キャラクター&開発コンセプト
誕生から約半世紀。コンセプト不変で全面改良
2018年7月5日に発売された新型「ジムニー」(JB64型)、「ジムニーシエラ」(JB74型)は、スズキが誇る小型・本格4WD車の最新モデル。
初代ジムニーは1970年に登場し、1981年に直線基調のデザインを採用した第2世代が登場。さらにエンジンを2ストロークから4ストロークに変更し、新しい軽規格に合わせて排気量を拡大しながらマイナーチェンジを繰り返し、1998年に第3世代にフルモデルチェンジ。今回の新型は4世代目にあたり、20年ぶりの全面改良になる。
環境性能や安全性能などの要請から、ヘビーデューティな本格4WD車の存続が難しい昨今だが、新型ジムニーの場合、従来の基本コンセプトを継承。通常は2WD(後輪駆動)で走行し、オフロード等で4WDに切り替え、さらにローレンジにも切り替え可能な副変速機付パートタイム4WD、頑強なラダーフレーム、凹凸路でも路面追従性の高いリジッドサスペンションといったジムニー伝統のメカニズムを引き続き採用。さらに最新装備として「ブレーキLSDトラクションコントロール」を全車に標準装備し、走破性能を高めている。
軽自動車ジムニーのエンジンには、永らく搭載していた旧世代のK6A型に代えて、スズキの現行軽自動車で広く使われている660ccの「R06A型」3気筒ターボエンジンを採用。普通車のシエラには新開発の1.5Lの「K15B型」エンジンを採用している。トランスミッションはいずれも従来通り5MTおよび4ATを採用している。
安全装備も一気に近代化
スズキの予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」を採用し、安全装備を充実させたのも大きなトピック。具体的には、単眼カメラと赤外線レーザーレーダーを使った衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポート(DSBS)」をはじめ、誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、ハイビームアシスト、先行車発進お知らせ機能を搭載した。
また、衝突安全性能に関しても大幅に近代化が図られた。衝撃吸収ボディー「TECT」や、歩行者の頭部・脚部へのダメージを軽減する歩行者傷害軽減ボディを新採用し、エアバッグは前席フロント、前席サイド、カーテンの計6個を全車標準化。今後始まる法令を先取りし、後席シートベルトリマインダーも採用されている(ジムニーXGを除く)。
新型の生産は輸出向けも含めて、従来の磐田工場から、湖西工場(静岡県湖西市)に移管された。国内の販売目標は年間でジムニーが1万5000台、ジムニーシエラが1200台。
ジムニーの変遷
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初代ジムニー(LJ10型、1970年)
初代ジムニーは1970年に登場。もともとは東京のホープ自動車が開発したホープスターON360の製造権をスズキが取得し、それにオリジナルデザインと自社製2サイクル空冷360cc 2気筒を搭載したもの。悪路走破性とコンパクトな車体による取り回しの良さを武器に、山間部や積雪地での交通手段のほか、レジャービークルとしても支持を得て、ジムニー独自のマーケットを築いた。
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1981年に外装を一新して登場したSJ30型ジムニー
1981年には外装デザインを直線基調に一新した第2世代の幕開けとなるSJ30型が登場。ボディタイプは初代同様に大きく分けて幌タイプとバンタイプだったが、クリーンでモダンなデザインがジムニーの人気を決定づけた。
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スズキ ジムニー 1000(SJ40型、1982年)
また、軽自動車のジムニーをベースに小型車用エンジンを搭載したモデルは、1977年に800cc4気筒エンジンの「ジムニー8」で登場。
1982年には新しいSJ30と同じ第2世代の外装をまとい、1リッター4気筒エンジンを搭載したジムニー1000(SJ40型)が登場した。さらに1984年には排気量を1300ccに拡大した「ジムニー1300」(JA51型)に進化し、これが翌年から北米で「サムライ」の名で販売され、手軽なレジャービークルや足としてヒットした。1987年には海外で過去最高の販売台数を記録している。
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550ccターボエンジンにインタークーラーが追加されたJA71型のパノラミックルーフ仕様(1987年)
一方、軽自動車のジムニーでは1986年、それまでの2ストローク 3気筒550ccエンジンに代えて、4ストロークの3気筒550ccターボエンジンを搭載したJA71型が登場。1990年には軽規格の改定に合わせて排気量を660ccに拡大したJA11型になり、好調な販売を維持した。1993年には国内で過去最高販売台数の約3万台を記録している。
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1998年から20年間販売されたJB23型ジムニー。写真は2014年の特別仕様車「ランドベンチャー」
1998年には軽規格の改訂に合わせて、衝突安全性向上のため全長を100mm、全幅を80mm拡大した第3世代(軽はJB23型、普通車のジムニーワイドはJB33など)にモデルチェンジ。丸みを帯びたデザインに一新され、国内だけでなく海外でも安定した販売台数を20年間保った。
スズキによれば現在「ジムニー」シリーズは、全世界194の国・地域で活躍。世界累計販売台数は2018年3月末時点で285万台に及び、「スズキを代表する車種であるとともに、日本が世界に誇る唯一無二のコンパクト4WDである」としている。内訳は、欧州で約91万1000台、日本で約81万9000台、アジアで約44万8000台、北米で約23万1000台などだ。
価格帯&グレード展開
ジムニーが145万8000円~、シエラが176万0400円~
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ジムニー XC
新型は660cc直3ターボのジムニーと1.5L直4NAのジムニーシエラの2本立て。全車パートタイム4WDで、それぞれに5MTと4AT(9万7200円高)がある。ジムニーとシエラの価格差は18万~30万円だ。
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ジムニー XL
グレード構成は、ジムニーの場合、ベースグレードの「XG」、フルオートエアコンやキーレスプッシュスタートが標準装備の「XL」、LEDヘッドランプ、クルーズコントロール、アルミホイール等が標準装備になる「XC」の3種類。軽ジムニーのタイヤは全車175/80R16になる。
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ジムニーシエラ
シエラの方は、ハロゲンヘッドランプ、フルオートエアコン、キーレスプッシュスタートシステム、15インチスチールホイールが標準の「JL」と、さらにLEDヘッドランプ、クルーズコントロール、15インチアルミホイール等が標準になる「JC」の2種類。シエラのタイヤはワイドトレッドに対応して全車195/80R15になる。
デュアルセンサーブレーキサポートや誤発進抑制機能などの先進安全装備をセットにした「スズキ セーフティ サポート」は、ジムニーの下位2グレード(XG、XL)とシエラの「JL」にオプション(4万2120円)、それぞれのトップグレードには標準装備される。
全車オーディオレスで(フロント2スピーカーは標準)、オーディオやナビ(専用ガーニッシュを使えば8インチも収まる)は販売店などで装着することになる。
■ジムニー
・XG:145万8000円(5MT)/155万5200円(4AT)
・XL:158万2000円(5MT)/167万9400円(4AT)
・XC:174万4200円(5MT)/184万1400円(4AT)
■ジムニーシエラ
・JL:176万0400円(5MT)/185万7600円(4AT)
・JC:192万2400円(5MT)/201万9600円(4AT)
■「スズキ セーフティ サポート」の装備内容
・デュアルセンサーブレーキサポート
・誤発進抑制機能(4AT車)
・車線逸脱警報機能
・ふらつき警報機能
・ハイビームアシスト
・先行車発進お知らせ機能
・標識認識機能[車両進入禁止、はみ出し通行禁止、最高速度]
・オートライトシステム
・ライト自動消灯システム
パッケージング&スタイル
目指したのは「プロの道具」
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ヘッドランプとターンランプは損傷を防ぐためボディ内側に配置され、補修性を高めるため先々代までと同じ別体式に戻った
デザインについては歴代ジムニーの機能的モチーフを散りばめつつ、まったくもってモダンにまとめたもの。丸形ヘッドライト(上級グレードはLED)やクラムシェル型ボンネットフードや第1・第2世代から、5スロットグリルは第3世代の先代から受け継ぐ。フロントグリルの周囲が第2世代のように板金製に戻っているのがすごい。
デザインコンセプトは「プロの道具」で、機能美や潔さを追求したという。スクエアなボディ形状は、車両の姿勢や状況の把握しやすさ、そしてボディパネルの剛性を高めるためだという。近年、冴えを見せるスズキデザインの本領が発揮された傑作デザインだ。
なお、シエラも基本的には軽と同じながら、材料着色樹脂のオーバーフェンダーとサイドアンダーガーニッシュが装備され、かなり迫力が増す。とはいえ軽ジムニーにはコンパクトで簡素だった元祖ジープのような魅力がある。
ボディカラーもプロ仕様
ボディカラーはモノトーン9色、2トーンルーフ4パターンの全13パターンを設定。
新色は、吹雪や濃霧など悪天候の中でも目立つことを目的にした「キネティックイエロー」と、その反対に森の中で目立たない「ジャングルグリーン」の2色。後者はミリタリーな印象も受けるが、スズキではハンターや森林警備隊が蛍光色などの目立つ色のほか、自然の中で目立ちにくいアースカラーの服や道具を状況に応じて使い分けていることから発想した、としている。欧州ではハンターや森林協会の作業員がジムニーを愛用しているらしい。なお、ベージュ系のシフォンアイボリーメタリックは、クロスビーでも採用されている色だ。
2トーンルーフのルーフカラーはブラックのみで、さらに軽ジムニーにはボンネットとAピラーをブラックにしたブラックトップ2トーンのキネティックイエローを受注生産で設定している(シエラには設定なし)。
ホイールベースは変わらず
ボディサイズ(先代比)は、軽ジムニーが全長3395mm(同)×全幅1475mm(同)×全高1725mm(+45)。シエラが全長3550mm(-50)×全幅1645mm(+45)×全高1730mm(+60)。トレッドは軽のジムニーが先代と同じで、シエラは40mm拡がった。ホイールベースはいずれも先代と同じ2250mmだ。
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全長(mm) |
全幅(mm) |
全高(mm) |
WB(mm) |
最小回転 半径(m) |
スズキ ハスラー (2014~) |
3395 |
1475 |
1665 |
2425 |
4.6 |
スズキ ジムニー(JB23型、1998~2018) |
3395 |
1475 |
1680~1715 |
2250 |
4.8 |
新型スズキ ジムニー(2018~) |
3395 |
1475 |
1725 |
2250 |
4.8 |
新型スズキ ジムニーシエラ(2018~) |
3550 |
1645 |
1730 |
2250 |
4.9 |
スズキ クロスビー(2017~) |
3760 |
1670 |
1705 |
2435 |
4.7 |
インテリア&ラゲッジスペース
ジムニー感を継承しつつ、質感、装備、広さを格段にアップ。
質感や装備は格段にアップしたが、室内の眺めはまさにジムニーそのもの。インパネは車両の姿勢や状況を把握しやすいように水平基調。周囲がよく見えるように、フロントドアウインドウはドアミラー付近が下側が延長されている。試乗会場で、開発者に視界の良さに感心したことを伝えると「ピラーを細くするより垂直に立てた方が、人間の目は外の景色を瞬間的に把握できるんです」とのこと。目からウロコ。
ステアリングにはついにチルト(上下)調整がついたが、テレスコはなし。シートリフターもないが、その理由はシート下のスペースに余裕がなく、リフター機構を入れるとシート位置がオフセットされてしまうからと、リフターがなくてもドライビングポジションが取れると判断したからだという。それでもあった方が……という気持ちは残るが、身長160cm程度でもボンネットの先端がしっかり見えるのは確かだ。
パッケージング面での大きな変化は、前席乗員のヒップポイント(アクセルペダルからヒップポイントまで距離)が後方に30mm移動したこと。その分、足の曲がりは緩くなり、ドライバーの視点も後方に30mm移動。同時にAピラーとフロントウインドウ、そしてサイドウインドウの角度も立ったことから、ヘッドルームの余裕が大幅に増した。先代や先々代ジムニーを知っている人なら、この広々感に軽いショックを受けるだろう。
前席のシートフレームは新設計で、高剛性化したほか、シートフレームの幅を先代比で70mm拡大し、クッション性能や適正な耐圧分布を確保したという。座り心地は良好。上位グレードのシート生地は撥水仕様になる。
あと、サイドウインドウを開けようと思って気付くのは、パワーウインドウのスイッチがドア内張りからセンターコンソールに移動したこと。昔の欧州車みたいだが、これは手袋をしたままでも操作できるスイッチにするためと、雨の日にドアを開けてもスイッチが濡れないようにするため、とのこと。なるほど。
後席も実用的になった
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写真はシエラだが、ジムニーも基本的に同じ。ジムニーのベースグレード(XG)以外は後席ヘッドレストが装備される
後席もびっくりするほど快適になった。クッションこそやや平板ながら、背もたれや座面のサイズは大きく、体をちゃんと支えてくれるものになった。
また、前席乗員と後席乗員の間の距離(タンデムディスタンス)は、ホイールベースを変えずに40mmも拡大。さらに後席乗員の側方ヘッドルームは、ボディサイドの面を立てたことで45mm拡大、隣同士のショルダールームは70mmも拡大した。おまけにリアサイドウインドウが大きいので見晴らしもいい。4ナンバー時代の先々代ジムニーからすると夢のような後席。大人4人でもそこそこ快適に乗れる。
ゴルフバッグは2セット積載可
FRベースのクルマゆえ、全長が3.4mで制約されると、しわ寄せはどうしても荷室にいってしまう。実際、後席使用時の荷室奥行きは240mmとミニマムだが、後席背もたれを倒した時の容量は、Cセグメントハッチバック車並みの352L。奥行きは980mm、荷室高は850mm、荷室幅は1300mm(すべて発表値)あり、9.5インチのゴルフバッグも横にして2個積める。さらに、さすがスズキ車、助手席の背もたれもフラットに畳むことができる。
また、荷室は樹脂製の「防汚タイプラゲッジフロア」となり(ジムニーのベースグレードを除く)、アウトドア用品などの積載にも対応。また、12Vのアクセサリーソケットや、別売りのフック等を付けられるユーティリティーナットも備わる。
ちなみに後席シートベルトは、リアシートバックを倒した時にジャマにならないよう、脱着式になっている。
床下には小物を収納できるラゲッジボックスがあり、それを外した下にジャッキやタイヤレンチ等の工具が収まる。
基本性能&ドライブフィール
驚くほど快適。あふれ出るジムニー感
今回は富士山麓の朝霧高原で開催されたメディア向けオンロード&オフロード試乗会に参加した。
試乗車の主役はオン、オフ共に660ccターボの5MT車。これは「ジムニーにはぜひマニュアル車で乗ってみて欲しい!」というスズキの熱い思いゆえだろう。
シエラの4AT車も用意されており、そちらも短時間ながら試乗。また、さすがに国内では販売主力になるであろう、660ccターボの4AT車も気になるということで、会場にあった貴重な一台に試乗させてもらった。
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新型ジムニーに採用された660cc直3ターボ「R06A型」エンジン
まずは660ccターボの5MT車から。エンジンは旧世代のK6A型エンジンから、ついに新世代のR06A型エンジンに変更されている。
クラッチを踏み、スタートボタンを押してエンジン始動。すると縦置になっても静かでスムーズなR06A型エンジンのサウンドが聞こえてくる。そしてタイヤが転がり始めた瞬間から、うわっ何だ、この乗りやすさは!と驚いてしまった。
直立したウインドウの向こうに見えるボンネット、昔ながらのワイパー、2眼式のメーター、ゴクゴクと動かすシフトレバーなどなど、見るもの触るものはまぎれもなくジムニーなのに、やたら運転しやすく、乗り心地はよく、ハスラーのように、とは言えないものの、それに近い洗練ぶりを見せて新型ジムニーは走る。
しかもこのR06A型660ccターボ、マニュアルで走らせるのはアルトワークス以来だが、これがちゃんと下からトルクがあり、小気味よく吹け上がって気持ちがいい。最高出力は64ps、最大トルクは96Nm (9.8kgm)に過ぎず、車重は1030kgだから別に速くもパワフルでもないのだが、1速から5速までギアのつながりがよく、エンジン音もまったくうるさくなく、これといって不足を感じさせない……どころか妙に楽しい。
ちなみにクラッチはケーブル式(だったのか!)から油圧に変更。おかげでクラッチも軽い。
100km/h巡行時の回転数は5速トップで約3800rpmで、先代JB23型より400rpm回転ほど下がったようだ。普通車基準で言えばかなり高めだが、静粛性が高いので80km/h程度なら全く気にならない。最高出力は6000rpmで発揮するので、実力としてはリミッターが作動するであろう130km/h台後半まで伸びると思われる。
乗り心地も頭の中が???で一杯になるほど良い。ラダーフレーム、前後リジッドサス、2250mmのショートホイールベースと、ネガティブ要素満載ながら、ピッチングも突き上げも気にならない。開発者によれば、ラダーフレームの中央にX字型のメンバーを追加し、さらにフロントとリアエンドにクロスメンバーを追加して、ラダーフレームのねじり剛性を約1.5倍に高めたのが乗り心地に一番効いているという。また、ボディとラダーフレームをつなぐ計8点のボディマウントゴムも新設計し、上下方向に柔らかくすることで乗り心地を、水平方向に硬くすることで操縦安定性を高めたという。
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前後サスペンションは先代と同じ前後リジッドのまま。スプリングは第2世代の最終型(JA11/12型)からコイルに変更されている
そして操縦安定性も、ウームと唸ってしまうほど高い。言うまでもなくオンロードでは後輪駆動の2WDで走るわけだが、もはやワインディングでも、ジムニーだからといって手加減は不要。ブレーキを踏めば普通に減速し、ステアリングをラフに切ってもグラグラ感は一切なく、安定したアンダーステアを保って平然と曲がっていく。タイヤはオールシーズンの175/80R16だが、グリップ感も問題なしだ。
ちなみにステアリング機構は今どきのラックピニオンではなく、強度などでクロカン4駆には依然メリットがあるボール・ナット式を継承する。アシストは油圧ではなく、従来モデルから電動になっている(シエラは今回から電動化)。
あと、オンロードで走っていると、たまに車線逸脱警報機能のアラームがピーピー鳴って注意してくれる。また、はみ出し通行禁止や最高速度の標識をメーター内に表示してくれたりもする。あのジムニーが、である。
さらには自動ブレーキ、先行車発進お知らせ機能、コンビニ等に突っ込まないための誤発進抑制機能、おまけにヘッドライトのハイ/ローを自動で切り替えてくれるハイビームアシストまで装備しているわけで……、まるでタイムマシンに改造したデロリアンみたいだ。
【オフロード試乗】「4L」と新型エンジンが威力を発揮
「富士ヶ嶺オフロード」会場でも、660ccターボの5MTに試乗した。車両自体はタイヤも含めて、まったくのどノーマルだ。
駆動モードは通常の2H(2WD・ハイレンジ)、4H(4WDのハイレンジ)、4L(4WDのローレンジ)の3種類があり、ここではもちろん4Lを選択する。
ちなみに駆動モードの切替は、先代JB23型ではボタン式だったが、新型ではトランスファーレバー式に「先祖帰り」している。これは操作感があって、確実に駆動モードが切り替わったと分かるレバー式の方がいい、というユーザーからの要望だそうだ。
なお、2WDと4WDの切替には新型でも従来通り、エアロッキングハブを使う。これはエンジンの負圧を利用して前輪左右のハブにあるロック機構を動かすもので、走行中(100km/h以下)でも操作が可能だ。
一方、4Lへの切替操作は停車中のみ可能で、ギアをニュートラルにして行う。副変速機により、最終減速比は軽ジムニーの場合、2H/4Hの1.320から、4Lでは2倍の2.643になるため、駆動力も2倍になる。
実際、オフロード試乗で一番驚いたのは、660ccターボエンジンの粘り強さ。もちろんローレンジの威力は絶大だが、それにしても壁のような急坂を、ほとんど助走なしで2速ですんなり登り切ったのには感心。R06A型エンジンの素性の良さを再確認した。
【オフロード試乗】ブレーキLSDで走破性アップ
インストラクターの運転で、新しく採用された「ブレーキLSDトラクションコントロール」の作動も見学した。これはESPやABSで使うブレーキ制御機能を使い、スリップしている駆動輪にブレーキをかけることで、もう一方の車輪に駆動力を発生させるもので、4L時のみに作動する。アナログな手法で高い走破性を実現しているジムニーに、こうした電子制御システムが加わるのは、まさに鬼に金棒ではないか。
なお、ブレーキLSDは、あくまでもスタックからの脱出性能をより高めるために採用したという。新型でもハードな悪路走行を行う場合に備えて、先代同様にディーラーオプションでリアデフ用のトルセンLSDが用意されている。
また、ESPが全車標準になったことで、坂道発進時にブレーキを約2秒間保持する「ヒルホールドアシスト」(MT車だけでなくAT車も)や、今やSUVでは定番装備のヒルディセントコントロールも装備された。ヒルホールド……については、まぁなくてもいいかという気がしたが、ヒルディセントコントロールはベテランでも急な下り坂での姿勢制御は難しいので、滑りやすい路面で崖のような急坂を下る……という時には心強いアイテムだろう。
モーグルセクションでは前後サスペンションの接地性も確認することができた。と言ってもジムニーにとってはこの程度のコース、まったくもってお茶の子さいさいなのだろうが……。外から見ていて思ったのは、対地クリアランスに余裕があるのと、リアサスペンションの伸び具合。そこは写真でご確認を。
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軽ジムニーの対地アングル
ちなみに対地クリアランスは、軽ジムニーは最低地上高が205mm(先代と同じ)で、フロント側のアプローチアングルが41度(歩行者傷害軽減対策で先代比-4度)、ランプブレークオーバーアングルは28度(同じ)、ディパーチャーアングルは51度(+1度)と、市販車としてはトップクラス。
また、シエラの方は、最低地上高が210mm(先代比+10mm)で、アプローチアングルが36度(+1度)、ランプブレークオーバーアングルは28度(+1度)、ディパーチャーアングルは50度(+3度)とこちらも余裕たっぷり。
あと、試乗中はすっかり忘れていたが、後から感心したのが新採用のステアリングダンパー。これは悪路走行時のステアリングキックバックを低減させるため、ステアリングのドラッグリンクに並行してダンパーを設置したもの。確かにキックバックは拍子抜けするほどなく、「突き指」しそうな気配は一切なし。これは高速走行時のステアリング振動の低減にも効果があるとのこと。
【軽の4AT】5MTの面白さはないが
660ccターボの5MT車ですっかり楽しんでしまったが、4AT車の走りも気になるところ。こちらはオンロードで30分ほど試乗した。
走り出してホッとしたのは、4ATでも十分に走りが活発で、静粛性も高いこと。新型軽の4ATには、3速と4速にロックアップクラッチが採用され(先代の軽ジムニーの4ATにはロックアップがなかった)、滑り感がほとんどなく、ギアのつながりも意外にいい。正直なところ、運転している時のワクワク感や「操縦してる感」は、5MT車の半分という感じだが、これなら街乗り専用車でもOK。誰にでも勧められると思った。
こちらも高速道路は走れなかったが、100km/h時のエンジン回転数は5MT車とほぼ同じ3800rpm弱と思われる。4AT車でもそれなりに高速道路を快適に走れると思う。
【シエラの4AT車】 「普通のクルマ感」マシマシ
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新型シエラの1.5L「K15B型」エンジン
シエラの4AT車にも30分ほど試乗した。エンジンは先代の1.3L「M13A型」(88ps、118Nm)に代えて、新開発の1.5L(1460cc)直4自然吸気「K15B型」(102ps、130Nm)を搭載している。車重は軽より60kg重いだけの1090kgだ。
車体は+40mmのワイドトレッドになり、タイヤは軽の175/80R16(先代と同じ)に対して、195/80R15。先代の205/70R15に比べて外径は大きくなり、軽の16インチとほぼ同じになっている。シエラが15インチなのは、入手性に配慮したからとのこと。どちらのサイズも悪路走破性は基本的には同等だという(ただし、路面によって得意・不得意はあるだろう)。
さて、シエラを走らせた印象は、語弊を恐れずに言えば「すごく普通に走る」。軽ジムニーとの違いで一番感じるのは圧倒的なワイドトレッド感で、横方向の安定感がものすごくある。ステアリングを切っても、スイフトのように安定したたまま。これはもちろんいいことだが、軽ジムニーにあるワクワク感は薄め。思い返すと先代シエラもそうだった気がするが、想像以上に軽ジムニーとシエラは印象が違うクルマだった。
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これはシエラのアクセサリー装着車。1990年代前半のJA11型風デカールが泣ける
1.5Lエンジンはさすが4気筒、静かでスムーズで不満はないが、軽660ccの小気味よい加速感をさんざん味わった後ゆえ、ちょっと大人しさを感じてしまった。いやいや毎日、高速道路や郊外の国道などを走るなら、シエラの方がいいに決まっているのだが……。
気になったのは4ATのギアリングと変速マナー。4ATのギア比は軽の4ATとまったく一緒で、1速2.875、2速1.568、3速1.000、4速0.696なのだが、シエラでは不用意にキックダウンすることがままあり、いま一つしっくり来なかった。もちろん、最終減速比は軽とはまったく異なり、軽4ATが5.375、シエラ4ATは4.300だ。
4ATの場合、100km/h巡行時のエンジン回転数は約2900rpm。普通車としては今どき相当高めだが、660ccターボの3800rpm弱と比べればずいぶん低い。なお、シエラ5MTの場合はギア比で計算すると約3000rpm。軽ジムニー同様に、5MTの方がちょっと高い。
シエラの4ATが快適なのは間違いないが、同じシエラでも5MTなら、また印象が違ったかもしれない。
WLTCモード燃費は軽の5MT車で16.2km/L、4AT車は13.2km/L
新型ジムニーではJC08モード燃費の発表はなく、WLTCモード燃費のみが発表された。それによると燃費は、良い方から、
・軽の5MT車:16.2km/L
・シエラの5MT車:15.0km/L
・シエラの4AT車:13.6km/L
・軽の4AT車:13.2km/L
となり(詳細は当ページ下のスペック表に掲載)、つまり一番燃費がいいのは軽の5MT車で、一番悪いのが軽の4AT車になる。
ちなみに、あまり参考にはならないが、今回試乗した印象で言えば、実燃費は660ccターボの5MT車が13km/L台という感じで、4AT車は何とか2桁(10km/L台)いけるかな……という感じだった。
いずれも指定燃料はレギュラーでOK。タンク容量は全車共通、先代と同じ40Lで、5MTで上手く走れば航続距離は400kmに届くと思う。山間部でガソリンスタンドの閉鎖が相次ぐ昨今、こうした足の長さも性能の一つだ。
なお、燃料タンクは新開発の樹脂製。先代比で約40%軽くなったほか、腐食とも無縁になった。形状自由度も増したおかげでラダーフレームの間に収まり、アンダーガードも備えているので、よほど運が悪くない限り、損傷することはないだろう。
ここがイイ
すべて。近年まれに見る大傑作車
従来ジムニーを知る者からすれば、ショックを受けるほどの乗り心地の良さ、操縦安定性の高さ。悪路走破性の高さは言うに及ばず、秀逸なデザイン。そして単眼カメラ&赤外線レーザーによる自動ブレーキ、6エアバッグなどの安全装備の充実。
それになにより運転した時のあふれ出るような「ジムニー感」、あるいはクルマではなくジムニーという名の乗り物を操っている感覚。それでいて老若男女、誰にでもオススメできる運転しやすさ、実用性や経済性の高さ。そして「プロの道具」の本物感と、懐の深さも持ち合わせる。
これらが一体となって言葉には表せない「いいもの感」がある。これほどのクルマが維持費の安い軽自動車で、しかも最上級グレードでも180万円台で買えるとは。
ここがダメ
とりあえず今は納期
軽のジムニーに関しては文句なし。デザイン的にはああして欲しかったとか、ボディカラーにあの色が欲しいとか、6MTを用意して欲しかったとか、個人個人にいろんな願望があるだろうが、この価格でここまで作ってくれれば文句なしでしょう。いま一番の問題は、これから注文しても納期がいつになるか分からないことだ。
本文で触れたように、シエラの4AT車にときめなかったのは事実。軽ジムニーの、特に5MT車とは全く別のクルマ、とさえ感じてしまった。また、660ccターボの方では気にならなかったが、シエラでは4ATのギアリングも気になってしまった。搭載スペースの関係で4速しか搭載できないとのことだが、ならばエンジンをもっと全域でトルクフルな、例えばクロスビーに搭載されている1L直3ターボにするという手もあったと思うが、燃料事情の悪い地域に輸出することもあり、とりあえず今回は見送られたようだ。
あと、これはあくまでユーザー側の問題だが、いくら文化的になったとはいえジムニーはあくまでもパートタイム式の4WDなので、ふだんのオンロードでは2WD、オフロードや雪道では4WDに切り替える、というドライバーの「判断」と「操作」が要る。今や市場の大多数を占めるフルタイム4WDや電子制御式4WDのように漫然と乗れる4WD車ではないので、とりあえず取扱説明書くらいは一度目を通しておいたほうがいいだろう。
総合評価
これからの軽は「モノとしてのセンス」が勝負
スズキの軽自動車は2000年ごろから一気に良くなったと思う。特にターボ車はすでに小型車並みの動力性能を発揮していた。それでもNAはちょっと力不足だったりしたが、それも10年ほど前にはすっかり改善されてしまった。毎日のクルマとして何ら不満のないものとなったわけだ。その後は熾烈な燃費競争となったが、現在はそれも一段落。今は燃費よりもN-BOXというとんでもないライバルヒット車が現れて、ここ数年は空間の戦いが繰り広げられてきた。
その中で、道具感のあるハスラーがヒットして、軽の存在意義は次の段階に入ったと思う。ホンダの新型車N-VANもまさに道具感にあふれていてヒットしそうだ。ハードウェアとして成熟した軽自動車は、無印良品的な「モノとしてのセンス」が勝負になりつつある。ダイハツのトコットなどもこの範疇に入るかもしれない。
そんな流れの中で、ただ一台、孤高の存在だったのがジムニーだ。20年前に発売された先代ジムニーは次世代の軽自動車が出てくる前夜という時期の登場で、旧来からのジムニーのアイデンティティを残しつつ、少しだけソフィスティケイトさせ、より一般受けを狙ったクルマだったが、それでも普通の人が普通に乗りまわす軽自動車としてはちょっと厳しいものがあったのは事実。オフロード性能とオンロード性能は、20年前はまだトレードオフの関係にあったゆえ、オンロードが大半の人には積極的におすすめできるクルマではなかった。むろん、本格四駆ジムニーという乗り物としては、伝統性能・アイデンティティを引き継いでいたから、20年間ずっと売れ続けてきたわけだが。
コストがかけられるのは、ロングセラーゆえ
しかしさすがに20年、その間の軽自動車の飛躍的な進化を考えれば、今度のジムニーがオンロード性能を高めてくることは想像にかたくなかった。しかしそのトレードオフでオフロード性能が落ちたらジムニーの存在意義はなくなるわけで、文武両道というか、オンオフ両道のクルマになるのだろう、と考えていた。
試乗してみると、まさにそのとおり。オンロードの快適性、操縦安定性は軽の進化20年の恩恵で、もはや何ら不満がないレベルに。シートリフターはないのに、どんな体型でもポジションが合うというパッケージングもマジックみたいだ。静かで乗り心地がよく、普通に走って曲がってくれる。スポーツカーやツアラーのような性能などは、求める方が間違いだが、軽自動車として普段乗りに使える。むろん現代のクルマとしての安全装備の充実も旧型ではできなかったところ。一気に今の時代に追いついた。
そして、ジムニーであるがゆえに、燃費性能をさほど気にしなくても良かったことも功を奏している。人によっては好まれないアイドリングストップもしない。また、おそらくこれから十年以上、このままの姿で売られるはずゆえ、ロングセラーの商品として開発費は時間をかけて回収できる。というより、コストがかかっている儲けの少ないクルマでも、ロングセラーであれば必ずいつか儲かるから、それなりにコストをかけて作れるわけだ。全く新規に部品を作って5年で利益を出すのは無理としても、10年以上かければ利益は出せる。したがって新しい部品を贅沢に使って、理想的なクルマが作れる。そんな好循環によって作られたクルマと言えるだろう。
普通の人にはまったく過剰
ジムニーのオフロード性能であれば、誰もがとんでもないところを走れてしまう。丘サーファーならぬエセオフローダーは昔からいたが、今でもかなりのマニアでない限り、本格四駆を買ったとしてもオンロードユースが大半だろう。ごく小さな本格四駆であるジムニーのオフ性能は、プロのためのもの。普通の人にはまったく過剰だ。
しかし、プロユースの性能はカッコ良さにつながる。素人にとっては機能美こそが価値になる。本物の道具感こそ、何よりの価値だ。ゆえに「モノとしてのセンス」はとても高い。それは軽自動車という規格すら超える。軽のジムニーではなく、今やジムニーの小ささが結果、軽であるというだけだ。今回シエラもよく売れるはずだし、海外向けはすべてシエラだが、それはこのクルマが軽であるかないかは問題ではない、ということを示唆している。ただ、トラスファーレバーの操作などパートタイム式4WDゆえの「儀式」は残っており、超イージーなクルマではない。もしかすると女子には辛いかも!?
文字通り、どんな道でも走れる
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初めてメタルトップとメタルドアを採用したLJ20型ジムニー バン(1972年)
外観デザインは全く新規だが、既視感がある。要するに古臭いとも言えるわけで、フィアット500、ザ・ビートルなどと同様の、あるいは新型Gクラスやジープ ラングラーなどと同様の、また昨今の2輪車でも人気のネオレトロ車と言ってもいいだろう。機能を突き詰めたらこうなった、ということもあるのだろうが、丸目ヘッドライトが象徴するように、これは初代ジムニーや2代目ジムニーの再来のようにも見える。機能美に満ちたレトロデザインは、誰が見ても美しい。若い女性から熟年層まで、すべての年代の人が「ジムニー、欲しい」と思うのはそういうことだからだ。14年前に「日本のメーカーもニュービートルのような(過去の名車をリスペクトした)商品を作れば、真面目に作ったワゴンなんかよりずっと売れるのではないか」と書いたが、それが日本車でも現実になったということだろう。
昔からモーターデイズでは、オンロードをスポーティに走れ、いざとなればどんなオフロードでも走れるSUVこそがまさに真の意味でのスーパーカーだと書いてきた。ただ、本当にそんな性能のクルマにすると大柄になりがちで、日本のような道路事情ではどんな道でも走れるスーパーカーとは言えなくなる。しかしジムニーは軽自動車サイズだ。おそらく日本のどんな道でも走れる。江戸時代からそのままのような細い路地の古民家地域も走れる。今は人が通らなくなってしまった古道を行くこともできる。山城に向かう荒れた細い道も進んでいける。まあ、それこそが購入したら行きたい道なのだが、そこを進めるクルマは軽自動車しかない。さらにそうした道は荒れたところが多い。雪が残っていたりもする。乗用車では難しいそうした道もジムニーなら何ら問題ない。そしてそこまでは高速道路で移動する。従来のジムニーではそれが辛かった。しかし新型ジムニーならもう大丈夫。むろん日本だけではない、世界中のすべての道を走れる。これこそが軽自動車の国ニッポンが生んだ、まさに真のスーパー「K」カーだ。