キャラクター開発コンセプト
ホンダ初の1.5L 直噴ターボを全面搭載
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新型ステップワゴン G
(photo:Honda)
5代目となる新型ステップ ワゴンが2015年4月23日に発表、4月24日に発売された。1996年にデビューした初代ステップワゴンは、FFベースのトール型5ナンバーミニバンというジャンルを切り拓いたパイオニア。5ナンバー枠をいっぱいに使ってスペースや道具感を追求したコンセプトで爆発的にヒットした。今回の新型も、基本的には初代同様のコンセプトに磨きをかける形で、進化している。
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新型ではエンジンルームをコンパクト化した分、キャビンや荷室が広くなった
(photo:Honda)
新型で大きなニュースは、従来の自然吸気2L 直4エンジン(150ps、193Nm)に代えて、いわゆるダウンサイジング(主に過給器の追加による小排気量化)を図ったホンダ初の1.5L直噴 VTEC(ブイテック) ターボエンジン(150ps、203Nm)を全車に採用したこと。
出力等はほぼ従来の自然吸気2Lエンジン並みだが、ホンダ自身は「常用域で2.4Lエンジン並みのトルクを発生する」としている。変速機には改良型のCVT(無段変速機)を採用し、JC08モード燃費はクラストップレベルで、先代比+2km/Lの最高17.0km/Lを達成している。
サブドアをリアゲートに内蔵した「わくわくゲート」を採用
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リアゲートにサブドアを内蔵した「わくわくゲート」を採用
(photo:Honda)
もう一つのトピックは、リアゲートの左側に横開き式のサブドアをビルトインした「わくわくドア」を新採用したこと。他社も含めて市販車どころか、コンセプトカーでも見られなかったもので、世界初の仕組みになる。
安全装備に関しては、レジェンド、ジェイドに続いて、歩行者まで検知対象とする安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を採用し、全車にオプション設定。センサーにミリ波レーダー(対象物体の位置や速度、歩行者などを検知)と単眼カメラ(車両前方約60mまでの歩行者や対象物体の属性、大きさなどを識別)の二つを併用することで、精度の高い認識性能を確保したという。
広告キャッチコピーは、標準車が「進め!家族」、スパーダが「大好きだから、カッコつけたい」。また、ダウンサイジングターボ等の新技術・新発想については「クルマの未来を、ここから。H研」というキャンペーンフレーズのCMシリーズで訴求する。
月販目標は先代の6000台に対して5000台。5月の実績は5087台で、ホンダによれば5月31日時点での累計受注台数は1万5000台超とのこと。
生産はアコードハイブリッドやオデッセイと同じ埼玉製作所で、基本的に国内専用車。主なライバルは、トヨタのヴォクシー/ノア/エスクァイア、そして日産セレナになる。
【参考記事】
【外部リンク】
価格帯&グレード展開
228万8000円からスタート。スパーダは272万5000円~
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ステップワゴン スパーダ・クールスピリット
(photo:Honda)
新型ステップワゴンは(今のところ)全車1.5LターボのCVTのみ(FFと4WD)。乗車定員は7人が標準だが、2列目ベンチシートの8人乗りも全車メーカーオプション(2万1600円)で選べる。
標準のステップワゴンは「B」、「G」、「G・EX」の3グレード構成で、価格は228万8000円~。ただし「わくわくゲート」はBにはなく、248万円からのG以上に標準装備される。
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2015年夏に発売予定の車いす仕様車(標準車のBがベース)。3列目シートが跳ね上げ式ではなく床下格納なので、車いすで乗り込んでも狭さを感じにくい(2列目での固定も可能)
(photo:Honda)
先代で販売の8割を占めたというスパーダは、専用ボディキット(前後バンパー、サイドスカート、リアスポイラー、専用アルミホイールなど)、ブラック内装、LEDヘッドライト(ロービーム)、専用サスペンションが標準装備で、272万5000円~。
また、スパーダに、合皮(プライムスムース)/ファブリックのコンビシート、7速パドルシフト、通常の16インチに代えて17インチタイヤ&ホイールを装備したスパーダ・クールスピリットが288万7000円~。
Honda SENSINGは全車オプションで、標準車はサイド&カーテンエアバッグ込で14万5800円、スパーダは10万8000円。そしてHonda インターナビ、リア右側パワースライドドアもオプションになる。
パッケージング&スタイル
小顔に変身。リアには「わくわくゲート」
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試乗車はスパーダ・クールスピリット(プレミアムスパークルブラック・パール)
デザインテーマの一つは「ボックススタイルの楽しさ、美しさ」。まずフロントフェイスには、一般的には売れ線のギラギラしたメッキグリルではなく、現行フィットなどに通じるホンダ共通のデザインを採用。標準車には透明のアクリル製パネルを、スパーダにはフラットな形状のメッキパネルを使っている。あえてグリルレスっぽくしたところにホンダの主張が感じられる。結果、特に標準車では威圧感が減り、親しみやすい雰囲気になった。
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ホイールベースは先代から35mm伸びて2890mm
もう一つフロントまわりで大きく変わったのは、エンジンルームの前後長が40mm短くなり、フロントのオーバーハングも標準車で40mm削られたこと(ただし新型スパーダは標準車よりオーバーハングが45mm長く、先代と比べても5mm長い)。また、ボンネットの傾斜も増えて、全体としてはフィットのようなモノフォルム感が強まった。あわせて、ホイールアーチを強調する膨らみやキャラクターラインもしっかり入っている。
新型で最大のポイントは、リアゲート左側にサブドアを内蔵した「わくわくゲート」と、それによる左右非対称デザイン。なお、リアゲートを観音開きドアにしなかったのは、ハッチタイプなら雨よけの「ひさし」にもなってくれるからだ。
インテリア&ラゲッジスペース
メーターはステアリング上のアウトホイール式に
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スパーダの内装は全てブラック基調で、クールスピリットは合皮(同)/ファブリックのコンビ
インパネ中段を左右に横切る「棚」やインパネシフトなどは先代とほぼ同じだが、ナビディスプレイ周辺やメーターのレイアウトは激変。メーターはダッシュボード上面の奥に配置され、ジェイド同様にステアリングホイールの上から見る「アウトホイールメーター」になった。この点については、先々代の3代目ステップワゴンのデザインに戻ったとも言える。
これに伴い、ステアリングホイール内の一等地は、ジェイドと同じように何もない“空き地”になった。インパネのあちこちに収納スペースがあるのと対照的で、もったいないなぁと思うのだが、ユーザーにとっては一種のフリースペースか。
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メーターの手前にはフタ付小物入れ、センターコンソールには収納式テーブルやドリンクホルダーが備わる
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写真は3代目ステップワゴン(2005~2009年)のインパネ
MM思想は不滅です
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ホールド性はそこそこだが、座り心地はまずまずの前席。チルト/テレスコは全車標準
エンジンルームの前後長が40mm短縮され、ホイールベースが35mm増えたことなどで、室内長(1-3列のタンデムディスタンス)は40mmアップ、そして荷室の前後長も20mmアップした。さらに全高が25mm高くなったことで、室内高も30mmアップ。結果として室内空間は、同クラス(2Lクラスのトール型ミニバン)で最大級になったわけだが、今回は「3列平等」をコンセプトに、特に3列目シートを広くしたとのこと。これぞホンダ伝統のMM(マンマキシマム・メカミニマム)思想。
7人乗りが標準で、8人乗りはオプションで用意
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オプションの2列目ベンチシート仕様。ロールサンシェイドは「B」グレードを除いて標準装備
2列目シートはキャプテンシート(7人乗り)が標準で、2列目ベンチシートの8人乗りをオプションで用意。試乗車はその8人乗りの方だが、カタログにも8人乗りの写真はほとんど掲載されてないので貴重かも。ウォークスルーは出来ないが、いざとなれば8人乗れるのがメリット。
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室内高はセレナ(1380mm)、ヴォクシー/ノア(1400mm)を上回る1425mm
(photo:Honda)
なお、新型では2列目シートのタンブル格納(背もたれを倒してから座面ごと前方に跳ね上げる)が廃止され、荷室を目一杯拡大する時でも、前後スライドで前に寄せるだけのタイプになった。自転車など長くてかさばるものを積む時には少し不利だが、タンブルは女性などが操作しにくいとか、クッションの厚みを確保しにくいといったことから、廃止という判断になったようだ。もちろん、コストや重量もセーブできる。
サードシートは左右分割式に進化
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サードシートのスペースは十分だが、クッションの平板さは先代と大差なし
3列目シートは、横への跳ね上げ式が多いライバル車とは異なり、これまでどおり床下格納式。ただし先代のような左右一体型ではなく、左右別々に格納できる新開発の「マジックシート」に進化している。巧みなバネ仕掛けによって、まさにワンタッチで床下にバタバタっと格納される様子はまさにマジック。
ただし、このサードシートの座り心地に関しては、ライバル車のような跳ね上げ式ほど良くはない。これは単純にクッションの分厚さの差。子供ならともかく、大人が長時間ここに座るのはけっこう疲れそう。
「わくわくゲート」でリアからの出入りも可能
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片側を床下に格納すれば、サブドアからスムーズに出入りできる
リアゲートは、ベースグレードを除き、横開きのサブドアを左側に内蔵した「わくわくゲート」になった。これにより荷室へのアクセスが容易になったほか、サードシートの出入りも簡単になった。リアゲート敷居の地上高も先代より85mmも低くなり、445mmに。階段で言えば2.5段分の高さだが、ライバル車などと比べると、明らかに低いことが分かる。この辺の低床設計はさすがホンダ。
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リアゲート敷居の高さは先代より85mmも低くなり、大人ならスムーズに出入りできる
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セカンドシートを一番前まで寄せた状態。27インチの自転車でも車輪を付けたままでギリギリ収まる
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サブドアは3段階で開く(写真は全開状態)。中からもスイッチで開けられる
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リアゲート開口高は1270mm、開口部の幅は1180mm
基本性能&ドライブフィール
先代2.0Lと同等以上。トルク感では若干上回る
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ホンダ初の1.5L直噴ターボエンジン。インタークーラーはラジエターの下に配置される。
試乗したのは、トップグレードとも言えるスパーダ クール・スピリット(FF)。
エンジンはホンダ初の直噴1.5L VTECターボ。「ホンダの1.5ターボ」と言えば、第二期ホンダF1時代の1.5L V6ターボだが、これは2.0L並みのパワーを1.5Lの排気量で叶えるダウンサイジングユニット。最高出力は150ps/5500rpm、最大トルクは203Nm/1600-5000rpmと、まさに先代の2.0L(150ps、193Nm)並みだが、JC08モード燃費は先代より1割以上いい。
アクセルを軽く踏んだ時のレスポンスはごく自然で、ターボっぽさはほぼ皆無だが、踏み込んだ時は予想以上にパワフル。「常用域では2.4Lエンジン並みのトルクを発生する」というホンダの主張通り、常用する2000rpmくらいでもトルク感があり、試乗車で1720kgあるボディをスムーズに加速させる。
変速機は先代のトルコン付CVTをターボエンジン用にアレンジしたもの。ターボエンジンとのマッチングはとてもよく、スリップ感はほぼ皆無。7速DCTだと言われたら信じそうなくらい節度感がある。CVTが好きじゃない人でも、これなら不満ないはず。アイドリングストップからの再始動もスムーズにこなしてくれる。
なお、新型ステップワゴンの最小回転半径は、ライバル車より0.1mほど小さい5.4mが標準だが、スパーダ・クールスピリットだけは17インチタイヤのせいで5.7mに膨らんでしまう。思わず初代ステップワゴン(5.6m)のような小回りの効かなさを心配してしまうが、これは意外に大丈夫だった。
また、心配と言えば、ルームミラーに映る「わくわくゲート」の窓枠がジャマじゃないか、ということだが、これもほとんど全く気にならなかった。枠の幅は68mmと細く、しかも右に寄っているし、リアガラス自体が上下に大きいせいもある。
乗り心地とハンドリングは期待以上
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クールスピリットの17インチタイヤはBSのトランザ ER33
スパーダ(FF車)の足回りは専用サスペンションで(ダンパー等が異なる)、クール・スピリットではタイヤも専用の17インチ(205/55R17)になるが、乗り心地は路面に関係なく良好で、率直な話、現行オデッセイのアブソルートより好印象だった。
ハンドリングも期待以上で、少なくとも試乗したクールスピリットは、強めのアンダーステアが出そうな場面でもよく曲がり、なかなかやるなと思わせる。もちろん、車重は1.7トンもあるし、この全高だし、ホイールベースは2.9m弱もあるので、身をよじるように曲がる感じは出るが(3代目ほどのスポーティさはない)、コーナーの立ち上がりでアクセルを踏んだ瞬間にターボエンジンがグワッと反応してくれるあたりなど、ちょっと感動的。「わくわくゲート」の採用でリアゲートは約9kg重くなったそうだが、それに対してはリア回りのボディ剛性を高めたり、全体の剛性バランスを最適化することで、先代以上の操縦安定性や乗り心地を確保したという。やるべきことをきちんとやった感じが、走らせると確かに伝わってくる。
なお、フロアの基本設計は先代からのキャリーオーバーだが、エンジンコンパートメントは新型1.5Lターボエンジンに合わせた新規で、前後サスペンションも新設計されている。
高速道路でターボパワーを実感
100km/h巡航時のエンジン回転数は2000rpm弱で、この程度ならエンジン音は軽微。また、高速域でも風切り音とロードノイズは静かで、乗り心地はよく、操縦安定性も高い。このあたりからも、やりきった感が伝わってくる。
追越加速は4000rpmも回せば必要十分だが、必要とあれば6000rpmまでスコーン!と回りきり、鬱憤を晴らすような勢いでパワフルに加速してくれる。少なくとも、ジェイド ハイブリッド(自然吸気1.5L+モーター)や先週のカローラフィールダー 1.5Gより明らかにパワフル。いや、こうなると同じターボエンジンを積んだジェイド RSが気になってくる。
Honda SENSINGは全車オプション設定
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右上がCMBSのオフボタン。右下はLKASのオン/オフボタン(写真はオフ状態)
安全運転支援システム「Honda SENSING」は全車オプションだが、試乗車はもちろん装着車。
ジェイド ハイブリッドの試乗記でも触れたように、Honda SENSINGは前方監視用に、ミリ波レーダーと単眼カメラという、特性の異なる2種類のセンサーを搭載したもの。
新型ステップワゴンの場合は、以下の7つの機能を備える。
- 衝突軽減ブレーキ(CMBS)…約5km/h以上で走行中、歩行者、前走車、対向車に対して作動 (ただし、対向車には自車速度が80km/h以下の場合にのみ作動)
- ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)…約30~100km/hで作動
- LKAS(車線維持支援システム)…約65~100km/hで走行中、ステアリング操作を支援。車線を逸脱しそうな場合は、ステアリング振動などで警告
- 路外逸脱抑制機能…約60~100km/hで走行中、路外への逸脱を検知するとステアリング振動で警告し、電動パワステを制御。さらにはブレーキ制御も行う
- 誤発進抑制機能
- 先行車発進お知らせ機能
- 標識認識機能…最高速度、はみ出し通行禁止、一時停止、進入禁止の標識をメーター内に表示
この中で今回、特に気にいったのは、主に高速道路で作動するLKAS(車線維持支援システム)と路外逸脱抑制機能。新型ステップワゴンのものは操舵アシストがかなり明確で、ステアリングをグググッと切るのが手のひらの感覚だけでなく、目視でもはっきり分かるレベルだった。もちろん、ステアリングから手を放すと警告が出てしまうが、夜間の高速走行ではバックアップとして心強いアイテムになると思う。
試乗燃費は9.5~13.0km/L。JC08モード燃費(FF車)は15.4~17.0km/L
今回はトータルで約280kmを試乗。参考ながら試乗燃費は、いつものように一般道と高速道路を走った区間(約80km)が9.5km/L。無駄な加速を控えて一般道を走った区間(約20km)が11.3km/L。主に高速道路を走った区間(約100km)が12.2km/Lで、うち80~100km/hで巡航した区間(約40km)は13.0km/Lだった。速度を上げると如実に燃費が落ちてゆくタイプだが、純ガソリン車で車重1.7トンのミニバンとしては納得できる燃費性能だと思う。
なお、JC08モード燃費は、FF車で15.4~17.0km/L。指定燃料はレギュラー。燃料タンク容量は、燃費が良くなった分を見込んでだろう、先代の60Lから52Lに縮小されている。
ここがイイ
エンジン、乗り心地、操縦安定性など、全体の完成度。納得できる燃費。Honda SENSING
1.5Lターボエンジンはトルクフルで扱い易いだけでなく、回すとスペック以上のパワー感がある。これぞ Powered by Honda。そして誰もが分かるポイントとしては、乗り心地がいいし、視界が広くて乗りやすい。また、少しマニアックなところではハンドリングもよく、少なくとも試乗したスパーダの17インチ仕様(クールスピリット)はスポーティさと乗り心地のバランスが絶妙。このクラスのミニバンはどれも完成度が高いが、ステップワゴンはターボエンジンを得たことで一歩抜けだした感じ。
外観デザイン。ミニバンらしいケレン味のないスタイリングや、おとなしいフロントフェイスは長所と言っていいのでは。わくわくゲートは、それによって車両価格が大幅に高くなったわけでもないので、あるに越したことはない。
3代目に戻ったようなメーターのレイアウト。メーターが高い位置にあれば、今後はいろいろなものが低い位置にレイアウトできる。ミニバンに限らず、こういったメーターレイアウトはもっと採用されるべきだと思う。
実用燃費はラフに走って10km/L弱、丁寧に走れば11~13km/Lといった感じだったが、初代ステップワゴンではラフに走ると7km/Lだったから、それを思えば確実に進歩している。
オプションとはいえ、Honda SENSINGが全車に設定されたこと。高速道路を走る機会が多いなら迷うことなく装備すべき。本文でも触れたように、標準車ならサイド&カーテンエアバッグ込で14万5800円、スパーダなら10万8000円に過ぎない。
ここがダメ
ACCが全車速対応じゃないこと。サードシートの座り心地。ハロゲンのハイビーム。エンジンストップボタン
ジェイド同様、パーキングブレーキは電動化されず、足踏みのまま。なので、高性能なミリ波レーダーや単眼カメラを積んでいるのに、ACCが全車速対応ではなく、また約30km/h未満の低速追従機能もないのは少し残念なところ。停車中もブレーキ圧を保持できる電動パーキングブレーキにして、ACCを全車速対応にして欲しかった。ちなみに新型レジェンドのACCは全車速対応になっている。
国内モデルでは今のところ唯一ジェイドだけの採用だが、走行中に左後方の様子をナビディスプレイで確認できる「レーンウォッチ」の設定がないこと。新型ステップワゴンのインターナビ(メーカーOP)装着車にはオプションでマルチビューカメラシステム(前後左右4つのカメラを装備)が用意されているが、運転上級者にはレーンウォッチの方が役に立ちそうに思える。どちらか選べるといい。
先代同様、サードシートの座り心地はイマイチ。座面も背もたれも小さく、長時間は座っていたくない類のもの。格納しておくのが前提の補助席的な位置づけなのは、サードシートが跳ね上げ式だった初代や2代目とは異なる部分。7人乗り仕様の場合は、実質的には4+3(フル4シーター+3)ということになってしまう。
標準車にメーカーオプションもしくはスパーダに標準装備のLEDヘッドライトは、ロービームがLEDで、ハイビームがハロゲンという現行ホンダ車に多いタイプ。白くて明るいLEDの光に対して、ハロゲンの光はやや黄色っぽく、色味の差が大きく感じられる。出来ればハイ/ロー共にLEDがよかった。
試乗中、最後まで慣れなかったのは、停車してPレンジに入れてエンジンを止める際、エンジンスタート/ストップボタンを1秒ほど長押しして(取扱説明書によれば、「ピッ」とブザーが鳴るまで押し続けて)、エンジンを切ること。パッとエンジンを切って、ささっと降りたいところだが、少し待つ必要がある。ジェイドでは普通に切れたので、おそらく新型ステップワゴンから導入された方式だと思う。
なお、走行中でも緊急用にスタート/ストップボタンを長押しすればエンジンオフできるのは従来通り。新型ステップワゴンをはじめ、最近のホンダ車の多くは、ボタンを2秒以上押すか、3回連続して押すと走行中でもエンジンを止めることができる。
総合評価
初代ステップワゴンにはすべてがあった
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初代ステップワゴン(1996年)
(photo:Honda)
新型ステップワゴンは、基本的には日本だけで売られるガラパゴス車、いわばガラミニバンだ。ガラ軽もそうだが、日本のメーカーは規格枠の範囲で創意工夫することがほんとうに上手い。なのでガラミニバンも見どころたっぷりのクルマが多いが、そんな日本のガラミニバン、その元祖が初代ステップワゴンだった。1995年の東京モーターショーにコンセプトモデルが出て、翌年の1996年デビューということなので、登場からはもう20年になる。
そこでガラミニバンの歴史を少しふりかえってみよう。
1970年代の中ごろのことだが、アメリカ西海岸のライフスタイルが広く世の中に紹介され、そこでいわゆるバニング(バンをベースにしたカスタム)という文化を知った当時の若者は、日本でもバンライフを楽しもうと、ハイエースやライトエース、バネット、デリカといった4ナンバー商用キャブオーバーバン(エンジンがシート下にある)を改造し、居住性を高めてワゴン的に乗り回すようになった。1980年代になるとメーカーもそうした要求に応えるように、キャブオーバーバンに5ナンバー乗用ワゴン仕様を設定し、内装の豪華さを競うようになる。しかし依然としてそれらは商用バン派生の「ワンボックス」車だった。
1990年代に入ると、1993年に日産ラルゴ、1996年にトヨタ ライトエースノアなど、ノーズはあるがキャブオーバーというセミキャブオーバーとでも呼ぶべき過渡期的モデルが登場し、スタイルだけはミニバンらしくなっていく。
しかしもともとキャブオーバーワゴンを持たなかったホンダからはFFベースの本格的なミニバンとして初代「ステップワゴン」が登場し、1996年5月に衝撃のデビューを果たした。鈴鹿サーキットホテルで開催された発表会で大感激したことを、今でも鮮明に覚えている。そしてどうして名前を「ステップバン」にしなかったのかと執拗に聞いたことも、また強く記憶しているが、それに対してホンダの答えがあいまいだったことも何となく憶えている。いずれ軽でステップバンを復活させるつもりだろうと当時は思ったが、結果的にそれは15年後にN-BOXという名で登場した。
初代ステップワゴンには日本のガラミニバンが必要とするもの、そのすべてがあった。5ナンバー枠をキープした上での絶対的な室内空間の広さ、低床、運転席からのウォークスルー(キャブオーバーはこれができない)、十分な動力性能、キャブオーバーを超える操縦安定性、運転席から3列目までがフルフラットになるなどの多彩なシートアレンジ、そして何よりいかにもミニバンという外観のデザイン。セミキャブオーバーのノア(FRベース)がデビューしたのは、ステップワゴンより後の1996年10月だから、当時いかに初代ステップワゴンが進んでいたかが分かる。しかも価格が安かったこともあって月販平均8000台の大ヒットとなり、2000年代に入って参戦してきたヴォクシーやセレナとの間でガラミニバン大戦争に突入するわけだ。
つまりステップワゴンは、すでに初代でガラミニバンとしてのコンセプトが完成していたわけだ。4年後の2代目はビッグマイナーチェンジ的なものに留まり、3代目では一転して全高を低めて走り重視にするという大きなコンセプト変更を行ったものの好感を得られず、4代目で初代コンセプトに戻り、6年後の今回、5代目でそのビッグマイナー的なものを行った、という印象を受ける。ホンダとしては違うと言うかもしれないが、ユーザー的にはそう見えているはずだ。
新型はガラミニバンとしての正常進化
20年前の初代と、今回の5代目を比べてみると、エンジンが最新トレンドのダウンサイジングターボになって動力性能と燃費性能が向上し、同時に操縦安定性、静粛性は明らかに高まった。Honda SENSINGで安全性が高まり、初代では考えられなかったACCなどハイテク装備も加わった。わくわくゲートが採用され、3列目シートが床下収納になっており、スライドドアも今や両側電動に出来る。
反面、3列フルフラットはできないし、2列目シートのタンブル格納もできず、2代目にあった運転席・助手席回転シートもない(これらは2列目を重視する昨今のトレンドのせいだろう)。ミニバンとしてのシートアレンジは、初代や2代目の方が好ましく見えるのだが。そういえばいつの間にかサンルーフもなくなってしまった。
とはいえ、新型はガラミニバンとしての正常進化であり、基本性能の底上げ感はすごい。ダウンサイジングターボエンジンやHonda SENSINGが象徴するように、ガラミニバンの先駆者として、さすがにライバルの先を行っていることは間違いない。間違いないが、これはいいなあと大感動するほどでないのは、やはりこの20年で我々の方が「ミニバンにすっかり擦れてしまった」からか。モデルチェンジのサイクルが昔と違って6年に延びているだけに、この20年でなされた驚くべき進化、というものを見たかった気はするが、やはりそれはそう簡単な話ではないだろう。
その点は、他社のガラミニバンも同様であり、そこで内容勝負ではなく、見てくれの「ヒカリ物」で勝ちを取りに来る、というパターンも出てくる。具体的には強烈なフロントデザイン(大きなメッキグリル)などだ。ゆえに新型ステップワゴンがそうではないのは本当に喜ばしい(今回はスパーダの外観だっておとなしい)。世の中、強そうなグリルが好きな人ばかりじゃないと思う。特にガラミニバンはそうであるはず。ノアですらがああなってしまった現在、ステップワゴンに好感を持つ人は少なくないはずだ。初代に通じるシンプルな顔つきは、今後もぜひ守り抜いてほしいもの。ホンダでも3ナンバーのオデッセイは派手で大きなメッキグリルだから、そちらと差別化して販売するためにも、ぜひ。
最後の1台は、やっぱりミニバン
この走りと車重でも、燃費はコンスタントに10km/L前後は出るので、日々の足として使うのにも躊躇はいらない。5ナンバーサイズという、ある意味「コンパクト」なクルマながら、マキシマムな空間を持っているガラミニバンは、とにかくマルチに使えるから、一家に1台の自家用車としては最も効率がいい。1990年代からガラミニバンに乗ってきた世代も、すでに子供が大きくなってミニバン離れを起こしているが、孫が大きくなると、またまたガラミニバンが欲しくなるもの。アイポイントの高いミニバンはヘタなセダンより乗りやすいし、その気になれば車中泊だってできるから、熟年層がアクティブなリタイアライフを楽しむための足にもぴったり。ということで、ミニバンをいったん卒業した人が「最後の1台は、やっぱりミニバン」と考えなおすリターン現象がこれから増えてくると見るが、どうだろう。昔軽トラ、今ミニバン。Honda SENSINGもあるわけだし。