愛知県ITS推進協議会は2019年2月5日、「IoTを活用した新たなモビリティサービス」をテーマに、第79回会員セミナーをミッドランドホール会議室(名古屋市中村区 ミッドランドスクエア内)で開催した。
講演には、デンソー MaaS開発部 デジタルイノベーション室の榎本 敦之氏と、東日本旅客鉄道 技術イノベーション推進本部 ITストラテジー部門の中川 剛志氏の2名が登壇した。
最初は2名で始まった同室スタッフは現在50名以上で、全員が社内公募やキャリア採用で集まった有志だという。また、システム開発には、様々な作業をこなせるフルスタックITエンジニア(多能工)を配し、メンバーが欠けても開発に支障のない体制としている。
システム開発の手法については、シリコンバレーの「ディスラプターと同じ土俵に立つために、同じ道具、同じ文化で、同じ体制を構築」すべく、最初に仕様書や設計書を作ってから開発に着手する従来のウォーターフォール型の開発ではなく、ユーザー目線で作りながら考えるアジャイル型の開発を採用。1チームあたりおおむね7名、最大でも9名の小編成で、壁一面を使ったボードに開発要件を書いた付箋を優先順位や進捗状況に合わせて貼るという、一見アナログな手法をとるのが理解度を高め、スピード感を保つ上で重要だという。また、今後、求められる開発のゴールは、製品そのもの(モノ)や、所有による満足度ではなく、体験や便利さなど「コト」の価値であり、ユーザーが本当に求めている必要最低限のもの、いわゆるMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を素早く作ること、そして市場に受け入れられるサービスを提供することが重要だとした。
ICTについては、実用化されているものとして、モニタリング装置を搭載した営業車によるスマートメンテナンス「CBM(Condition Based Maintenace)」や、広く一般利用されている「JR東日本アプリ」(2018年10月時点でのダウンロード数は日本語版が330万DL、英語版が30万DL)、あるいは、車内の音波ビーコンによって列車ごとに乗客に情報提供を行う「山手線トレインネット」などを紹介。また、目下アジャイル開発によって準備中のJR東日本アプリのリニューアルプロジェクト「Go! by Train」なども合わせて紹介した。
「運行状況の見える」化についても、動画で紹介。事故情報、改札機データ、車両の応加重データ(混雑状況が分かる)、東京圏輸送管理システム「ATOS」実績ダイヤを使って、輸送障害などの影響を空間的・時間的に把握できる仕組みなども紹介した。
AIの活用については、ストレスの多いコールセンターのオペレーター業務を支援するために、音声認識を使って自動的に問い合わせ内容を理解し、回答例などをモニターに次々に表示するIBM ワトソンの活用例を紹介した。
MaaS戦略については、最も先進的な例として、スマホによる一括決済や月額固定の乗り放題パッケージなどを用意したMaaS Global社(フィンランド)のモビリティサービス「Whim(ウィム)」に触れつつ、JR東日本でも2018年7月にグループ経営ビジョンとして「変革2027」を発表したことを紹介。出発地からの「ファーストワンマイル(最初の1.6km)と目的地前の「ラスト ワンマイル(最後の1.6km)」を担う交通手段と、その中間を担う公共交通との連携が重要だとした。
また、会員企業と連携して行う「モビリティ変革コンソーシアム」においては、出発地から到着地までのシームレスな移動を実現する「ドア to ドア推進ワーキンググループ」、次世代の街のあり方や公共交通の役割を考える「スマートシティ ワーキンググループ」、公共交通機関においてロボット技術を活用する「ロボット活用ワーキンググループ」において、SUICAを使ったMaaS実証や、BRT専用道への磁気マーカー設置によるバス自動運転の実証、山手線 各駅への案内AIロボット配置プロジェクトなどが紹介された。
↧