キャラクター&開発コンセプト
8年ぶりのフルモデルチェンジ
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ジャガー XF (写真はXF S)
日本では2015年9月に受注を開始、2016年春からデリバリーが始まった新型「XF」は、コンパクトセダンのXE(2014年発売)とフラッグシップセダンであるXJ(2010年発売)の間に位置するミディアムクラスの4ドアセダン。初代は2007年にデビュー、2011年にマイナーチェンジしていた。今回の新型は2代目にあたる。
アルミ多用の軽量ボディ、クリーンディーゼルを採用
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2015 東京モーターショーにて
先に発売されたXE同様、新型XFもアルミ合金を多用した「アルミニウム・インセンティブ構造」による軽量モノコックボディを採用(先代XFはスチール製モノコック)。そして直4ターボおよびV6スーパーチャージャーのガソリンエンジンに加えて、ジャガー・ランドローバー完全自製の新世代エンジン「INGENIUM(インジニウム)」、2.0L 直4ディーゼルターボをXEに続いて採用している。
ジャガー初のSUV「Fペース」も発売
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ジャガー Fペース(2015 東京モーターショー)
新型XFに続いて、2016年1月にはジャガー初のSUV「F-PACE(Fペース)」の受注受付も本格的にスタートした。車体の80%にアルミ合金を使用した軽量ボディに、XFと同じ2LディーゼルとV6ガソリン(2Lガソリンは設定なし)を搭載する。価格は639万円(20d)~1108万9000円(ファーストエディション)。ライバルはポルシェ マカンだ。
■過去の新車試乗記
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ジャガー 一覧
価格帯&グレード展開
ガソリンは598万円~、ディーゼルは635万円~
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ボディカラーは全17色。試乗車はグラシア(グレイシャー)ホワイト
パワートレインは、2L直4ガソリンターボ(240ps)、2L直4ディーゼルターボ“Ingenium”(180ps)、3L V6スーパーチャージャー(340psと380ps)の3種類で、以下の7グレード構成。
先進安全装備の多くは全車標準。ミリ波レーダーによるACC(アダプティブクルーズコントロール)や緊急自動ブレーキ、レーンキープアシスト(車線逸脱防止機能)、スマートキー、アイドリングストップ機能、10.2インチタッチパネル式のオーディオ・ナビシステム(InControl Touch Pro)、12.3インチのフル液晶メーターパネルが備わる。
オプションも多数用意。アダプティブ・フルLEDヘッドライト(25万9000円 ※上位モデルは標準装備)、パノラミックグラスサンルーフ(21万6000円)、ブラインドスポット・モニター(10万3000円)、18/19/20インチの各種アルミホイールなどが用意されている。
■2.0L直4ターボ(240ps・340Nm)
・XF 25t Pure 598万円
・XF 25t Prestige 668万円
■2.0L 直4ターボディーゼル(180ps・430Nm)
・XF 20d Pure 635万円
・XF 20d Prestige 693万円
■3.0L V6 SC(340ps・450Nm)
・XF 35t R-Sport 969万円
・XF 35t Portfolio 1027万円
■3.0L V6 SC(380ps・450Nm)
・XF S 1105万円
パッケージング&スタイル
XEよりロング&ワイド
一見してXEかXFかを判別するのは難しいかも。それくらいデザインはXEに似ているが、絶対的なボディサイズやショルダーライン(XFの方が張り出している)などが異なるため、XFにはクラス相応の存在感がある。ホイールベースが長く、サイドウインドウが6ライトになる分、伸びやかな印象も強い。デザインはこれまで同様にイアン・カラム体制下で行われている。
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ジャガー XE
ボディサイズは全長4965mm、全幅1880mm、ホイールベース2960mmと、ミディアムクラスとしては最大級。メルセデス・ベンツで言えば、EクラスとSクラスの真ん中あたり。なので真横から見る限りXEと見間違えることはない。Cd値は0.28とのこと。
インテリア&ラゲッジスペース
フル液晶メーターや“InControl”を採用
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試乗車は標準のグロスブロックだが、オプションで各種ウッドパネルも用意される
インテリアの造形も基本的にXEと同じだが、XFには地図も表示できる12.3インチのフル液晶メーターパネル、そして10.2インチタッチパネルを備えたインフォテイメントシステム「InControl Touch Pro」が標準装備される。
またジャガーと言えばウッドとレザー、みたいな期待もあるわけで、もちろんオプションで各種ウッドパネルやシート素材が用意されている。
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ナビゲーションやオーディオ関係を主にタッチパネルで操作する「InControl Touch Pro」
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12.3インチのフル液晶メーターパネルに地図を表示した状態
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ジャガー定番のダイアル型シフトセレクター
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エコモード選択時。ダイナミックモード選択時には中央が回転計になる
クラス相応に余裕のある後席
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Prestigeの電動レザーシート。オプションでベンチレーション機能も選択可
もう一つXEと決定的に違うのが、後席の広さ。XEだと全体にタイトな印象だが、XFなら頭のまわりから足元まで、十分にゆとりがある。先代XFとの比較でも、足もとを15mm、膝まわりを24mm、ヘッドルームを27mm拡大したという。
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トランク容量は505L(パンク修理キット)~540L(スペアタイヤ搭載)。後席は流行りの3分割(40:20:40)
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大人でも寛げる後席。オプションで手動サイドブラインドも装備できる
基本性能&ドライブフィール
最大トルクは430Nm (43.8kgm)
今回試乗したのは、新開発2.0Lディーゼルターボ車の上級グレード「20d Prestige」(693万円)。
この“インジニウム”ディーゼルエンジンは、ジャガー・ランドローバーが独自に開発・生産するもので、すでに昨年からXEに搭載されている。ボア×ストロークは今風に83.0×92.4mmのロングストロークで、圧縮比は15.5(±0.5)。メルセデス・ベンツのクリーンディーゼル同様、Noxを還元するためにAdBlue(尿素水溶液)を排ガス中に噴射する、いわゆる尿素SCR(選択触媒還元)を採用したものだ。
赤く明滅するスタートボタンを押すと、小気味よくエンジンが始動。ディーゼルエンジン特有の音はするが、他社のクリーンディーゼルより若干静かかな、という印象。そんなにカラカラ言わない。
出足こそマッタリしているが、あとは街中だろうと高速道路だろうと、2000rpmも回せば十分。最高出力は180ps/4000rpm、最大トルク430Nm (43.8kgm)/1750-2500rpmで、つまり馬力は控えめだが、トルクはでかい。8速ATは矢継ぎ早にシフトアップするが、低回転のまま1760kgのボディを過不足なく走らせる。逆に言えば、4000rpmオーバーまで引っ張っても盛り上がらないので、回し甲斐がないとも言える。
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AdBlueの補充リッドはトランクルームの左上にある
80km/hあたりで早くも8速トップに入り、100km/h巡行は1400rpmでこなす。低回転での粘り、柔軟性は十分。ディーゼルでも設計が古いと、こうはいかない。
ちなみにメーカー発表値によれば、20dの0-100km/h加速は8.1秒で、最高速は229km/h。これが2Lガソリンの25tだと7.0秒と248km/hに向上し、3L V6の35t(340ps)だと5.4秒と250km/h(リミッター作動)、S(380ps)だと5.3秒と250km/h(同)へ跳ね上がる。
アルミボディ的な?硬質感
75%がアルミ製という軽量ボディにより、車重は先代XFに比べて最大190kg軽くなったとメーカーは謳っているが、先代の同型エンジン車(日本仕様)と比較した限りは、実質50~60kg軽くなったに過ぎない。しかしホイールベースを伸ばし、ボディのねじり剛性を最大28%上げた上で軽くなっているのは、やはりこうした材料置換のたまものだろう。
その乗り味は、心なしかアルミっぽい硬質なもの。街中での乗り心地は悪くないが、フロントにダブルウィッシュボーン、リアにインテグラルリンク式と、同形式のサスペンションを奢ったXEと比べても硬質感が強く、舗装の荒れたところでは特にその印象が強かった。オプションの245/40R19タイヤ(グッドイヤー イーグル F1)が影響したかもしれない。20dの場合、標準は17インチもしくは18インチだ。
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ボディの75%にアルミ合金を使用。接合には接着剤に加えて、亜鉛メッキを施したホウ素入りスチールリベットを使用する
なお、試乗車の足回りは、標準のコイルサス仕様だったが、オプションで「スポーツサスペンション アップグレード」(4万5000円)や電子制御ダンパーを備えた「アダプティブダイナミックス」(Sには標準装備)も選択できる。
ハンドリングは際立って軽快ではないが、コーナリング限界は高く、4輪がベタッと路面を捉え続ける。高速コーナーではシャープな反応を見せるのがジャガーらしい。バチバチに高いボディ剛性がソリッド感を生み、50:50の前後重量配分(試乗車は前890kg:後870kg=51:49)が素直な動きに貢献している。
ブランニューモデルらしく、最新の安全装備やドライバー支援装備も充実している。全車速追従タイプのACC(アダプティブクルーズコントロール)や自動緊急ブレーキ(AEB)、強力に操舵アシストしてくれるレーンキープ・アシスト(車線逸脱防止機能)は標準装備。さらにオプションでハイビームアシスト付のアダプティブ・フルLEDヘッドライトやブラインドスポット・モニターも用意されている。
試乗燃費は11.2~15km/L。JC08モードは16.7km/L
今回は計200kmを試乗。参考ながら試乗燃費は、一般道と高速道路を走った区間(約80km)が11.2km/L。一般道を大人しく走った区間(約90km)が約15km/Lだった。高速道路を合法的な速度で巡行すれば、JC08モード燃費の16.7km/Lは確実にクリアできると思う。
給油の際は「ジャガーに軽油」ということでちょっと緊張(笑)。20dの燃料タンク容量は60Lなので、高速道路なら無給油で1000km走行も十分可能だろう。軽油価格は目下、全国平均で93円である(今回給油したGSでは94円/L)。
一方、直4ガソリンの25tになると、JC08モード燃費はいきなり11.4km/Lに落ち、V6ガソリンの35tやSだと10.4km/Lになってしまう。指定燃料はもちろんプレミアムだ。こちらの全国平均価格は目下125円/L。ガソリン車のタンク容量は20dより2割ほど多い74Lになっている。
ここがイイ
最新技術が盛り込まれている。ディーゼルの燃費
この価格帯としてはアルミ使用比率が高い軽量ボディ、新開発のディーゼルエンジン、そして最新のドライバー支援装備、フル液晶メーターなど、ほぼ全てが最新になっていること。ジャガーと言えば伝統的な英国車というイメージが強いが、タタによる積極的な投資のおかげで、ドイツ御三家に負けない技術的内容を持っている。
試乗した20dは、JC08モード燃費が16.7km/Lで、試乗燃費も11~15km/L前後と、期待通り良好だった。600万円オーバーの高級車でそんなに経済性が必要かという意見もあるだろうが、効率の良さや航続距離の長さは、高級車であっても商品価値の一つだ。
ここがダメ
ちょっと物足りないパワー感。走行モード切替ボタンの操作性など
ディーゼルとはいえ、レスポンスにはもう少し鋭さが欲しいところ。430Nmという数字が期待させるほど、トルクもガツンと来ない。
静粛性はXEより高いし、ディーゼルエンジン特有のカラカラ音はドイツ製クリーンディーゼルと比べても静かな方だと思うが、走行中は今一つ「静かなクルマ」という感じがしない。また、アイドリングストップから再始動する時のショックは、気になる人は気になるだろう。
XEと同じで、センターコンソールにある走行モード切替ボタン(左からダイナミック、ノーマル、エコ、ウインター)が使いにくい。慣れればブラインド操作できるが、周囲には他のスイッチもあるので、走行中でもつい目視したくなる。実際のところ、そう頻繁に切り替える必要はないが。
新型XFから新しく採用されたインフォテイメントシステム「InControl Touch Pro」は、今後主流になっていきそうなタッチパネル式だが、操作性や動作にはさらなる熟成を望みたいところ。
総合評価
クラシック路線をすっぱり捨てて
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2015 東京モーターショーにて
自動車は同じブランドイメージ、そして場合によっては同じ車名で長年販売される、昨今ではなかなか稀有な商品だが、ブランドや名前を大切にしつつ、モデルチェンジで新しさを打ち出さないといけないのが難しいところ。工業製品である以上、クルマという商品もどんどん新たな性能を出していかないと商品価値を失ってしまうのだが、クルマに限らず様々な商品が性能のデッドエンドに近づきつつある昨今、その中でどう新しさを打ち出していくのか、メーカーの開発者は皆、悩むところだろう。
そしてジャガーを買えるようなアッパークラスの、年齢的には高めのクルマ好きが共有するジャガーというブランドのイメージは、若い頃から現実に見て、あるいは知識として知っているクラシカルなものだろう。かつてフォード傘下にあったジャガーが打ち出したのは、そのイメージ踏襲路線だったが、成功したとは言えない結果になってしまった。外観はクラシカル、中身は最新という手法は、マーケティング的には間違っていないと思える。フォード傘下でのクルマ作りに問題があったとも言われるが、上手くいかなかった理由は今一つよく分からない。
2008年にインドのタタ傘下となって以降のジャガーは、クラシック路線をすっぱり捨て、モダン路線へ大転換した。そして先代XFが先兵として登場し、旗艦XJが2010年に大きく変わった。セダン系はさらにXEが出て、今回の新型XFとなる。先代XFの前期モデルは今見ると少しダサく見えるが、2012年モデルのマイナーチェンジで、グリルやヘッドライトまわりがすっきりしてそれも気にならなくなった。そして今回の新型では、現行XJからのデザインテイストで徹底的に統一された。悪くないと思う。ただ、こうなるとジャガー全車、金太郎飴的な印象は拭えない。
しかしそれこそが狙いだろう。つまり、クラシカルなジャガーというイメージは、この8年でかなり消え去り、今のこのカタチこそがジャガーということになった。特にセダン系は、XE、XF、XJのどれを街で見かけてもジャガーだと分かるわけだ。買う側もこのカタチがいいのなら、あとは予算とサイズで選べばいい。泣いても笑ってもジャガーサルーンはこのカタチ、買うか買わないかの二者択一だ。
あと10年は続けないと成否は問えない
先代XJの試乗記では、「実は一番問題なのは似合うかどうか」と書いた。クラシカルなジャガーは乗る人を選ぶ。そうか、フォード傘下のジャガーの失敗は、案外その辺りにあったのかもしれない。もし旧XJのスタイリングで最新性能の車両が出たとしても、買う人は絶対的には多くないという判断だ。ファッションからライフスタイルまで、すべて英国紳士風という人は少ない。その点、現行モデルのデザインなら、多くの人が乗れる。若き成功者から熟年のお金持ちまで、嫌味なく乗れるはず。そう考えると、このカタチに合点がいく。
新開発のディーゼルエンジンについては、静粛性、スムーズネス、エンジンの吹け上がり、そういったクラシックな高級車イメージを期待するなら、違うと思う。しかし圧倒的なトルクや優れた燃費を誇る新しい高級車像を期待するなら、あるいはディーゼルという最新トレンドに乗ろうと言うなら、十分に価値がある。その意味では、多くの人に買っていただくための選択肢として、当然あるべきパワーユニットということになる。
親会社がフォードだった頃は、コンセプトから部品に至るまで、いろいろやかましかったようだが、スポンサーのタタは、ジャガー・ランドローバーに対して、そううるさくはないようだ。それゆえ、ジャガーとして新しい挑戦ができている。今のデザイン路線については、あと10年くらい続けてみないと成否は問えないが、その頃には世界の自動車業界は大きく変わっているはずだ。この路線がどんな結果を出すのか、楽しみにしていたい。