)、18.8km/L(6AT)
■S 249万4800円(6MT)
■S スペシャルパッケージ 270万円(6MT)/280万8000円(6AT)
■S レザーパッケージ 303万4800円(6MT)/314万2800円(6AT)
■RS 319万6800円(6MT)
一番人気はVSのマシーングレーPM
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ロードスター RF VS (マシーングレー プレミアムメタリック)
マツダによれば、RFの初期受注におけるグレード別構成比は、「S」が17%、「VS」が61%、「RS」が22%。トランスミッション別ではATとMTが半々。
ボディカラーはソフトトップ車の全7色のうち、5色が共通となる全6色。一番人気はオートカラーアウォード2016でグランプリを受賞したという新色「マシーングレー プレミアムメタリック」(48%)。次に「ソウルレッドプレミアムメタリック」(20%)。VSでは、ルーフセンター部分をピアノブラックで塗装した2トーンルーフ(5万4000円)も選べる。
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ロードスター RF VS
パッケージング&スタイル
ファストバックで電動ルーフを実現
先代NCで販売台数の半数を超えていたというRHTモデル。ゆえにRHTの追加は、NDの開発時点で当然ながら設計に織り込み済みと思うわけだが、実際にRHTの開発がスタートしたのは、NDの開発が終盤になってからだという。そしてそこで初めて、ホイールベースがNCより20mm短く、キャビン(乗員空間)が後方に50mmほど移動したNDでは、NCと同じ方法でルーフを格納するのは不可能だと気付いたらしい。少々信じがたいが(笑)、本当の話のようだ。
■外部リンク
マツダ公式サイト>【ロードスター RF 開発秘話】
http://blog.mazda.com/archive/20160727_01.html
http://blog.mazda.com/archive/20160831_01.html
http://blog.mazda.com/archive/20160921_01.html
そして試行錯誤の結果、たどりついた方法が、格納が難しいCピラーをオープン時に残し、それならいっそ、という感じで? ファストバックスタイルを採用すること。リアウインドウはフェラーリやロータス等のミッドシップモデルでよく見られる小型の垂直タイプにして格納できるようにした。このデザイン手法はバットレス(buttress)と呼ばれるもので、もともとは建築用語で「控え壁」(外壁の補強のため垂直に張り出した柱状の壁)を意味するらしい。デザインが先か、必要にかられてか、なかなか微妙な話ではあるが、「誰もが心打たれる美しさを目指した」とするRFのスタイリングは、こうして生まれたらしい。
開閉は全自動で約13秒。約10km/hまで操作可能
結果、RFはルーフとリアウインドウが約13秒で格納可能になり、クローズド時にはファストバッククーペの、そしてオープン時にはタルガトップ風のスタイルをまとうことになった。
なお、リアクォーターガラスに見えるのは、黒の樹脂パネル。裏には開閉機構のリンクがあり、仮にガラスであっても助手席ヘッドレストが後方視界を遮るため、デザインとして割り切ったという。
また、ルーフの開閉がスイッチ一つの全自動になったのもニュースだ。先代RHTは開閉時間こそ約12秒と速かったが、フロントガラス上のロック操作が手動であり、しかもMT車はギアがニュートラル、AT車はPかNレンジでしか操作できないため、走行中は開閉できなかった。RFはロック機構も含めて全自動になり、しかも走行中でも約10km/hまでなら操作可能になった。
インテリア&ラゲッジスペース
驚くほどタイト
インパネデザインはソフトトップ車とほぼ同じ。異なるのは電動ルーフの開閉スイッチがセンターコンソールに追加されたこと、そして3眼メーターの一番左にある液晶ディスプレイに、電動ルーフの動作状態が表示されるようになったこと。動作の完了を電子音だけでなく、前を向いたまま表示で確認できるようになったのは便利だ。
さて、NDロードスターのシートに座って最初に思うのは「狭っ!」だろう。生粋のスポーツカーと言えば、乗るではなく「着る」ではあるが、量産車でここまでタイトなクルマも珍しい。また、降りる時の足運びのしにくさも、なかなかのものがある。革靴で乗るとサイドシルが傷だらけになりそう。
ドライビングポジションは意外にOK
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レカロ製シートを標準装備する「RS」
歴代ロードスター同様に、ヒップポイントは少し高めで、「もうちょっと下がらんかな」と思うが、座面は角度しか調整できない。また、「ステアリングをもう1センチ手前に引きたい」とも思うが、ステアリングにテレスコ調整が相変わらずないのはロードスターの伝統か。それでも前後スライドを1ノッチか2ノッチ調整すれば、身長180cmでも収まりのいいポジションがとれる。
FRゆえセンタートンネルは大きく張り出しているが、ペダルレイアウトはさすがマツダで、文句なし。アクセルペダルはオルガン式だ。
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ドリンクホルダーはこの場所だと超使いにくいが、一つだけは助手席側に移設することができる
荷室容量はソフトトップ車とほぼ同じ
トランク容量は、先代NC(ソフトトップとRHT共に150L)より減ってしまったが、NDのソフトトップ車(130L)とほぼ同等の127L。どう見てもゴルフバッグは無理だが、航空機内に持ち込み可能なキャリーオンバッグなら2つ収納できるという。
また、RFではトランク内に工具などを収納できるマルチボックスが新設された。ちなみにNDにはグローブボックスというものがなく、室内には取扱説明書や車検証といったかさばるものを入れておく場所がない。
ちなみにトランクの開閉スイッチは室内にはなく、リアナンバー灯の横にある。ちょっと押しにくいのと、指が汚れるのがささいな欠点だ。
基本性能&ドライブフィール
フラットトルクで意のままに加速
試乗したのはレカロ製シートやビルシュタイン製サスペンションを標準装備する「RS」(373万6800円)。オプションのブレンボ製ブレーキやBBS製鍛造アルミホイールも付いていて、価格は400万円ちょっと。
RSは6MTのみ。クラッチを踏み込んでスタートボタンを押すと、ブオン!と軽くブリッピングして2.0Lエンジンに火が入る。発進はエンスト知らずのウルトライージー。さすが2.0L、1500rpmも回っていえば超フラットトルクで、意のままに加速してくれる。しかも6速ミッションのギア比は、最終減速比も含めて1.5Lと同じだ。
CX-5やアクセラでおなじみの「SKYACTIV-G 2.0」(PE-VPS型)エンジンは、ロードスターに搭載するにあたって縦置きになり、圧縮比13.0のハイオク仕様「PE-VPR型」に変更されている。先代NCの2.0Lエンジンは170ps/6700rpmだったが、RFは158ps/6000rpm。ピークパワーより出力特性を重視したものだ。
広い道路に出て、1速でひと踏み、2速でひと踏み。回転域やギアを選ばず、どこから踏んでもリニアに加速し始める。最近は直噴ターボ車やハイブリッド車に乗る機会が多いため、こんなに素直にレスポンスするエンジンって久しぶりだなぁと思う。さすが自然吸気。
車重(MT)は1100kgで、1.5LソフトトップのRSより80kgほど重いが、NC型のRHT(RS)と比べれば60kgほど軽い。パワーウエイトレシオは7.0kg/psで、1.5Lソフトトップ(7.8kg/ps)より、当然ながらパワーには余裕がある。
MT車でもアイドリングストップ
MT車でも、メーターには使用中のギアを示すギアシフトインジケーターが付いており、燃費運転を促すべく、「5 → 6」といった具合に、早めのシフトアップを促す表示も出る。言われた通りシフトアップすれば、2000rpmを超えることは滅多にない。また、そんな走り方を可能にする柔軟性がこのエンジンにはある。
などと感心しながら赤信号で停まると、エンジンがパタリとアイドリングストップする。RFには全車「i-stop」と、小型のリチウムイオン電池を使った減速エネルギー回生システム「i-ELOOP」が標準装備されており、それはMT車でも例外なし。クラッチを踏み込めば、スムーズにエンジンが再始動する。最初は「エンスト」に驚くが、途中からまったく気にならなくなる。
軽快な1.5Lソフトトップにない、大人の落ち着き
1.5Lソフトトップでは、軽快でヒラヒラ動くボディを、非力だが軽快に回るエンジンで走らせるのが、いかにもライトウエイトスポーツ的で爽快だったが、RFではエンジンを回さなくても加速してくれるのが気持ちいい。また、重厚感と言うほどではないが、一クラス上の落ち着きがあり、それが大人っぽい「いいクルマ感」をドライバーに伝えてくる。
ソフトトップ車のタイヤは195/50R16だったが、RFは全車205/45R17(BSポテンザ S001)。さらにRSはビルシュタイン製サスペンション仕様ということで、乗り心地はいかにも「ビル」っぽく硬い。スポーツカー好きなら問題なし、乗り心地重視派なら「ちょっと気になるな」というところか。路面が平滑なら全く問題ないが、田舎道にありがちなパッチだらけの荒れた路面ではフロアがワナワナ震えて、少なからず気になった。その意味では、SやVSの標準サスペンションも正解の一つだと思う。
よく曲がり、よく走り、そして楽しい
ハンドリング自体はロードスターらしく、足がよく動き、素直に姿勢変化するもの。全体的にソフトトップ車よりしっとり大人な感じだが、トルクがあるから後輪で路面を蹴りながらコーナーを立ち上がる、なんてことも得意。前後重量配分はほぼ50:50だし、出力特性もフラットだから、コントロール性は素晴らしく高い。よく曲がり、よく走り、そして飛ばさなくても楽しい。こんなクルマは滅多にない。
ちなみにオプションのBrembo製フロントブレーキ(対向4ピストン&ベンチレーテッドディスク)は、よく効くというより、剛性感のあるタッチが売り。キーキー鳴かないし(笑)、赤キャリパーのカッコよさで選びたくなる装備ではある。
真冬でも寒くない
オープン走行時は、サイドウインドウを上げておけば風の巻き込みがほとんどなく、街乗りや一般道ではとても快適。多くのタルガトップと異なり、オープン時にはリアウインドウが格納されるため、ヘッドレストの後ろは吹き抜け状態だが、そこには巻き込みを適度に抑えるための脱着式アクリル製ディフレクターも備わっている。ゆえに解放感も、いわゆるタルガトップよりはある。
また、ヒーターおよびVSやRSに標準装備されるシートヒーターも非常に強力で、今回のような真冬でも、普段着のまま、ほとんど寒さ知らずで乗れた。
クローズドでも風切り音が気になる
100km/h巡行時の回転数は6速トップで2500rpmで、これは1.5Lソフトトップ車と同じ。エンジン音やロードノイズはほとんど気にならないが、Cピラーのあたりでザワザワいってる風切り音は、クローズド時でもかなり大きめ。プレスリリースには「吸音、遮音技術を駆使することで、クローズ時は通常の乗用車と同等の静粛性を実現」とあるのだが。
当然ながら、この風切り音はオープン時にはもっと盛大になる。この点についてもマツダは「耳周りの風の巻き込みを徹底的に減らすことにより、オープン走行時の不快音を低減」(プレスリリース)と説明しているが、ルーフ形状を安易に変えるわけにはいかない以上、ここも対策には苦労した部分だろう。
試乗燃費は12.0~14.0km/L、JC08モードは15.6km/L
今回はトータルで約350kmを試乗。試乗燃費は、いつもの一般道と高速道路を走った区間(約80km)が12.0km/L。一般道を大人しく走った区間(約90kmの平均)が14.0km/L。高速道路で80~100km/h巡行した時は、平均で20km/Lを超えた。
JC08モード燃費は、MTとAT共通で15.6km/Lで、指定燃料は前述の通りプレミアム、タンク容量は45Lだ。
ここがイイ
大人向けの乗り味。独自のスタイリング
1.5Lのいかにもライトウエイトスポーツ的な乗り味も良かったが、RFの、ちょっと大人な雰囲気も魅力的。今どき400万円近くする2人乗りオープンスポーツを新車で買えるのは、いい歳の大人しかいないだろうから、このRFの方が販売的には本命かも。マニアックな1.5Lに対して、より万人向けと言ってもいい。それでいて、ロードスターならではの走りの楽しさも健在。サーキット走行はいざ知らず、公道での走りに限れば明らかに86より楽しい。
開発には苦労したらしい電動ハードトップ機能だが、それでもちゃんと商品化したのはすごい。構造も比較的シンプルだし、それほど重くもない。ロードスターという素晴らしいスポーツカーに、これだけ凝った電動ルーフを装備したものが300万円台で買えることに、まずは感謝せねば。
ここがダメ
風切り音の大きさ。高速域での安定感など
風切り音がうるさい。本文で触れたようにオープン時はもちろん、クローズド時でも風切り音が気になる。NCのRHTではロードノイズが気になったが、RFではそれをかき消すほど風切り音が大きい。
また、高速域では速度に比例して浮足立つ感じが強くなる。スポイラー類でデザインを台無しにしていないのはマツダらしいが(フロントバンパーの下にはリップが追加されている)、ファストバックスタイルの空力への影響(揚力の発生など)はそれなりにあると思われる。
ハンドリングで少し気になったのは、ブレーキを残しながらコーナーに入っていくと、ちょっとヨレヨレッとすることがあり、そこから舵角を与えると軽くリアが流れること(すぐにDSC&TRCが作動して挙動を抑えこむ)。上級モデルとしての性格を考えると、もうちょっと安定感が欲しいところ。
国内向けNDに初めて搭載された2.0Lだが、そろそろソフトトップにも欲しいところ。RFに2.0Lエンジンを搭載したのは「スタイリングに見合った、よりしなやかで上質な走りを目指した」(プレスリリース)からとのことだが、それに加えて、割高なRFに付加価値を与えたかったからでもあるだろう。しかしロードスターの本流はその名の通りソフトトップ車。2.0Lエンジンとソフトトップの組み合わせが待たれる。
総合評価
「屋根」の話
1年半前に試乗した
1.5Lソフトトップ車でも、もちろん今回のRFでも、NDロードスターは素晴らしい、という評価は変わらない。そこで、RFに関しては、とにもかくにも「屋根」の問題を考えてみよう。
NCでは途中から追加されたRHTが全販売台数の半数以上を占めたらしい。それは雨、雪、そして暑い(現代のオープンモデルの場合、寒いはそれほど問題ではない)といった気候が厳しいところで、幌(ソフトトップ)のオープンカーは売りにくいということを示唆している。それは日本だけでなく、世界的な傾向だろう。幌の耐久性は昔に比べてかなり向上したと思うが、カンカン照りから大雨、台風、さらには大雪まで、過酷な自然環境にさらすのは、やはり気が引ける。ソフトトップ車はやはり屋根付き駐車場に置いておきたいが、お金持ちが買う高級車と違って、ロードスターのような大衆にも手が届くモデルに、屋根付き駐車場の確保を条件とするのは、今どきなかなか厳しい話だ。
日本だけでなく、世界的に電動ハードトップモデルが増えたのは、こういった事情が大きいと思う。先代NCでRHTがよく売れたという事実も、まさにそれを示している。ただしNDは、より理想の走りを目指して軽量コンパクトなオープンモデルとして開発されており、その結果、素晴らしいクルマが仕上がった。それは先回のND試乗記で書いたとおりだ。
RFは、言い方は悪いが、それに「無理やり」電動ハードトップを付けた、ということになる。営業的には最初からそうすべきなのだが。その結果、フルオープンにはできず、走行中に屋根を開けてもオープン感はNDソフトトップ車や先代RHTほど感じられない。リアクォーターパネルが残ったことで、「オープンカーらしさ」は少なからずスポイルされていると思った。
「クーペ」でも良かったか?
その意味では、これはもう屋根など開けなくてもよかったのでは、とも思う。RFのスタイリングは、写真で見るより実物の方がカッコいい。ロングノーズ・ショートデッキのクーペだったとしても、全然オッケーではないか。このカタチで、シート後部に手荷物スペースを作れば、使い勝手が格段に良くなり、商品力が高まりそうだ。2シータースポーツの多くは、室内に手荷物置き場がなくて、本当に困るのだ。
「それって、ボクスターに対するケイマンじゃない」という声が聞こえてきそうだが、まさにそう。ロードスターが欲しい人の中には、オープンカーが欲しいのではなく、その走りが欲しいという人が少なくないと思う。そうなるとロードスターのアイデンティティであるオープン2シーターというコンセプトから外れてしまうけれど、そこはもっと柔軟に考えてもよかったのではないか。
クーペなら複雑な電動ルーフが不要になって重量増も抑えられそうだし、ボディ剛性も高まりそうだ。また、販売価格も下げられたかもしれない。いっそケイマンのように別の車名を付けてもいい。事実、現行の718ケイマンは、718ボクスターより安くなったし、ボクスターよりケイマンの方が走りを求める人には好評だ。
2.0Lのエンジンが載って、トルクフルになったRFの走りは、1.5Lよりさらに魅力的になったと思う。と言って、手に余る性能ではなく、まさに手の内で堪能できる性能だ。そして86/BRZよりライトな感覚。それをさらに高めたロードスタークーペなら孤高のクーペになれたのではないか。
そうは言っても、フェアレディZ ロードスターも国内販売はすでになく、国産車のオープンカーと言えば他にS660かコペンくらいしかない。という意味でRFは、屋根が開くという点でまさに貴重なクルマ。かつてNA、NB、そしてNCにもデタッチャブルのハードトップがオプションで用意されていたが、あれなど一人では脱着すら困難で、装着時には重心も上がってしまう。外した屋根を置いておく場所にも悩まないといけなかった。その点RFはハードトップでありながら、いつでも開けられる。NDロードスターの性能で、オープンに出来て、いつでもどこでも野外駐車できる。そう言うと身も蓋もないが、そこにRFの大きな価値があると思う。