キャラクター&開発コンセプト
斬新な王冠グリルを採用しつつ、クラウンの原点に回帰
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新型クラウン アスリート(奥)とロイヤルサルーン
2012年12月25日に発売された新型クラウンは、1955年に発売された初代から数えて14代目。新型はトヨタの新しいテーマ「もっといいクルマづくり」に基づき、クラウンの原点に立ち返って、高い快適性や安全性を追求したという。
ラインナップは従来通り、フォーマルな「ロイヤル」とスポーティな「アスリート」の2本立てだが、新型の特徴は王冠(クラウン)をデザインモチーフにした斬新なフロントグリル。ロイヤルは縦長グリルと横長ロアーグリルを一体化した逆T字型、アスリートでは稲妻のような形のグリルとし、それぞれの個性を際立たせている。
販売の主役は、直4エンジンの新型ハイブリッド
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新型クラウン ハイブリッドに採用された新型FRハイブリッドシステム
パワートレインは2種類のガソリンエンジンと新開発ハイブリッドの計3種類。ガソリンエンジンは従来通り、2.5リッターV6(4GR-FSE型、203ps)と3.5リッターV6(2GR-FSE型、315ps)で、3.5リッターには8速ATを新採用した。
ハイブリッドは従来の3.5リッターV6とモーターに代えて、2.5リッター直4(2AR-FSE型、178ps)、モーター(143ps)、ニッケル水素電池を組み合わせたFRハイブリッドシステム(システム出力220ps)を新開発。JC08モード燃費は2.5リッターV6モデル(11.4km/L)の2倍以上となる23.2km/Lを達成している。
生産はトヨタ自動車本社の元町工場(愛知県豊田市)で、販売チャンネルは従来通りトヨタ店。目標販売台数は月間4000台。
なお、受注台数は発売一ヶ月後までに約2万5000台に達し、うちハイブリッドが3分の2(約66%)を占めたという。2013年1月の登録実績は5327台(登録車で8位)、2月は9668台(同6位)、3月は1万1592台(同7位)。
■過去のニュース
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トヨタ、クラウンをフルモデルチェンジ (2012年12月更新)
■過去の新車試乗記 【トヨタ クラウン関連】
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トヨタ クラウン マジェスタ (2009年5月更新)
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トヨタ クラウン ハイブリッド (2008年6月更新)
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トヨタ クラウン 3.5 アスリート (2008年3月更新)
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トヨタ クラウン マジェスタ (2004年7月更新)
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トヨタ クラウン 2.5 アスリート (2004年5月更新)
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トヨタ クラウン 3.0 ロイヤルサルーン (2004年1月更新)
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トヨタ クラウン マイルドハイブリッド (2001年10月更新)
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トヨタ クラウン (1999年10月更新)
価格帯&グレード展開
販売の主役はハイブリッドに
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ボディカラーは全7色。写真はアスリート専用の新色プレシャスブラックパール。話題のピンクは限定車で追加設定される模様
ラインナップは以下の通り。ロイヤルは2.5リッターV6とハイブリッドのみ。アスリートには2.5リッターV6、3.5リッターV6、ハイブリッドと、3種類のパワートレインが用意される。
従来はトップグレードだったハイブリッドが、今回から販売主力になったのが大きな特徴。代わって3.5リッターV6モデル(唯一8速ATを採用)がトップグレードになった。
なお、初期受注(発売後一ヶ月)におけるロイヤルとアスリートの販売比率は、44%(約1万0900台):56%(約1万4100台)で、ほぼ半々。
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クラウン ロイヤル
■クラウン ロイヤル
・2.5リッターV6(203ps)+6AT 353万-505万円(FR/4WD)
・2.5リッター直4+モーター(システム出力:220ps) 410万-536万円(2WD)
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クラウン アスリート
■クラウン アスリート
・2.5リッターV6(203ps)+6AT 357万-513万円(FR/4WD)
・2.5リッター直4+モーター(システム出力:220ps) 410万-543万円(2WD)
※今回の試乗車
・3.5リッターV6(315ps)+8AT 497万-575万円(2WD)
パッケージング&スタイル
フロントフェイスは見慣れる
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ボディサイズは全長4895mm×全幅1800mm×全高1450mm、ホイールベース2850mm
今回試乗したのはアスリートで、まずはその稲妻フロントグリルに目がゆくところ。世界でも類を見ないグリルデザインだが、発売から3ヶ月以上が経った今は、当初ほどの違和感はない。
スタイリング全体は一見キープコンセプトだが、印象は従来型クラウンとかなり異なる。先代の複雑なキャラクターラインや抑揚は影をひそめたが、フェンダーの峰からショルダーにシャープな折り目が入り、伝統的な水平基調が鮮明になった。また、先代では前進していたAピラーが再び後退し、FRらしいロングノーズ感が強調されている。
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ひと目でクラウンと分かる後ろ姿ながら、同時にひと目で新型と分かる
一方、フロントフェンダー上部の膨らみ、ダックテール状のトランクリッド、張り出したタイヤなどでスポーティさも強調。伝統的な太いCピラーの下も、よく見ると筋肉質に盛り上がっている。フロントフェイスは好みが分かれるが、スタイリングそのものは新しさ、美しさ、クラウンらしさを兼ね備えたものという印象。
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デザインテーマはアスリートが「凄み」、ロイヤルは「粋なフォーマル」とのこと。最近急速に増えてきた「ポップアップフード」も採用
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アーチヘミング工法(ホイールアーチのフランジ部をU字型に折り返す)によってタイヤの踏ん張り感を出したとのこと
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キャラクターラインがフェンダー稜線と同じ高さで走る
インテリア&ラゲッジスペース
クラウンの伝統と革新を融合
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中央を大小の液晶パネルが陣取るインパネ。試乗車はアスリートの黒レザーだが、ロイヤルのベージュレザーだとグッと明るい雰囲気
外観同様に、ひと目でクラウンと分かる高級感のあるインテリア。ダッシュボード中央にはナビ用の8インチモニター、その下には「トヨタマルチオペレーションタッチ」と呼ばれるタッチパネル式の5インチディスプレイを配置する。一方で、クラウンに欠かせない木目調パネルは、さらに下層のセンターコンソール、そしてドアトリムにあしらわれる。
「トヨタマルチオペレーションタッチ」を新採用
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5インチタッチパネル(写真下)を使った「トヨタマルチオペレーションタッチ」
インテリアで革新を象徴するのが、「トヨタマルチオペレーションタッチ」。これは液晶タッチパネルで、エアコンや車両設定(走行モードなど)をコントロールするというもの。新型キャデラック ATSに採用された「CUE」のように振動によってフィードバックを返すといった工夫はないが、操作感は意外に良好。従来のボタンほど操作しやすくはないが、増えすぎたボタンを最小限にする、という目的は達成されている。
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スタートボタンが右側で押しやすい。写真左上に、アダプティブハイビームシステムやパノラミックビューモニターのスイッチが見える
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ハイブリッドのメーター。回転計の代わりにパワーメーターが備わる
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アスリートにはデジタル処理で表現された幾何学調のブラック木目を採用。ロイヤルは金糸柄が走るブラウン木目
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ハイブリッドの荷室容量は、先代比41リッター増の405リッター(+床下45リッター)。ちなみにガソリン車は先代比23リッター増の552リッター。全車パンク修理キットが標準で、スペアタイヤはオプション
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先代同様、ゆったり座れる後席。座り心地もピタッとフィットして非常にいい。ロイヤルサルーンの上級グレードには電動リクライニングやシートヒーター等も用意される
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シートの座り心地はとてもいい。アスリートには写真の黒レザーの他、ファブリックに黒と新色「テラロッサ」(ワインレッド)を用意
基本性能&ドライブフィール
使いきれるパワー。エンジンが直4になったネガは皆無
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直4エンジンによるハイブリッドは非常にコンパクトに収まっている
試乗したのはハイブリッドのアスリート。始動ボタンを押してもエンジンが掛からず、モーターの力で静かに力強く走り出すのはハイブリッドだから当たり前だが、これがクラウンとなると新鮮。というか、さすがクラウン、静かで滑らかだ、と感心してしまう。
このあたりで、特に予備知識がない人は、エンジンが4気筒であることなど、全く気づかないはず。それくらい、エンジンは滑らかに回り、静粛性も高い。「従来のV6エンジン以上の静粛性を実現」というプレスリリースの言葉に誇張はない。
ハイブリッド用の2.5リッター直列4気筒「2AR-FSE」エンジンは、カムリハイブリッドの「2AR-FXE」(160ps、21.7kgm)をFR用の縦置きに設計し直し、直噴とポート噴射を併用する「D-4S」を盛り込んだもので、最高出力は178ps、最大トルクは22.5kgmを発揮する。
モーター自体はSAI、カムリハイブリッド、レクサスHS250hと同じ「1KM」で、最高出力は143pで同じだが、最大トルクはそれらの27.5kgmから30.6kgm(300Nm)に強化されている。システム出力は、現行(3代目)プリウスの136psはもちろん、カムリ・ハイブリッドの205psより強力な220ps。もちろん、プリウスなどと同様、ハイ/ロー2段のリダクションギアも採用されている。
このパワートレインは、結論から言えば、「使いきれる」ところがいい。先代クラウンハイブリッドやGS450hのパワーは、あまりに強力かつ高速型(高速域でパワーが突き抜けるように盛り上がってくる)で少々持て余すが、新型クラウンハイブリッドのパワーは日常域でも使い切れる。ちょうど2.5リッターV6ガソリン車(新型は203ps、24.8kgm)に通じるような扱いやすさがある。
それでいてトルク感はものすごい。単純にエンジンとモーターのトルクを足せば54.5kgm。実際にはそこまで出ないにしても、路面によっては瞬間的にトラクションコントロールが働くほど、後輪が蹴る力は強く、特にコーナーや交差点からの立ち上がりは速い。このトルク感はハイブリッド車だと多かれ少なかれ味わえるが、クラウンの場合は後輪駆動ということで、しっかりトラクションするのがいいし、もちろんトルクステアもない。
とにかく運転して100メートルも走らないうちに、その乗りやすさ、エンジンの滑らかさ、パワー感、静粛性の高さ、などなどに感心させられる。日本の路上で乗る限り、極めて「いいクルマ」、理想のセダンといった印象。
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エンジン 最大出力(ps) |
エンジン 最大トルク(kgm) |
モーター 最大出力(ps) |
モーター 最大トルク(kgm) |
システム 出力(ps) |
車重 (kg) |
JC08 モード 燃費 (km/L) |
3代目トヨタ プリウス |
99 |
14.5 |
82 |
21.1 |
136 |
1350 |
30.4~32.6 |
レクサス HS250h |
150 |
19.1 |
143 |
27.5 |
190 |
1570~1640 |
19.8 |
トヨタ カムリ ハイブリッド |
160 |
21.7 |
143 |
27.5 |
205 |
1540~1550 |
23.4 |
トヨタ クラウン ハイブリッド |
178 |
22.5 |
143 |
30.6 |
220 |
1630~1680 |
23.2 |
レクサス GS450h (2012-) |
295 |
36.3 |
200 |
28.0 |
348 |
1820~1860 |
18.2 |
クラウン独特のスムーズさ、そして軽快感が印象的
プラットフォームは先代からのキャリーオーバーだが、足まわりは新設計。「張り」と「いなし」をキーワードに、前後サスペンションのアーム剛性を最適化したほか、フロントに新設計のタイロッドエンド、リアに同じく新設計のサスペンションアームやトーコントロールアームを採用し、車両安定性と乗り心地を高めたという。
試乗したアスリートは、オプションの18インチタイヤを履いていたため、乗り心地は多少硬めというか、段差や凸凹では多少揺すられるが、乗り心地は基本的に文句なし。クラウン独特の滑るようなスムーズさに惚れ惚れする。ボディ自体は2.5リッターV6ガソリン車より90kgほど重く、試乗車はオプション込みで1690kgだったが、まったく重さは感じない(重厚感もない)。むしろ、とても軽いクルマに乗っている感じがする。軽いのにフラットに走る、というのが不思議な感じ。
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リアコンビランプ側面には直進安定性に寄与する小さな突起「エアロスタビライジングフィン」を採用
ちおみに前後重量配分は、車検証数値では880kg:810kg、つまり52:48と良好。エンジンが直4になってフロントが軽くなり、同時にリアのバッテリーも先代より小型軽量化され、搭載位置は50mm前進している。そのせいかハンドリングは良好かつクイックで、ちょっとしたFRスポーツ的な軽快感がある。
ハイブリッドなので、ミッションは動力分割機構による電気式無段変速機になるが、スポーツモード選択時には擬似6速マニュアルモードも使える。これが思わず普通の6速ATかと思うほど変速感が本物っぽい。また、高回転まで回した時のエンジン音も、心なしかV6っぽい気が。シリンダー数にこだわる時代は終わった、と思う瞬間。
高速道路での安定感は、当然ながらゼロクラウン以降のレベル(以上)をキープしているし、パワーも十分。GS450hなどと違って、加速時にパワーを使いきってる感が気持ちいい。高速域ではサイドウインドウやドアミラー付近の風切り音が気になったが、これは他の静粛性が高いから、相対的に目立ったのかも。
ハイビーム時に遮光範囲を自動調整
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アダプティブハイビームシステム使用時。メーターディスプレイの絵がリアル
安全装備はオプションになるが、ミリ波レーダーを使ったプリクラッシュセーフティ・システム(改良型)やレーダークルーズコントロールなど盛りだくさん。試乗中に便利だったのは、ボディの周囲に4個のカメラを設置し、画像処理で真上から見た映像をモニターに表示する「パノラミックビューモニター」。これはすでに他社でもずいぶん前から採用されているものだが、新型クラウンには、クリアランスソナーが進行方向に障害物を認識した場合、状況に応じてエンジンやモーターの出力を制御し、さらに自動的にブレーキもかける「インテリジェントクリアランスソナー」もオプションで用意された。絶対にぶつからないと保証するものではないが、これでぶつけずに済めば儲けもの。
また夜間走行では、レクサスLS譲りという「アダプティブハイビームシステム」が便利だった。これは、前方の先行車や対向車に直接ハイビームを当てないよう、遮光範囲を自動調整する装備。単にロー/ハイを自動で切り替えるものはすでにあるが、新型クラウンのものは先行車や対向車のところだけ遮光することで、ハイビームを積極的に使う。ほとんどオートのままで走れるが、少し気になった点は次ページで触れる。
なお、ミリ波レーダー方式の「プリクラッシュセーフティシステム」は今回のクラウンで、実際の追突事故の90%以上の相対速度域に対応するように改良されたとのこと。
試乗燃費は12.4~19.6km/L。JC08モード燃費は23.2km/L
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モーターデイズで試乗したのは4月2日以降。それでもおおむね15~20km/L弱を維持するのが分かる
今回はトータルで約350kmを試乗。参考までに試乗燃費(車載燃費計)は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングをハイペースで走った区間(約90km)が12.4km/L。普通に足として使って使った区間(約70km)が16.1km/L、一般道をエコランに努めて走った区間(約30km✕2回)が19.3km/L、19.6km/Lだった。感覚的には16~17km/Lといった感じで、DAYSが営業車として何台も愛用する初代プリウス後期型(約17km/Lで見事にサチる)と同じくらい、という印象。
なお、JC08モード燃費は試乗したハイブリッドは23.2km/L。これに対して、ガソリン車は2.5リッターV6が11.4km/L(4WDは10.2km/L)、3.5リッターV6が9.6km/Lと半分以下になる。実用燃費での差はもう少し縮まるはずだが、このモード燃費を見てしまうと、ハイブリッドを選びたくなるのは無理もない。指定燃料は3.5リッターV6のみハイオクで、他はレギュラーになる。
ここがイイ
抜群の燃費、取り回しの良さなど
やはり、まずは燃費がいいこと。飛ばすとそれなりに悪化するが、普通に大人しく走れば、初代プリウス後期型並みの燃費(街中でも17~18km/Lくらい)で走ってくれる。ガソリンはもちろんレギュラー。高級車の燃費としては、これはもう世界一では。初代プリウスの登場から15年余、ついにクラウンまでこの燃費レベルに達したのは、まさに世の中は進んでいるということの証左だろう。
これまでのクラウン同様、小回りがよく効くこと。メルセデス・ベンツのFRセダンもそうだが、これだけ大きなボディで、すんなりUターン出来たり、縦列駐車が簡単に出来てしまうのはとても気持ちがいい。車幅も、このクラスとしてはかなり狭いから(室内幅は広く感じる)、取り回しが本当に楽。日本の狭い田舎道にもずんずん入っていける。もちろんタワーパーキングもラクラク。
シートベルトは、まるで締めていないのかと思うほど、ゆったりしている。むろん事故の時は巻き上げるのだろうが、装着感覚は驚くほど自然で、これは今までにないもの。賛否あるかもしれないが、賛成の方に手を上げておく。
ここがダメ
特になしだが、あえて言えばアダプティブハイビームシステムの使い勝手など
ダメというほどの部分は、特になし。あえて言えば、アダプティブハイビームシステムはおおむね便利なものの、街灯のある市街地では思うようにハイビームに切り替わらず、手動に切り替えることになりがち。また、ワインディングではコーナーの奥にある反射板などを対向車の光源と間違えるようで、その部分を遮光したり、ハイビームに切り替えなかったりすることがあった。加えて高速道路では、遮光範囲が変わる時に(瞬間的に切り替わる)、何かが動いたように見えることや、前走車がこちらの接近に気づいてくれないのが少し気になった。それだけ、相手にとっては眩しくないということでもあるが。
細かいところでは、アスリートのフロントバンパーはけっこう低く、車止めや段差では気を使った。最低地上高はロイヤルより10mm低くなる。
総合評価
プリウスの感覚と燃費で、クラウンに乗れる
ドラえもんクラウン(ゼロクラウンのような愛称はないようなので勝手に命名)、今回試乗したのはアスリートのハイブリッドだけだが、それゆえ「たいへん気にいりました」。先代はハイブリッド車を含めて、今ひとつだったが、その前のゼロクラウンは、ガソリン車でもほんとうに素晴らしかった。今回は絶賛こそしないが(そのわけはまた後で)、「いやあ、素晴らしいな、これ」と素直に思った。トヨタが主張するように、日本のもの作りを考える上では象徴的なクルマだろう。ドラえもんクラウンのハイブリッドは、まさに技術立国日本バンザイのクルマだ。
なんといっても、今やトヨタが誇るハイブリッドシステム(THSⅡ)が、トヨタ車の象徴であるクラウンに載ったわけで、これぞ「ザ・トヨタ」。そして多くの人がそれを良しとして買っている事実は、トヨタ車というのはイコールハイブリッド車だと、もはや多くの人が思っていることを示している。トヨタ車はこれから、たぶん全車がハイブリッド化していくのだろう。ハイブリッドなら、V6ではなく直4であることも何らハンディとなっていない。多くのクラウンユーザーの場合、こだわるのはメカそのものではなく、快適であるかどうかだろう。4気筒のハイブリッドは、もちろん十分に静かで快適、そしてトルクフル。V6であろうとなかろうと、そんなことはどうでもよろしい。それが市井の感覚というもの。それを見極めてトヨタは舵を切ったと思う。
その上で、ぎょっとするグリルや、派手なピンクのボディカラーで話題を呼ぶという戦略に出た。そして今のところ、これが大成功しているわけだ。あたり前のルックスで、ある意味、先入観の塊のような「クラウン」というネーミングのクルマが、地味にフルチェンジした場合、たとえ中身がハイブリッドでも、こうはうまくいかなかったと思う。乗れば誰でも分かる通り、もはやこれは従来のクラウンではなく、全く新しいクラウンになっている。誤解を恐れず言えば、クラウンのカタチと快適性とブランド力を持ったプリウスだ。クラウンが生まれて58年、ついに古き良きクラウンは死に、ネコ型ロボットならぬ快適移動ロボットへの道を一歩踏み出した、と思う。
プリウスにしばらく乗ったことがある人なら分かるはずだが、運転感覚はアバウトに言えばパワーのあるプリウス。昨今のダウンサイジング傾向の中で、先代のクラウンは多くのユーザーをプリウスにとられていた。そこでプリウスみたいなクラウンを作れば、本当はクラウンが欲しかったけどプリウスを買っていた客が、クラウンに戻ってくる、という算段をしたのだろう。以前はクラウン、最近はプリウスという人が、このクルマに乗れば、プリウスの感覚と低燃費でクラウンに乗れるということで、喜んでクラウンに戻ってくるのは想像に難くない。反面、個性の強いグリルのせいで離れていく人もいるはずだが、差し引きでは結局ユーザーは多くなると思う。
室内や装備はコンサバ
さて今回はいつもの試乗コースとは別に、クラウンが生まれ、作られている愛知県豊田市界隈を一日あちこち(72kmほど)乗ったり降りたり、走り回った結果、燃費は16.1km/Lだった。これはノーマルモードでまったくの足として使ったものだ。道路事情が快適な名古屋市や、逆にとても不便な東京は特殊だが、日本の多くの道路は、おおむねこの豊田市周辺の道路に近いものだと思う。そんな日本の道をクラウンハイブリッドで走ると、大柄で超快適なクルマなのに、これだけの実用燃費が出る。ガソリンエンジン車より50万円ほど高価だから、その差を燃費で埋めるのはたいへんだが、数年で売却するつもりならガソリン車より高く売れるはずなので、特に割高ではない。やたら高くなってきたガソリン価格を思うと、ハイブリッドのほうがトータルで経済的と言えそうだ。
また、試乗したアスリートなら、使いきれるパワーを使いきってスポーツ走行するのも楽しい。FRらしい挙動と素直な回頭性は、誤解を恐れずいえば、まるで今の86のようだ。それはエンジン音を楽しみながら、などという旧世代スポーツカーのものはなく、トルクを楽しむ、まさに「(電気)モータースポーツ」といったもの。自らの手で操れるだけのパワー&トルク感ゆえ、より楽しい。ただしこの時の燃費は一桁台になるが。
ということで、褒めるところの多いクラウンも、オーナーに多い年配層を意識してか、操作系や室内装備はコンサバだ。シフトレバーは普通に生えているし、パーキングブレーキは足踏み式。ナビにしても10年前の如き、だ。リモートタッチもないし。
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最上級の「G」グレードにはカードキーも付属する。ほぼ名刺サイズ
タッチパネル式の空調・車両設定コントロールはがんばっているが、その上に位置するカーナビは従来通りだし(当然ながらフリック操作とかはできない)、音声操作するにしても、動きが緩慢でイライラする。また、これだけコンサバなナビでも、使えない人は使えないと思うので、カムリのようにいっそもっと古臭くするか、逆に一足飛びに進化させてしまってもいいと思う。高額なオプション装備であるだけに、もうちょっと進化したものを選べるといい。あるいは逆に、いっそディスプレイナビに徹してもらいたいくらい。スマホがここまで進化すると、G-BOOKはもやは使えないものになってしまっていた。
それでも8インチディスプレイの位置やサイズは素晴らしいし、ポケットに入れておけるカードキーは便利だし、スマホとのブルートゥース接続は簡単にできて、スマホ側での音楽再生も快適だった。もちろんハンズフリー通話はでき、スマホ側の発信着信履歴も表示されるから、電話機能は文句なしだったのだが。
そんなわけで、「いいなあ、このクルマ」と誉めつつも、いざ買うかというと、やっぱり躊躇する。ワケ、その壱、アスリートのグリルはどうしても馴染めませんでした、ごめんなさい。このグリルは自分が乗るクルマじゃないと思ってしまう。反面、ロイヤルのグリルはけっこういい感じに見えてきた。その弐、天井に、もうちょっと楽しい演出がほしい。電動の大型サンルーフとか、シトロエン C3のようなパノラミックフロントウインドウとか。それらはまあ現実的にムリとしても、せめてパノラマルーフとかは欲しいところ(ティアナにはあったはず)。その参、セダンじゃなくてステーションワゴンであればと思う。クラウンワゴンはセドリックワゴンと共に、かつてはプレミアムな存在だったはず。マーケティング的には売れないとされているが、ワゴンなら欲しいという人はまわりにも少なからずいる。ワゴンが出れば、月販ランキング5位以内に入ること間違いないと思うのだが。ということで、ロイヤルのハイブリッドワゴン(パノラミックルーフ付き)が出たら買います、と宣言しておきたい(シューティングブレーク風ならなお良し)。ドラえもんクラウン・ワゴン、待ってます。