キャラクター&開発コンセプト
新世代プラットフォーム「SPA」の第一弾
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新型ボルボ XC90
「XC90」は、ボルボで最も大きな7人乗りのフラッグシップSUV。今回の新型XC90は、2003年デビューの初代に続く2代目で、2014年に生産開始、日本では2016年1月27日に発売された。伝統的にモデルライフが長いボルボらしく、実に13年ぶりのフルモデルチェンジ。
新型は高い衝突安全性や軽量化を両立した新世代プラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」を採用したモデルの第一弾。ボルボによれば、スウェーデン史上最大級の110億ドル(約1兆3000億円)を投資した構造改革から生み出された最初のモデル、とのこと。
スーパーチャージャー仕様やプラグインハイブリッドも設定
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新型XC90 T8 ツインエンジン AWDのパワートレイン。プロペラシャフトがなく、センターにリチウムイオン電池を、後軸に電気モーターを搭載。キャビンスペースはほぼそのままだが、燃料タンクは約3割縮小されている
パワートレインは全車、新世代の2.0L直4「ドライブ-E」エンジンを核としたもの。日本仕様はガソリン車のみで、ターボの「T5」、ターボ&スーパーチャージャーの「T6」、ボルボ初のプラグインハイブリッド車「T8 ツインエンジン」を用意している。ちなみに海外向けの2.0L直4ディーゼル車には、ターボの「D4」とツインターボの「D5」がある。
内外装デザインも一新され、特にドライバーとのインターフェイスには、ボルボが推進する「SENSUS(センサス)」システムの最新版として、12.3インチ・デジタル液晶ドライバー・ディスプレイ(フル液晶メーター)や縦型タッチスクリーン式センターディスプレイが採用された。
先進安全装備については世界初の技術として、道路からの逸脱を検知すると即座にシートベルト・テンショナーがシートベルトを巻き上げる「ランオフロード・プロテクション(道路逸脱事故時保護システム)」や、交差点での右折時に直進車との衝突を回避もしくは被害を軽減する自動ブレーキシステム「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」を採用。自動車業界をリードする内容になっている。
生産はスウェーデンのイェーテボリにあるトースランダ(Torslanda)工場で行われる。
■過去の新車試乗記
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ボルボ XC90 (2003年6月掲載)
価格帯&グレード展開
全車2.0L過給器付で、T5、T6、T8をラインナップ
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試乗したのはT6 AWD Rデザイン
日本仕様は全車、2.0L直4ガソリン「ドライブ-E」エンジンとアイシンAW製8AT、そしてAWD(4輪駆動)の組み合わせ。エントリーグレードにはターボ、中間グレードにはターボ&スーパーチャージャーが備わる。二昔前なら、ボルボのT5と言えば直5ターボ、T6と言えば直6ターボだったが、今やすべて直4になる。
プラグインハイブリッドの「T8 ツインエンジン AWD」は、前輪をターボ&スーパーチャージャーエンジンで駆動し、後輪を電気モーターのみで駆動する。ゆえにトヨタの「E-FOUR」同様、プロペラシャフトはない。フル充電ならモーターのみで35.4km走行可能とのこと(実際には多くのEVやPHEV同様、その半分程度が目安か)。
■XC90 T5 AWD Momentum
2.0L直4 ガソリンターボ
(254ps、350Nm)
774万円
■XC90 T6 AWD R-DESIGN
2.0L直4 ガソリンターボ+SC
(320ps、400Nm)
879万円 ※試乗車
■XC90 T6 AWD Inscription
2.0L直4 ガソリンターボ+SC
(320ps、400Nm)
909万円
■XC90 T8 Twin Engine AWD Inscription
2.0L直4 ガソリンターボ+SC
(320ps、400Nm)
+電気モーター(87ps、240Nm)
(合計407ps、640Nm)
1090万円
パッケージング&スタイル
先代より長く、幅広くなった
外観デザインは、巨大なフロントグリルとアイマンマーク、T字型のポジションライトを備えたフルLEDヘッドライトといった顔こそ特徴的だが、全体としてはシンプルな面、水平基調のショルダーライン、凹面で表現したホイールアーチなど、シンプルな造形が見どころ。T字型のポジションライトは、北欧神話に登場するトール神(雷神)が持つハンマーがモチーフだという。
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ボディカラーは全13色。試乗車はRデザイン専用のバースティングブルーメタリック
サイズに関しては、とにかく「でかい」。先代も大きかったが、新型は全長が5m弱(4950mm)、全幅が2m弱(1960mm)と、小山のような大きさを誇る。ホイールベースは一気に130mmも伸びた。全長と全幅は、ランドクルーザー200系とほぼ同等。
一方で、最小回転半径は、先代が6.0~6.4mもあったのに対し、おそらく小回りの効かなさは不評だったのだろう、新型ではT5で5.9m、T6やT8で6.0mに収まっている。
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全長(mm) |
全幅(mm) |
全高(mm) |
WB(mm) |
最小回転 半径(m) |
ボルボ XC90 (2003~2015) |
4800~4810 |
1900~1935 |
1780 |
2855 |
6.0~6.4 |
メルセデス・ベンツ GLE クラス (2015~) |
4815~4855 |
1935~1965 |
1760~1795 |
2915 |
5.5 |
レクサス RX (2015~) |
4890 |
1895 |
1710 |
2790 |
5.9 |
新型ボルボ XC90 (2016~) |
4950 |
1960 |
1760~1775 |
2985 |
5.9~6.0 |
トヨタ ランドクルーザー200系 (2007~) |
4950 |
1980 |
1870~1880 |
2850 |
5.9 |
レクサス LX570 (2015~) |
5065 |
1980 |
1910 |
2850 |
5.9 |
インテリア&ラゲッジスペース
フル液晶メーターと縦型タッチパネルを採用
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試乗車はR-デザインのカーボンファイバーパネル仕様。グレードによってアルミパネルやウッドパネルになる
インテリアでまず目が行くのは、地図も表示できる12.3インチ・デジタル液晶ドライバー・ディスプレイ、そしてセンターコンソールの9インチ縦型タッチスクリーン式センターディスプレイ。縦型ディスプレイは一般的な静電式ではなく赤外線式で、手袋をはめた状態でも操作できる。なるほど、だから布で表面を拭いた時にも反応したのか。
これらは操作スイッチを大幅に減らしつつ、直感的な操作を可能にするボルボ独自のインターフェイス「SENSUS(センサス)」によるもの。試乗車にはなかったが、上位2グレードにはヘッドアップ・ディスプレイも備わる。
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センターの縦型ディスプレイに、前後左右のカメラによる360度ビューを表示した状態。狭いところでの駐車時に便利
というわけで、ボルボで長らく続いた板状センターコンソール「フリーフローティングセンタースタック」は終了。また、エンジン始動ボタンは、センターコンソールに配置されたサイコロ型の回転式スイッチになった。これは最初こそ面食らうが、一度覚えてしまうとボタンより操作しやすい。
ちなみに夜間は、天井に仕込まれた青色LEDがシフトノブの周辺を照らし、メッキ部分が微妙に青く光る。また、T8ではそのシフトノブがオレフォス社のクリスタルガラス製になる。こういった光の演出は、まさに北欧デザインならでは。
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エンジン始動・停止はサイコロ型の回転式スイッチになった
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12.3インチ・デジタル液晶ドライバー・ディスプレイ。写真は地図表示モードで、走行モードは「ECO」
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シフトノブは夜間、天井にあるLEDライトの光を受けて、かすかに青く光る
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アクセルペダルはオルガン式。正面衝突時に火薬点火装置で脱落し、右足の負傷を防ぐ「衝突時ブレーキペダルリリース機能」を備える
フロントシートで正面衝突および被追突時の衝撃を吸収
試乗車のシートはR-Design専用の本革スポーツシートで、電動エクステンション部分にサイドサポートが付くのがユニーク。フロントシートは全車、脊椎損傷を防ぐための衝撃吸収機構付で、被追突時に背もたれを傾けて、むち打ちを防ぐ「WHIPS(後部衝撃吸収リクライニング機構付フロントシート)」になる。
2列目シートは、背もたれをフラットに格納できるほか、前後スライドも可能。後方視界を確保するため、2列目と3列目の大型ヘッドレストがワンタッチで90度折り畳めるのがありがたい。
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2列目中央には子供でも適切にシートベルトを使用できる「インテグレーテッド・チャイルド・クッション」を備える
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試乗車はオプションの電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(20万6000円)
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パワーテールゲートは全車標準。バンパー下を蹴ると開く機能も備える(反応しないこともあるが)
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3列目シートはあくまでエマージェンシーだが、大人でも短時間なら耐えられそう
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3列目を格納。シートアレンジは軽い操作力でできる
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2列目と3列目を格納し、フロアボードを外した状態。その下にはパンク修理キット
基本性能&ドライブフィール
【T6 AWD】 2.0Lターボ+SC。パワーもトルクも十二分
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エンジンカバーは振動を軽減するためだろう、指で押すとグニュッと凹む柔らかい素材
試乗車は「T6 AWD R-デザイン」(879万円)。T6のエンジンは、すでにV40や60シリーズなどでおなじみの2.0L直4「ドライブ-E」ガソリンターボに、スーパーチャージャー(機械式過給器)を追加したもの。最高出力235kW(320ps)/5700rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpmのハイパワー、つまりリッターあたり160psのハイチューンを誇る。例のサイコロをひねってエンジンを掛けると、ゴロゴロゴロと、まぎれもなく4気筒のノイズと振動が伝わってくるが、不快な成分は遮断されている。
新型XC90で最も保守的な部分と言えるシフトレバーを操作して走り出すと、さすがツインチャージャー、分厚く硬質なトルクが発進直後からガツンと出て、小山のような車体を軽々と走らせる。先代より120kg軽くなったという車重は、試乗車で2100kg。ただし体感的には1800kgくらいに思えるほど俊敏に加速する。ターボラグはなく、パワーバンドを外すこともない。パワーウエイトレシオはこのT-6で約6.5kg、0-100km/h加速は6.9秒と、ちょっとしたスポーツモデル並み。
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エンジン始動スイッチの手前にはドライブモード切替ボタンがある。通常はECO(タコメーター表示が消える)かコンフォートでOK
小気味いい加速感は、アイシンAW製8速ATの恩恵も大きい感じ。変速ショックはほぼ皆無で、ギアのつながりもよく、変速スピードも速い。ミッション自体がいいし、エンジンとのマッチングもいい。
少し重箱の隅をつつけば、アクセル操作や状況によっては、思った以上にグワッと加速してしまうことはある。低回転域はスーパーチャージャーが担うので、途中から参加してくるターボチャージャーの過給が要因かなと思うが、とにかくパワーもトルクも十二分。1500~2000rpm、たまに3000rpmまで回す、という感じで、まったく事足りる。
オプションでエアサスも選べるが…
新世代プラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」は、衝突安全性の向上はもちろん、電動化や自動運転まで見据えたもの。この後に登場してくるボルボの中・大型車全てに使われるもので、ドライブ-Eパワートレインと共に、いわゆるモジュール戦略の土台になる。
試乗車はR-デザイン専用の22インチタイヤ(275/35R22のピレリ スコーピオン)を履き、サスペンションは標準仕様(非エアサスペンション)ということで、乗り心地はやや硬め。ただ、それもボルボらしいな、と思えてしまうのは、ボルボの人徳ならぬ車徳ゆえか。
どのグレードでも30万円高で電子制御式エアサスペンション(ドライビングモード選択式FOUR-C アクティブパフォーマンスシャシー付)を装着できるが、エアサス独特のソフトな乗り心地や車高調整機能に魅力を感じなければ、標準サスでいいのでは、と思えた。
エアサス仕様は、最低地上高が標準サスに対して45mm低い180mmになり、高速走行時はさらに20mmダウン、オフロードモードでは逆に40mm高くすることが出来る。
とりあえず、この硬めの標準サスのおかげで、山道でもフワついたり、唐突な挙動が出たり、ということはまったくない。さすがにフロントヘビーな感じは皆無ではないが、ボルボらしく地に足の着いた身のこなしで、そこそこスポーティに、安心感を保ったまま走り切ってくれる。
ちなみにサスペンション形式はフロントがダブルウィッシュボーン、リアは複合樹脂素材製リーフスプリングを使ったインテグラルアーム(マルチリンク)とのこと。確かにちょっと板バネっぽいかもw。
ACCに「パイロット・アシスト」を追加
8速トップには95km/hあたりで入り、100km/h巡行時のエンジン回転数はメーター読みで1600rpm弱(1550rpmくらい)。車重2.1トンの2.0L過給器付エンジン車としては十分に低い。この状態でもトルクは余裕たっぷり。最高速(メーカー発表値)はこのT6で230km/hとのこと。
そして、ミリ波レーダーと単眼カメラによる「全車速追従機能付ACC」や、それと連動してステアリングを自動制御する新機能「パイロット・アシスト(追従時車線維持機能)」など、現時点で最も進んだ運転支援装備も備わる。特にパイロット・アシストは、今のところ50km/h未満でしか作動しないが、車線に沿って自動操舵を行うもので、いわゆる半自動運転を疑似体験できる。
高速巡行で一つ気になったのは、22インチのピレリ スコーピオンから生じるロードノイズが大きめなこと。そもそも22インチはいかにも大きく、試乗中はキャッツアイにリムをぶつけないか、ちょっと気を使ってしまった。なお、T5なら19インチ、T6 インスクリプションなら20インチ、T8なら21インチが標準になる。
世界初の安全装備を2つ採用
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ランオフロード・プロテクション(道路逸脱事故時保護システム)。道路から逸脱したことを検知し、路外の障害物に当たるまでに衝撃に備える
新型XC90には、世界初の安全技術が2つ採用されている。
ひとつは「ランオフロード・プロテクション(道路逸脱事故時保護システム)」。ASDM(アクティブ・セーフティ・ドメインマスター)と呼ばれるミリ波レーダー+高解像度カメラ一体型センサーユニット(フロントウインドウ上部に設置)が、道路からの逸脱を検知すると、即座にシートベルト・テンショナーがシートベルトを巻き上げ、路外にある障害物との衝突に備えるというもの。衝突時にはシートとシートフレームの間にあるメタル製クッションが乗員にかかる衝撃を吸収し、乗員の身体へのダメージ、特に脊椎損傷による重症化を防ぐ。
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インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)
※写真は左側通行の日本でイメージしやすいように左右を反転しています
もうひとつの世界初は、「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」。交差点での右折時、直進してくる対向車との距離や速度を検知して、そのまま右折すると衝突すると判断された場合、衝突を回避・軽減するために自動ブレーキが作動する、というもの。これはさすがに実体験しなかったが、"運転支援"もここまで来たか、と思わせる。
さらに、すでにおなじみの「歩行者・サイクリスト検知機能付フルオートブレーキ」は全車標準。衝突安全性についてもぬかりはなく、新型XC90は2015年のユーロNCAP衝突テストで、「最も安全なSUV」に選ばれている。
試乗燃費は7.2~8.4km/L。JC08モードは11.7km/L
今回はトータルで約250kmを試乗。参考ながら試乗燃費は、一般道と高速道路を走った区間(約90km)が7.2km/L、一般道を大人しく走った区間(約60km)が8.4km/L、高速道路を主にACCを使用して80~100km/h巡行した区間(約50km)が10.9km/Lだった。
JC08モード燃費は、T5 AWDが12.8km/L、試乗したT6 AWDが11.7km/L、プラグインハイブリッドのT8が15.3km/L(ハイブリッド燃料消費率)。
すべてハイオク仕様で、燃料タンク容量は純エンジン車が71L、T8のみ50Lになる。
ここがイイ
「ビジョン2020」に象徴される設計思想
「ビジョン2020」、つまり
「2020年までに、新しいボルボ車において、交通事故による死亡者や重傷者をゼロにする」という目標を立てるだけでなく、その目標を絵空事に終わらせないよう、ベストを尽くしたクルマづくり。これに優る「ここがイイ」はない。
それはボルボという“高級車”だからこそ出来ることでもあるが、一方で1000万円前後もする新型XC90において、エンジンは2.0Lの4気筒で済ましているところに北欧らしい質実な設計思想が見える。また、プラットフォーム等のモジュール化によって、今後出てくる小・中型のボルボ車にも、XC90と同等の安全装備が盛り込まれていくはずだ。
そんな先進安全装備の中では、世界初の技術「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」を挙げておきたい。これは交差点での右折時に、対抗する直進車を見落とし(あるいはその速度を見誤り)、アクセルを踏むドライバーに対して、クルマが自動ブレーキを踏んで止めるという、これまでの“運転支援”から一歩踏み出るもの。これが、いわゆる従来のドライバー感覚において、是か非かはともかく、重大事故ゼロを目指す「ビジョン2020」の達成には必須と言えるものだろう。
他にも、後方をレーダーで監視し、被追突の可能性が生じると、ハザードを自動で点滅させ、さらにシートベルトを巻き上げて背もたれを倒し、前席乗員への衝撃緩和を図るなど、安全装備がこれでもかというくらい満載されており、「安全第一」と考えるならボルボかと思わせる。
ここがダメ
直観的に操作できないSENSUS
今回困ったのは、ボルボ独自のインターフェイス「SENSUS(センサス)」を思い通りに使いこなせなかったこと。ナビゲーションの目的地設定に始まり、メーターディスプレイ表示の切替方法も最後までよく分からなかったし、地デジのチャンネルを変えると、電波を失ったようにブラックアウトしてしまう現象にも戸惑った(いろいろ触っているうちに復帰するが)。輸入車のナビ関係を、日本仕様にする際によくあることだが、なかなか難しいものだと思った。ちなみに、Apple CarPlayは標準装備されているので、iPhoneユーザーならスマホのナビを使った方がストレスがないかも。日本仕様でもAndroidに早く対応して欲しいものだが。
このように安全性の進化と、車内のIT化がうまくシンクロしていないのは、ボルボに限らず、昨今のクルマの大きな課題だと思う。Apple CarPlayなどに全てを委ねてしまえないメーカーの悩みはわかるが、不利益を被るのはユーザーだ。せめてアフターサービスでのバージョンアップの可能性を明確にすることはできないだろうか。
総合評価
「四角くて無骨で安全」に回帰
ぱっと見、地味だなあというのが第一印象。ライバルのひとつがレクサスRXだが、あちらは派手なスピンドルグリルと、シャープな、いわゆるカッコいいボディラインで、トヨタ言うところの「もっといいクルマ」を一生懸命押し出している。そう、レクサスは押しが強い。しかしXC90は真逆で、サイズの割にデザインは控えめで、大人しい。漢字で書けば「大人しい」。大人のクルマ、やんちゃじゃないという意味では、すごく好感が持てるのだが、世界のプレミアムカーがどんどん派手でやんちゃになっていく中、それと違う道を行くのは、ある意味勇気がいることではないか。
いやむしろ、世界の潮流はこうした「大人しい」クルマに向かうのかもしれない。そして、その大人しさは、安全というものを体現することになるだろう。いかにもイケイケで速そうなクルマではなく、四角くて頑丈そうで、大人しくて真面目そうなクルマの方が、「安全なクルマ」の表現には合っている。それはまた、ボルボの伝統的なイメージでもある。最近のボルボ車のスタイリングに対して、中高年が抱く「昔のボルボのイメージとはなんだか違うなあ」という感覚を、新型XC90が払拭し、今後はかつてボルボにあった「四角くて無骨で安全」というイメージに回帰していくなら、それは全く悪いことではないと思う。流線型で速そうなクルマは、極東の島国や欧州の真ん中の国に任せて、ボルボは無骨で安全、を売っていけばいいということだ。
走ってなんぼの時代は終わりつつある
ということで、安全装備に関しては、おなかいっぱいになるほど、てんこ盛り。あと4年もして「ボルボの新車を買えば、死亡事故から免れる」ようになるとすれば、それは自動車の歴史で画期的なことになるだろう。このクルマでも安全装備の一つ一つを見ていけば、自動車が急速に安全な移動体へ変わりつつあるのが実感できる。そして、やがてクルマは安全安心の自動運転になっていくだろう。
とはいえXC90が安全だけが売りのクルマかといえば、全くそんなことはなくて、こんな巨体でもこれが相当速い。走りはもう十分だ。試乗したT6のパワーユニットにも何ら不足や不満はなかった。ダウンサイジングの4気筒しか作りませんというボルボの姿勢も、これなら多くの人が好意的に受け止めるだろう。
また、先日発表された、ディーゼルエンジン「D4」搭載車のSモード(スポーツモード)走行が、窒素酸化物(NOx)の排出値を増加させることに対する無償回収修理の大キャンペーン(主要新聞へ全面広告、webの「
ボルボからの大切なお知らせ」 も好意的にとらえるしかなく、VWや三菱自動車のデータ改ざんスキャンダルを横目に、ボルボはマツダやスバルのように好印象ブランドの頂点へと登り詰めようとしている。
今後は走りや燃費より、「安全」を打ち出した方が、メーカーとしてはお得では、とかつて書いた気がするが、ボルボはそこにスポットライトを当てて大成功しつつある。クルマは走ってなんぼという時代は、残念ながら終わりつつある。やがて来る自動運転のクルマが、これまでのクルマのように走りをアピールするデザインである必然性はない。そう考えると、一見地味で大人しく見えるXC90の形が、ずいぶん未来的なものに見えてくる。これが未来だ、ということを受け入れられる人にならないといけないかもしれない。しかしまあ、それにはまだ、どうにもちょっと修行が足りないようではあるが。