キャラクター&開発コンセプト
「冒険」がテーマの小型クロスオーバーSUV
ルノーの小型クロスオーバーSUV「キャプチャー」は、2011年に同名のコンセプトカーとして登場。5ドアとなった市販バージョンは欧州では2013年にデビュー。日本では同年末の東京モーターショーで公開された後、2014年1月に受注を開始し、2月27日に発売された。ルノーにとっては、コレオス(2009年~)に続くクロスオーバーSUVになる。
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ルノー キャプチャー コンセプト(東京モーターショー 2011)
ベースはルノー・日産グループのBプラットフォームで、現行ルーテシア(2013年~)やジューク(2010年~)等と共通。また、日本仕様のパワートレインは現行ルーテシアの標準モデルと同じで、1.2リッター直4・直噴ターボとゲトラグ製6速DCT(デュアル クラッチ トランスミッション)の組み合わせになる。
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市販バージョンのキャプチャー(東京モーターショー 2013)
デザインについても、現行ルーテシア同様、新しくルノーのデザインチーフとなったマツダ出身のローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏が担当している。その車両コンセプトは、ルノーの新しいデザイン戦略「サイクル・オブ・ライフ」に則ったもので、ライフステージの2番目とされる「Explore(冒険)」。
生産はスペインのバリャドリッド(Valladolid)工場で行われる。
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新車試乗記>ルノー ルーテシア(2014年1月)
価格帯&グレード展開
256万9000円~で、2トーン仕様は10万3000円高
欧州仕様も含めて、駆動方式はFFのみ。欧州には0.9リッター直3ターボ(90hp、13.8kgm)や1.5リッター直4ディーゼルターボ(90hp、22.4kgm)があるが、日本仕様は1.2リッター直4ターボ(120ps、19.4kgm)、変速機はルノー言うところの6速EDC(エフィシェント デュアル クラッチ)、いわゆるDCT(デュアル クラッチ トランスミッション)になる。
グレードと価格(消費税8%込み)は、16インチアロイホイール等を備えた標準グレード「ゼン(Zen)」(256万9000円)と、17インチブラックアロイホイール、2トーンカラー、着せ替え可能な2トーンの「ジップクロスシート」、プライバシーガラスを備えた「インテンス(Intens)」(267万2000円)の2種類。価格差は10万3000円しかないので、人気はインテンスに集中しそう。
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こちらはブラックルーフのインテンス。ボディカラーはブルーメディテラネ
ボディカラーは5色(オレンジ、アイボリー、ブラウン、ブラック、ブルー)で、インテンスの場合はルーフがアイボリーもしくはブラックの2トーンカラーになる。ゼンの単色と合わせると、カラーコーディネイトは全部で10通り。
全車、フロントのLEDポジションランプ、オートエアコン、クルーズコントロール、ESC(横滑り防止装置)は標準装備。一方、2DINスペースに装着できるオーディオやナビは、販売店オプションになる。社外品でも装着できるが、純正品ならステアリング裏に生えているサテライトスイッチやバックカメラ(インテンスに標準装備)が使用可能になる。
■キャプチャー ゼン 256万9000円
■キャプチャー インテンス 267万2000円 ※今回の試乗車
パッケージング&スタイル
ボディカラーも個性的
小型SUVジャンルでは、日産ジュークに並んで個性的なキャプチャー。デザイン的には確かに現行ルーテシアのSUV版という感じだが、インパクトはルーテシアより強いかも。フロントに堂々と据えられたルノーの菱型マークや、グリルとつながった切れ長のヘッドライト、いかにもモデラーが粘土をこねて生み出したようなボディサイドの造形が面白い。ちなみにフロントフェンダーは樹脂製だ。
強い個性を引き立てているのが、ビビッドなボディカラー。試乗車はオランジュ ルシオン(ルシオン地方のオレンジ)に、イヴォワール(アイボリー)のルーフという組み合わせ。ルーフがパキッとしたホワイトではなく、クリーム色に近いアイボリーなのがオシャレ。
ボディサイズに関しては、全長と全幅は現行ルーテシアと大差ないが(それぞれ+30mm)、最低地上高が70mm高く(115mm→185mmmm)、全高は120mm高くなっている。つまりボディの「厚み」自体は、おおよそ50mm増しに過ぎない。
インテリア&ラゲッジスペース
着せ替えできる「ジップシートクロス」を採用
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「インテンス」には着せ替えシートクロスが備わるほか、吹き出し口がクロム仕上げになる。ナビはオプション
インテリアで目を引くのが、線ファスナーと面ファスナー(いわゆるベルクロ)で脱着・交換可能な「ジップシートクロス」(インテンスのみ)。「取り外してご家庭で洗濯」も可能で、もちろんアクセサリー(6万1560円)で、異なるデザインのシートカバーも用意されている。
あと、現行ルーテシアに続いて、ルノーが10年以上前から採用していたカードキーの施解錠ボタンが、日本でもやっと使用可能になった(これまでは電波法の兼ね合いで使えないようになっていた)。ただ、乗り降りの度にカード型リモコンを取り出してボタンを押すのは意外にやりにくい。
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フロントシートはルーテシアとほぼ同じに見える。リクライニングはダイアル式
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「ジップシートクロス」はファスナーで簡単に脱着可能
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カードキーをセンターコンソールに挿入し、隣のボタンを押すとエンジンが始動する
快適な後席。荷室もアレンジ多彩で大容量
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リアシートは160mmの前後スライドが可能(写真は一番後ろ)
2605mmのロングホイールベースは、ルーテシアとほぼ同じ。リアシートはクッションに厚みがあり、背もたれの角度も適切で、つま先も前席の下にしっかり入るなど、居住性はまずまず。フロントシート背面にはラバーバンドゴムを使った「コードポケット」があり、個性的なアクセントになっている。
荷室はシンプルながら、様々な工夫が施されている。バンパーレベルは高めだが、それに合わせてフロアボードを上段にセットすれば、畳んだリアシートまでフラット化が可能。また、リアシートは160mm前後スライドし、荷室と後席のスペース配分を変えることできる。座面が左右一体なので、前後スライドも左右一体でしか出来ず、またスライド操作に力が要る点も惜しいが、まぁ実際のところ、動かす必要がある時はほとんどないのでは。
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荷室容量はフロアボードが上段で377リッター、後席を前に寄せた状態で455リッター
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フロアボードを下にセットして、後席を畳んだところ。最大容量は1235リッター
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ルーテシアのスペアタイヤは吊り下げ式だが、キャプチャーは床下にテンパー式を搭載
基本性能&ドライブフィール
パワートレイン関係はルーテシアと同じ
カードキーをセンターコンソールに差し込み、始動ボタンを押せばクククッと軽快なクランキング音でエンジンに火が入る。P位置なら、ブレーキを踏んでいなくてもエンジンが掛かってしまうのに、ちょっとびっくり(かなり珍しい)。
走リ始めの第一印象は、目線の高さを除けばルーテシアとほぼ一緒。エンジンは、新型ルーテシアと同じ1.2リッター直4の直噴ターボ。最高出力は120ps/4900rpm、最大トルクは排気量2.0リッター並みの19.4kgm/2000rpmを発揮する。車重はルーテシアより60kgほど重い1270kgだが、その差はほとんど気にならない。ちなみに排気量は、VWのポロやゴルフ7の1.2直噴ターボ(105ps、17.8kgm)と同等だが、ピークパワーはそれらを上回る。
ルノー言うところのEDC(エフィシェント デュアル クラッチ)ことDCTは、ライバルのVW車より1速少ない6速。電子制御クラッチによるクリープは、VWのDSGと同じくらい自然で、違和感はない。
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エンジンはルーテシアと同じ「H5F型」と呼ばれる1.2リッター直噴ターボ。ボンネット前端の裏側に歩行者保護用のクラッシュボックスが設けられている
一方、変速レスポンスはルーテシア同様、おっとりしたもの。アクセルをぐいっと踏んでも、いったんタメを作ってから穏やかに反応。VWのDSGのような素早いレスポンスを期待すると、ちょっと肩すかしを食らう。ルノーとしてはトルコンATのような感覚を狙っているのだろう。
なのでキャプチャーでは、2000~3000回転くらい低い回転でエンジンを回しながら、ゆったり走らせるのがいい。そうすると、1.2リッターとは思えないトルクフルな走りが楽しめる。
アイドリングストップはルーテシア同様、設定なし。おかげでエンジン再始動時の遅れやショックという問題は免れている。ハンドブレーキのところには「ECOモードスイッチ」があり、それをオンにすると燃料消費を最大で10%抑えるらしいが、同時にエアコンの風量もガクンと落ち、冷媒のコンプレッサーも止まってしまうので、すぐに車内が暑くなってしまう。夏場はちょっと使えそうにない。
山道や高速道路もそつなく
シャシーは定評のあるルーテシアがベースで(フロントはストラット、リアはトーションビーム)、ワインディングでも当然ながら、そつなく走る。試乗したインテンスのタイヤは17インチ(205/55R17、ミシュラン プライマシー3)で、グリップ感は十分。電動パワステは軽めで、少し切った時(微舵域)の反応が曖昧だが、いたずらにクイックにはなっていない。
ルノーらしいと思ったのは、サスペンションを比較的ストロークさせる方向であること。このあたりは上手いなぁという感じ。負荷をかけていっても、挙動が大きく出る前にESCが作動して、スムーズな走りを途切れさせない。電子制御技術の進化が体感できる。
100km/h巡航時のエンジン回転数は、約2250回転。ロングホイールベースやワイドトレッド、しっかりしたタイヤなどのおかげか、高速域でも重心の高さを感じさせない。風切り音は100km/hくらいからザワザワ言い出すが、不快なほどではない。
また、ルーテシア同様、高速域ではじわじわとだが、速度の伸びがいい。最高速は欧州仕様車の発表値で192km/hとあるが、確かにそれくらいは出そう。ちなみに同じエンジンを積むルーテシアの最高速は199km/hだ。
試乗燃費は11.1~11.8km/L。JC08モード燃費は未発表
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指定燃料はプレミアム。今回入れたハイオクはリッター167円だった
今回はトータルで約170kmを試乗。試乗燃費(車載燃費計)は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)が11.1km/L。また、一般道を大人しく走った区間(約30km)が11.8km/L。高速道路(約20km)は区間が短いので参考値だが、16.7km/Lだった。JC08モード燃費は未発表。総じて、普通に走れば10km/Lはまず割らないという印象。
ここがイイ
個性的な内外装デザイン。トルクフルなエンジン。運転のしやすさ
個性的なエクステリアデザイン。やっぱりフランス車のこの「変さ」(フランスではこの変さが「普通」なのだろうか?)は貴重。内装を見ても、ファスナーで着せ替えできるシートが面白い。これなら社外メーカーも、いろいろなカラーリングのシートカバーを作りやすいのでは? 自分で服を縫ってしまう器用な女性なら、自作できるかも。
常用域のトルクがあるエンジン。打てば響くようなレスポンスや俊敏な吹け上がりはないが、のんびり走らせる分には悪くない。2000~3000回転くらいで流す時のトルク感ある走りは、なかなか気持ちがいい。
電子制御クラッチによるクリープも、ちょっと弱めだが、自然。トルコンATからの乗り換えでも、運転はしづらくないと思う。また、運転姿勢はややアップライトで、ステアリングコラムがやや下に位置するが、ステアリングのチルト/テレスコ、シートリフターの調整幅が広く、小柄な女性でも不満のないポジションがとれると思う。
ルノー自慢のカードキーのドア施解錠ボタンが、デフォルトで使えるようになった。ただ、カードキーはカード入れなどに入れっぱなしにしておきたいから、これでスマートキー機能が使えれば言うことはない。
ここがダメ
インパネの質感。ライバル車に少々ひけをとるレスポンスや燃費。エコボタン。
内装の質感は、「スペシャリティ」を謳うホンダ ヴェゼルや、質感にこだわったプジョー 2008と比べると、ちょっと差を感じるところ。試乗車はナビやオーディオが未装着だったせいもあるが、インパネまわりにもう少し華が欲しい。
VWの直噴ターボ+DSG車と比べると、レスポンスで少々見劣りするところ。また、実用燃費は悪くはないが、飛び抜けて良くもなく、特にハイブリッドのヴェゼルあたりと比べてしまうと分が悪い。また、ECOモードスイッチをオンにすると、エアコンの風量がガクンと落ちて、効かなくなってしまうのはちょっと極端だ。
総合評価
独創のセンス
一目見て「まあ、なんて素敵なクルマなんでしょ」と、まあ誰もが(特に女性)が思うことだろう。デザインは例の(マツダから移籍した)ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏。マツダで散々カッコいいクルマを作って、今はルノーでまたまたカッコいいのを作って、という誰もが認める凄腕デザイナーだ。「持ち上げ系」はただですらカッコいいのに、なんとスタイリッシュなこと。ボディサイドの下部がブラック処理され、えぐれているように見えるあたりは、もう独創というか独走、ぶっちぎりのセンス。そして上級グレードのツートン処理もいい。一時期のフランス車は独創性で売っていたものの、独創=独善とも言うべきポピュラリティのなさで、まあ、それがマニアウケしたものだが、一般には、特に日本ではとても受け入れられなかった。ルノーでもアヴァンタイムは今でも欲しくなるほど独創的な(独善的な)クルマ。フランス車好きにはたまらないのだが……。そんな伝統は今もシトロエンは維持しているように思えるが、ことルノーやプジョーはこのところ、いい意味で独創的かつポピュラーなカッコよさを持ったクルマを連発していて、これはもうマイリマシタとしか言えない。
インテリアの方は特に奇をてらっていないものの、「シートカバー」は斬新なアイデア。冬は冷たく、夏は熱くなるレザーシートに今ひとつメリットを見いだせない身としては、このシートは理想のものと思う。カスタムカーの世界では、今やシートカバーは当たり前のアイテムだが、革風が主流だ。逆にこうしたファブリックの着せ替えシートカバーの質のいいものは、今後もっとアフターパーツとして出てきてもいいのじゃないかと思う。その昔、もう30年も前のことだが、タータンチェック柄やギンガムチェック柄の布シートカバーを当時のビニールシートによくかぶせたもの。それはそれでけっこうおしゃれだったように記憶しているのだが、今やすっかり廃れてしまっている。ここに来て、ルノーからこうした提案が出てきたわけだが、このあたりはやっぱり日本車にもがんばってもらいたいと思うところだ。
日本車とはまったく違うところへ行っちゃった
最近は私的にも1.2リッターターボとDCTのクルマを日常の足にしているが、低回転でトルクがあるのがなんと言ってもいいところだと思う。ピークパワーではなく、日常的に使う低回転域でのトルク感こそ、普段使いのクルマには重要だと思う。キャプチャーも2000回転ほど回せば最大トルクが出るわけで、日常的な乗りやすさや走りやすさ、もっと言えばそこに快感があって、普通に走って楽しい。そこが素晴らしいところだと思う。
で、エンジンを回してもそんなにパワーは出ないので、逆にぶん回して楽しめる。しかもキャプチャーは足がしっかりついてくる。なんだかもう、日本車とはまったく違うところへ行っちゃったなあという感じだ。そして、キャプチャーの場合はアイドリングストップもついてないから、より違和感がない。また、エコボタンは押した途端、エアコンがセーブされて、4月の試乗時の気温ですらいきなり暑くなったので、オーナーになったらエコボタンは使わないと思う。冬場には意味があるかもしれないが、4月になればもうエアコンが欲しくなる日本では、今のようなエコボタンはなくてもいいと思った。
ただ、そうなると燃費的(環境的)には確かにちょっと不利だとは思う。4月になって、ガソリンは消費税と温暖化対策税でダブル増税され、さらには総額にも消費税がかかるという信じられない二重課税によって、このところハイオクに至ってはリッター170円オーバーも珍しくない。こうなると、例えば同クラスのヴェゼル ハイブリッドあたりが気になってしまうところ。最悪の数字が出ると思われる我々の試乗燃費でヴェゼルは13.6km/L走ったが、キャプチャーは11.1km/L。ヴェゼルは(ハイブリッド車が得意とする)一般道を走ったら、もっともっと伸びるはずなので、下手したら18km/Lくらいはいきそうだ。しかもレギュラーガソリン。フランス車はこの点で日本車にはやっぱり勝てそうもないけど、あちらさんはハイブリッドなので車両価格はけっこう高くて225万円する。こちらはこのカッコ良さで、低回転トルクが気持よくて267万円だから、まあ買う気になればそう悩むような差ではない。キャプチャーで月800km走るとしたらガソリン代は1万2000円くらいか。ヴェゼルだと8000円くらい? 4000円程度の差なら、キャプチャーの気持ちいのいい走りを買いたいと思うのだが。
クルマを持つこと自体が「大いなる意思」
昨年から輸入車が売れてるのは、どうせ乗るなら個性的なクルマに乗りたいという人が多いからだと思う。足にするなら何だっていいが、300万円近いお金を出すなら個性的で気に入ったクルマに乗りたいもの。3月の反動で4月の販売がどれくらい落ち込んでいるか、まだ数字が出ていないが、一時的に落ちたとしても輸入車人気は堅調のはず。社会が二極化して、お金がある人とない人に分かれてきているというのもあるが、お金だけじゃなく、どうせ乗るならこだわりのクルマを、という人と、クルマなんかなんでもいいという人との二極化もまたかなりの勢いで進んでいるからだ。足なら本当にどんなクルマでも昨今は不満などないし、経済的に乗りたいというだけなら選択肢はいくらでもある。でもちょいとこだわった場合は、やっぱ輸入車がいいなあと、最近の新型車に乗るたびに思う。
経済的・環境的と言えば、エコカー減税やら補助金やらも車種によって相当な違いをみせるので、ヴェゼルとの比較も先ほどのように単純に車両価格だけで考えられないのは仕方ない。よく言われる「フランス車は下取りが云々」もあるので、まあキャプチャーが経済的に分が悪くなるのは致し方ないが、重要なのは「どうせ乗るなら、こだわりのクルマ」の部分だろう。都市部ではクルマはなくてもいいという選択肢まであるわけで、クルマを持つということ自体が「大いなる意思」だ。そこでは走りの満足や所有することの満足に加え、自己表現に対する満足も重要。それを満たせるのは、どうしてもキャプチャーのような輸入車になってしまうのではないか。アッカー氏がデザインするクルマはもう国産車からは出てこないのだし。