キャラクター&開発コンセプト
「ちょうどいい」がさらに進化
モビリオの後継として2008年にデビュー、8年間で58万台を販売したコンパクトミニバン「フリード」が2016年9月16日、2代目にフルモデルチェンジした。
新型は現行3代目フィットのパワートレインを搭載。ハイブリッドシステムは従来の1.5LエンジンとCVT(無段変速機)から成るIMAシステムから、1.5Lエンジンと7速DCTの「スポーツハイブリッド i-DCD」に変更された。開発コンセプトは「7days Wonderful Mobility」。すなわち「いつでも」「どこでも」「だれでも」思い通りに使えるコンパクトミニバンを目指したという。
プラスは車中泊にも対応
先代は3列シート車がフリード、2列シート車がフリードスパイクだったが、新型は3列シート車の「フリード」と、5人乗りの「フリード+(プラス)」の2タイプとなり、デザインはほぼ共通化された。
ただしフリードプラスでは積載性を重視し、2列目シート、荷室形状、バックドア、バンパーを別物として、荷室開口部の地上高を先代スパイクより185mm低くしたほか、標準装備のユーティリティボードによって車中泊が可能なフラットフロアを実現している。
ライバルはシエンタ
月販目標は6000台。事前受注は1万3000台、発売から一ヶ月後までの累計受注は2万7000台と、滑り出しは順調。直近の販売実績は、登録車ではプリウス、アクア、セレナ、シエンタに次ぐ5位につけている(10月が9153台、11月が1万445台)。
なお、国内ミニバン市場は現在、年間50万台ほど。うち小型ミニバンは10万台ほどだが、ミニバンもダウンサイジングが進んでおり、小型ミニバン市場は拡大傾向にある。最大のライバルはシエンタ(月販目標7000台、実績は約1万台で推移)だ。
■参考記事
・
新車試乗記>ホンダ フリードスパイク (2010年9月掲載)
・
新車試乗記>ホンダ フリード (2008年7月掲載)
■外部リンク
・
ホンダ>新型フリードの受注状況(2016年10月16日)
・
ホンダ>新型フリードを発売(2016年9月16日)
価格帯&グレード展開
ガソリン車が188万円~、ハイブリッド車が225万6000円~
価格は3列シートのフリードが188万円~、2列シートのフリードプラスが190万円~。ハイブリッド車は225万6000円~。なお、初期受注の74%が3列シート車で、53%がハイブリッド車だ。
パワートレインは1.3Lガソリン車がないのを除けば、現行フィットとほぼ共通。ガソリン車のエンジンは1.5L直噴で、トランスミッションはCVT(無段変速機)。ハイブリッド車は1.5Lアトキンソンサイクルエンジンと7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の「SPORT HYBRID i-DCD」になる。コンパクトミニバンのハイブリッド車で初となった4WD車(リアルタイムAWD)も用意された。
「プラス」に車いす仕様を設定
フリードプラスには、開口部地上高の低さを活かした車いす仕様車も用意。純エンジン車が244万円、ハイブリッド車が272万2000円だ。
ミリ波レーダーと単眼カメラを使った安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」装着車は210万円~。無料データ通信でプローブカー情報を利用できるHonda インターナビは全車オプションになる。
パッケージング&スタイル
個性ひかえめ。大型フロントガラスがアクセント
試乗したのは5人乗りのフリードプラス。外観は先代のようにフリードとフリードスパイクで分けず、ワンスタイリングに統一。プラス(FF車)にはバンパー部分から開くロングテールゲートが装備されるが、見た目はほとんど変わらない。
いずれにしても、個性的なカタチだった先代とは異なり、現行オデッセイやステップワゴンに通じるホンダ顔になるなど、今どきのトレンドに乗った常識的なデザインになった。
ただ、これでは個性が足りないとも思ったのか、フロントウインドウにはシトロエンほどではないが、頭上まで伸びる縦長のガラスを採用している。
ボディサイズは全長4265mm(プラスのFFだけ4295mm)×全幅1695mm×全高1710mm(4WDは1735mm)。シエンタとほぼ同じ大きさだ。
インテリア&ラゲッジスペース
質感はステップワゴン並みに
先代で不満が多かったというインテリア質感は大幅にテコ入れ。メーターは先代のアナログからデジタルに変更され、ナビディスプレイは大型化。素っ気なかったスイッチ類も、ステップワゴン級の質感になった。上位グレードのインパネには本物っぽい触感の木目調パネルが、そしてシートサイド部にはレザー調素材「プライムスムース」が採用されている。生活感より上級感。
とはいえユーティリティ装備も、そこそこ充実しており、ダッシュボード上面にはフタ付の小物入れ、ステップワゴンと同様の収納式テーブル、後席を映す室内確認用ミラーなどが備わる。
5人、6人、7人乗りを設定
後席は全車、前後スライド機能付。ハイブリッド車では前席の下、つまり足を伸ばした先に、駆動用リチウムイオンバッテリーの盛り上がりがあるが、ほとんど気にならない。上位グレードの後席サイドウインドウには今やミニバンに必須の収納式サンシェイドも装備されている。
また、新型ではウォークスルーの通路幅が1列目で50mm、6人乗り・キャプテンシート仕様の2列目で25mm拡大され、通り抜けるのが容易になった。3列目シートは先代同様の跳ね上げ収納式で、ステップワゴンの床下収納式よりクッションが分厚めに感じられる。
2段ベッドか、縁側か
プラス(FF車)の見どころは荷室だ。縦に長いバックドアを開けると、地面から335mmという開口部の低さに驚かされる。当時としては低かった先代スパイクでも520mm、現行シエンタが505mm、普通の新型フリードで480mm、わくわくゲートの現行ステップワゴンでも445mm。同じ「+」仲間のN-BOXプラスが互角の330mmだ。そのリアゲート敷居に座ると、足を地面に投げ出すように座れて、まるで縁側のように落ち着く。
荷室高は1255mmで、先代スパイク(フロアの一部を低くした状態でも最大1185mm)より高く、自転車を立てたまま積むのも簡単になった。車いす仕様車なら、車いすに乗ったまま車内に乗り込むことができる。
後席の収納は今や珍しい、座面を引き起こしてから背もたれを畳むダブルフォールディング式。さらに2枚のユーティリティボードで“2階”を作ると、セミダブルベッドサイズのフラットフロアが出現する。凹凸は若干生じるが、寝心地は上々。この辺のアイディアはN-BOXプラス譲りで、ボードの耐荷重もそれと同じ200kgだ。
基本性能&ドライブフィール
ハイブリッドでも、感覚はメカニカル
試乗したのはプラスの最上級グレード「ハイブリッドEX」(267万6000円)。
ホンダのi-DCD車に乗るのはジェイド以来、約1年半ぶりで、まずはその「ハイブリッド車なのにメカメカした感覚」があらためてユニークに感じられる。発進や最初の加速はモーターだが、いつの間にかエンジンが掛かり、7速DCTがガコッガコッと変速していく様子が面白い。その点ではハイブリッド車っぽくないのだが、だからと言って特にスポーティでもない。レスポンスより、穏やかさや燃費重視という感じ。
車重はハイブリッド車だと1400~1440kgなので(4WDだとさらに80kg重い)、動力性能は平凡というか、過不足ないレベル。ちなみにジェイドとヴェゼルハイブリッドの直噴エンジンは132psだが、フィット/フリードハイブリッドのアトキンソンサイクルエンジンは110psに留まる。また、フリードにはパドルシフトやSモードスイッチもない。
よく曲がるようにはなったが
先代のハンドリングはアンダーステアが強めというか、前輪が遠いところにある感じだったが、新型は現行フィットの素性を受け継いで、フロントがちゃんとインに入ってくれるようになった印象。これはとりあえず良くなった点。
ただ、一方でリアのグリップは少々心もとなくなり、それに対しては全車標準のVSAで抑え込む。原因の一つはおそらくエコタイヤだろう(全車185/65R15、試乗車はヨコハマのブルーアース)。エンジンのフィーリングも含めて、スポーティさを求めるならメカ的にシンプルなガソリン車もありかもしれない。
剛性感や乗り心地は特に印象的ではないが失点もなし、という印象。静粛性についてはロードノイズが若干気になったが、Bセグメントのトールワゴンとしてはこんなものだろう。
なお、新型フリードは、歴代フィットや先代フリードのようなセンタータンクレイアウトではなく、燃料タンクは2列目シート下に、駆動用バッテリーは1列目シート下にある。つまり燃料タンクとバッテリーの位置関係は、歴代フィットや先代フリードとはテレコ(互い違い)になっている。
ACCは全車速対応にあらず
100km/h巡行時のエンジン回転数は2000rpmちょっと。特にビシッとした直進安定性はないが、Honda SENSING装着車にはLKAS(車線維持支援システム)や路外逸脱抑制機能が備わるので、操舵アシストの手助けにより、意識しなくてもふらつきなく走ることができる。車線逸脱警告もピーピーうるさいアラーム音ではなく、ステアリング振動で行ってくれるのが良い。
Honda SENSINGはミリ波レーダーに加えて、画像解析用の単眼カメラも備えているので、歩行者に対しても衝突軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)を作動させるほか、路側帯にいる歩行者に衝突しそうな場合にはステアリング制御で回避アシストを行うという。この「歩行者事故低減ステアリング」も売りの一つだ。
ただしACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)については、ホンダの場合、レジェンドなどの例外を除いて、いまだに30km/h以下になると、ピーという警告音と共にオフになってしまう。早く全車速対応にして欲しいところ。
試乗燃費は15.8~20.4km/L。JC08モード燃費は25.2~27.2km/L(ハイブリッド)
今回はトータルで約240km試乗。参考ながら試乗燃費は、一般道と高速道路を走った区間(約80km)が15.8km/L、一般道を大人しく走った区間(約30km×2回)が18.8km/Lと21.3km/L、一般道と高速道路を80~100km/hで巡行した区間(約30km)が20.4km/Lだった。
なお、JC08モード燃費は、ガソリン車が19.0km/L(シエンタは20.6km/L)、ハイブリッド車が25.2~27.2km/L(シエンタは27.2km/L)。
燃料はレギュラーで、タンク容量はパワートレインに関係なくFF車が36L、4WD車が40Lだ。
ここがイイ
パッケージング、万能性など
フリードプラスに関して言えば、「ここがイイ」は超低床の荷室に尽きる。軽くて強靭なユーティリティボードでキャンパー的フラットフロアを作ることもできるし、リアゲートの敷居はそこに座ってのんびりお弁当でも食べたくなる絶妙な高さ。思いたったらすぐに車中泊の旅ができそう。
3列シート車には今回試乗していないが、7人フル乗車はともかく、4人か5人くらいまでなら快適に過ごせそうな居住性、そして積載性を備えており、日常の足やRVとして万能に使えること。質感も上がったし、燃費も悪くないし、安全装備もそろっている。スタイリングは保守的というか、売れ線狙いになったが、一般的にはカッコよくなったと言っていいだろう。8年ぶりのフルモデルチェンジゆえ、当前ながら確実に商品力はアップした。
ここがダメ
ガソリン車でもいいかも。全車速対応じゃないACC。狭くなった荷室幅
ハイブリッド車の燃費は確かにガソリン車より2~3割いいと思うし、モーターのアシストもあるし、アイドリングストップからの再始動もスムーズだが、燃費をそれほど求めないなら(日々の走行距離が少なければ)、ガソリン車でもいいんじゃないか、と思える。例えばHonda SENSING付のガソリン車上級グレードは210万円台から買える。これを選ぶのも悪くないのでは。
相変わらずHonda SENSINGのACCが全車速対応ではないこと。他メーカーのACCがほとんど全車速対応になりつつある今、これはもはや時代遅れ。なるはやで対応すべし。
先代スパイクの荷室は、フロア地上高こそ新型プラスより高かったが、横方向には余裕があった。新型の場合は床こそ低くなったが、床付近の両サイドに出っ張りが生じて、それが何ともジャマに感じられる。出っ張りの中には左側にパンタグラフジャッキ、右側に工具とパンク修理キットが入ってるくらいなので、工夫次第で荷室をもっと広く出来た気がするのだが。
ぶっとんだデザインのシエンタを思うと、かなりコンサバに見えるスタイリング。トヨタより保守的になって大丈夫か、ホンダ。
総合評価
サイコーにちょうどよかったのは
フリードが日本において「サイコーにちょうどいい」クルマだったことは、8年間にわたって好調に売れたことが証明している。同クラスの先代シエンタに至っては中断を挟んで12年間も販売され、今の新型も販売好調だ。
それゆえ、日本ではこのくらいの「サイズ」が最高にちょうどいい、と考えるのが普通だが、実はそうでもないのではないか。コンパクトなフリードは、確かにいかにも使いやすそうだが、同じ5ナンバーサイズのステップワゴンはフリードより全長が40cmほど長く、全高は13cmほど高いに過ぎない。5ナンバーサイズの方が珍しい昨今では、ステップワゴンも決して大きなクルマではない。
つまり実のところフリードが売れた一番の理由は、3列シート車で価格が安かったから、ではないだろうか。ふだん乗るのはせいぜい4人くらいだが、まれに多人数で乗ることがあるのでミニバンが欲しいという家庭は多い。たまに祖父母が同乗するとか、子供の友達が乗るとか。そういう時には、もちろんステップワゴンのような5ナンバーミニバンの方が余裕があるのだが、車両価格もそれなりにする。ステップワゴンを買うには250万円くらいの予算が欲しいところだが、フリードなら200万円くらいから買える。当然のことだと思うかもしれないが、この差は大きい。価格こそがサイコーにちょうどよく、それゆえ58万台も売れたのだと思う。
同様にフリードスパイクも様々な荷物を積みたい人にとって、あるいはたまに車中泊したい人にとって、サイコーにちょうどいい価格帯のクルマだったのだと思う。スパイクの場合は、より道具として乗るクルマだから、価格の安さは重要だろう。山道を攻めるクルマでもないから、走りはそこそこで十分。手頃なサイズで、人や物をたくさん運べる実用車としてちょうどよかったわけだ。
クルマの楽しさや便利さは、本来こういうもの
この点は、新型でも踏襲されている。成功モデルの後継はキープコンセプトというホンダのセオリー通りだ。サイコーにちょうどよかった旧型も、8年もガンガン乗れば、さすがにくたびれてくる。先進安全装備もない。となれば新型に乗り換えようということになる。新型はそんな需要が見込める手堅い商品だ。まさに道具としては最高の選択。このままEVになり、時々自動運転もできれば、それこそが未来の日本において理想的な国民車になりえるだろう。
ただ、クルマ好きとしては、ついつい「何か」を求めてしまう。エンジンの回り方、モーターのトルク感、アクセル操作に対するレスポンス、走行安定性、加速性能などなど、フリードにとってはある意味どうでもいいことかもしれないことをあれこれ考えてしまいがちだ。その点では「これはいいクルマだ」と絶賛はしづらいのだが、使いやすくて手頃な価格の「道具」としては絶賛したい。実際ちょっと欲しいなと思ったりしているくらいだ。
「ホンダアクセス」の
webカタログやホンダアクセスが運営する
webショッピングモールで、さまざまな純正アクセサリーや推奨キャンピンググッズなどを眺めていると、このクルマを使った楽しいカーライフの夢が広がる。先代スパイクには、メーカー純正ではないが、よく出来た
キャンピングカー仕様もあった。新型のプラスを見ていると、クルマの楽しさや便利さは、本来こういうものだったなぁと思えてくる。若者のクルマ離れを食い止めたいなら、自動車会社は走りや燃費、自動運転ばかりでなく、こうした「道具としての良さ」をもっと追求すべきだろう。
ただ、今回のフリードで一つ残念なのは、このクルマの楽しさをエクステリアが表現していないことだ。もっとファンキーなデザインだったら、売れ行きは大きく変わると思うのだが。