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ホンダ N-BOX スラッシュ:新車試乗記

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キャラクター&開発コンセプト

N-BOXより110mm低く、リアドアをヒンジ化

2014年12月22日に発売されたホンダの「N-BOX SLASH(エヌボックス スラッシュ)」は、N-BOX(2011年12月発売)ベースで開発された新ジャンルの軽自動車。ホンダの新世代軽自動車「N」シリーズとしては、N-BOX、N-BOX +(プラス)、N-ONE、N-WGNに続く第5弾になる。 全高はN-BOXに比べて110mm低く(うち最低地上高が-10mm)、いわゆるチョップドルーフ風のスタイリングを採用。リアの両側スライド式ドアは、ヒンジ式に変更されている。
 
上級グレードにオプション設定される「インテリアカラーパッケージ」(写真はダイナースタイル) (photo:Honda)
「N」シリーズ共通の「センタータンクレイアウト」(燃料タンクを前席シート下に配置する)によって、広い室内空間や多彩なシートアレンジは依然備えるものの、スラッシュで優先されたのは広さや便利さではなく、クーペ風のスタイリングや遊び心。2トーンカラーや計5種類の内装カラーを用意するなど、カラーリングにこだわるほか、新開発のオーディオシステム「サウンドマッピングシステム」をオプションで用意するなど、カスタム感のあるモデルになっている。

月販目標は2500台

パワートレインはN-BOXのものを踏襲。エンジンは自然吸気(NA)とターボの2種類で、トランスミッションは全車CVT。JC08モード燃費はNAが最高25.8km/L、ターボが最高24.0km/Lを達成している。 新機軸としては、直動式ドラムブレーキでは世界初となる「電子制御パーキングブレーキ」を全車標準装備としたほか、パワーステアリングのアシスト力を切り替えられる「モード切替ステアリング」を新採用。また、N-BOXシリーズで初めて後席に前後スライド機構が備わった(普通のN-BOXにも2月5日発表のマイナーチェンジで採用)。 月販目標は2500台で、N-BOXシリーズ(従来の月販目標は1万5000台)に加勢する狙い。発売からお正月をはさんで約40日後の1月31日時点での累計受注台数は約6,500台。なお、N-BOXシリーズの2014年(1~12月)の販売実績は17万9930台だった(軽自動車ではタントに続き2位)。 生産拠点は他のNシリーズ同様に鈴鹿工場。組立ラインは工程の関係で4枚ヒンジドアのN-WGNとの混流になる。
 
2011年から2014年までの軽市場におけるホンダのシェア推移。N-BOX登場以前(2011年)の8.4%から20%前後に急上昇している。ちなみにダイハツ、スズキはそれぞれ約30%で首位を争う (表:Honda)
■参考記事 ・ニュース>ホンダ、N-BOX スラッシュを発売 (2014年12月掲載)新車試乗記>ホンダ N-WGN (2014年6月掲載)新車試乗記>ホンダ N-ONE (2012年12月掲載)新車試乗記>ホンダ N BOX (2012年2月掲載) ■外部リンク ・ホンダ>プレスリリース>新型軽乗用車「N-BOX SLASH(エヌボックス スラッシュ)」を発売(2014年12月22日)
 

価格帯&グレード展開

138万円からスタート。2トーンは151万9400円~、ターボは159万円~

ボディカラーは全18色(モノトーンが8色、2トーンが10色)。写真はプレミアムイエローパールIIとホワイトルーフの2トーン (photo:Honda)
計5グレードを設定。自然吸気エンジンのベースグレード「G」(138万円~)、装備充実の「G・Aパッケージ」(146万円~)、そのターボエンジン仕様の「G・ターボ Aパッケージ」(159万円~)があり、さらに上級グレードの「X」(165万円~)、そのターボエンジン仕様の「X・ターボパッケージ」(176万円~)がある。約30km/h以下で被害軽減を軽減する自動ブレーキを含む「あんしんパッケージ」は、ベースグレードを除いて標準装備になる。 ボディカラーはモノトーン(全8色)のほか、G・Aパッケージ以上で2トーン(全10色)を選択できる。さらにXとX・ターボでは、テーマごとに内外装をコーディネイトした3種類の「インテリアカラーパッケージ」が選べる。2トーンの場合は、自然吸気なら151万9400円~、ターボなら164万9400円~。 4WDは全グレードで選択可能で、それぞれ12万円高。

専用設計の上級オーディオシステムも用意

「サウンドマッピングシステム」のバックロードホーン型サブウーファー
スラッシュでは軽自動車では難しかった重低音・高音質サウンドを実現すべく、XとX・ターボに、新開発のオーディオシステム「サウンドマッピングシステム」を標準装備した。これは4個のケブラーコーンスピーカー、4個のアルミドームツイーター、ダッシュボード下から前席まで低音増幅用のダクトが伸びる“フォステックス”のバックロードホーン型サブウーファー、そして高性能出力素子MOS-FETを使ったパワーアンプ(7ch、360W)で構成される。加えてXとX・ターボには、クリアなサウンドを楽しめるようにルーフやフロントドア内に防音材が追加されるほか、置くだけでスマホを充電できる「Qi(チー)」規格のワイヤレス充電器も装備される。
 
バックロードホーン型サブウーファーの構造
これだけでも軽のオーディオとしては豪華だが、さらに販売店オプションでは、スピーカーのビビリなどを抑えるデッドニングキット「ピュアサウンドブース」(3万8800円)が用意されている。内容は吸音シート2枚、吸音ウレタン2枚、制振シート2枚で、これらを装着するとドアの閉まり音も良くなるという。ただし、サウンドマッピングシステムに対応するナビゲーションシステムやオーディオはオプションになる。 なので、「やっぱり2トーンカラーがいいし、ターボやナビも欲しいし、オーディオにもこだわって……」などと言っていると、車両価格だけですぐに200万円を越えてしまうのが悩みどころ。
 

パッケージング&スタイル

合言葉は“ファンキー”

ボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1670mm、ホイールベース2520mm
N-BOX スラッシュの開発が始まったのは、デザイナーが遊びで書いた1枚のスケッチ(下に画像)が発端だという。それがやがてNシリーズ開発チームの間で盛り上がり、ホンダ定番のノリで上司に断りなく1/1のモックアップを製作。結局、Nシリーズ全体の開発責任者である浅木泰昭氏の後押しもあり、通常より短かい開発期間で市販に漕ぎつけたという。開発時の合言葉は、型破りを貫く、という意味で“ファンキー”だったのこと。
 
全高(FF車の場合)はN-ONEより60mm高く、N-WGNより15mm高く、普通のN-BOXより110mm低い
大ざっぱに言えば、N-BOXの屋根を切ってヒンジドアにしたのがスラッシュだが、デザインに関しては「軽いノリを大切にした」と言う通り、随所に遊び心や工夫を盛り込んでいる。ルーフの周囲に走るクロームのモールはスラッシュ独自で、パッと見で「N-BOXとなんか違うぞ」と思わせる。しかもこのモール、2トーン塗装する時の、境い目の処理にも便利という一石二鳥。 他にも、Cピラー上部のビレット調リアピラーガーニッシュやメタル調フューエルリッド、メッキ樹脂キャップ付のディッシュホイールなど、アメリカンなカスタムテイストが随所に散りばめられている。

N360からZ、N-BOXからスラッシュ?

N-BOXより屋根が低い分、フロントウインドウはより寝かせられており、ドライバーからの上方視界を確保。また、ルーフラインを後方で緩やかに低くしつつ、サイドウインドウは逆にキックアップさせ、さらにリアドアハンドルを窓枠と一体化して隠すことで、2ドアクーペ風に見せている。このあたりは、往年の軽スペシャリティ「Z」(1970~74年)みたい。
 
ホンダ Z(1970~74年)。写真は1972年に登場したハードトップ (photo:Honda)
開発のきっかけになったという最初のスケッチでは2ドアだった (photo:Honda)
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転
半径(m)
ホンダ N-ONE (2012~) 3395 1475 1610~1630 2520 4.5~4.7
ホンダ N-WGN (2013~) 3395 1475 1655~1675 2520 4.5~4.7
スズキ ハスラー (2014~) 3395 1475 1665 2425 4.6
ホンダ N-BOX スラッシュ (2014~) 3395 1475 1670~1685 2520 4.5~4.7
ホンダ N-BOX (2011~) 3395 1475 1780~1800 2520 4.5~4.7
ダイハツ ウェイク (2014~) 3395 1475 1835 2455 4.4~4.7
 

インテリア&ラゲッジスペース

視点はN-BOXと同じで、天井は低め

横長のフロントウインドウ。助手席側のAピラーには左側の死角をカバーするミラーが備わる
インパネも基本的にN-BOXベースだが、ドア内張りのビレット調ガーニッシュなどでカスタム感を盛り上げる。また、普通のN-BOXだと天井が高く、フロントウインドウも縦に長い印象だが、スラッシュの場合は視点の高さはそのままに天井が低く、チョップドルーフ車らしい囲まれ感がある。直立したフロントガラスなどは、何となくスズキのハスラーとかにも通じる眺め。 ちなみに試乗した上級グレードのXは、装備がやたら豪華。例のサウンドマッピングシステムに加えて、クルーズコントロール、ステアリングヒーターと運転席&助手席シートヒーターが標準装備される。
 
初めてチップアップ&ダイブダウン式リアシートで前後スライド機構が採用された(写真は最後端)。N-BOXでもマイナーチェンジで採用
運転席ハイトアジャスター(50mm)とチルトステアリングは全車標準だが、テレスコはなく、ハンドルがやや遠い
 

アメリカンテイストで5パターンの内装を用意

「ダイナー スタイル」の内装 (photo:Honda)
標準内装はベージュ基調の「ブライトロッド スタイル」か、黒基調の「ストリートロッド スタイル」(試乗車)。どちらも1950~60年代のアメリカをイメージしたとあるが、どちらかと言えば一般的なベージュ内装とブラック内装という感じ。 目玉は、メーカーオプションで3種類用意された「インテリアカラーパッケージ」。1つ目は映画「アメリカン・グラフィティ」に出てくるカリフォルニアのドライブインをイメージした「ダイナー スタイル」。赤基調にチェッカーフラッグの合皮シートがいかにも“Mel's Drive-in”。
 
写真はテネシーのライブハウスをイメージしたという「セッション スタイル」 (photo:Honda)
そしてハワイをイメージしたのがホワイト&ライトブルー内装の「グライド スタイル」。また、米国南部のテネシー州(州都のメンフィスはブルース発祥の地と言われる)にあるライブハウスをイメージしたのが、渋いブラウン&ブラック内装の「セッション スタイル」になる。
 

チップアップ&ダイブダウン式リアシートに、前後スライド機構を追加

荷室容量は4人乗車時でも後席を最前端にスライドさせればフィット並みの296Lになる
シートアレンジでの注目点は、ホンダ自慢のチップアップ&ダイブダウン機構付のリアシートに、初めて前後スライド機構が加わったこと。これにより後席を前に出して、前席との距離を少し詰める、荷室容量を必要な分だけ拡大する、といったことが可能になった。スライド量は190mm。この機構もN-BOXやN-BOX+にマイナーチェンジで採用されている。
 
センタータンクレイアウトならではのチップアップ機能。後席は左右別々に190mm前後スライド可能 (photo:Honda)
後席ダイブダウン時の荷室容量は最大743L。リアゲート開口部の天地は120cmで、自転車の縦積みは少々やりにくい (photo:Honda)
 

基本性能&ドライブフィール

NAでもよく走る

658cc・3気筒のS07A型エンジン(写真はNA)。最高出力43kW(58ps)/7300rpm、最大トルク65Nm (6.6kgm)/4700rpm (photo:Honda)
試乗したのは上級グレード「X」のNAモデル。車両価格は165万円、いや2トーンカラーなので170万9400円で、純正ナビなどのオプション込みだと約200万円という車両。 エンジンはおなじみ直列3気筒「S07A型」。昨年、Nシリーズ全体で実施されたマイナーチェンジで、ツインインジェクターやナトリウム封入排気バルブが採用され、NAではクラストップレベルの最高出力58ps、最大トルク65Nm(6.6kgm)を発揮する。スズキとダイハツが熾烈な技術競争を繰り広げている手前、軽業界3位のホンダとしてもパワートレインのテコ入れは欠かせない。 走り始めの第一印象は、昨年乗ったN-WGN同様、低速トルクがあって、よく走るなぁ、というもの。一瞬ターボかも?と思うくらいだが、アクセルをグイと踏み込んでも思ったほど加速しないので、NAだと分かる。加速時はややノイジーだが、街乗りではターボじゃなくてもいいかな、と思ってしまう。 車重はN-BOXより20kg軽いものの、N-ONEより80kg重く、N-WGNより100kgも重い930kg(ターボだとその20kg増し)。軽の4枚ヒンジドア車としては最も重い部類だが、NAでもそれを感じさせないのがすごい。
 
「モード切替ステアリング」のスイッチ(写真下)
パワーステアリングのアシスト力を2段階で切り替えできる「モード切替ステアリング」は、N-BOXスラッシュで初採用。昔から伊フィアット車にある「シティモード」に近いものかと思ったが、あそこまで極端に軽くならず、街乗りであれば、どっちでもいいや、と思えるくらいの差しかない。 アイドリングストップは全車標準。減速時に車速が10km/h以下になるとエンジンを止めるが、作動はスムーズで、多分慣れるのでは。坂道発進もヒルスタートアシスト機能によって難なくこなす(バックは少しコツが要る)。 そして電子制御パーキングブレーキも全車標準。シートベルト閉めてアクセルを踏めば自動的に解除、エンジンを止めれば自動的に掛かる。このあたりは普通車を超えている。

シャシーは重厚しなやか

乗り心地は軽とは思えないほど重厚で、足回りの動きもしなやか。正直言って一部の普通車を完全に超えるレベル(確かに値段も超えているが)。ここ最近の軽を知らない人が乗ったら、衝撃を受けるだろう。 スラッシュの場合、普通のN-BOXよりルーフが100mm低い分、ドアやテールゲートの開口部が小さくなって、結果的にボディ剛性が向上。さらにBピラー付け根には補強材を、リアフロアにはクロスメンバー等を追加することで、特にリア部の剛性を上げている。実際、ほんの数km運転しただけで、いや確かに、と思える違いがある。このあたりの補強は普通のN-BOXにも効きそうだが、果たして。 山道でも、N-BOXに比べて姿勢変化が明らかに小さく、安心感が高い。サスペンションは普通のN-BOXより約10mmローダウンしたもので、リアダンパーの径は2割太くしたらしい。スポーツカーのような軽快感はないが、限界はけっこう高い。 VSAは従来のNシリーズ同様、全車標準。雪道での走行(走破性が若干高まる)や、雨天、高速走行時などの緊急回避では活躍してくれるはず。

加速時の静粛性を求めるならターボ

オーディオの音にこだわっただけに、遮音対策も入念。ダッシュボード内のインシュレーターを見直したほか、フロントフェンダーエンクロージャー(フロントフェンダー内の空洞を塞ぐ樹脂パーツ)も新たに採用したという。試乗したNAの場合、エンジン&CVTの音はそれなりにあるが、ロードノイズや車外騒音は完璧と言いたくなるほど抑えこまれていた。 ただ、アクセルべた踏みだとエンジン回転は7000回転を超え、多分CVTのベルトノイズだろう、「ヒュイーン」という高周波ノイズがそうとう高まる。追い越し加速時にも静かさが欲しいなら、やはりターボが無難かな、という感じ。 100km/h巡航時のエンジン回転数は約3100回転で(上り坂、向かい風、乗車人数などの負荷によってはもう少し上)、これくらいの速度なら車内は普通に会話できるほど静か。試乗車はクルーズコントロール付で(レーダー式ではないが)、上り坂でも自動的に速度を維持してくれるので便利だった。

試乗燃費は14.4~17.2km/L。JC08モード燃費は25.8km/L

この日のレギュラーガソリンは126円/L。タンク容量は従来N-BOXと同じで、FFが35L、4WDが30L
今回はトータルで約250kmを試乗。車載燃費計による試乗燃費は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約80km)が14.4km/L、それとは別に一般道を普通に走った区間(60km)が16.2km/L、一般道を大人しく走った区間(30km)が17.2km/Lだった。 JC08モード燃費(FF車)はNAが25.8km/L、ターボが23.0~24.0km/L。普通のN-BOX(マイチェンモデルはNAが25.6km/L、ターボが22.0~23.8km/L)よりほんの少しいいのは、車重と空力の差だろう。
 

ここがイイ

とにかく「いいクルマ」になっている

このスタイリングを現実のものにしたこと。思いつきで書かれたデザイン案を皆がカッコいいと言い、さらに上層部も開発にGoを出し、開発/営業/販売など全部門が鈴鹿製作所で一体となって楽しく開発したというのがこのクルマ。メイド・イン・スズカで、アメリカンな雰囲気の軽自動車を作ったわけで、クルマ好きマインドがうまく製品に結実した好例。鉄ホイールにメッキホイールリングを採用するセンスも素晴らしい。 ノンターボでもよく走ること。車重が930kgとリアスライドドアのタント並みにあるが、それをノンターボでここまでちゃんと走らせるのはすごい。N-BOXの初期NAモデルのオーナーが乗ったら、かなり驚くのでは。それでいて燃費も普通に走って15km/L前後は出そうで、なかなかいい。 シャシーも素晴らしい。ボディの剛性感は高いし、足回りの動きはしなやか。ものすごく「いいクルマ」になっている。 電子制御パーキングブレーキ(電動パーキングブレーキ)の全車標準化。まだ日本車では普通車でもあまり普及していないが、今後は軽にも普及するかもと期待させる。 懐かしいブランド「フォステクス」のサブウーファーを採用したオーディオは、軽自動車らしからぬいい音を響かせていた。

ここがダメ

車両価格の高さ。テレスコの不備

何はともあれ値段が高いこと。試乗車は車両本体だけで約170万円、純正ナビ付きで約200万円もするし、さらにターボにすると210万円を越えてしまう。確かにクルマとしては、作り、走り、装備、質感など「やれることは全部やった」感のある出来栄えだが、これではあまりにも高いし、そもそもここまでの良さがユーザーに求められているのか疑問。「突き抜ける」「やりきる」を合言葉に遊んでいるうちに、いつのまにか「遊び」じゃなくて「本気」になってしまった感がある。お得な特別仕様車の投入が待たれるところ。 上級グレードだと装備てんこ盛りのスラッシュだが、ステアリングのテレスコ(伸縮)調整は設定なし。慣れれば大丈夫かもしれないが、最後までステアリングが遠いという感じがつきまとった。正しいポジションを取るためシートを前に出すと、足回りがかなりタイトになるし、特に試乗車ではウーファーがあるため、左足の置き場が狭い。またシートも腰の座りが今ひとつで、それを正すため前に出すと、やはり足もとが狭くなる。
 
ダメというより、あくまで特徴だが、ルーフが普通の軽ハイトワゴンより、特にリアドア付近で低いので、後席で乗り降りする時に頭を何度もルーフにぶつけてしまった。また、リアゲート開口部の上部も通常より低いため、荷室内に手を伸ばす時に、やはり鴨居で頭をぶつけてしまう。これも慣れかもしれないが、そのあたりは了解した上で買った方がいいだろう。 「モード切替ステアリング」は、切替スイッチがインパネ下部の、ドライバーの右膝のあたりにあって操作しにくいし、メーター内に表示が出ないので走行中はどっちに入っているのか分かりにくい。そもそも、モードを切り替えても大差がなく、いっそなくてもいいのではと思えた。

総合評価

久々にホンダやるじゃん

いやすごいなあ、さすがホンダ、ほんとにこれを作って出しちゃうとは。軽自動車をチョップトップし、ルーフラインをリアで下げてクーペっぽくするというパターンは、スズキがハスラーベースのコンセプトカーでやって一昨年のモーターショーに出していたが、市販には至っていない。しかしホンダはやっちゃったわけで、その自由さや行動力はまさにホンダイズム。久々にホンダやるじゃんという気分を味わえて、まさに爽快。 そういえばホンダは、初代ステップワゴンが大ヒットした時に、若者向けお遊びカーとしてS-MXというステップワゴンのショート版を出したことがあった。N-BOXに対するスラッシュはちょうどそんな関係だ。これはホンダの伝統とも言えるのかも。
 
“恋愛仕様”と銘打って登場した「S-MX」(1996~2002年)。写真はローダウン仕様 (photo:Honda)
というふうにホンダという会社は、本来変なクルマを出しては楽しませてくれる会社だった。だったというのは最近、ホンダはとてもまっとうなクルマばかりを出す会社に見えるからだ。10年、15年ほど前はモビリオとかエディックスとか、アヴァンシアやエレメントとか、不思議なクルマがたくさんあった。ただ、多くは販売面で成功したとは言えない。そのせいもあってか、最近はすっかりおとなしくなってしまった感がある。意欲的なクルマはなかなか売れないと分かっていても、そんなクルマを作っちゃいましたというのがホンダという会社のプラスなイメージだったはず。今回は久々にその面目躍如というところだ。
 
2013年の東京モーターショーに出展されたスズキのコンセプトカー「ハスラークーペ」
ソニーとホンダはよく似ていると言われるが、デジモノメーカーであるソニーの失速は、韓国、中国などの追撃という要因が大きい。デジモノと違ってクルマはまだ幸い、数年は大丈夫と思われるので、今のうちに抜きん出た存在になっていて欲しいもの。そのためには、単に売れる売れないではなく、自由な発想が欠かせないと思う。大きくなると、とかく官僚的になりがちなのが日本の会社の特徴だが、スラッシュのようなクルマを出せるスピリットを残しているならホンダは大丈夫と思いたい。 今回スラッシュはクルマ好きが遊びまくって作ってしまったわけで、その凝りようはやや過剰と思えるほど。そんなことができるのも、実用性で手堅いN-BOXが売れているという実績があるからだろう。ちなみにN-BOXスラッシュはN-BOX+と共に「車名N-BOX」としてカウントされるため、今年2015年1月の新車販売台数ではN-BOXが軽自動車で1位(1万8643台)になっている。

不良っぽいのに実は優等生

で、乗ってみてこのクルマの感想だが、ものすごくよく出来ているがゆえに、ちょっとキャラクターイメージとズレがあるんじゃないか、と思った。どういうことかと言えば、もうちょっと下品な走りの方がイメージ的に合うのではないかと。例えばターボラグは凄いが圧倒的に速いとか、NAでもトルク感に味があるとか。わりと雑な雰囲気の走りの方が、このスタイルにはマッチするのでは。不良っぽいムードなのに実は優等生なんだな、と思った。 特に本文で書いたとおり、ものすごくよく出来たパワートレーン。何年前だったが、スズキの軽に今のR06A型エンジンと副変速機付CVTが搭載された時、もはやスズキ車でターボは要らないと書いたが、ついにホンダ車もそう思えるようになってしまった。こんなに車重があるのにNAでも走りは十分になった。ただ、それを実現するために、すごくまじめにコツコツ、詰めに詰めてチューンされた感がある。その結果、燃費のためだと思うが、アクセルのオンオフに応じて走るというより、どんな時でも軽く転がっていってしまう感覚があり、どうもクルマとの一体感が不足気味だ。普通の軽乗用車として燃費を売りにするならそれでいいが、このクルマのようにかなり個性的な、カスタムカー的なクルマの場合は、クルマとの一体感がもうちょっと感じられるといい。
 
ジャパンキャンピングカーショー2015に出展されるコンセプトカー「N-TRUCK」とキャンピングトレーラーの「N-CAMP」 (photo:Honda)
N-BOX自体もマイナーチェンジの時期であり、そのためにしっかり改良して軽自動車としてよりいいものにしようとしたから、スラッシュもこうなったのだろう。それは2月5日に発表されたN-BOXのマイチェンでも明らかで、燃費も25.2km/Lから25.6km/Lへと若干改善されている。まだ乗っていないが、想像するにこちらも、走りはNAでもう十分というクルマになっているのだろう。 ある意味、不真面目なコンセプトのスラッシュに、最新の真面目なパワートレーンを積んだのは、メーカーとしては当たり前のことをやったたのだと思うが、全体としてはちょっとちぐはぐな感じがしないでもない。走りの方にも不真面目さが欲しかった、などとという要望は、メーカー的には一笑に付すことなのかもしれないが。 しかしまあ、これでハスラーの勢いをかなり抑え込めるだろう。どっちを買おうかとちょっと考えてしまう人は多いはず。いやその前に、あまりによく出来た普通のN-BOXこそがスラッシュの大きなライバルかもしれない。そのN-BOXをベースに、今年開催されるキャンピングカーショーではついに待ってました!のトラックバージョンがコンセプトカーとして登場するようだ。ステップバンにもあった可愛いトラックの市販、これはぜひとも実現をお願いしたく。
 
ライフ ピックアップ(1973年) (photo:Honda)
スラッシュはアメリカンテイストの不良っぽさが最大の魅力だ。アメリカンなクルマというのは日本ではあまりウケなかったものだが、潮目が変わる時が来たのかもしれない。ところでアメリカン不良バンドといえば、なんといっても今はなきガンズ・アンド・ローゼズ。ボーカリストはアクセル・ローズで、ギタリストはスラッシュ。ステージではアクセルが客をアオり、それに合わせてスラッシュがギターを弾きまくるわけだが、そんなガンズのCDをこのクルマのゴキゲンなオーディオで聴きながら「アクセルをあおった時、スラッシュの動きにグルーヴ感が出ると、もっと気持ちいいのになあ」なんて思ったのだったw。

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