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レクサス RC F:新車試乗記

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キャラクター&開発コンセプト

久々の量販2ドアクーペ。「エモーショナルな走り」を追求

2013年秋の東京モーターショーで初公開されたコンセプトモデル「スポーツクーペRC」
2014年10月23日に発売された「RC300h」「RC350」および「RC F」は、レクサスの新型スポーツクーペ。RC300hは2.5リッター直4エンジンのハイブリッド車で、RC350は3.5リッターV6エンジンの純エンジン車。RC Fは、5.0リッターV8エンジンを積む純エンジン車の高性能モデルになる。
 
RC開発主査の草間栄一主査
スーパースポーツのLFAやクーペカブリオレのIS Cを除けば、レクサスの高性能クーペは4年前に販売終了したSC以来。最近は主要ラインナップがセダンやSUVばかりになっており、今一度「エモーショナルな走り」のイメージを高めるべく投入されたのが、今回のRCシリーズだ。

RC Fは「走り好きを笑顔にする高性能スポーツカー」

RC F開発主査の矢口幸彦氏
一方のRC Fは、通常のRCとは一線を画し、「本格的プレミアムスポーツカー」を謳うモデル。開発テーマは「走り好きを笑顔にする高性能スポーツカー」であり、「走りを楽しみたい人なら誰でも、運転スキルに関係なく笑顔になれる」を目標としている。 RC Fのエンジンは、IS F(2007~2014年)に搭載された自然吸気5リッターV8(2UR-GSE型)のパワーアップ版で、477psと530Nmを発揮。トランスミッションもIS Fの8速AT「8-Speed SPDS」の改良版になる。また、FR車では世界初という後輪左右の駆動力制御システム「TVD」も採用されている。 IS Fに続き、RC Fの開発主査を務めたトヨタ自動車の矢口幸彦氏によれば、ベンチマークとしたのは同クラスの輸入車ではなく、IS Fベースのレース車両、「IS F CCS-R(サーキットクラブスポーツレーサー)」だったとのこと。「サーキットは公道の延長線上であり、高性能を安全に楽しめる場所。全てのドライバーにこのクルマの醍醐味を感じていただけるよう設計した」と語る。

国内では月110台、海外では月に約2000台が目標

RC F GT3 concept (photo:トヨタ自動車)
生産拠点はトヨタ自動車の田原工場(愛知県田原市)。国内の月販目標はRCが80台、RC Fが30台(計110台)。 海外では、RCは月1600~1700台を目標に、北米など各国で順次発売する予定。一方のRC Fは、全世界同時発売となり、月340~350台を販売する予定。つまりグローバルでは月に約2000台が目標になる。特にRC Fに関しては「欲しいというところがあれば(その国で)一台でも売る」(矢口氏)とするなど、レクサスのイメージリーダーとしての役割を期待している。 さらにRC Fに関しては、FIA(国際自動車連盟)のGT3ホモロゲーションを取得したレース用車両を開発中であり、海外ではニュルブルクリンク24時間レースなど、国内ではSUPER GT(GT300)やスーパー耐久などの参戦チームに供給する予定。 ■参考記事 レクサス、新型車「RC」「RC F」を発売 (2014年10月23日掲載) ■外部リンク レクサス>プレスリリース>スポーツクーペRCを新発売 (2014年10月23日) レクサス>プレスリリース>高性能クーペRC Fを新発売 (2014年10月23日)
 

価格帯&グレード展開

RCが596万円~、RC Fが953万円~

RC300h “version L” (photo:トヨタ自動車)
価格はRC350が596万円~678万円、RC300hが565万円~629万円。それぞれに標準車、上質感を高めた「バージョンL」 、専用エクステリア、専用内装(可動式メーター、スポーツシートなど)、専用チューンのサスペンション等を備えた「Fスポーツ」を設定する。 RC Fは標準車が953万円で、カーボンエクステリアパッケージ装着車が1030万円。後者はLFA工房で製作するCFRP製のエンジンフードやルーフパネル、TRDが手がけるCFRP製アクティブリヤウイングを装備し、カーボン地肌との2トーンカラーを特徴とするほか、約10kg軽量化される。
 
RC F (photo:トヨタ自動車)
プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロールは、RCシリーズ全車でオプションだが、価格は6万4800円と抑えられ、ユーザーの意思で選択できる。シリーズ共通のオプションは他に、電動サンルーフ(10万8000円)、マークレビンソンのオーディオシステム(23万8000円)など。 RC F専用オプションとしては、後輪左右の駆動力を制御するTVD(トルク ベクタリング ディファレンシャル)を43万2000円で用意。また、RC Fは専用のハイバックスポーツシート(アルカンターラ+本革のコンビ)を標準装備するほか、プラス15万6600円でこれをオール本革+ベンチレーション機能付にすることができる。 RC Fのライバルは、ユーザー目線で言えばやはりBMWのM4だろう。あちらは3リッター直6ツインターボ(431ps、56.1kgm)を搭載し、6MTが1075万円、7速DCTが1126万円。
 
RC F “Carbon Exterior package” (photo:トヨタ自動車)
■RC300h ・2.5L 直4「2AR-FSE」ハイブリッド「THS II」(システム出力220ps) ・JC08モード燃費:23.2km/L ・565万~629万円 ■RC350 ・3.5L V6「2GR-FSE」(318ps、380Nm)+8AT(8-Speed SPDS) ・JC08モード燃費:9.8km/L ・596万~660万円 ■RC F ・5.0L V8「2UR-GSE」(477ps、530Nm)+8AT(8-Speed SPDS) ・JC08モード燃費:8.2km/L ・953万円 ※“Carbon Exterior package”装着車は1030万円
 

パッケージング&スタイル

意外に古典的なスタイリング

例のスピンドルグリルもクーペらしい優美なスタイリングと相性がいい
デザインテーマは「アヴァンギャルドクーペ」(前衛的なクーペ)だが、実際のところRCのスタイリングは割と古典的なテイストでまとめられている。フロントデザインこそ現行ISの流れを汲むが、全体としては典型的なロングノーズ、ショートデッキのファストバッククーペ。メリハリあるプロポーションで、見応えのあるスタイリングとしている。率直な話、これまでのレクサス車で一番カッコいいと思う人は少なくないのでは。

RC Fの外装はほとんど別物

試乗したRC Fのエクステリアデザインは、RC300h / RC350の“Fスポーツ”に一見似ているが、実際には外装のほとんどがRC F専用品になる。穴の開いたボンネット、張り出したフロントフェンダー、凝った形状のサイドロッカーモール、リアディフューザー、IS F同様に「ハ」の字配置の4本出し楕円マフラー、BBS製19インチ鍛造ホイール、ブレンボ製ブレーキシステム、速度感応式の電動リアスポイラーなどなどで、しっかり差別化されている。共通部品は前後ライトアッセンブリー、リアフェンダー、ウインドウガラス、ドアミラーくらいか。

ホイールベースはISより70mm短かい

RC Fのボディサイズは全長4705mm×全幅1850mm×全高1390mm(RC300h / RC350はそれぞれ10mm短く、10mm狭く、5mm高い)。ホイールベースは2730mmで、これは現行ISより70mm短く、実は先代ISやIS Fと同じだ。BMWのM3、M4(いずれも2810mm)と比べると、その短さが際立つ。 なお、プラットフォームは、フロントがGS、センターフロアがオープンボディ用に大断面サイドシル(ロッカーパネル)を持つ先代IS C、リアが現行ISベース。実質的にはRC専用プラットフォームと言える。
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm)
レクサス IS F (2008~2014) 4660 1815 1415 2730
レクサス IS350 (2013~) 4665 1810 1430 2800
BMW M4 (2014~) 4685 1870 1385 2810
レクサス RC300h / RC350(2014~) 4695 1840 1395 2730
レクサス RC F(2014~) 4705 1850 1390 2730
 
3眼フルLEDヘッドライトはRC300h / 350にも設定されるが、RC Fは標準装備
アクティブリヤウイングは、約80km/h(ECOモード時は約130km/h)で上昇、約40km/h未満で格納される(手動操作も可)
 

インテリア&ラゲッジスペース

このシートだけでも欲しい

ステアリングやメーターはRC F専用品。ドアトリムなども綾目が美しいカーボン製になる
インテリアの基本デザインはRCとRC Fで共通だが、ステアリング、シフトノブ、パドルシフト、ドアトリムなど、手に触れる部分はことごとくRC F専用品になり、座った時の印象もかなり異なる。特に違うのがシートで、いずれも新開発の表皮一体発泡成形によるシート(トヨタ紡織製)だが、RC Fにはヘッドレスト一体型の専用ハイバックスポーツシートが標準装備される。 このRC F専用シートは、座り心地やホールド性、作りが秀逸で、「このシートだけでも欲しい」と思わせるもの。レース用バケットシートに比べると座面クッションが少し柔らかいが、座り心地はとても良く、乗降性にも優れる。
 
RC Fはヘッドレスト一体型ハイバックスポーツシートを標準装備する。試乗車はオプションのオールレザー&ベンチレーション機能付
NXに続いて、タッチパッド式のリモートタッチを採用する。後で触れるが、RC Fではシートのサイドサポートが肘の動きを邪魔して、少し操作しにくい
 

後席や荷室も十分に実用的

後席はクッションのサイズや背もたれの角度が適切で、想像していたよりは快適
後席は2+2というより、フル4シーター寄り。大人男性が乗ると、天井やCピラーの内側に頭が触れるが、背もたれの角度がいいのでリラックスして座れる。シートの前にも足がちょうど収まるくらいのスペースはあり(前席のスライド位置にも依るが)、身長165センチ以下の小柄な人で短時間なら、そう辛い思いはしないと思う。 トランク容量は手元に数字がないが、ぱっと見は現行IS(480L)と大差ない感じ。RC300h / 350のカタログには9.5インチのゴルフバッグが2個積めるとある(RC Fのカタログでは触れていない)。そして、いちおうアームレスト部分はトランクスルーもする。ただしライバルのM3やM4は、後席の背もたれが60:40分割で倒れるのだが。クーペながら、買い物や旅行に使える積載性は備えている。
 
RC300h / 350同様、ゴルフバッグが2個くらい載りそうなトランク。トランクスルーも備える
床下にはまず車載工具があり、その下(写真)にパンク修理キットがある
 

基本性能&ドライブフィール

477psの5リッターV8を搭載

RC Fのエンジンは先ごろ生産終了したIS F用ユニットのパワーアップ版。最高出力はIS F(423ps)より54ps、IS F最終モデルの特別仕様車(430ps)より47psアップしている
試乗したRC Fは電子制御リアデフ「TVD」などのオプションを装着したもので、車両本体は953万円、オプション込みで1082万1680円という仕様。 暗がりの中でクルマに近づくと、車内とドアハンドルがLEDの光で浮かび上がる。ホワイトレザーのハイバックスポーツシートに腰を落とし、スタートボタンを押すと、ククククと小気味いいセルモーターの音と共に、5リッターV8エンジンに火が入る。最高出力は477ps(351kW)、最大トルクは530Nmと、惚れ惚れするようなスペック。車重はTVD付の試乗車で1820kg。パワーウエイトレシオは約3.8kg/psだ。

足回りへの好印象は、終始変わらず

ユルユルと発進。変速機は変速時間が最短0.1秒という「8-speed SPDS」こと8速AT。IS F同様、2速から8速まで、ロックアップクラッチで直結するタイプだ。 とはいえ、走り出しの滑らかさはトルコンATならでは。V8特有のドロロロ…というサウンドも、街中を流す限りは穏やかなもの。トルクがあるので走りやすく、獰猛な素振りは見せない。最小回転半径は5.4メートルと小さく、小回りもよく効く。 乗り心地もこれだけの高性能車にしては素晴らしくいい。RC Fの場合、意外にもダンパーは非電子制御で、舗装の悪いところではゴツゴツ感が出るが、それはむしろスポーツカー独特の気持ちいいゴツゴツ感。足はよく動き、ガツンと来ることもない。この足回りへの好印象は、この後どこを走っても変わらなかった。

海外仕様やサーキットでは約270km/hでリミッター作動

100km/h巡航時。8速トップだと約1550回転しか回らない
高速道路での印象も、街中のそれの延長線上。100km/h走行時のエンジン回転数は、8速トップで1550回転に過ぎず、エンジンは寝息のような音を立てるだけ。ロードノイズは多少あるが、風切り音はほとんど気にならない。 116km/hまで設定できるレーダークルーズコントロールを使って淡々と巡航すれば、平均燃費計の数値はどんどん上がり、試せた範囲では12km/L台で落ち着いた。一般的に大排気量エンジンの高速燃費はいいが、レシオカバレッジの広い8ATや、空気抵抗の少ないボディ形状も当然ながら効いているのだろう。 ちなみに速度リミッターは日本仕様では約190km/h、海外仕様では約270km/hで作動するようだ。そして計算上は4速で190km/h、6速(ギア比1.000)で270km/hに達し、仮に6速のまま最高出力発生ポイント(7100rpm)まで回すことが可能なら300km/hを超えるはず。よく見ると速度計は340km/h!まで刻まれている。 ちなみに、RC Fより約200kg車重が軽いBMW M4(431ps)でも、メーカー公称の最高速は280km/h(オプションの「Mドライバーズパッケージ」でリミッターを解除した場合)、車重約1.4トンの911 GT3(475ps)でも315km/h、約1.6トンの911ターボS(560ps)でも318km/hではあるが。 なお、日本仕様のRC Fでも、国内の主要サーキットではナビの位置情報を使って速度リミッターをカットすることが可能とのこと。同様の仕組みは日産GT-Rが有名だが、IS Fでもマイナーチェンジで追加されていた。ただしRC Fでも、IS Fの時と同様、欧州仕様と同じ270km/hでリミッターが作動する。

ドライブモードセレクト等の設定次第でアグレッシブに

レクサス車でおなじみのドライブモードセレクト。左に回せばECO、右に回せばSPORT SおよびSPORT S+。上から押せばNORMAL
これだけの高性能車ゆえ、一般のワインディングでは、その身のこなしを楽しむ、というところが精一杯。また、ドライブモードがデフォルトの「NORMAL」モードにある場合、パワートレインやブレーキ等を統合制御するVDIMがパワーをセーブしている印象があり、477psを生で体感しにくいという面もある。 が、それでもドライブモードを「SPORT S」や「SPORT S+」にし、さらにマニュアルモードでパドルシフトを駆使すれば、中回転域での鋭いピックアップや、吠えるようなサウンドを楽しめる。リアを軽く沈めながら、グワッと車体を蹴りだすところは、高性能スポーツバイクを思わせる。 さらに、安全な場所であれば、TRC(トラクションコントロール)をOFFにし、VSCを「OFF EXPERT」もしくはOFFにすることで、よりダイレクトな反応やFRらしい動きを楽しむことができる。逆に言えば、TRC&VSCが活きている状態だと、駆動輪を滑らせないことが優先され、アクセル操作に反応しないことはままある。

後輪左右の駆動力を最適制御する「TVD」を搭載

写真は「SPORT S+」モードを選び、TRC&VSCをカットした状態。TVDは「STANDARD」モード
RC Fのリアデフには、IS Fの改良モデルから採用されたトルセンLSD(高トルク対応の5ピニオンタイプ)が標準装備されるが、試乗車にはオプションで43万2000円する駆動力制御システム「TVD(Torque Vectoring Differential)」が装備されていた。 これは一般的には電子制御デフと呼ばれるもの。ターンイン(減速時)から、旋回、立ち上がり(加速時)まで、後輪左右の駆動力を電子制御でコントロールすることで、回頭性やトレース性を高め、脱出時のトラクション性能を確保する。いわばLSD(差動制限デフ)の働きを、より理想化したものだ。同様のものは、他社モデル(4WD、ミッドシップ、FF、RR)ですでに採用されているが、トヨタによればFRでは世界初採用とのこと。ちなみにTVDを装着すると、車重は30kg増加する。
 
TVDで「サーキット」モードを選んだところ
このTVDには、3種類の制御モードがある。デフォルトは「スタンダード」で、これは安定感と軽快感をバランスさせたもの。このモードだと、一般道ではほとんどTVDの働きが意識されないが、実際には黒子となって常に作動していることが、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイで確認できる。 2つ目の「スラローム」は、ステアリングレスポンスを重視したもの。要するにジムカーナなどに多い低速ターンでのアンダーステアの抑制を狙ったモードで、まるでステアリングのギア比がクイックになったかのように、クルマの向きがスバズバ変わるようになる。効果を一番体感しやすいが、一般道ではややクイック過ぎる感じになる。 3番目の「サーキット」モードは、その名の通り高速サーキット向け。スラロームより制御が穏やかで扱いやすく、サーキット以外でも使えそうな感じだった。

タイヤはミシュラン PSS、ブレーキはブレンボ

タイヤはフロントが255/35ZR19、リアが275/35ZR19
タイヤは前後19インチのミシュラン パイロット スーパースポーツ。このクラスでは定番の銘柄で、RC Fには専用開発品が装着される。なにぶんパワーが477psもあるので、TRCオフ時にはあっけなくホイールスピンしてしまうが、ロードノイズは低く、乗り心地は良好と、トータルバランスはさすがに高い。開発主査の矢口氏によれば、IS Fの時はタイヤサイズで苦労したため、今回は最初に目標の性能要件に見合ったタイヤサイズを決め、それから車体を開発していったという。 ブレーキキャリパーは前後ブレンボ製のモノブロックで、フロントは対向6ピストン、リアは対向4ピストン。スリットの入ったディスクも、それぞれ380mm、345mmの大径になる。ブレーキパッドはもちろん高摩擦タイプ。効きは当然として、サーキットで連続走行しても音を上げないように、耐フェード性を特に重視したとのこと。ホイールの汚れから見て、ブレーキダストは多そうだったが、ブレーキ鳴きは少なくとも試乗車ではまったく無かった。

試乗燃費は5.6km/L。JC08モード燃費は8.2km/L

今回はトータルで約310kmを試乗。JC08モード燃費は8.2km/Lだが、車載燃費計による試乗燃費は、いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約80km)が5.6km/L、一般道を大人しく走った区間(30km)が7.6km/L、高速道路を80~100km/hで走った区間(約50km)は12.6km/Lだった。 310kmトータル(撮影のための移動を含む)での燃費は5.2km/Lで、試乗の最後には66リッターの燃料タンクがほぼ空に。ハイオクガソリン(160円/L)を満タン給油したら、ちょうど1万円だった。
 
ドライブモードセレクトで「エコ」を選択すると回転計が消え、まるでハイブリッドカーみたいになる
試乗途中で撮影した平均燃費の履歴。モーターデイズで試乗したのは11月11日以降
 

ここがイイ

カッコいいデザイン、秀逸なシート、贅沢なエンジン、信頼性の高さ、操縦性と快適性を備えたシャシー。それでいて先進安全装備も備えること

まずはスタイリングだろう。RCもそうだが、RC Fを見て、カッコいいと思わない人はまずいないのでは。ある意味、LFAより多くの人にカッコいいと思われるデザインだと思う。また内装も、ことにRC Fは1000万円という価格が「安い」と思わせるもので、特にシートは秀逸。 そして何より、今や絶滅寸前とも言える自然吸気の大排気量5リッターV8、477psという高回転型エンジンを搭載していること。そしてニュルブルクリンク24時間レースで走ったIS Fのレース車両において、ほぼノーマルのままだったエンジンと8速ATがビクともしなかったという点も、このパワートレインの資質として挙げるべきだろう。第一線級のパワーとレスポンスを備えながら、信頼性や耐久性はいわゆるトヨタクオリティということになる。
 
RC F “Carbon Exterior package” (photo:トヨタ自動車)
また、この手の高性能車の場合、高速道路でも落ち着きのない乗り心地になることがあるが(IS Fの初期モデルにはそういう面があったと思う)、RC FはまったくOKだったこと。街乗りからロングドライブまで高級GTクーペとして快適に乗ることが出来るし、それでいて富士スピードウェイをノーマルのまま存分に楽しめる性能も備えている。 そして、こういったすごい性能を持ったスポーツカーながら、レーダークルーズコントロールやプリクラッシュセーフティシステムといった先進安全装備を備えていること。総じて、素晴らしくカッコよく、高性能で、快適で、安全なスポーツカーだ。

ここがダメ

ドアの閉まり方。タッチパッドの操作性(RC F)

細かい部分だが、少し気になったのはドアを閉めた時に、実際にはちゃんと閉まっているのに、なんとなく半ドアっぽく閉まること。慣れるかもしれないが、出来ればバシャッと閉まって欲しいところ。サッシュレスだからだろうか。 もう一つはNXに続いてRCにも採用された新世代のタッチパッド式リモートタッチについて。RC Fの場合は操作しようとすると、サイドサポートが左腕のひじに当たってしまい、操作しにくい。試乗後、普通のRC(300h)で試してみたら、そちらは大丈夫だった。 車重は1800kg前後とやや重め。4ドアセダンのIS F(1690kg)と比べても約100kg重く、M4(6MTで1610kg、7DCTで1640kg)と比べると約200kg重い。ただしこれは、軽さよりもサーキットでのポテンシャルや信頼性、例えば連続走行やハイグリップタイヤに耐えるボディ剛性、ブレーキ性能、エンジンやミッションのタフさなどを重視したということもあるようだが。

総合評価

笑顔にならないクルマ好きはいない

自主規制280psだったスープラでスピンしてから、もう何年たつのだろう、と遠い目をしてみる。LFAなどを除けば、ずっとなかったトヨタの高性能スポーツクーペが、久しぶりにデビューした。しかもこれが477ps。クルマ好きにとっては幸いなことに、この笑っちゃうようなパワーを持つクルマが日本でも堂々と発売できる。2014年7月から9月期のGDPが想定外の大マイナスという、そんなご時世でも、日本で販売されるという事実、それをまず祝うしかない。 レクサスということで、日本というより世界市場で手強いライバルと戦うクルマなだけに、開発者としてはある意味やりたいことが思いっきりできたのではないか。むろんコストは考えてあるだろうが、エンジンや専用シート、ブレンボ製ブレーキなどからも分かる「奢られ感」は、日本において1000万円という売価をつけることができるクルマゆえだろう。その意味で開発者にとっては幸せなクルマではないかと思う。
 
乗ってみたところ、開発テーマのごとく、これは確かに「走り好きを笑顔にする高性能スポーツカー」だった。スタイリングはRCとは一味違い、性能にふさわしい獰猛さがよく演出されており、ニヤリとしてしまう。そして出来のいいシートに座って走りだせば、どんなクルマ好きでも多分ニッコリするはずだ。公道で軽く流しただけでも十分楽しい気分にさせてくれる。そりゃそうだ。なにせ477psの自然吸気V8である。エンジンの圧倒的なレスポンス、FRならではの挙動は、ハイブリッド車ばかりの昨今、なかなか体験できない。これは面白い、と長くクルマに乗ってきた人ほど実感できるはず。むろん内装にはレクサス車らしい高級感があり、乗り心地は思いのほか快適だ。さらに、ちょっと近所のコンビニまで行くことだってできる気軽さ、取り回しのよさまで担保されている。これにちょい乗りして笑顔にならないクルマ好きはいないと思う。その点で開発テーマはまず成功したのではないか。

レクサスらしい「おもてなしのスポーツカー」

いつもの試乗コースでは、その性能の半分も使っていないと思う。100km/hで高速道路を走ることなど、持てる性能の100分の1以下かもしれない。軽いワインディングでは2速ホールドで十分なほどで、ドライブモードはノーマルでも不満なし。これをSモードにするとレスポンスが鋭くなって、おおっとなるが、S+モードだと、そんな道ではちょっとばかりパワーがありすぎるということに。そこでTVDをスラロームにすると、クルマは思い通りにどんどん曲がってくれるが、面白いというより、お釈迦様の手の上の孫悟空気分だ。とはいえ、まあ非日常の世界ではあるので、やはりつい笑みがこぼれてしまう。という意味では「走りを楽しみたい人なら誰でも、運転スキルに関係なく笑顔になれる」というテーマも成功なのだろう。 つまり477psなのに手に汗握るという感じではなく、笑顔で走れる。477psなのに楽しく安全に走れるのが、このクルマだ。なるほど公道において、これはレクサスらしい「おもてなしのスポーツカー」であることだな、と思う次第。
 
となれば、やはりその真骨頂を知ることができるのはサーキットなのだろう。それもショートサーキットではなく、富士や鈴鹿ほどの舞台が必要なはず。一般公道では477psをグッと自制して、必要なだけのパワーと雰囲気だけをうまく吐き出している感があるこのクルマも、サーキットでは違う顔を見せるはず。オーバー200km/hの世界でこそ、あり余るパワーを開放しつつ、同時に様々な電子デバイスが真価を発揮し、そこでもたぶん「走りを楽しみたい人なら誰でも、運転スキルに関係なく笑顔になれる」はずだ。 輸入車の中にはサーキットでの全開走行どころか、公道でも緊張感を強いるクルマがあるし、ドライバーを選ぶものもある(さすがに最近は少ないが)。そういったクルマを好む「腕に覚えのある人」だと、「運転スキルに関係なく笑顔になれる」このクルマでは満足できないかもしれない。ドライバーを選ぶ、走りに特化したスポーツカーを好む人は確かにいるが、このクルマはしかめっ面をして上を目指すのではなく、笑顔で走りを「安全」に楽しむための圧倒的なスポーツカーだ。まさしくレクサス(トヨタ)のクルマづくりを象徴し、その頂点に立つクルマといえるだろう。

グローバリゼーションの恩恵

もちろん、そういった方向性はレクサスだけではなく、程度の差こそあれ、世界の多くのプレミアムブランドが目指しているものでもある。ただし、レクサスというブランドも、ここに来てライバルたちと覇を競うには十分なプレミアム性を持つに至っている。例のグリルも、このクルマでは全く違和感なくデザインに溶け込んでいる。レクサスブランドが北米で誕生して25年、このクルマでついにブランドの成熟が実感できるようになったのではないか。おもてなしの国、日本らしいスポーツカーが出来上がったと思う。 しかしまあ、そうはいっても今どき477psの5リッターV8である。普通に走っていると、実用燃費は6km/Lを切る。FCVを市販する会社が作ったとは思えない、エコ神様が逆上しそうなクルマである。そして本来の最高速は270km/h。かつての良識派大手新聞なら、社会問題化させそうな性能でもある。それを許しているのは、ひとえにグローバリゼーションに対応せねばらないからだろう。その意味では180km/hあたりで効く日本のリミッターなど、もはやまったく無意味なので、かつての280ps規制同様、もうやめてもいいのではないか。
 
いつまでも安くて壊れないことを売り物にしているだけでは、今後の日本車は立ち行かない。どのクラスにおいてもグローバル市場で戦えるプレミアムな製品を作っていかない限り、日本の自動車産業にミライはない。そしてそのおかげで日本のクルマ好きは恩恵を被ることができているわけだ。グローバリゼーションも、ことクルマ好きには悪い話ではない。ただし今回に関しては1000万円のクルマが買える勝ち組のクルマ好きにしか響かない話だが。
 

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